3 / 4

3、これはもう単なる甘々カップルなのでは

しおりを挟む
 イシャード殿下に抱きかかえられるようにして、私は不思議なくらい楽しい時間を過ごした。

「考えてみると、私もこんな風にコミュニケーションを取って愛を伝え合ったのはイシャード殿下が初めてです。今までは言葉も話せませんでしたし。好きです」
「そうなのか? ご病気か何かだったのだろうか」
 
 憐憫れんびんや心配を感じる優しい眼差しは、今までエミリオお兄様以外はくれなかった。

「呪われていたせいです。好きです。今かかっている呪いをかけられたとき、話せるようになりまして……話せるようになってよかったです。あなたとこうして気持ちを伝え合うことができるから。好きです」 
「姫を呪った犯人はつかまったのか?」
「いえ、……好きです」
  
 壊れやすい宝物を扱うように大切に抱き上げられて、椅子の上で抱えられる。
 優しく愛しそうにイシャード殿下の手が髪を撫でてくれる。

「アミーラ姫、このお菓子を召し上がれ。わが国の魔法パティシエが腕によりをかけた逸品だ」
 
 そう言って勧めてくれるのは、薔薇の香りをつけたクリームが花びらのように乗ったローズウォーター・カップケーキ。ピンク色の花びら型のクリームがやわらかで、生地はほんわかとした優しい甘さ。おいしい!
 
「美味しいです。こんな美味しいお菓子をイシャード殿下といただけて、幸せ……好きです」
「あなたは本当に嬉しい言葉でオレを幸せな気分にしてくれる」
「これは、呪いですから……。でも、なんだかだんだんと本心かもしれないと思えてきました。好きです……心から。ああ、でもこれじゃ、本心で言っているかわからないですよね、好きです」
「オレはあなたを疑わない。けれど、大切な姫が呪われている状態は放っておけないな」
「好きです、大好きです」
 
 エミリオお兄様が「これはもう単なる甘々カップルなのでは」と呆れている。ちょっと恥ずかしい。私がもじもじしていると、猫がちょこんと膝に乗ってきた。

 イシャード殿下の膝に私が抱えられて座っていて、その私の膝に猫が乗っているという格好だ。
 
「そうそう、猫のミュウも感謝していると言っている」
「にゃぁ~」

 この猫は、ミュウというらしい。

「オレの使い魔だ。貴国を訪ねるにあたって、先に少し調べておこうと思ったもので」
「あっ、そうなのですか。そんなお話して大丈夫なのかしら。でも、嬉しいです。好きです」

 エミリオお兄様を見ると「何も聞かなかったことにしよう」と言っている。イシャード殿下はというと、慈しむような眼差しを私に注いで、なにやら不思議なことを言い出した。
 
「わが国には神秘な力で色々なことを言い当てる預言者がいるのだが、その預言者が言ったのだ。貴国にオレの運命の相手がいて、その相手は聖女なのだと」

 ――運命の相手? 聖女?

 理解の追いつかない私とエミリオお兄様だったが、イシャード殿下は臣下に指示を出し、何かを運ばせた。臣下が持ってきたのは、見るからに特別なゴブレットだった。

「これは、わが国の国宝。《聖なる鏡のゴブレット》です」

 ゴブレットは、手にすっぽりと収まるサイズ感。
 繊細で優美なデザインをしている。
 透明なクリスタルのような素材でできていて、それ自体が輝くようにきらきらしている。

「失礼」 
 イシャード殿下が私の手を引き、ゴブレットへと導く。
 ひんやりしたゴブレットの縁に私の指先が触れると、パァッと神聖な光が輝いた。

「やはり……」
 獣人たちが周囲で次々と膝をつく。

 なに? なんですか? 皆さん? 
 そのキラキラした尊崇の眼差しは、なに? 好きです?
 
「聖女様!」
「我らの聖女様!!」
 わ、わあ……っ!? 好きです!?
 
 イシャード殿下は周囲の視線に頷き、説明してくれた。
「預言者は言った。神聖な国宝に力を注ぐことのできるのが、聖女だと」
 
 その手がゴブレットを掲げると、光がふわふわと会場中にあふれていく。
 
「このゴブレットを使えば、周囲一帯の人の呪いを解くことができる。そして呪いは、呪いをかけた術者へと跳ね返る。さらに、術者の所業までも明らかにする効果まであるのだ」

 その言葉に、リリアンがサッと青ざめるのがわかった。

「アミーラ姫の呪いは、これで解ける」
「好きです?」 
 
 イシャード殿下がおっしゃるのと同時に、私の呪いが解けた。
 パチン、と小気味いい音を立てて。
 
 ……と、いうことは?
 私とエミリオお兄様が恐る恐るリリアンを見ると。
 
 解けた呪いは逆流して、術者である妹リリアンへと戻っていった。

 私だけじゃない。
 会場にいる色々な人から、呪いがリリアンに向かっていく!
 リリアンは、人知れず色々な人に呪いをかけていたのだ。
 
「ギャァアアア!!」
 人々が見守る中、リリアンの全身が醜く変貌していく。

「リ、リリアン……!?」
「姫!?」
 自国の貴族たちも、招かれた他国のお客様たちも、呆然とそれを見ていた。
  
 皮膚はただれ、髪の毛はごっそりと抜け落ちて。
 腰は曲がり、声はしわがれて。
「ア――……ア、アア」 
 枯れ木のようになったリリアンの脚がくたりと脱力して、地面に座り込む。

 イシャード殿下は絶対零度の視線を向けて、厳しく言い放った。
「悪意は放った者に還る……これが、今までの人生で彼女が他者に放ってきた悪意なのだ」
 
 毅然きぜんとした声が会場中に響く。
 
 神聖な光が会場中にあふれて、人々に過去を見せる……。

「み、見える。見えるぞ」
「私にも!」

 居合わせた全員に、同じ光景が共有された。 
 
 みんなが目にしたのは、過去の出来事。
 リリアンが私や他の誰かを呪い、高笑いする姿。
 恐ろしいことにリリアンは邪悪な術で父や宮廷魔法使いの心を惑わして、自分の味方にしていた。
 
「こ、これは……ひどい!」
「なんて邪悪な……」

 声が会場中からあがり、視線がリリアンに集まる。
 変わり果てた姿の妹は地面に這いつくばり、逃げようとした。

「ひぃ、……ひいっ……」

「オレの運命の相手、とうとき聖女に害をなした罪。友好国の王を惑わした罪。許されるものではない」
 イシャード殿下が「そうですね?」と私の父を見る。父は汗をだらだら流しながら頷いた。
「邪悪な術者をひっ捕らえよ!」
 イシャード殿下の美声がりんと響き、兵士が動く。

「い、いゃあぁぁああああ! やだぁああああ!!」
「ええい、往生際が悪い!!」
  
 ――リリアンは捕まった。
 そして、情状酌量の余地もなく処刑されたのだった。

 
「なんてことだ……リリアンはいつから邪悪な術や魂を宿したのか。悪道に堕ちる娘に気付いて引き止めることもできず、惑わされるのみだったとは。アミーラよ、すまなかった。父が悪かった……」
 
 父はショックを隠せない様子で娘の処刑を見届けて、後日国民に申し開きをして王位を退き。
 息子である王太子……エミリオお兄様へと、王位を譲った。
 
 ちなみに。
 
「陛下、今までお疲れ様でございました……っ」
「何を他人事のような顔をしているのだ、宮廷魔法使い。お前も一緒に引退せよ」
「ふぁっ!?」
 
 ちゃっかり仕事をつづけようとした宮廷魔法使いも、父に引っ張られて仲良く引退させられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

精霊の森に追放された私ですが、森の主【巨大モフモフ熊の精霊王】に気に入られました

腐ったバナナ
恋愛
王都で「魔力欠損の無能者」と蔑まれ、元婚約者と妹の裏切りにより、魔物が出る精霊の森に追放された伯爵令嬢リサ。絶望の中、極寒の森で命を落としかけたリサを救ったのは、人間を食らうと恐れられる森の主、巨大なモフモフの熊だった。 実はその熊こそ、冷酷な精霊王バルト。長年の孤独と魔力の淀みで冷え切っていた彼は、リサの体から放たれる特殊な「癒やしの匂い」と微かな温もりに依存し、リサを「最高のストーブ兼抱き枕」として溺愛し始める。

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

追放後に拾った猫が実は竜王で、溺愛プロポーズが止まらない

タマ マコト
ファンタジー
追放された元聖女候補リラは、雨の森で血まみれの白銀の猫を拾い、辺境の村で慎ましく生き始める。 猫と過ごす穏やかな日々の中で、彼女の治癒魔法が“弱いはずなのに妙に強い”という違和感が生まれる。 満月の夜、その猫が蒼い瞳を持つ青年へと変化し、自らを竜王アゼルと名乗る。 彼はリラの魔力が“人間では測れない”ほど竜と相性が良いこと、追放は誤解と嫉妬の産物だったことを告げる。 アゼルの優しさと村の温かさに触れ、リラは初めて「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。

無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!

カントリー
恋愛
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。 でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。 大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。 今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。 異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。 ダーク 「…美味そうだな…」ジュル… 都子「あっ…ありがとうございます!」 (えっ…作った料理の事だよね…) 元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが… これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。 ★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。

処理中です...