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幕間のお話6「死の神コルテと人形のお姫さま」
325、よしよし。しめしめって笑っておやりなさい
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――後日。
「俺は人形の国の主と出会いました。カントループという名前の魔法使いは、自我の芽生えた人形の娘を聖女と呼び、溺愛していました」
人形の国からク・シャール紅国に戻ったコルテは、部族会議に出席して報告をした。
テーブルの上に石と果実を並べると、視線が集中する。
「出会い頭はどうなるかと思ったのですが、お姫さまのおかげで生存者は落ち着いてくれて、交流することがかないました。俺と配下はしばらく現地に滞在して、部族に帰ったのです」
報告すると、予想通りにヴィニュエスが機嫌を悪くした。
「勝手に出かけて接触したのか!?」
「噂があるぞ。人形といちゃいちゃしてるって」
噂も出回っているらしい。
自分で言いふらしてはいないから、きっとエルミンディルが帰ってから身内に言って、それが噂として広まったのだ。
人の口に戸は立てられないので、仕方ない。
「生存者を死ぬまで放置するというのがどうしても俺には受け入れられなかったのです」
言い訳でしかないが、と頭を下げた視界に、コトンと茶器が置かれる。
にこにこ笑顔のアム・ラァレだ。
「実は事後報告になるけど、おばちゃんがお願いしたのよ。決議のあとで『生存者』ちゃんが可哀想に思えてきちゃって」
メンバーに茶と茶菓子を配るアム・ラァレは、なんとコルテを庇ってくれている!
「それなら仕方ないな」
「そうかしら」
コルテに優しくしてくれたように、おそらく誰に対しても好印象な接し方をしてきた人物なのだろう。
特に男性陣はころっと態度を変え、「過ぎたことを責めても仕方ない」などと言っている。
ルエトリーなどは、そんな男性陣に不満そうだが。
助かった、と感謝しつつ、コルテは話を進めた。
「トール様は魔法技術研究者としてご高名ですね。果実や石についての分析をお願いできますか?」
トールは最年長、一言でいうと渋い爺さんである。
年の功、というほど単純ではないが、さまざまな分野の知識がある『学術の師』として知られていた。
「この石が願いをかなえてくれる、じゃと?」
トールも他のメンバーも、疑う様子の眼差しを投げかけてくる。おとぎ話じゃあるまいに……と思ってそうだ。
だが、真実なのだ。
「はい。試してご覧にいれましょうか」
コルテは石を取り、試しに会議場に張り巡らされた結界を解いてみせた。
九つの部族の長が集まる会議場の結界は、トップクラスの魔法使いたちが何人も集まって作り上げた強力なものだ。
説得力は抜群だった。
「……調べたほうがいいのではと思い、提出します」
石をもう一度使って結界を戻してみせると、アム・ラァレが「使いこなしてるのねえ、すごいのね」と明るい声を響かせた。
「この石はねえ、おばちゃんの部族の子が見つけてきたのよ~」
「自然の産物なのか」
「確かに尋常ではない魔力を感じる。調べた方がいいだろう」
アエロカエルスとトールが知的好奇心旺盛な視線を交わし、「石と果実は我々が調べよう」とやる気を出してくれる。頼もしいことだ。
「では、分析はお任せするとして、人形の国との外交はどうしましょうか。俺が外交を担当してもよいですか」
コルテは外交という名の「人形の国を訪ねる大義名分」を手に入れる気満々で聞いたが、返ってきた反応は予想外に保守的だった。
「方針は変えてはいけないと思う」
ナチュラが毅然と立ち上がり、発言したと思うとルートが同意し。
ヴィニュエスが「当然だ! コルテの好きにさせてなるものか」とどう考えても私情による反発をして。
「あらあら。おばちゃんは、この世界のひとと仲良くするのに賛成よ。お人形さんに心が宿って人間になるって素敵。コルテちゃんは運命の王子さまって感じなのかしら。わくわくするじゃない」
アム・ラァレはどうやら味方をしてくれているようなのだが。
「私は反対よ!」
と、ルエトリーが即座に反対する。それも、アム・ラァレをイライラと睨みながら。
(さてはルエトリー、アム・ラァレのことが嫌いだな)
コルテは繊細な人間関係を感じ取ってため息をつきたくなった。
「俺は、友好的な関係を築く自信がありますが? 困窮している現地人を助けることは人道的にも望ましく、俺たちにとってもメリットのあることだと考えますが?」
――しかし。
「自然ではない。気持ちは理解するとして、人間をつくるなんて生命倫理に反するよ」
「滅びかけの人類を積極的に絶滅させる気はないが、関わりたくもない」
「争いにならない程度に距離を置いて、お互いに不干渉でいいのではないか。そのうち滅ぶだろう」
「コルテは独断専行して南に行ったのだから、罰を与えないといけないわ。もちろん、勝手なことをしたアム・ラァレもよ!」
反対派の勢いに、ソルスティスが苦笑する。
「私たちは、今はいささか冷静さを欠いているようだな。頭を冷やそうじゃないか」
石と果実についての分析結果が出るまで、現状維持としよう――とソルスティスがその場をおさめてくれる。
「ところで、コルテくんはすでに初対面を済ませてしまったのだから、相手には我々の存在が知られてしまっているわけだ。次にいつ訪ねる、といった約束はしているのかい」
していない。
だが、ソルスティスは目配せをしてくる。
「明確に約束していなくても、例えば私だったら、孤独を拗らせていたときに新しい友人ができたら、もう一度訪ねてくると期待してしまうな」
コルテにはピンときた。
これは、コルテが人形の国を訪ねられるようにという計らいではないだろうか。
――ありがたい。
感謝しつつ、コルテは頷いた。
「俺もそう思います。俺なら、友人が来なければ自分から友人の国に向かうかもしれません」
「それは大変だ! では、コルテくんは危険な友人がこちらの国に来ないよう、彼を安心させる任務を命じる。これは大切で、友人になったコルテくんにしか出来ない任務だね」
文句の声があがりかけると、ソルスティスはサッと手をあげて遮った。
「アエロカエルスとトールは石と果実の分析を進めてくれたまえ。次の部族会議までに間に合いそうかな」
ソルスティス! いい奴ではないか。
コルテは感激した。
結局、その日の部族会議ではコルテは人形の国を訪れる大義名分を手に入れ、石と果実の分析も頼めたので、ほぼ望み通りだ。
「こいつめ、『しめしめ』という顔をしてやがる」
ヴィニュエスが手袋をぽんぽんと投げつけてくるが、アム・ラァレは「いいじゃない」と笑った。
「おばちゃんもしめしめな気分だわ。よしよし」
アム・ラァレが手を伸ばして「かがんで」と言ってくる。
なんだろう? と、かがんでみれば、アム・ラァレはまるで母親のようにコルテの頭を撫でた。
「よしよし。しめしめね」
優しくあたたかな声は、母親を思い出させた。
コルテは頭をさげた。
「ありがとうございます」
「おばちゃんの部族ではねえ、創意工夫をこらして思い通りになったら手放しで喜ぶの。だって、狙い通りにするために頑張った自分って、えらいもの。よしよし。しめしめって笑っておやりなさい」
なにも後ろ暗いことなんてない、というように晴れやかに笑うアム・ラァレに、コルテは頷いた。
「よしよし。しめしめ……です」
こうしてコルテは「よしよし。しめしめ」と人形の国に通える身分になったのだった。
「俺は人形の国の主と出会いました。カントループという名前の魔法使いは、自我の芽生えた人形の娘を聖女と呼び、溺愛していました」
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テーブルの上に石と果実を並べると、視線が集中する。
「出会い頭はどうなるかと思ったのですが、お姫さまのおかげで生存者は落ち着いてくれて、交流することがかないました。俺と配下はしばらく現地に滞在して、部族に帰ったのです」
報告すると、予想通りにヴィニュエスが機嫌を悪くした。
「勝手に出かけて接触したのか!?」
「噂があるぞ。人形といちゃいちゃしてるって」
噂も出回っているらしい。
自分で言いふらしてはいないから、きっとエルミンディルが帰ってから身内に言って、それが噂として広まったのだ。
人の口に戸は立てられないので、仕方ない。
「生存者を死ぬまで放置するというのがどうしても俺には受け入れられなかったのです」
言い訳でしかないが、と頭を下げた視界に、コトンと茶器が置かれる。
にこにこ笑顔のアム・ラァレだ。
「実は事後報告になるけど、おばちゃんがお願いしたのよ。決議のあとで『生存者』ちゃんが可哀想に思えてきちゃって」
メンバーに茶と茶菓子を配るアム・ラァレは、なんとコルテを庇ってくれている!
「それなら仕方ないな」
「そうかしら」
コルテに優しくしてくれたように、おそらく誰に対しても好印象な接し方をしてきた人物なのだろう。
特に男性陣はころっと態度を変え、「過ぎたことを責めても仕方ない」などと言っている。
ルエトリーなどは、そんな男性陣に不満そうだが。
助かった、と感謝しつつ、コルテは話を進めた。
「トール様は魔法技術研究者としてご高名ですね。果実や石についての分析をお願いできますか?」
トールは最年長、一言でいうと渋い爺さんである。
年の功、というほど単純ではないが、さまざまな分野の知識がある『学術の師』として知られていた。
「この石が願いをかなえてくれる、じゃと?」
トールも他のメンバーも、疑う様子の眼差しを投げかけてくる。おとぎ話じゃあるまいに……と思ってそうだ。
だが、真実なのだ。
「はい。試してご覧にいれましょうか」
コルテは石を取り、試しに会議場に張り巡らされた結界を解いてみせた。
九つの部族の長が集まる会議場の結界は、トップクラスの魔法使いたちが何人も集まって作り上げた強力なものだ。
説得力は抜群だった。
「……調べたほうがいいのではと思い、提出します」
石をもう一度使って結界を戻してみせると、アム・ラァレが「使いこなしてるのねえ、すごいのね」と明るい声を響かせた。
「この石はねえ、おばちゃんの部族の子が見つけてきたのよ~」
「自然の産物なのか」
「確かに尋常ではない魔力を感じる。調べた方がいいだろう」
アエロカエルスとトールが知的好奇心旺盛な視線を交わし、「石と果実は我々が調べよう」とやる気を出してくれる。頼もしいことだ。
「では、分析はお任せするとして、人形の国との外交はどうしましょうか。俺が外交を担当してもよいですか」
コルテは外交という名の「人形の国を訪ねる大義名分」を手に入れる気満々で聞いたが、返ってきた反応は予想外に保守的だった。
「方針は変えてはいけないと思う」
ナチュラが毅然と立ち上がり、発言したと思うとルートが同意し。
ヴィニュエスが「当然だ! コルテの好きにさせてなるものか」とどう考えても私情による反発をして。
「あらあら。おばちゃんは、この世界のひとと仲良くするのに賛成よ。お人形さんに心が宿って人間になるって素敵。コルテちゃんは運命の王子さまって感じなのかしら。わくわくするじゃない」
アム・ラァレはどうやら味方をしてくれているようなのだが。
「私は反対よ!」
と、ルエトリーが即座に反対する。それも、アム・ラァレをイライラと睨みながら。
(さてはルエトリー、アム・ラァレのことが嫌いだな)
コルテは繊細な人間関係を感じ取ってため息をつきたくなった。
「俺は、友好的な関係を築く自信がありますが? 困窮している現地人を助けることは人道的にも望ましく、俺たちにとってもメリットのあることだと考えますが?」
――しかし。
「自然ではない。気持ちは理解するとして、人間をつくるなんて生命倫理に反するよ」
「滅びかけの人類を積極的に絶滅させる気はないが、関わりたくもない」
「争いにならない程度に距離を置いて、お互いに不干渉でいいのではないか。そのうち滅ぶだろう」
「コルテは独断専行して南に行ったのだから、罰を与えないといけないわ。もちろん、勝手なことをしたアム・ラァレもよ!」
反対派の勢いに、ソルスティスが苦笑する。
「私たちは、今はいささか冷静さを欠いているようだな。頭を冷やそうじゃないか」
石と果実についての分析結果が出るまで、現状維持としよう――とソルスティスがその場をおさめてくれる。
「ところで、コルテくんはすでに初対面を済ませてしまったのだから、相手には我々の存在が知られてしまっているわけだ。次にいつ訪ねる、といった約束はしているのかい」
していない。
だが、ソルスティスは目配せをしてくる。
「明確に約束していなくても、例えば私だったら、孤独を拗らせていたときに新しい友人ができたら、もう一度訪ねてくると期待してしまうな」
コルテにはピンときた。
これは、コルテが人形の国を訪ねられるようにという計らいではないだろうか。
――ありがたい。
感謝しつつ、コルテは頷いた。
「俺もそう思います。俺なら、友人が来なければ自分から友人の国に向かうかもしれません」
「それは大変だ! では、コルテくんは危険な友人がこちらの国に来ないよう、彼を安心させる任務を命じる。これは大切で、友人になったコルテくんにしか出来ない任務だね」
文句の声があがりかけると、ソルスティスはサッと手をあげて遮った。
「アエロカエルスとトールは石と果実の分析を進めてくれたまえ。次の部族会議までに間に合いそうかな」
ソルスティス! いい奴ではないか。
コルテは感激した。
結局、その日の部族会議ではコルテは人形の国を訪れる大義名分を手に入れ、石と果実の分析も頼めたので、ほぼ望み通りだ。
「こいつめ、『しめしめ』という顔をしてやがる」
ヴィニュエスが手袋をぽんぽんと投げつけてくるが、アム・ラァレは「いいじゃない」と笑った。
「おばちゃんもしめしめな気分だわ。よしよし」
アム・ラァレが手を伸ばして「かがんで」と言ってくる。
なんだろう? と、かがんでみれば、アム・ラァレはまるで母親のようにコルテの頭を撫でた。
「よしよし。しめしめね」
優しくあたたかな声は、母親を思い出させた。
コルテは頭をさげた。
「ありがとうございます」
「おばちゃんの部族ではねえ、創意工夫をこらして思い通りになったら手放しで喜ぶの。だって、狙い通りにするために頑張った自分って、えらいもの。よしよし。しめしめって笑っておやりなさい」
なにも後ろ暗いことなんてない、というように晴れやかに笑うアム・ラァレに、コルテは頷いた。
「よしよし。しめしめ……です」
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