異世界生活物語

花屋の息子

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108 仮住まいを建てよう1

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 本当に昨日の内に軟膏の作業を終わらせておいて良かった。残りは予定変更になったがモーガン達に任せて、俺は10人を引き連れて飯場建設に当たる事にした。
 飯場の建設予定地は実験住宅2号を元々建てる予定であった土地の目の前にした。これであれば通う必要も無く実験住宅1号の斜め向かいなので、木材運搬も容易に出来る事から効率的との判断だ。

「それでは皆さんで雑草を取り除いておいて下さい。えーとダスカーさんは僕と一緒に道具を作りましょう」
「おうよ」

 なんでも基礎は大事と言うからな。今回も基礎はしっかりと固める事にする。
 そこで使うのは”たこ〟と呼ばれていた道具だ。
 たことは丸太に持ち手を付けた地固め用の道具で、時代劇の建設現場でおっちゃんが二人で地面をドンドンやっているあれだ。
 作り方は簡単だし研修させる必要も無いのでダスカーさんには丸太を運ぶお手伝いだけして貰う程度だが、残りの9人の目線は「お前だけ技術の独り占めか?」と言わんばかりの視線を送っていた。

「大した物ではないですし見ただけでも作れるような物なので、皆さんは気にせず草取りを頑張って下さい」

 そう言った事でようやく皆の目線から解放されたのだが、マジでこんなもんかと言われる様な物を作るので説明だけはしておいた。
 この世界では草を刈ったらいきなり家を建て始めるのだから、せめて地固めくらいはしようよと言いたくもなる。
 そして今回は床が板ではなく半割の角材なので、少し突き固めておかなければ地面との段差が出来てしまい、後々倉庫にした時に具合が悪くなるのだ。
 もちろん板を取り払った後には盛り土と突き固めは必要になるが、二度三度つき固めた地面ならば耐久性も保障されると言うものだ。

「ダスカーさん適当にしっかりしていてヒビが無い丸太を持って来て貰えますか。僕はこっちで持ち手を準備していますから」
「しっかりしてるヤツだな」

 本当にテキトウで構わない。壊れたら薪だし使い終わっても薪なのだ。道具は大事にしろって?技術継承のためにいくつも作る事になるんだから、順々に使い潰さなければ有り余るわい。



「これで良いかい?」
「大丈夫そうですね。それじゃ『軟化』っと、これをこのくらいに切って、ダスカーさん。ここにこんな感じの溝を全部に切っておいてください」

 ここだのあそこだのと抽象的な事を言っているが、これより方法がなく「何センチの何センチで」と言っても伝わらないのだからこんな説明になっていたりする。
 ダスカーさんに細工をして貰っている間に俺は持ち手を作る事に、などと言っても残りの木材から10本の角材を切り出すだけの簡単なお仕事です。
 どちらかと言えば角材よりも前に作ら無ければならない板を作る作業の方が大変に感じますが、これは両端を閉じたコの字型を作りこれで成型するのです。
 多少曲がっていても膨らんでいても軟化に掛かればどうと言う事はありませんし、型で強制できてしまうので型造りの方に神経を使う事になる。

「やはり軟化を掛けると歪みますね~。こんな事なら小さな板も作って置くべきでした」
「お~い、出来たがこんな感じで良いのか?」
「もう出来ましたか!」
「この柔らかい木にはまだ慣れねぇが、それでも硬てぇ木を削るよりは早ぇわな」

 いつも硬い木を扱っている人からすれば「なんじゃこりゃ?」な感触にもかかわらず、キチッっと仕事をこなしてくれる・・・・さんの腕はかなり良さそうだと改めて思った。

「それじゃ僕の方を手伝って下さい。この板で・・・こんな感じの箱を作りたいと思ってます。この中には軟化を掛けた棒を入れて真っ直ぐにするためです」
「それをあの溝に突っ込む訳だな?」
「はい。準備が手間ですけど、話を聞けば誰でも作れると思いますので壊れても修理が簡単です」

 もし壊れても簡単に修理が出来るって言うのが、僕の作る物のモットーだったりしますからね。
 ダスカーさんに手伝って貰いながら持ち手を作ると、一端みなの手を止めさせる。

「軟化が使えるようになると起きるのが、このようにやわらかくなる事です。軟化なので当然ですが、硬い物を元のように硬くしたい時にはすぐ硬くなりません。そこでこれです」
「それは収魔石かい?」
「はい。これは魔素を出しているので軟化した物の側に置く事で硬くなるのを早めます」
「「へ~」」

 軟化を使う以上避けて通れないのが魔素の再吸着までの時間的なロス。自然界に存在する魔素だけを当てにしていると丸太1本当たり一時間程度掛かってしまうので、体力的な無駄を省いた半面で時間を無駄にするという非効率な事が起こってしまう。
 そのためこの知識は軟化を使う以上必須な知識なのだ。

「一個二個で使う物ではなくって数は結構使います」
「坊の旦那が何でそんなもん持ってるのかは知らんが収魔石をそんなにか?」
「大きい物で無くても問題ないので数は持っていた方が良いですね。この辺だと東の草原に行けば結構落ちてますし、僕たちの中ではキラキラ石って呼ばれてみんなかなりの数持ってますから」

 大人の感覚では「魔物から採れる魔石だぞ!」と言いたいのだろうな。東の草原以外でなら落ちている事など無い様な物なので皆が驚くのも無理は無いだろうけど、コイツがあると便利なんだから後で集めに行って貰うとしよう。
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