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彼女は一体?
しおりを挟むあれから、どうやって帰ったのか……
あまり覚えていない。
死体もその痕跡も残っていない。
騎士団へも父親にも報告できなかった……
ふとした瞬間に、あの暗闇の中での光景が思い浮かぶ。
よく見えなかったが首を掻き切った無駄のない動作
死体を見る瞳にも恐怖は見えず、淡々とその場を処理していた。
明らかに手慣れている。
そして、初めて出会った時の身のこなし…
(セリーナ、君は一体…)
朝になり、いつもと変わらない日常が始まる。
彼女に会った時、自分はどうしたらいいのだろう?
最近は疼くことがなくなっていた胸の棘の代わりに重い鉛のようなものが乗ったような気がした。
⸺⸺⸺
登校後、いつも通りに教室に向かっていると廊下の向こう側からセリーナが友人と話しながら歩いて来るのが見えた。
セドリックは思わず立ち止まってしまった。
いつもと変わらずに友人と笑顔で話しながら、その瞳に温度を感じさせない……
一瞬、視線がセドリックを捉えたが、すぐに興味がないかようにそらされた。
「…あ……」
何と声をかけたらいいのか?
そんな考えが頭に浮かび、うまく声が出なかった。
セリーナはそんなセドリックを素通りして去って行った。
さっきまではあんなに心は重かったのに、まるで風景の一つかのようにセドリックが存在している事を気にしない姿に、また胸の棘の痛みが戻ってきた。
振り返り、セリーナの後ろ姿を見つめ胸元シャツをギュッと握り締めると苦痛で表情が歪んだ。
⸺⸺⸺
明らかに様子のおかしいセドリックを心配し、レイルたちに声をかけられるが「何でもない」と答え、昼食後いつも通りに図書室へ向かった。
(セリーナは…いるだろうか?)
昨夜の事や朝の態度を見れば、いない可能性の方が高い。
それでも、セリーナに会わないなんて選択肢はセドリックにはなかった。
図書室に入り別室の前へ行くと、そこにはいつも通りに窓台に座り本を読むセリーナの姿があった。
一歩、足を踏み出すとセリーナは本から顔を上げ、いつものようににっこりと微笑む。
「ごきげんよう、もう来ないかと思いました」
まるで何もなかったかのような顔でセドリックを見ている。
でも、口から出た言葉は昨夜の事は現実だと言う。
「…セリーナ、君は一体…」
パタンと本を閉じ、セリーナはセドリックに向かって立ち上がった。
「知りたい?わたしが何者なのか?」
いつもと違う口調で、微笑みながら、ゆっくりと一歩ずつ進んでくる。
「でも、知ってしまえば、あなたは戻れなくなるけど?」
セドリックの目の前まで来ると、見上げるように顔を近付けてきた。
その近さに動揺しているのに昨夜のように体は動かない。
「……それでも、知りたい…」
掠れた声で言葉が溢れた。
セリーナはその真意を探るかのように瞳を真っ直ぐ見据え、セドリックもセリーナの瞳から視線を逸らさなかった。
逸らしたら、それで終わりな気がした⸺⸺⸺
ほんの数分、それだけだった。
でも、セドリックにはもっと長く感じた。
セリーナはぱちっと瞬きを一つすると近付けていた顔を離し、体をセドリックとは違う方向へ向けると少し顔を上げ、ふぅと深く息を吐くとセドリックに再び向き直り、にっこり微笑んだ。
「分かりました。でしたら放課後、生徒会室にいらしてください。今日は生徒会の仕事はないでしょう?」
「何で、そんな事…」
今日、生徒会の仕事がない事はセリーナには話していない。
しかも生徒会室の鍵は教師が管理しており、理由がなく入る事はできない。
生徒会役員ではないセリーナがどうやって入るのだろうか?
「色々と思うところがおありでしょうが、その疑問には放課後いらした場合のみ、お答えいたしますわ」
「じゃあ、放課後お待ちしてますね」と、セリーナはその場を去って行った。
(放課後……その時に本当の君を知る事ができる…)
事実から目を逸らさない。
そう決意すると、手をキツく握り締めた。
⸺⸺⸺
「ねぇ、悪いんだけど放課後、生徒会室貸してくれる?」
「何だ?何か、あるのか?」
「ふふっ、セドリックがね、どうしてもわたしの正体が知りたいんですって!」
外校舎の窓下の壁にもたれながらセリーナは話すと、開いている窓の向こうから返事が聞こえる。
「ふーん、気に入ったのか?」
「そうねぇ…まあ、二回もわたしに会ったことを誰にも漏らしていないし、今日も堂々とわたしの目の前に現れたところは評価できるわね」
(それは気に入ったって事じゃないのか?)
そんな事を思いながら了承をし、窓の下を見るとセリーナの姿はもうなかった。
(さて、どうする?セドリック?)
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