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第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

11-2

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「ごめんなさい。お兄ちゃんだけで十分です」
「だそうだ」
「うわあん!!! カロずるい~!!」
「泣き言言ってないで、行きますよ。それではお二方、こちらで失礼いたします」
「ああ」
「ばいばい。頑張ってねリュネお兄様」


 凄く悲しそうな声を出すので罪悪感からそう言って二人に手を振るとすぐに元気になってリュネお兄様は手を振り返した。「お兄様頑張るね!」と声を上げて。うん是非とも頑張って欲しい。俺は前世で適当なことをすると皆が困ることを身にしみて分かっているので色々手を回すのが大変だった。

 流石に悪役神子だって事は前世の記憶がなくとも分かっていたので表立って真面目に業務をしなかったが……。いやはや、前の事を思い出すと本当に胃が痛くなる。俺はいやだ面倒だと放り投げた会議にこっそり参加して(奇跡のお陰で姿を消して参加していた)会議内容を見ると耳障りの良い意見だけで具体的な数字が全く出てこない。
予算は?日程は?それにかける人の数は?保障は?

 俺しか「魔術」が扱えない世界で現代の日本のように科学も技術も進歩していないその世界で、事をなすにはあまりにも制限が多いのにそれを何も考えない上の貴族、ないし司祭たち。ここにいれば住居も着るものも食べ物の揃って生きるのに事欠かないだろう。

 でも外のものは?凶作で食べ物がないという民は?災害で住む家を失った者たちは?

 どうして彼らはそんな簡単な事を考えないで自分たちの都合の良いように財産を食い潰すのだろうか。

 そういうときは神子と言う身分は実に都合が良い。その会議を盗み見るだけでどれぐらいの無駄なお金を自分の懐に入れられれば外のものの手助けになれるか分かるのだから。ここで重要なのは取り過ぎない事。
 俺以外の屑にも甘い汁を吸わせておかないと何が起こるか分からないから。奇跡で出来ることは全て行い、お金は正当な労働を行って労働費として民に配る。俺は頭良くないからこんな事しか出来なかったが、それでも少しは誰かしら救えたと思いたい。
 そして、それら全部猊下の功績にした。我ながらナイス。記憶はなくてもあの孤児院から連れ出してくれた人だし、何かしら恩義を感じていたんだろうな俺。




――私は、お前と友達にはなりたくない。




「!」
「どうした?」
「あ、ううん。何でもない! 屋敷が大きくてびっくりしただけ!」
「そうか。でもまだ序の口だ」
「そうなの? 凄い!」


 へらへらと俺は猊下に笑いかける。

 いやだな。今いやなことを思い出した。孤児院でまだ猊下に引き取られていない頃にいつも遊んでくれる猊下を勝手にお友達だと思ってそう聞いたら、そんな答えが返ってきたのだ。孤児院にいる子達は遊び相手ではあるが友達ではない。
 だから、猊下が自分の初めての友達かもと浮かれていたのだ。少しぐらい好意的に思われていると勘違いして、勝手に傷ついた。恥ずかしい。苦い思い出だ。今度はそんなこと考えないようにしないと。猊下の好意を俺の都合で解釈してはいけない。


「庭を、案内する」
「うん!」


 その後、俺は猊下の説明とともに屋敷を案内された。俺はそんなことされなくてもどこに何があるか、隠し通路までも分かるのだがうんうん頷いて聞いていた。知っていたら怪しまれるのもそうだが、何より猊下が楽しそうに見えるから。

 俺との、未来の話をするから。



「夏になったら、ここが涼しい。噴水に足をつけて一緒に涼もう」
「ここは今が見頃だ。近いうちにあそこで私と一緒にお茶会を開こう。美味しい食べ物と飲み物を用意する」
「あそこは訓練場だ。お前がもっと大きくなったら身を守るために一緒に鍛錬しよう」


 
 そう言って一つ一つ、言葉を重ねていく。彼は必ず一緒にと言う言葉を口にして優しく俺に微笑んだ。俺はそれを聞きながらへらへらと笑顔を絶やさずにただ頷く。

 本当に一緒にそれらをしたいのは俺じゃないのに、なんでそんなことを言うのだろうかと。でも、猊下が嬉しそうで、楽しそうだから俺は我慢する。逃げ出したくて叫んで問い詰めたいのを堪えてひたすらに受け入れる。それが、今できる俺の出来ることだから。不満を感じること自体がおこがましいのだ。


「楽しみにしてるね、お兄ちゃん!」


 俺は、ただ、彼の期待を裏切ることなくそういうしかないのだ。
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