なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

文字の大きさ
2 / 70

Ep.2 拒絶




 

レオンハルトは宣言通り、セシリアに一切関わることはなかった。


それは、セシリアも同じだった。


レオンハルトだけではなく、他の使用人たちも屋敷の中でもまったく会うことがなかった。

その為、たまに思い出したかのように『冷遇されている哀れな人』として、笑い話のネタにされることはあるが、その時以外は忘れ、明らかに不審な点があるにも拘わらず、誰もそのことに気付くことはなかった。

 

レオンハルトの頭の中からは、セシリアの影はすっかり消え去り、今までと変わらない日常を過ごしていた。

 
そして、それはトレヴァント辺境伯領に住む領民も同じだった。



しかし、そんな時に辺境伯家の騎士たちから、大型の魔獣が複数確認されたという報告があった。


現れた魔獣の詳細を聞くと、狼に似ているが虎よりも大型であるタイガーウルフ、そして、鋭い爪を持ち、素早いスピードで空を飛び回るグリフォン、合わせて数匹らしい。
 

1~2匹程度であれば、レオンハルトと辺境伯騎士団だけでもどうにかなるが、さすがにそれ以上となると難しい。


どうするか…と考えていたところへ、ふとユーリが思い出したかのように話し始めた。



「奥様に協力してもらうのはどうです~?」


「…なぜだ」


「確か~、陛下からもらった釣書の中に~全属性魔法の使い手って書いていた気が…」



送られてきた釣書は一応、レオンハルトも確認していた為、確かにそう書かれていたことを思い出した。



「…仕方がない、彼女を呼んできてくれ」





⸺⸺⸺



 
しばらくすると、ハンスに先導されたセシリアがノインを伴い、執務室にやって来た。

 

「お久しゅう存じます。辺境伯閣下」



相変わらず、美しいカーテシーを披露しながら挨拶の言葉を述べた。



「…ああ、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」



レオンハルトのセリフにピクリと反応すると、セシリアは体勢を戻し、翡翠色の瞳で冷たい視線を向け「…ご用件は?」と一言問いかけた。



「…大型の魔獣が複数現れた。領民に被害が出る前に討伐しなければならないだろう…君は全属性魔法が使えるはずだ。討伐に参加してくれ」



セシリアの冷たい視線に少し戸惑ったが、とりあえず討伐に参加して欲しいことを伝えた。



「お断りしますわ」


「なっ!!なぜだ!?領民にも被害が出るかもしれないんだぞ!?」



セシリアが拒否した瞬間、レオンハルトたちは断られるとは思わず、驚き動揺した。

 

「なぜ?それは私がお聞きしたいですわ。なぜ、名ばかりの妻であり、辺境伯夫人と認められていない私がやらなければなりませんの?」

 

レオンハルトたちの様子を無表情のまま見つめ、セシリアは淡々と告げた。


その言いぐさに、レオンハルトは顔を険しくさせ、怒りの色を隠さなかった。

ユーリも表情が歪んでおり、どこかピリピリとした雰囲気を醸し出している。



「…お前は、自分さえ良ければ、他人などどうでもいいと言うのか?」
 

「話をすげ替えないでください。普段、妻としても辺境伯夫人としてもに、なぜ有事だからと手を貸さねばならないのか?と聞いておりますの。ご理解頂けまして?」



先ほどよりも、直接的な言葉が執務室の中にいる者たちの胸に刺さったが、今はとにかく承諾してもらわねばならない。



「…分かった、今回の討伐が終わったら、君を辺境伯夫人として尊重する。それならいいだろう」



レオンハルトの言動に、セシリアは溜め息を一つ吐いた後「もう、結構です、貴方と話すことはありませんわ」と、それ以上の発言を許さないと言うかのように鋭い視線をその場にいる者に向け、そのまま執務室を出て行ってしまった。



「くそっ!!下手に出たのに付け上がるとは!!」


「…旦那様、奥様のおっしゃっていることは正論ですよ」



レオンハルトとユーリが抑えきれない怒りを滲ませていると、ハンスはセシリアの肩を持つ発言をした。



「…どういう意味だ」


「旦那様、結婚されて半年間、一度でも奥様と顔を合わせましたか?一度でも奥様のことを思い出されましたか?」



そう言われてしまえば、何となく胸が痛むが、セシリアも望んだことである。



「よろしいですか?奥様からすれば、王命でここまで来たとき、まるで敵陣に来たような気分だったでしょう。当然です、己の執事を除けば、夫であるはずの旦那様を始め、誰一人として味方はいないのですから」



ハンスは目を閉じながら、ゆっくりと諭すように話す。



「夫にも、使用人にも、そして会ったこともない領民にも拒絶された奥様が、こちらを拒絶したとしても何もおかしくありません。最初にお会いしたときに『自分を嫌いな人に好意を持つ特殊な嗜好はない』と仰られていたはずです。」



それを聞き、初めて会った時のセシリアを思い出す。

レオンハルトの拒絶を淡々と受け入れ、自らも拒絶の意思を示していた。


生まれ育った王都を離れ、こんな遠くまで来たにもかかわらず、自分よりも7歳も年下の令嬢に、あまりにも冷徹で大人気ない対応だったと胸が少し痛んだ。



「…俺は間違っていたのか…」


「ですから、私は旦那様にお聞きしました。と…」



ハンスは元々、亡き父である前辺境伯の側近だった男である。


冷静に物事を見て判断できる為に、レオンハルトの教育係もしていた頃があった。


先ほどまで閉じていた目を開き、静かに真っ直ぐとレオンハルトを見る目は、何か間違いを犯したときの幼いレオンハルトを黙って見ていた、あの頃のハンスと同じだった。




どうにかしたくとも、魔獣討伐はすぐにでもやらなければいけない。


今更、どうすることもできないという事実がレオンハルトの心に重くのしかかった。







感想 489

あなたにおすすめの小説

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん
恋愛
 傾いていた伯爵家を復興すべく尽力するジェフリーには、第一夫人のアナスタシアと第二夫人のクララ。そして、クララとの愛の結晶であるジェイクと共に幸せな日々を過ごしていた。  二人の妻に愛され、クララに似た可愛い跡継ぎに囲まれて、幸せの絶頂にいたジェフリー。  アナスタシアとの結婚記念日に会いにいくのだが、離縁が成立した書類が残されていた。    アナスタシアのことは愛しているし、もちろん彼女も自分を愛していたはずだ。  何かの間違いだと調べるうちに、真実に辿り着く。  全二十八話。  十六話あたりまで苦しい内容ですが、堪えて頂けたら幸いです(><)

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。