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カオスな恋、はっじまっ……らないっ!

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「ふざけるな! 誰がお前の話なんて信じられ……」

「……のう、頭の足らぬ小僧よ。儂の言葉を信じられんと言うか? ということは、儂の所有物であるこ奴をどうにかするっちゅうことじゃな? 儂に断り無く。であるならば……お主は、儂の敵。それでいいんじゃな?」

「……(パクパク)」

 もう一度飛ばされた殺気に、自然派騎士ユアンが言葉を無くす。しかし、今度はへたり込んでいない! 彼にも何かしら強い意志を保たせる理由があるようだ。

「よせ、ユアン! パーチェムのみんなも動くな!」

「ふん、これでも引かぬ……は? ちょと待てーい! なんかの冗談か? チーム名おかしくないかの? そ奴、かなり好戦的じゃったぞ?」

 お子さ魔王、平和という意味を持つチーム名を聞いて、思わず突っ込むのである。

「普段は紛争が起きたときにその盾にならんとする者達でしてな。今回……奴の知り合いの村がソレに襲われてまして」

 しかし、彼が好戦的であった理由は他にあったらしい。知り合いが、との言葉に流石のお子さ魔王も顔を顰めて思案顔になる。ちなみに動くなと言われたものの、他の二人は腰が抜けたままだよ! 流石のゾルトも、遥か格上のお子さ魔王を前に他の二人の様子にまでは気が回らないらしい。

「……そうか。儂の威圧を跳ね除ける程の怒り様じゃ。誰ぞ命でも落としたのか?」

「いや、せいぜい腰を抜かして、打ち身になった程度ですな」

「ちっさい話じゃのぉ!? っちゅーか、奴の沸点低過ぎん!?」

 お子さ魔王、真剣に話を聞いてみた結果、阿呆か! とばかりに突っ込みまくる。真面目に聞いて馬鹿を見たとはこのことであろう。

「どちらも最もなご意見ですな。かく言う自分も同意見です。なんせそのドラゴンによる被害なぞ、そのどれもが慌ててすっ転んだ程度で、びっくりした後の二次被害以上のものなんて無いんですよ。しかし、ドラゴンという存在を脅威に思わない者はいない、と言い切ってもいいでしょう? となれば討伐依頼があちこちから殺到するんですな。……一部は別の理由から、ですが」

「一部? ああ、素材という観点からかー。確かにー、普通であればー? 入手しにくいものなぁー? ドラゴンの素材はのぉ?」

「(びくびくっ)」

 お子さ魔王、まだ寝たフリを続けるネピに対し、少しは懲りろとばかりに大きめの声で意地悪を言う。

「ほーん、なるほどのー。で? 幸運にも大した被害を出さないままのこ奴は、今は見ての通り儂の騎龍となっておるのじゃが?」

「ですな。……この場合、討伐対象の脅威消滅による不成立、ということでしょうかな」

「いやいや、こ奴を叩きのめしたのは儂じゃぞ。じゃからもし、討伐の依頼があったのなら儂の総浚えが筋じゃろ」

「な……っ!」

 お子さ魔王の意見も最もではあるが、そうなると実際に討伐依頼を受けて出張ってきた彼らの立場はまるで無くなってしまう。どちらの立場も分かるゾルトは、少し難しい顔をするのだった。しかしお子さ魔王自身も、お金などというものに興味がない。であれば……

「しかしのー、実のところ金なんぞに全く困っておらんでのー。せっかくお主らが出張ってきたんじゃ。代わりに受け取っとけば良いのではないか?」

「そ、それはありがたい話ですが……。しかし、よろしいので?」

 お子さ魔王、ノリノリで手柄の譲渡を申し出る。まぁ譲渡とは言っても、討伐した本人ではないので実績には加算されず、報酬だけの話であるのだが……。ゾルト達には利しかない話であるが、ゾルトはこの話を歓迎しつつも、お子さ魔王の意図を測りかねて聞き返したのは当然といえよう。しかし、この話の流れに納得のいかない者が一人居るのだった。自然回帰騎士ふるち……じゃなかった、ユアンである。

「ふざけんな! ゾルトさんも何受け取る話進めてんだ!? あんな奴の施しなんて誰が……」

「儂が受け取ったりしたらー、王都で豪遊かのーっ? こ奴も食い意地張っとるし~、いいかもしれんのー」

「(じゅるっ)」

 ユアンが受け取らない旨の発言をしだしたので、お子さ魔王、無駄遣いしちゃうもんねーとばかりに煽る煽る。しかし、この全く本気ではない発言を、どこかの食い意地張った狸寝入りドラゴンが聞き拾い、思わずツバを飲み込むのだった。これを察したお子さ魔王、更にネピに対するお怒りモードのレベルが上がる。

(……このどたわけめ。後で折檻じゃのー)

「ぐっ……人々の願いからなる委託金を……っ!」

「でも誰かさん達が受け取ったらぁ? 被害の出た地域に分散返却もできなくはないのにのぉ~? のぉ? どう思う、ゾルトとやら」

「至極有り難いお話であるかと」

「ゾルトさん!」

 お子さ魔王、もはやユアンの相手をするだけ無駄と、ゾルトとだけ交渉を進めるのだった。ついでにネピへの言葉攻めも忘れない。

「ならゾルトよ、お主が証人で良いな? それとも証拠として、角の一本でも落として寄越さねばならぬかの?」

「(びっくぅっ)」

「いえ、それは無用です。……可哀想ですし」

「そんな奴の何がかわいそぅっ!?」

 更にユアンが口を挟んでくるのだったが、何かに感電したかのようにビクーン! と跳ねると、その場に力なくゆっくり崩れ落ちた。

「一端の口を聞きたくば小僧……少しは強くなってからにせぇ」

「……(かくん)」

 ユアンはお子さ魔王の魔法によって意識を飛ばされたらしい。冒険者ギルドでの惨劇再び、であった。尚ゆっくり倒れたのは、頭から落ちると危ないからという、お子さ魔王の配慮である。完璧だ。……マッパの上にケツを突き出す格好で崩れ落ちてなければだが! こらイリーナさん! 貴女からは丸見えだからとはいえ、チラチラ見ないの!

「ザンクエニア殿……」

「すまんすまん。やり過ぎじゃったとは思わんでないが、儂やこ奴が目の前におっては、そ奴も納得のしようが無かろうて」

「そう、ですな。確かに。申し訳ない」

 乱暴とも思えるお子さ魔王のやりように、流石にゾルトも苦言を呈するものの、理由を聞いてむしろ最善の方法であったと納得した。むしろユアンの聞き分けの無さを謝罪する。

「よいよい。……っちゅうか、ネピ、いつまで狸寝入りしとるんじゃ!」

「あ痛ぁ!?」

「「「!?」」」

 ドラゴンが寝たフリ!? 痛い!? え? どういうこと!? と、冒険者一行は混乱の極みに落とされる。

「こんな目に遭うたのは、もしかせんでもお主のせいではないか! このどたわけが!」

「すみませんすみませんすみません」

「「「(あんぐり)」」」

 威力のないお子さ魔王のぺちぺち攻撃に、ドラゴンが情けなく縮こまろうとする図に、冒険者一行は言葉を無くすのだった。なお、ネピが痛いと言ったのは痛覚の話ではなく、心の問題だったと思われる。

「むう。久しぶりにドラゴンの姿で伸び伸びさせてやろうと思ったが、こうも問題を起こしまくっておったとあらば、往く先々で更なる余計なトラブルを招きかねん。人化せい」

「うう……わかりましたぁ。あ、皆さん。眩しくなるので気をつけて下さい」

 冒険者一行は「人化?」と言葉の意味を飲み込めずにいたものの、素直に発光に対する心構えをする。ネピの方も、冒険者達の心構えができたことを感じ取ってから、人化の術を発動させるのであった。成長するんですよ! ネピだって!
 術による発光が収まると、人の姿をとったネピの姿がそこにあった。冒険者一行は、ネピが何かをする、ということは分かっていたが、人化の意味を正確に飲み込めていなかったため……

「「「……はあああああああ!?」」」

 一同、大絶叫である。さて、ここで少し考えてみて欲しい。寝ている人の側で明かりを……それも相当な明るさのものを点けた挙げ句、大きな音を立てればどうなるか。それはもちろん……

「う、うーん。何が起こって……」

「うげ。せっかく寝かしつけたというに、面倒臭いのが起きてきてしもうたわ」

 起きてしまうのは必然であろう。しかし、話をややこしくする元凶であるそいつの目覚めに、いち早く気付いたのはお子さ魔王であった。何せ冒険者一行は人化したネピに驚いていたので、残っていたのがお子さ魔王ただ一人だったとも言えるのだが……。しかし、ユアンのことを面倒な奴認定したお子さ魔王、その目覚めについ文句のような言葉を口に出してしまったのだ。

「……!? あんた! さっきはよくも……っ! って、誰だその子」

 ユアンにしても、沈黙の中で唯一発せられた声の主に視線が行ったのも必然で、すぐさま文句を言い……直ぐに見慣れぬ別の人物へと注意が逸れた。

「「「!?」」」

「私ですか!? 私はネピと言います!」

 ユアンの興味がネピに移るのを感じ取った冒険者一行に緊張が走る。ここでネピに斬りかかりでもしたら、もはや衝突は避けられない、と。ユアンを見捨てるか? 諸共に死ぬか!? とか短い時間で真剣に考えていたのだが……ユアンの疑問に対し、食いしん坊ドラゴンのネピ、元気一杯に自己紹介をしたもんだから、冒険者一行の思考は強制停止させられる。そしてこの二人以外の者達は皆こう思っていた……「おい、そこのドラゴン。そいつお前のこと狩ろうとしてたんだけど、状況分かってんの?」と。そして混乱する現場に、更なる混乱の爆弾が投下された!

「ネピさん……か。なんて可憐な方なんだろう……」

「「「「………………は?」」」」

 今度はお子さ魔王を含め、ネピとユアン以外の全員が耳を疑った! いや、気絶していた寝ていたユアンは知らないのだから、目の前に現れた美少女が、自分の狩ろうとしていたドラゴンであるなどと思いもしないのは当然である。そして好みにどストライクであったなら、この発言自体におかしなところは何もない。……のだが、裏の実情を知る彼等からすると、はてなマークの大行進であったことだろう。

「ネピさん。貴女のように可愛らしい人は見たことがない。もしよければ是非、今後とも仲良くさせて……」

「いえ、結構です」

「うっ……そ、そうですか。ではまた何処かでお会いできたら、お話だけでも……」

「いえ、会うことはないと思います」

「………………(がっくし)」

 取り付く島もないとはこのことであろう。そもそもネピは人間に興味がない。驚かせて慌てふためく様をみるのはそれなりに楽しかったものの、人間の価値となると今一良く分かっていないのが現実だ。もし仮にユアンが、食いしん坊ネピの胃袋をつかめる何かを提案できていたなら、少しは変わっていたかも知れないが……。というか、何よりもまず隠せよ。まっぱで口説くとか、ただのド変態ですやん。

「何なんでしょう、この人は」

「も、もう止めてやってくれんかの」

「はぁ、お館様がそう仰るなら」

 ネピは良く分かっていないものの、お子さ魔王の命令なら止めておきましょう、とばかりに頷いた。……何をやめれば良いのか分かってないにしても! である。

「で、では、儂らはもう行くでの。後のことは任せたぞ、ゾルトとやら」

「………………はっ!? あ、は、はい。お任せ……下さい?」

 まだ状況を飲み込めきれていないゾルトに後の処理を押し付けると、そそくさとお子さ魔王達は去っていったのである。正気に戻ったゾルトが「この混沌とした状況、どうすりゃ良いんだ……」と悲しげに呟くのを、誰も知ることはなかったという。ただ、その元凶であり、騎士であり、もはや全裸を隠す気もない変態であるのが……

「……ネピさん」

 こいつ、ユアンである。
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