神様と共に存る世界で

あげいも

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第一章 春告草

-弐-

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 団子屋を後にした二人が向かった先は、街の中心部。そこに、ひときわ目を引く立派な呉服店がある。
 山深き神域にあるという紅梅の木。その女神から直々に授かったとされる「幻の紅染め」が評判となり、今や街の顔とも言える大店だ。
 伝統的な反物だけでなく、手軽なレンタル着物や和雑貨も豊富に取り揃え、店内は常に観光客で賑わっている。
 だが、それはあくまで「表向き」の顔。
「お帰りなさいませ! 若旦那様、伯さん!」
 暖簾をくぐった瞬間、明るく元気な声が弾んだ。
 出迎えたのは、まだあどけなさの残る十五、六歳の少年二人。
 よく働く彼らの姿を、客たちは微笑ましげに眺めているが──まさかその正体が、山から下りて日の浅い「人ならざる者」だとは夢にも思うまい。

 この店には、表の賑わいとは別の役目がある。

 店内に張り巡らされた特殊な結界のおかげで、彼らのような未熟なあやかしも人の姿を保っていられる。
 一郎は、忙しなく動き回る二人の少年に目を留め、優しく声をかけた。
「しの、ゆき。精が出るね」
「あ! お土産ですか?」
「そうだよ。後でみんなで食べよう。でも、その前に休憩にお行き」
 一郎の言葉に、二人は顔を見合わせる。確かにその瞳には、隠しきれない疲労の色──というより、野生の眠気が滲んでいた。
「……はい。ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げ、二人は「従業員以外立入禁止」と書かれた奥の暖簾へと消えていく。
「まだまだ、変化へんげを維持するだけで精一杯のようですね」
 傍らの伯が、愛おしむように目を細めて呟いた。
「無理もない。君のように器用な眷属ばかりではないからね」
 一郎は苦笑しながら、彼らの後を追う。
 渡り廊下を抜け、小さな庭に面した縁側へ出ると、先ほどの二人がすでに突っ伏していた。
「わかさま、やさしいねー」
「ねー」
 ごろごろと。転がる二人の輪郭が、陽炎のように揺らぐ。
 結界が深いこの奥座敷では、無理に人の形を保つ必要はない。
「おひるねしたら、またおみせもどろうねー」
「ねー」
 やがて、動きが止まる。
 そこに残されたのは、二人が着ていた着物──の、抜け殻。
 いや、よく見れば折り重なった布が緩やかに上下し、中に「何かいる」ことが窺える。
 もぞりと布が動き、黒く濡れた鼻先が外に出た。
 鈍色にびいろと黒、二色の毛皮に包まれた、ふわふわとした毛玉が二つ。
 着物に包まれていたのは子犬のように見えて、耳と足が違う。——子狼だ。
 彼らは柔らかな日差しの中、重なり合うようにして心地よさそうに寝息を立て始めた。
「……ふふ」
 その無防備な寝姿に、一郎は自然と笑みをこぼす。
 彼らが結界の外で、伯のように完璧な人型を保てるようになるまでには、まだ長い時が必要だろう。
 それまでは、この店が彼らの揺り籠であり、学び舎だ。

 一郎と伯は並んで縁側に腰掛け、穏やかな寝息を立てる小さな眷属たちを見守った。

 穏やかな冬の陽だまり。ここには、街の喧騒とは違う時間が流れている。
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