102 / 208
2
しおりを挟む
(刀傷だから狼の妖魔以外に何かがいたのは確実で……)
よって安全が確認されるまでは交易も規制して、妖魔狩りも特定の者以外は禁止にした。これ以上の犠牲者を出すわけにはいかないのだ。
(色々と処理があるから寝てる場合じゃないんだけど、俺が起きてるとくーちゃんが寝ないからなー)
真夜中まで起きて仕事をしていたら、あれ?ととねてないの?じゃあくーちゃんも寝ない。とでもいうように仕事部屋で一人で遊び始めるのだ。お部屋に連れて行ってもすぐに戻ってきてしまうし寝かせようとも数分で起きてしまう。今寝たでしょ?みたいな表情をするのだ。仮眠どころの話ではない。
静紀が来る前もかなり寝ない子供であったが、静紀が来たことによってよく寝るようになっていたし、最近はお昼寝もするようになっていた。
必要な栄養と休息をとれているのかだけが心配だったため、よく食べよく寝るようになった久遠に久臣も沙織も一安心していたのが記憶に新しい。
だから、せめて睡眠だけはとって欲しいため、久臣は寝るしかないのだ。
とはいえ、夢のお陰で起きてしまった。そしてお腹もすいた。
(何かご飯食べてこようかな……)
久臣はそう思って静かに隣で寝ている我が子を起こさないようにそーっと出る。
それから厨の方に向かおうとして声がした。
「しちゃ!」
「え?」
「しちゃいた!」
数日ぶりの第一声はお友達のお名前だった。久遠は元気よくそう言って布団から跳ね起きた後にぱたぱたと短い足を動かして部屋から出てしまう。
「くーちゃん!?」
それを久臣が追いかける。すぐに彼に追いつくがどこに行くのか分からず、かといって折角声を出してくれた久遠の機嫌を損ねるわけにもいかない。おろおろと手を久遠の上で彷徨わせながらついていくとそこは厨だった。
「しちゃ!」
厨に顔を出すが、そこには当然誰もいない。しんっと静まり返った暗い場所に久遠は動きを止めて首を傾げた。それからじとっと久臣を見上げる。久遠は、久臣が静紀を隠したのだと思い込んでそれについて責めているような表情をしていた。
「とと……」
「え!?違う違う!とと何もしてない!」
変な疑いをかけられた久臣が慌ててそう言うが久遠は依然として疑いの目を向けている。久臣に対してはかなり信用がない。その為久臣は久遠が納得してくれるように言葉を紡ぐ。
「しーちゃんはいないよ?夢でも見たんじゃないかな?」
「……」
久遠はむっと口を曲げたままであるが、一応納得したのかこくんと頷いた。聞き分けの良い我が子で良かったと久臣はそう思いながら久遠の頭を撫でる。
「どんな夢見たの?」
久臣が久遠にそう聞くと久遠は小さく答える。
「まんまう、しろいの……」
「丸くて白いの?」
「しちゃ、あ、て」
「あーんしてくれたの?良かったねぇ」
久臣はそこまで聞いてあれ?と先ほど自分も見た夢を思い出す。
(似たような夢俺もさっき見たような……)
美味しそうな白くて丸い何かをあーんされた覚えはある。そして、そのあーんをした相手が大きくなった静紀であることも知っている。
(いや、まさか)
いくらなんでもそれは早すぎる。
久臣は久遠の語る夢について考え始めるが、次の瞬間すべての思考がぶっ飛んだ。
よって安全が確認されるまでは交易も規制して、妖魔狩りも特定の者以外は禁止にした。これ以上の犠牲者を出すわけにはいかないのだ。
(色々と処理があるから寝てる場合じゃないんだけど、俺が起きてるとくーちゃんが寝ないからなー)
真夜中まで起きて仕事をしていたら、あれ?ととねてないの?じゃあくーちゃんも寝ない。とでもいうように仕事部屋で一人で遊び始めるのだ。お部屋に連れて行ってもすぐに戻ってきてしまうし寝かせようとも数分で起きてしまう。今寝たでしょ?みたいな表情をするのだ。仮眠どころの話ではない。
静紀が来る前もかなり寝ない子供であったが、静紀が来たことによってよく寝るようになっていたし、最近はお昼寝もするようになっていた。
必要な栄養と休息をとれているのかだけが心配だったため、よく食べよく寝るようになった久遠に久臣も沙織も一安心していたのが記憶に新しい。
だから、せめて睡眠だけはとって欲しいため、久臣は寝るしかないのだ。
とはいえ、夢のお陰で起きてしまった。そしてお腹もすいた。
(何かご飯食べてこようかな……)
久臣はそう思って静かに隣で寝ている我が子を起こさないようにそーっと出る。
それから厨の方に向かおうとして声がした。
「しちゃ!」
「え?」
「しちゃいた!」
数日ぶりの第一声はお友達のお名前だった。久遠は元気よくそう言って布団から跳ね起きた後にぱたぱたと短い足を動かして部屋から出てしまう。
「くーちゃん!?」
それを久臣が追いかける。すぐに彼に追いつくがどこに行くのか分からず、かといって折角声を出してくれた久遠の機嫌を損ねるわけにもいかない。おろおろと手を久遠の上で彷徨わせながらついていくとそこは厨だった。
「しちゃ!」
厨に顔を出すが、そこには当然誰もいない。しんっと静まり返った暗い場所に久遠は動きを止めて首を傾げた。それからじとっと久臣を見上げる。久遠は、久臣が静紀を隠したのだと思い込んでそれについて責めているような表情をしていた。
「とと……」
「え!?違う違う!とと何もしてない!」
変な疑いをかけられた久臣が慌ててそう言うが久遠は依然として疑いの目を向けている。久臣に対してはかなり信用がない。その為久臣は久遠が納得してくれるように言葉を紡ぐ。
「しーちゃんはいないよ?夢でも見たんじゃないかな?」
「……」
久遠はむっと口を曲げたままであるが、一応納得したのかこくんと頷いた。聞き分けの良い我が子で良かったと久臣はそう思いながら久遠の頭を撫でる。
「どんな夢見たの?」
久臣が久遠にそう聞くと久遠は小さく答える。
「まんまう、しろいの……」
「丸くて白いの?」
「しちゃ、あ、て」
「あーんしてくれたの?良かったねぇ」
久臣はそこまで聞いてあれ?と先ほど自分も見た夢を思い出す。
(似たような夢俺もさっき見たような……)
美味しそうな白くて丸い何かをあーんされた覚えはある。そして、そのあーんをした相手が大きくなった静紀であることも知っている。
(いや、まさか)
いくらなんでもそれは早すぎる。
久臣は久遠の語る夢について考え始めるが、次の瞬間すべての思考がぶっ飛んだ。
42
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる