影の女帝

シエル

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ヴァレンシュタイン子爵家

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放課後、約束通りに生徒会室へ向かった。

扉の前に着き、ドアノブを掴もうとすると手が震えていた。



(真実を知るのが怖いのか?それともセリーナが怖いのか?)



いや、あの時は確かに恐怖で動けなくなったが、昼休みに会った時に恐怖は感じなかった。


ふう、と一つ息を吐くと、気を引き締め直してからドアノブを回した。

鍵はかかっておらず、簡単に扉は開いた。


開いた扉の向こうには、ソファーで寛ぎながら紅茶を飲んでいるセリーナと生徒会長の執務机に足を乗せながら座っているレイルの姿があった。



「おー来たなー」



セドリックの姿に気付くと机から足を下ろし、机に肩肘をついた。



「もう、レイちゃん、お行儀が悪いわよ?」



その様子を横目で見ながら、セリーナはまた一口紅茶を飲んだ。



「レイル…何で…」


「まぁ、とりあえず座れよ」



レイルはプライベートモードの口調で、まるでいたずらが成功したかのような笑顔でセドリックを見ている。


脳内がこの状況をうまく処理できず、呆然としながらセリーナの向かい側のソファーに座るとレイルの専属執事が紅茶を供し、そのまま扉の鍵をカチッと締める音がした。
 


「とりあえず、紅茶を飲んで落ち着いたら?」

 

こういう時は、ホストが毒などが入っていない事を示す為に先に口をつけてみせるのがマナーである。 

セリーナは淹れ直された紅茶を飲んで見せ、何も入っていない事をセドリックに示した。


一口飲むと紅茶の香りと温かさに少し気持ちが落ち着く。

カップをソーサーの上に置き、目の前に座るセリーナを真っ直ぐ見た。



「ふふっ、さて何から話しましょうか?」



いたずらっ子のように笑う表情…



(この表情は…さっき…)



パッとレイルの顔を見ると、にやにやとこちらを眺めている。



「お、気付いたか?」


「二人は、姉弟なのか?」


「せーかーい!俺とセリーナは双子の姉弟だ」




現皇帝陛下にはお子は二人おり、レイルに姉皇女がいる事は知っていた。

双子だった事までは知らなかったが…


ただ、その皇女は体が弱く帝城奥の離宮から出ない為、その姿を知っている人はほんの僅かだと聞いている。


その事を思い出していると、セリーナがパチンと指を鳴らした瞬間、ミルクティー色の髪が黒くなり、瞳の色は深いロイヤルブルーに変わった。


そこにいたのは、あの夜会の時に出会った彼女⸺⸺



「その姿は…」


「ふふっ、こっちが本当の姿なの」



思えば、髪の色は既に亡くなられた二人の母である皇后陛下の色で、瞳の色は皇帝陛下の色が深くなったものだ。

逆にレイルは髪の色が皇帝陛下と同じプラチナブロンドで、瞳の色は皇后陛下と同じエメラルドグリーンである。


何故、気付かなかったのか……


色と髪の長さ、そして性別が違うだけで

二人はこんなに似ているのに⸺⸺⸺



「なぜ、皇女殿下はヴァレンシュタイン子爵位を?それに夜会や昨夜の事は……」


「んー、皇女殿下は止めてくれるかしら?わたしもレイも公の場じゃないのに堅苦しいのは好きじゃないの」



両足に肘を付け頬杖し、にこにこと微笑みながら話しているのに色が違うせいか、いつも以上に瞳に温度を感じられない。



「わかった、では、いつも通りで」



そう言えば、満足そうに頷いた。



「そうねー。なぜ、皇女のわたしがヴァレンシュタイン子爵を継承したかと言うと、ヴァレンシュタイン子爵位は帝国にとっては特別なの」


「特別?」


「そう、ヴァレンシュタイン子爵位はね、帝国の影であり、盾であり、矛でもあるの。そして、それは皇族で皇位継承権をもつ者しか継承できない爵位なのよ」



「まぁ、それに見合う能力を持つ皇族がいない場合は繋ぎ用の家門を使う時もあるけど」と軽く言いながら紅茶を飲んでいる。



「それは、皇族の暗部とは違うのか?」



皇帝陛下を始めとする皇族には暗部と呼ばれる存在がある。

皇族の命を受け、諜報や時には暗殺なども行うが影のように動く為、誰がその役目についているかなどは知られていない。



「暗部とは違うな、ヴァレンシュタイン家は帝国や皇帝陛下の憂いとなると判断した場合、勅命がなくとも勅命代行権により、それを実行する事ができる。むしろ、できない事を数える事の方が早い程だ。だから、皇族で継承権をもち、その権力を悪用しない者しか継承できない。正しくヴァレンシュタインを知る者の中には『影の皇帝』と呼ぶ者もいる」



それまで、にやにやとこちらの様子を見ていたレイルが真面目な顔になり、ヴァレンシュタイン子爵位について詳しく説明した。



(思っていた以上の話だな…)



「初めてセドリックに会った夜会の時は、あの伯爵家の昔の情報が知りたかったのよ。資料を出させるように命令すれば簡単ではあるけど、都合の悪い事を隠したり、こちらの動きがバレるリスクがあるからね」


「では、昨夜の事は?」


「こういう仕事をしてると、探られて困る人間がと送ってくる事があって、昨夜は返り討ちにしただけよ。まあ、ただ『貴族の女を攫って来い』としか命令されていなかったみたいだけど。特殊属性魔法を使う時はどうしても一度、認識魔法を外さないといけないから瞳の色が戻ってたでしょ?」



そう言うと自分の瞳を指差した。

深いロイヤルブルーの瞳を⸺⸺⸺




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