【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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叢雲さんは俺と手元の鉄の棒を見て、ぽんっと手を叩く。



「梓君の独創的な武器、重すぎて誰も扱えないけどしーちゃんは普通に持ててるから、自分の作った武器を使ってくれるかもって思ってるんだと思う」



ああ、成程。そういう事か。

そういえば、叢雲さんが、これが入っている箱を引きずっていたのを思い出した。想像以上に重かったようだ。



「そうです!一応、叢雲さんに一回は試験できるように法術を使ったものを作ってますが、本当はそんなものなくしてただの鈍器を作りたい!!」

「弟子入りするところ確実に間違ってるよ梓君」

「最終的に、鈍器を普及させたいので間違ってません!師匠は有名だから!」

「凄い欲望の塊……。紫に弟子入りできてよかったね」

「はい!!」



こんな事を考えているがきっと才能がなければ弟子入りは出来なかっただろう。きっと未来では立派な刀匠になっていたに違いない。



「それで、しーちゃんどうする?」

「あ」



軽くそんな事を考えていたら叢雲さんの声で一気に現実に戻された。

試験者と言われていまいちピンとこないが、要するに彼の作った武器の試し切りのようなものをすればいいという事だろうか。



「それぐらいだったら……」

「! ありがとう!あ、そういえば自己紹介もなしに押しかけて申し訳ない。俺は梓。君は……?」

「あ、しーちゃん……です」

「ではしーちゃん殿」

「どの!?い、いえ!しーちゃんで構いません!」

「なら俺のことも梓と」

「い、いえ、梓さんで」

「君がそれでいいのなら」



梓さんはそういってふわりと笑顔を見せる。それからそっと俺の腕を掴んでぐっと顔を近づけた。



「ところで、君のその力は一体どこから?そこまで筋肉質というわけでもなく、寧ろ華奢な細腕でよく持てる。平衡感覚が優れていてどこかしらつり合いをとるために重心を移動させて持っているのか?純粋な力比べであるならば天性の才能か?運動量は?それをもってどれくらい動けるんだ?実際に振ってみて欲しいのだが、いやまて、これよりもまだ扱いやすいものの方が……」

「あ、え、え、と」



矢継ぎ早に彼はそう言い募る。元々そういう気質なのかもしれない。確か、集中すると周りの物が見えなくなるとかなんとか……。

俺が戸惑っていると叢雲さんが間に入って止めてくれた。



「はいはい終わり。梓君は一先ず紫のところに行く」

「そうだ。今作りたいものがあった!ぜひとも君に試してほしい!それじゃあ失礼する!」



梓さんはすぐに踵を返して去っていった。ぶんぶんと手を振りながら器用に。

ちょっと早まったのかもしれない、と彼の先ほどの勢いに若干後悔をしているとぽんっと叢雲さんが俺の肩に手を置いた。俺が彼を見上げると、ぐっと親指を立てている。



「お金の交渉は任せて!」

「あ、いえ、それは別に……」

「梓君、金持ちだからぶんとってくるよ!」

「だ、大丈夫です、十分給金は貰って……」

「お金はあった方がいいよ!」



叢雲さんの何かに火がついたようだ。俺はやる気になっている彼を止められるはずもなく、程々で大丈夫ですというしかなかった。
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