狐の嫁入り〜推しキャラの嫁が来たので、全力でくっつけようと思う〜

紫鶴

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50、お強い……

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君彦君たちのご両親は大変喜んでいた、という言葉を聞いた。とはいえ、不安は残るようで細心の注意を払うため席の位置とか食べ物とか招待客の位置とかを確認しているという。
周りが協力的なのは良いことだ。よかった~。
そして今日も君彦君は部屋から出る練習だ。俺を抱えて。
部屋から出て、廊下をゆっくり歩く。ゆっくり、ゆっくり……。そして、今日は何と階下まで行こうと階段まで向かっていた。

おお?

下まで行くのだろうか。階段の前でぴたりと足を止める。それからすーはーっと深呼吸をした。体の震えが俺にまで伝わるけれど、今日は階段を降りようと思っているようで鋭く下を睨みつけている。そして、一歩歩き出そうとした時だった。

「君彦君?」
「!!」

階下から声がした。誰かがいるのは気づいていたけれどまさか声をかけるとは思わなかったので俺がぎょっとする。慌てて声をかけてきた人物を見ると、爽やかなイケメンがそこにいた。
雰囲気的に優しそう。雰囲気だけね!

「こんにちは。久しぶりだね」
「は……い……」
「その子は?君の使役してる妖君かな?」

問答無用で近づいてきた。
君彦君がかなり限界値を迎え始めているのだが、あれか、この人はあえて普通を装うことで不安を和らげているのだろうか?よくわかんないけど、それはもう少し経ってからじゃないと効果がない気がする!

「こんにちは。少し触ってもいいかな?」
「あ……」
「ダメかな?」
「ぃ、ぃぇ……」

そう言ってきた彼に君彦君は小さい声で答えつつ震えながら俺を彼に差し出す。
彼は嬉しそうに笑いながら俺を撫でる。
手つきは優しいが、なんだろう。値踏みされてる……?

「可愛いね。おしゃべりは出来ないのかな?」
「……ぁ、ぇ……」
「飼い主と一緒で上手におしゃべり出来ないかな~?」
「……っ!!」

ほー?

俺は容赦なく手に噛みついた。

「いっ!?」

ぷっと滲んできた血を吐き出して彼を蹴って君彦君のところに移動する。俺は素知らぬ顔で君彦君の肩にぐるっと巻き付いて目を閉じた。

「……へー?」

じろっと睨まれているのが分かるがおしゃべり上手にできないからなぁ?何言ってるか分かんなぁい!
とはいえ、ちょっとやりすぎたかな。
ちらっと片目だけ開けて様子を見ると目が合った。

げ。

彼はキラキラとした目でふわりと笑う。

「かわいー。欲しいな~?頂戴?」
「……ぇ」
「いいでしょ?どうせ、結婚するんだし。共通財産でしょ?俺のところに持って行ってもいよね?」

そう言って掌を見せてくる。頂戴というジェスチャーだ。
ていうか、え?結婚すんの?君彦君とこいつが?所謂婚約者的な感じだよね?うそぉ……。

「君も、君彦君に使役されたままだったら小さいままだよ~?」

ぷいっとそっぽを向いておいた。残念ながらあえてこの姿になっているのだ。君なんか一ひねりだぞ?分かってんのか?

「あ!そうだ。折角ここまで来たんだから下に行こうよ」

この男ぉぉおおおおおおっ!!
君彦君の手を取って問答無用で連れて行きそうだったのでがぶっと手に噛みついた。その男は今度は痛がりもせずに俺が噛みついたまま手を引いて体を掴まれた。

「ありがとう、君彦君!」
「ま……っ!」

君彦君の声を聞くことなく、彼は俺に手を噛みつかれたまま階段を下りてしまう。
俺に手を噛みつかれたまま、だ。
まさかそのまま持って行かれるとは思わずに唖然とすると、彼はにこにこ笑う。

「俺の手美味しい?」

すっと手を口から離してぷっと吐き出す。それから手から逃れようと身をよじって尻尾を掴まれた。

「ひぁっ!!」
「なんだ。おしゃべり出来るんだね?」
「ん、ひぃ、ぃ……っ!」

尻尾はだめ!やめて!
ぞわぞわと背筋が震えて力が抜ける。

「可愛い~。ここ弱いの?気持ちいい?」
「ぅ、や、やめ……」

こ、こいつぅ!!獣相手に何しやがる!人の趣味嗜好に文句つける気はないけれど!動物相手にそれはセクハラだからぁ!
そう叫びたいところだが、今声を上げたら変な声が出そうになるので、ぐっと噛みしめて耐える。

「楽しそうですね」
「……え?」

御館様の声がした。
そして、俺の体が解放されて床に着地し彼を見ると彼は御館様に首を掴まれていた。バタバタと足が空中で動かし、御館様の腕に爪を立てているが全く効果がない。
苦しそうな声をあげている彼に大してそんな彼の首を片手で締め上げている御館様はにこにこと笑顔であった。

「ぁ……っ!!」

不意に動いていた足が動かなくなった。だらんっと腕も力を失っているようだった。それから御館様は彼を床に投げた。

「飽きました」

その瞬間、ばちっと音がして何かが切れた。
それと同時に階段から何かが転げ落ちる音がする。

「御館様!!」
「大丈夫ですよ。だから帰りましょう」

大丈夫って!
契約を第三者が無理やり切ったら術者に負担がかかる。今階段から落ちたのは君彦君だ。体の自由がいきなり効かなくなって転げ落ちてしまったのだ。打ち所が悪ければまずいことになる!

「おや……っ!」
「狐だ!!狐がいるぞ!!」
「ゆ、裕翔様がぁっ!」
「早く妖魔課に連絡しろ!!」

先ほどの音を聞きつけて使用人たちがやってきた。御館様は今尻尾も隠していない状態で瞳が怪しく光っている。それから御館様はじっと使用人たちを見た。

「お腹がすいてきたような……」
「ひぃっ!」

舌なめずりをした御館様が口を開けてそう言うと使用人たちが震えあがる。
まずい!

「お、御館様!ご飯は俺があげますので!!」

家帰ったら竈たちがご飯を作るので!!だからそれで勘弁して!!
そう訴えると御館様はぴたりと動きを止めた。それからぐんっと思いっきり俺の方を見る。

「本当ですか!?」
「は、はい!」
「いくらでも?」
「はい!」

今までの怪しい雰囲気が一変してにこにこの明るい笑顔になった。
そんなにお腹がすいていたんだろうか。気づかなくてごめんなさい……。

「帰りましょう!!」
「あ、はい……」

きっと人がいるから君彦君も大丈夫だろう。
彼には悪い事をした。御館様が何か好意的だから油断した。そもそも妖の思考っておかしいんだよね。俺もだけど何が琴線に触れるか分かんないから。後、頭に血が上ったら何するか分かんないし。
一先ずクールダウンさせると御館様は俺を抱えながら丁寧に扉を開けた。すると、前方の空にキラっと何かが光った。

「御館様!」

俺が叫んで彼を庇おうとするが飛んできた矢は御館様に届く前に燃えてなくなった。この間、俺が叫んだので御館様は俺を見て不思議そうにしてました。

「どうしました?」
「あ、いえ、なんでも……」

そうだった。御館様は強いから御館様なんだった。
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