247 / 384
4、奪還のベリル
244、ダンスを止めるな!/ 月が二つあるように、我らが太陽も二つあり
しおりを挟むダンスフロアでは、ペアが「預言者様が止めるなと仰せだ!」と使命感たっぷりの顔で踊り続けている。
「ネネイ様のおっしゃることは国家の存亡に関わるのだ。我々は……踊らねばならない……‼︎」
「ダンスを止めるな! 踊れ!」
……必死!
そんなに深刻に受け止めなくても、とフィロシュネーは思ったが、預言者の言葉とはそれほど重いものなのだ。
見れば、空国の預言者ネネイは「私、やらかしました……⁉︎」という困り顔になっている。ポーカーフェイスのできない預言者である。
対する青国の預言者ダーウッドは表情が見えない。パーティ会場でもいつもと同じ、フード付きのローブ姿だからだ。
あれは表情を隠すことで表情をつくる労力をなくしているのだ――フードの下ではおそらく呆れ顔でいることだろう。
「月が二つあるように、我らが太陽も二つあり」
ダーウッドは抑揚乏しく、詩を吟じるように預言した。
「海は太陽を飲み込むことはできません」
事実を述べただけ、という無感情な声で唱えたダーウッドは、一歩後ろに退いた。
代わりに、ネネイが前に出る。
「我らが王は、帰還なさいます」
会場がどよめく。皆、預言者の預言を妨げてはいけないと口をおさえつつも、おさえきれずに「なんと」「では現在の新王はどうなるのか」などと動揺を見せている。
ネネイはそんな会場に時間をかけて視線を巡らせ、忍耐強く静寂を待った。
そして、預言した。
「現在の王は、二つの太陽の帰還まで地上の民が惑わぬようにと神が任命した神の使い。紅国風にいうならば、神師です」
(なるほど、わたくしは女神ではなく、神の使い。神師なのね……サイラスと同じ肩書きね)
フィロシュネーは頬をおさえた。
悪くない――でも、太陽とか神とかごちゃごちゃしていて、無理にこじつけた感じも。
招待客の様子をうかがえば、天啓をいただいた顔になっている者もいれば、あまり納得がいかない顔の者もいる。
――とはいえ。
「そうだったのか」
「なんだそれ。ピンとこない……」
「預言者様の言葉は絶対だ! お前、疑うのか? 国賊め」
「い、いや」
青国と空国では、預言者は神秘的な存在。疑う者よりも信じる者の方が勢力としては大きく、正義。
(ふむ、ふむ。よいのではなくて? 預言の通りにしましょう)
フィロシュネーはモンテローザ公爵の渋い顔を見ないフリでニッコリとした。
「みなさん、お聞きになりまして? わたくしは神の使いですの。お兄様とアルブレヒト様は帰還なさいます。預言されたのですから、絶対ですわ」
勝利宣言でもするように微笑み、フィロシュネーは少年魔法使いを見た。
ちょうど曲が終わり、少年魔法使いが手を差し出してくれる。仮面に覆われていて目元はわからないが、口元は笑っていた。
「素晴らしい預言でしたね。では、俺と踊りましょうか、フィロシュネー神師姫」
「肩書きが増えましたわね」
エスコートされてダンスフロアに戻れば、入れ替わりで使命感を胸に踊っていたペアたちがダンスフロアを出て行った。
「我々は踊りきったぞ!」
という誇らしげな声と、謎の拍手が聞こえてくる……。
楽団もメンバーを交代して、先ほどまで演奏していた演奏者を休ませる様子だ。
(ウルムトス・ペンブルック内務大臣がさっそく労働改革を勧めてくれているのかしら。良いことね)
新しい曲が始まる。
少年魔法使いは、自分の身長がフィロシュネーより低いことに気付いた様子で、微妙にぎこちなくてやりにくそうなリードを展開した。
「政略結婚の話が早く収まるといいですね。すでに婚約者がいる身だというのに、政治とは面倒なものです」
生意気な口ぶりとは反対に、少年魔法使いのダンスのリードは奥手で不器用な雰囲気だ。
フィロシュネーはそこに微笑ましさを覚えた。
「……夢をみるのは、その人の自由ですの。それを絶対に実現させるべきだ、と思われると、困りますけれど」
と、教え諭すように言ったとき、少年魔法使いはびくりと肩を震わせ、フィロシュネーの手を放した。
どうしたのだろう、とびっくりしていると。
「っと、失礼。急用が……」
言うが早いか、少年魔法使いはくるりと背を向け、駆けだした。
ひどく慌てた様子で、説明のための時間すらも惜しむように、一目散に。振り返ることもなく。
「え? あっ、ちょっと。まだ途中……」
フィロシュネーは現実を疑った。
(え、えええ!?)
なんと、少年魔法使いはダンスの相手が護衛対象であり、青国の聖女で現青王で神師だというのに、曲も途中だというのに――急に逃げていったのである。
「ど、どうしたんだ!?」
「おい、陛下を置いてどこへ……」
ダンスを見守っていた招待客も仰天している。
(わたくしにこの空気をどう取り繕えと)
とんでもないダンスパートナーだ。
ざわざわとする会場の雰囲気に気まずさを感じつつ、フィロシュネーはひとりでダンスフロアの外に出た。
「驚きましたわ。急にご体調が悪くなってしまったのですって。おほほほ……」
ハルシオンが心配して手を差し伸べてくれる。
「とうとき女王に恥をかかせるなど、あってはならないこと……」
「あの魔法使いはなんなのだ?」
周囲から聞こえてきた声は不穏だ。だが、それ以上にハルシオンの呟きは剣呑だった。
「私に呪術が使えたら、今すぐに息の根を止めてやるのですが」
(わ、わたくしにこの場をどう収集せよと……紅国の預言者さんとやら。責任をお取りなさいな!)
フィロシュネーが少年魔法使いを恨んでいると、遠くのテーブル席で騒ぎが起きた。
「あっ、あちらでなにか、騒ぎが起きているようですわね。な、何事かしら……!」
フィロシュネーはこれ幸いと周囲の注意をそちらへと向けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~
藍上イオタ
恋愛
「完全無欠の悪女、デステージョに転生してる!?」
家族に搾取され過労で死んだ私が目を覚ますと、WEB漫画世界に転生していた。
「悪女上等よ! 悪の力で、バッドエンドを全力回避!」
前世と違い、地位もお金もあり美しい公爵令嬢となった私は、その力で大好きなヒロインをハッピーエンドに導きつつ、自分のバッドエンドを回避することを誓う。
婚約破棄を回避するためヒーローとの婚約を回避しつつ、断罪にそなえ富を蓄えようと企むデステージョだが……。
不仲だったはずの兄の様子がおかしくない?
ヒロインの様子もおかしくない?
敵の魔導師が従者になった!?
自称『完全無欠の悪女』がバッドエンドを回避して、ヒロインを幸せに導くことはできるのか――。
「小説化になろう」「カクヨム」でも連載しています。
完結まで毎日更新予定です。
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
氷の公爵は、捨てられた私を離さない
空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。
すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。
彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。
アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。
「君の力が、私には必要だ」
冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。
彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。
レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。
一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。
「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。
これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました
廻り
恋愛
幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。
王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。
恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。
「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」
幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。
ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。
幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる