【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「ご飯食べながら適当に読んでくれればいいから」

「片手間にやってて。気楽にね」

「え、でも勝負なんでしょう?勝負ならば手を抜きません。俺も本気でいかせてもらいます。ちょっと待ってくださいね」



彼らの勝負に流石に俺だけご飯食べながら参加するのは良くない。だから彼らにそう言うと二人は感極まったような顔をしていた。



「し、しーちゃん……っ!!」

「宗太君に頼むといっつもめんどくさそうにしてるのに!滅茶苦茶良い子!!」



あー、まあ何回もやられると困るかもしれない……。

俺も朝ご飯を食べ終えて、この大きめの机を避けて読み札の確認をする。二人は自分の札を並べているようだった。



「そういえば、そーちゃんとはどんな関係なんですか?」



今まで二人とそーちゃんの関係が気になっていた。

彼の親戚か何かだろうか。確か兄弟はいなかった気がする……。

そんな事を考えていると叢雲さんがあっけらかんとこう言った。



「宗太君?そこら辺で拾った」

「……ん?」

「拾ったというか、家の前で泣いてたから兄さんが保護しただけでしょ?兄さん、落ちてるもの何でもかんでも拾うから」



予想外の答えが出た。叢雲さんを見る。彼はそうだっけ?と首を傾げていた。無自覚のようだ。



「でも子供が泣いてたら声かけるじゃん?」

「まあ、そうだけど……」

「結果的に宗太君と仲良くできたし!友達出来て紫嬉しいでしょ?」

「それはあの子の方でしょ。友達いなくて泣いてたんだし」

「あー……」



そーちゃんの初めての対応を思い出して苦笑してしまう。あんなに力強く引っ張られたり、なんかいきなり怒り出したりするから他の子供はびっくりするし、なんなら距離置かれるだろうし。とはいえ、きちんといえば理解をするから悪い子ではない。子供だし、これぐらいは許容範囲だと思う。



「あー……って何?原因が分かるの?」

「うーんと、少し力が強いところとか怒りっぽい所ですかね……」



俺がそう言うと、叢雲さんが成程と頷いた。



「言われてみれば、宗太君遠慮ないよね。言いたいことも言うし、時々かっとなって法術繰り出すことあるし」

「え!?」

「俺達にとっては可愛いもんだけど、子供相手だとびっくりしちゃうかもね。本人の自覚以上に力を持ってるから加減が難しいのかも」

「一応訓練はしてるみたいだけどね」



確かに、彼は七宝の中でも法術に優れていた男だ。一人で妖魔を相手できるぐらいの実力の持ち主で、良く一人で狩りに行っていたのを思い出す。

思い出して、もしかしたら友達がいないから一人で行っていたのではないかという考えが浮かんだ。

……。

い、いや、七宝の人達もいたしそれはあり得ない話だな。



「まあ、そういう経緯があり俺達は宗太君と仲良くなったんだよね」

「だからしーちゃんが彼と仲良くしてくれてると嬉しいんだ。お友達が出来ない。ずっと一人なんだって嘆いてたから」

「そうだったんですね……」



俺も友達はいなかった人なので少し気持ちはわかる。前までは完全に久遠以外は諦めていたので彼よりもきっとすぐに割り切れたと思うが、彼はきっと自分の出自からもなんで友達が出来ないのだろうと思ったに違いない。



七宝なのに。

どこどこの子は凄い友達一杯なのに。



そういう気持ちでぐちゃぐちゃになって羨ましくて他の子に当たって孤立したのかもしれない。そう考えると俺は幸運だ。すぐに諦めがついたから。

法術が使えないから友達が出来ないんだってすぐに理解できたから。

今にして思えば、そういうわけではなく俺の性格の問題もあっただろうが……。



「さて、じゃあ夕飯のおかず決めをしようか」

「そうだね、兄さん。それじゃあしーちゃんよろしく」

「あ、はい」



そうだった。百人一首でおかずを決めるところだった。

綺麗に並べられた百人一首の前にすっと前かがみで構える二人。夕飯のおかずにそこまで必死にならなくても……と思いながら俺は読み上げ始めた。



「しのぶ……」



札が飛んだ。

文字通り、勢いよく宙を舞った。ちっという盛大な舌打ちとしゃおらっ!という勇ましい声。

想像以上に本気だった。因みに、舌打ちは紫さん、勇ましい声をあげたのは叢雲さんである。

この勝負、既に兄、弟という配慮はなく真面目に夕飯のおかずを取りに来ている。夕飯のおかずだ。この真剣勝負の最中だが凄く気が抜ける単語。

しかし、ここで俺がぼんやりとしている場合ではない。彼らの勝負に水を差すような事はしたくないのですぐに読み上げる。

こちらにも札が遠慮なく跳んでくるので当たらないように避けつつ受け止めつつを繰り返すと、勝負がついた。




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