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31、誰が死んだの?

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アシュレイ達が教会を後にし、アシュレイはリナの手を引きながら商店街を歩いていく。リナを知る者はこの街に多いのでかなり目立つ。しかし、それ以上にリナと一緒にいる二人の男が目立った。

言わずともアシュレイとレイチェルである。

待ちゆく人の視線を独り占めにしながら、アシュレイは一直線に町の外に出ていく。


「あの!どこまで行くおつもりですか!?」
「ちょっとはずれまで」
「はずれ!?」


リナは驚きの声をあげた。しかし、アシュレイは気にせずに外れ、前まで住んでいたあの家の近くまでやってくる。入ることは無いがここは町はずれの場所で人も来ないので勝手ができる。
アシュレイはその場についた後にレイチェルを見た。


「椅子と机とコンロ、フライパンにドラゴンの肉出してくれる?」
「へ?」
「うん、わかった!」


リナが呆然としている中、レイチェルが次々に前までアシュレイが持っていたそれらを取り出す。リナは続々と何もないところから出てくることに驚くが、アシュレイに椅子に座らせられる。

その間に、まな板や包丁、野菜なども取り出しアシュレイはドラゴンの肉を叩いて柔らかくする。それから塩コショウをまぶして刷り込むように味付けをする。醤油ベースのたれに大根おろし、付け合わせの野菜のソテー、ガーリックライスを作る。

良い匂いがしてきた。リナにはレイチェルに水を出してもらいつつ、アシュレイは作り上げたステーキに野菜を盛りつけ、ライスと一緒にリナの前に出した。


「肉だ。リナ、君の顔色が悪いのは肉が足りないんだ!肉を食べれば元気になる!お肉を食べるんだ!!」
「え?」
「君、こんな国にまで足を運んで……。家族がいるんだから他の国の事なんて適当に他の人に頼めばいいのに、もう!」


アシュレイがそう言いながら、レイチェルに君も食べる?っと声をかける。レイチェルはうん!と元気よく返事してリナの前に座った。そのままアシュレイは料理を再開する。レイチェルは、その様子を見た後に目の前のリナに視線を戻す。


「早く食べたらどうでしょうか?まさかここまで来て要らないなんて言いませんよね?司祭様」
「え、あ……」


その瞬間くううっとリナの腹が鳴った。かあっと顔を赤くしてリナが腹を抑えた。


「……い、いただきます」
「どうぞ~」


アシュレイがそう言って、リナは一口食べる。そして、ぼろっと涙をこぼした。ぎょっとしてレイチェルが驚いて声をあげる。


「ど、どうしたんですか!?」
「お、おいしくて……」
「はあ……」


ぼろぼろと泣き出すリナに、レイチェルはそう答えるしかない。とりあえずハンカチぐらいは出し、リナはその差し出されたハンカチを受け取りながら涙をぬぐう。

ぐすぐすと泣きながらリナが少しずつ少しずつ食べる。

暫く、居心地悪そうにレイチェルがそわそわし始めるとアシュレイがレイチェルの分を作り終え、彼の前にそれを出した。

そして、号泣しているリナに対し引いた表情をする。


「何泣いてるの?」
「う、ご、ごめんなさい……」
「いや、別にいいんだけどさ。ゲテモノ入れてないのに何で泣いてるの?はい、レイチェル」


アシュレイがあっけらかんとそう言ってレイチェルの前に皿を置く。リナと同じものが置いてあり、レイチェルは手を合わせいただきまーすっと食べ始める。水も一緒に置いた後にアシュレイは、レイチェルの隣に座る。


「美味しいならよかった。お代わりも欲しかったら言ってね?また作るから」
「はい……はい……っ!」


そんなにうまかったかっとアシュレイは満足げに笑いながら、やはり肉は偉大であると思いなおす。アシュレイはうんうんと頷いて、余った野菜のソテーを食べる。


「アーシュ、美味しいね!ほっぺたが落ちちゃう!」
「本当?食事に関しては力入れてるからね!」


レイチェルがそう言って美味しい美味しいと言いながらもぐもぐと食べる。アシュレイも同じように野菜をバクバク食べる。

アシュレイは食に関しての妥協はしないが、食に対しての探求もお同じように持っているので研究と称してゲテモノ食材を組み合わせて恐ろしいものを生成する時がある。勇者として旅をしていた時には様々な食材が手に入ったのでその探求には事欠かなかった。被害に遭っていたのは男衆であったが。

ともかく、アシュレイの食に関する意欲は凄まじいもので異世界から来たものの知識だけで実際に米や醤油などのものを作り上げるほどである。

そんな注力を入れている料理を褒められたアシュレイは言わずとも上機嫌になる。

ふんふん鼻歌を歌いながらアシュレイはレイチェルの口についたソースを拭う。リナはその様子を見て微笑ましそうに泣き顔から少し笑顔を見せる。


「貴方たちは仲がいいのね」
「ん?まあそうだね」
「そう、ならちゃんと相手の話は聞かないとダメよ」
「え?」
「いつの間にか、居なくなるから」


リナが悲しそうに笑いながらそう言った。一瞬何を言われたか分からなかったが、その言葉を理解したアシュレイはさっと顔色を悪くする。

いや、そんなまさか。

しかし、リナのこの様子に嫌な予感しかしない。アシュレイはがっとリナの肩を掴んだ。驚いたリナが飲もうとした水の入ったコップを落としてしまう。


「死んだの?」
「え……」
「サイラス死んだのっ!?」


いつの間に!?君ら別にそこまで年食ってないよね!?30歳くらいでしょまだたぶん!それなのに死んだってなれば確実に老衰ではない。病死!?事故死!?過労死!?魔術に没頭しすぎて死んだの!?

アシュレイは動揺しすぎてそう思いながらがくがくと肩を揺らす。


「お、女手一つで一人娘を育てているの!?なんでここにいるの君!?帰れよ!?」
「な、なんですかいきなり!?サイラスは死んでません!」
「ええ!?じゃあ過労死でアデル?それか幸薄そうなベン?それとも女性関係で刺されたルーファス?魔術実験で暴発したアリサ?」
「―――っ!?」


アシュレイがそう言ってうーんと唸る。アシュレイが知っているリナと親しい友人はそれしか知らないので分からない。ちらっとリナの様子を伺うとリナが驚きの表情でアシュレイを見る。それからゆっくりと口を開く。


「で、殿下……?」
「え?」
「殿下ぁっ!!」
「おわっ!?」


テーブルを挟んでリナがアシュレイを抱きしめた。アシュレイはバランスを崩しながらもテーブルに手をついてどうにか耐える。


「な、なにっ!?」
「ほ、本当に、殿下、ですか……?」
「いや、殿下ではないですけど」


アシュレイは既に殿下と言われる身分を持っていない。だから冷静にそう答えるとリナが泣きながら言葉を紡ぐ。


「アシュレイ!貴方はアシュレイ様ですか!死んでしまった勇者様ですか!!」
「ああ、それは俺だわ」
「殿下あああっ!」
「ええ、君何をそんなに泣いてるの……?」


アシュレイとリナの温暖差が激しい。

普通に考えれば死んだと思っていた相手が実は生き返っていたなんて感動ものであるのに、アシュレイは全く心に響くことなく寧ろ鬱陶しそうにする。リナはそんな冷たい態度のアシュレイに動じることもなくまたしても泣き出す。


「どうして!どうして黙っていたんですか!私たちはそんなに頼りなかったですかぁ!」
「いや、そう言うわけじゃないけど。言ったら悲しむと思って」
「悲しいですよ!悲しいですけど、黙って死なれた方がもっと悲しいです!大体、死んだ後も手紙が届くようにしていたなんて!このっ!この大バカ者ぉ!」
「……ご、ごめんなさい」
「分かってないですよね!貴方反省してないでしょう!!」
「は、反省してます」


リナの剣幕にアシュレイが圧倒されてそう言うとリナがきっと睨みつける。アシュレイはそっと視線を外しつつただひたすらにごめんなさい、反省していますという言葉を繰り返し発している。その間もがみがみと説教を繰り返すリナにしゅんっとアシュレイは小さくなる。

その様子にレイチェルがこの人怖い……っと静かに認識を改めたのだった。
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