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図書室
しおりを挟むアメリアとマルガレーテのトラブルの後も当然の事ながら、いつもと代わり映えのない日常が続いている。
淡々と変わらない日々⸺だけど、心の中では「あの日」の事が胸のどこかに抜けない棘のように残っている。
あの、深いロイヤルブルーの瞳が忘れられない。
それを意識しないように頭の片隅に必死に追い払い、普段と変わらない日々を過ごした。
⸺⸺⸺
「セドリック、魔法学の課題は終わった?」
「いや、まだだ。この後、図書室で参考になる本を探そうと思っていたところだ。」
レイルに言われて昼食後に図書室に行こうと思っていた事を思い出し、いそいそと食べ終えてから、その場で三人と別れ図書室へ向かった。
図書室の扉を開き足を踏み入れると、テスト期間には割と利用する生徒が多いのだが、その日の人影はまばらだった。
本の独特な紙の香りのせいか空気が澄んでいて、何だか肩の力が抜けた気がした。
(さて、魔法学の本は…)
目当ての本棚の所へ移動し、パラパラとめくりながら参考になりそうな本を手に取りながら探していく。
隣の棚に移動すると一人の令嬢が本を取っているところだった。
ミルクティー色の真っ直ぐに伸びた長い髪。
チラッと見えた制服のリボンの色から同じ学年のようだった。
一番上の棚にある本が欲しいようで、少し背伸びをしながら棚から取り出せた、と思ったが掴みきれずセドリックの近くに落ちてしまった。
本を拾い少し表面を払ってから手渡そうと彼女に差し出した。
「危ないから今度からは踏み台を使うといい」
声をかけたセドリックの方へ顔を向き、驚きの表情でアメジストような深い紫色の瞳を大きく開くと、すぐに表情を戻しにっこりと笑って、セドリックから本を受け取った。
「ありがとうございます」
⸺⸺⸺どくん。
胸に刺さっていた棘が急に疼いた。
女性にしては少し高めの身長ではあるが、セドリックよりは小さく少し顔を見上げている。
鈴の音のような少し高めの声は女性らしく可愛らしいのに。
確かに笑っているのに紫色の瞳には温度が感じられない。
目をそらすことができず、その瞳に吸い込まれそうな気さえする。
(…まるで、あの夜の彼女のようだ)
彼女が軽く会釈をしてセドリックの隣を通り過ぎようとした瞬間、咄嗟にその細い手首を掴んでしまった。
「何か、ご用ですか?」
驚いた顔をしながら、セドリックの顔を見た後に掴まれた手を見て笑顔で問いかけられた。
「あ、いや…すまない」
掴んだ手の温かさを名残惜しく感じ、惜しみながら離したが…何故か、このまま行かせたくない。
だが、その理由を上手く説明する事ができない。
(むしろ、そんな事を言ってしまえば危ない奴じゃないか?)
少し顔を背けると、その様子を見てから笑顔で「失礼しますね」と言い残し彼女は去って行った。
その後ろ姿を見つめながら、しばらくその場から動けなくなってしまった。
掴んだ手は温かく、確かにそこに存在していたのに。
確かにお互いを認識したはずなのに、何故か彼女の瞳には自分が映っていなかったような…そんな風に感じた。
胸に刺さっていた棘が疼き、何だか苦しい。
胸のあたりのシャツをギュッと握り締めたセドリックの顔は歪んだ。
⸺⸺⸺⸺
図書室から出た令嬢は少し歩いた後、振り返り誰もいない事を確認した。
その表情に感情はなく、そのままその場を後にした。
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