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「あ~~~~~っ!!!」
「やったぁ!今日は筑前煮だ!」
崩れ落ちる叢雲さん、天高く拳を掲げ喜ぶ紫さん。
勝敗は決した。
二人とも互角の戦いだったのだが、最後の方で叢雲さんが自陣の札を紫さんに取られてしまったところから流れが完全に紫さんに飲まれてしまっていた。
それを分かっている叢雲さんは本当に悔しそうだ。
「俺、材料買ってくる~!」
「くっそ~。次は負けないからな~!!」
「ふふん。次も俺の好きなおかず作って貰うもんね~。兄さんって後半になるといっつも疲れちゃうからよゆーよゆー」
「次はこうはいかないし!」
「それ前も聞いた!あ、しーちゃん、何か特別なもの買ってきたりする?」
「あ、いえ、食べたいものだけ買っていただければ……」
「分かった!」
上機嫌で紫さんは出ていった。
あーあーっと残念そうな声をあげている叢雲さん。しかし、俺は先ほどの紫さんの発言で疑問に思ってしまう。
「あの、わざとですか?」
片づけをしている叢雲さんの手が一瞬止まる。それから少し困ったような表情で笑った。
「んー、そういうんじゃないんだけどね。弟の嬉しそうな顔を見るとついつい……」
「流石に何回もそうならばれてるんじゃ……」
「どうだろ。でも毎回喜んでるからいいかなって。一応、お兄ちゃんだし」
「……そう、ですね」
叢雲さんの言葉に少し胸が重くなる。
俺もお兄ちゃんだけど、弟の為にそこまでできるだろうか。いや、きっとできない。やれと言われたらきっとやるだろうが、そういうことではないだろう。
「いいですね、そういう関係って」
「そうかな?俺はただ、もう弟が悲しむ顔が見たくないだけだから。自己満足だよ」
「それでも、弟を大事にできるのは素晴らしいです」
俺は出来ない。
弟は、大事じゃない。
同じく、守れと言われればきっとやるだろうけどこんな関係は築けていない。
だから少しだけ―――。
「しーちゃんも俺の弟になってみる?」
「え?」
「弟じゃなくても大事にするし、悲しい顔を見たくないけど、君が弟になってくれたらきっと毎日が楽しいだろうね」
「……そんな事はないと思いますよ」
法術が使えない役立たずで、能無しで、ただのごく潰しで、どうしてお前のようなものが生きていられるのか、お前の生きる価値はなんだ、どうやったらお前を生んだことを後悔しない日が来るんだ、なんでお前のような奴が生まれてきたんだ。そう言われ続けている俺が楽しい事なんてできるはずがない。
目を伏せると、すぐに情景が浮かぶ。過去に起こったことで、今はまだ起きていない事もある。これから経験することで、きっと同じことを繰り返す。
いや、もっとひどい事を言われるだろう。
もしかしたら今回は俺たちの為に死んでくれと刃物を渡すかもしれない。
そうなったら俺は―――。
「いや、少なくとも美味しいご飯が食べられる時点で楽しいから。自信もってしーちゃん!!」
ふと、叢雲さんの声が聞こえた。
一瞬何を言われたか理解が追い付けずじわじわと彼の言葉を頭の中で復唱する。
そして、たまらず少し噴き出した。
「それは、ふふ、そうですね」
「でしょ?」
彼らにとってのご飯の価値が凄く高いことが分かった。そう考えれば料理が出来る俺が大事になるのも納得だ。
ちょっと食い意地張ってるけど。
そう思って笑っているとどんどんどんっと戸を叩く音が聞こえた。
「やったぁ!今日は筑前煮だ!」
崩れ落ちる叢雲さん、天高く拳を掲げ喜ぶ紫さん。
勝敗は決した。
二人とも互角の戦いだったのだが、最後の方で叢雲さんが自陣の札を紫さんに取られてしまったところから流れが完全に紫さんに飲まれてしまっていた。
それを分かっている叢雲さんは本当に悔しそうだ。
「俺、材料買ってくる~!」
「くっそ~。次は負けないからな~!!」
「ふふん。次も俺の好きなおかず作って貰うもんね~。兄さんって後半になるといっつも疲れちゃうからよゆーよゆー」
「次はこうはいかないし!」
「それ前も聞いた!あ、しーちゃん、何か特別なもの買ってきたりする?」
「あ、いえ、食べたいものだけ買っていただければ……」
「分かった!」
上機嫌で紫さんは出ていった。
あーあーっと残念そうな声をあげている叢雲さん。しかし、俺は先ほどの紫さんの発言で疑問に思ってしまう。
「あの、わざとですか?」
片づけをしている叢雲さんの手が一瞬止まる。それから少し困ったような表情で笑った。
「んー、そういうんじゃないんだけどね。弟の嬉しそうな顔を見るとついつい……」
「流石に何回もそうならばれてるんじゃ……」
「どうだろ。でも毎回喜んでるからいいかなって。一応、お兄ちゃんだし」
「……そう、ですね」
叢雲さんの言葉に少し胸が重くなる。
俺もお兄ちゃんだけど、弟の為にそこまでできるだろうか。いや、きっとできない。やれと言われたらきっとやるだろうが、そういうことではないだろう。
「いいですね、そういう関係って」
「そうかな?俺はただ、もう弟が悲しむ顔が見たくないだけだから。自己満足だよ」
「それでも、弟を大事にできるのは素晴らしいです」
俺は出来ない。
弟は、大事じゃない。
同じく、守れと言われればきっとやるだろうけどこんな関係は築けていない。
だから少しだけ―――。
「しーちゃんも俺の弟になってみる?」
「え?」
「弟じゃなくても大事にするし、悲しい顔を見たくないけど、君が弟になってくれたらきっと毎日が楽しいだろうね」
「……そんな事はないと思いますよ」
法術が使えない役立たずで、能無しで、ただのごく潰しで、どうしてお前のようなものが生きていられるのか、お前の生きる価値はなんだ、どうやったらお前を生んだことを後悔しない日が来るんだ、なんでお前のような奴が生まれてきたんだ。そう言われ続けている俺が楽しい事なんてできるはずがない。
目を伏せると、すぐに情景が浮かぶ。過去に起こったことで、今はまだ起きていない事もある。これから経験することで、きっと同じことを繰り返す。
いや、もっとひどい事を言われるだろう。
もしかしたら今回は俺たちの為に死んでくれと刃物を渡すかもしれない。
そうなったら俺は―――。
「いや、少なくとも美味しいご飯が食べられる時点で楽しいから。自信もってしーちゃん!!」
ふと、叢雲さんの声が聞こえた。
一瞬何を言われたか理解が追い付けずじわじわと彼の言葉を頭の中で復唱する。
そして、たまらず少し噴き出した。
「それは、ふふ、そうですね」
「でしょ?」
彼らにとってのご飯の価値が凄く高いことが分かった。そう考えれば料理が出来る俺が大事になるのも納得だ。
ちょっと食い意地張ってるけど。
そう思って笑っているとどんどんどんっと戸を叩く音が聞こえた。
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