悪辣王の二人の娘 ~真実を知った聖女は悪を討つ~

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

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4、奪還のベリル

244、ダンスを止めるな!/ 月が二つあるように、我らが太陽も二つあり

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 ダンスフロアでは、ペアが「預言者様が止めるなと仰せだ!」と使命感たっぷりの顔で踊り続けている。 

「ネネイ様のおっしゃることは国家の存亡に関わるのだ。我々は……踊らねばならない……‼︎」
「ダンスをめるな! 踊れ!」

 ……必死!
 
 そんなに深刻に受け止めなくても、とフィロシュネーは思ったが、預言者の言葉とはそれほど重いものなのだ。
 
 見れば、空国の預言者ネネイは「私、やらかしました……⁉︎」という困り顔になっている。ポーカーフェイスのできない預言者である。
 
 対する青国の預言者ダーウッドは表情が見えない。パーティ会場でもいつもと同じ、フード付きのローブ姿だからだ。
 あれは表情を隠すことで表情をつくる労力をなくしているのだ――フードの下ではおそらく呆れ顔でいることだろう。

「月が二つあるように、我らが太陽も二つあり」

 ダーウッドは抑揚乏しく、詩を吟じるように預言した。

「海は太陽を飲み込むことはできません」

 事実を述べただけ、という無感情な声で唱えたダーウッドは、一歩後ろに退いた。
 代わりに、ネネイが前に出る。

「我らが王は、帰還なさいます」

 会場がどよめく。皆、預言者の預言を妨げてはいけないと口をおさえつつも、おさえきれずに「なんと」「では現在の新王はどうなるのか」などと動揺を見せている。

 ネネイはそんな会場に時間をかけて視線を巡らせ、忍耐強く静寂を待った。
 そして、預言した。

「現在の王は、二つの太陽の帰還まで地上の民が惑わぬようにと神が任命した神の使い。紅国こうこく風にいうならば、神師しんしです」

(なるほど、わたくしは女神ではなく、神の使い。神師なのね……サイラスと同じ肩書きね)

 フィロシュネーは頬をおさえた。
 悪くない――でも、太陽とか神とかごちゃごちゃしていて、無理にこじつけた感じも。

 招待客の様子をうかがえば、天啓をいただいた顔になっている者もいれば、あまり納得がいかない顔の者もいる。
 ――とはいえ。
 
「そうだったのか」
「なんだそれ。ピンとこない……」
「預言者様の言葉は絶対だ! お前、疑うのか? 国賊め」
「い、いや」

 青国と空国では、預言者は神秘的な存在。疑う者よりも信じる者の方が勢力としては大きく、正義。

(ふむ、ふむ。よいのではなくて? 預言の通りにしましょう)

 フィロシュネーはモンテローザ公爵の渋い顔を見ないフリでニッコリとした。
 
「みなさん、お聞きになりまして? わたくしは神の使いですの。お兄様とアルブレヒト様は帰還なさいます。預言されたのですから、絶対ですわ」

 勝利宣言でもするように微笑み、フィロシュネーは少年魔法使いを見た。
 ちょうど曲が終わり、少年魔法使いが手を差し出してくれる。仮面に覆われていて目元はわからないが、口元は笑っていた。

「素晴らしい預言でしたね。では、俺と踊りましょうか、フィロシュネー神師姫しんしひめ
「肩書きが増えましたわね」
 
 エスコートされてダンスフロアに戻れば、入れ替わりで使命感を胸に踊っていたペアたちがダンスフロアを出て行った。
「我々は踊りきったぞ!」
 という誇らしげな声と、謎の拍手が聞こえてくる……。

 楽団もメンバーを交代して、先ほどまで演奏していた演奏者を休ませる様子だ。
 
(ウルムトス・ペンブルック内務大臣がさっそく労働改革を勧めてくれているのかしら。良いことね)

 新しい曲が始まる。
 少年魔法使いは、自分の身長がフィロシュネーより低いことに気付いた様子で、微妙にぎこちなくてやりにくそうなリードを展開した。 
 
「政略結婚の話が早く収まるといいですね。すでに婚約者がいる身だというのに、政治とは面倒なものです」

 生意気な口ぶりとは反対に、少年魔法使いのダンスのリードは奥手で不器用な雰囲気だ。
 フィロシュネーはそこに微笑ましさを覚えた。
 
「……夢をみるのは、その人の自由ですの。それを絶対に実現させるべきだ、と思われると、困りますけれど」

 と、教え諭すように言ったとき、少年魔法使いはびくりと肩を震わせ、フィロシュネーの手を放した。
 どうしたのだろう、とびっくりしていると。
 
「っと、失礼。急用が……」

 言うが早いか、少年魔法使いはくるりと背を向け、駆けだした。
 ひどく慌てた様子で、説明のための時間すらも惜しむように、一目散に。振り返ることもなく。

「え? あっ、ちょっと。まだ途中……」
  
 フィロシュネーは現実を疑った。

(え、えええ!?)
  
 なんと、少年魔法使いはダンスの相手が護衛対象であり、青国の聖女で現青王で神師だというのに、曲も途中だというのに――急に逃げていったのである。

「ど、どうしたんだ!?」
「おい、陛下を置いてどこへ……」

 ダンスを見守っていた招待客も仰天している。

(わたくしにこの空気をどう取り繕えと)
  
 とんでもないダンスパートナーだ。
 ざわざわとする会場の雰囲気に気まずさを感じつつ、フィロシュネーはひとりでダンスフロアの外に出た。

「驚きましたわ。急にご体調が悪くなってしまったのですって。おほほほ……」

 ハルシオンが心配して手を差し伸べてくれる。

「とうとき女王に恥をかかせるなど、あってはならないこと……」
「あの魔法使いはなんなのだ?」

 周囲から聞こえてきた声は不穏だ。だが、それ以上にハルシオンの呟きは剣呑だった。

「私に呪術が使えたら、今すぐに息の根を止めてやるのですが」

(わ、わたくしにこの場をどう収集せよと……紅国の預言者さんとやら。責任をお取りなさいな!)
  
 フィロシュネーが少年魔法使いを恨んでいると、遠くのテーブル席で騒ぎが起きた。
 
「あっ、あちらでなにか、騒ぎが起きているようですわね。な、何事かしら……!」 

 フィロシュネーはこれ幸いと周囲の注意をそちらへと向けた。
 
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