影の女帝

Ciel

文字の大きさ
14 / 21

勧誘と問題

しおりを挟む



事情は聞けるだけ聞く事ができたと思う。



「話は分かった。ただ、こんな話を俺にしていいのか?」



堅苦しい言葉遣いは止めてから1人称も「俺」になった。

今、聞いた話は皇族や極一部しか知らない極秘の内容だろう。
そんな話をしてくれたという事は少しは信用してくれていると考えていいのだろうか?



「そうね、この話は皇族の極秘な話ね。だから、これは提案なんだけど…セドリックは卒業後は帝国騎士団に入団して近衛になる予定なのよね?なら、皇女付きにならない?」



「は?」



確かに帝国騎士団に入団予定なのは間違いなく、近衛に配属されるかは分からないが、それでも皇族の側に配属されるだろうとは思っていた。
 
それこそ、レイル付きの護衛騎士とかに選任されるかと。



「最初はレイちゃんの護衛に専任される予定だったんだけど…ほら、夜会の日とか昨夜もそうだけど何回か姿を見られてるし、わたしの事情も知っちゃったでしょ?この場合、わたしの選択肢としてはかのどちらかなの」



にっこりと笑ってセリーナは軽く言葉を口にしているが、という言葉は冗談ではなく本気なのが伝わる。

笑っているがロシアンブルーの瞳が、これ以外の選択肢はないと、いつも以上に冷えた色で教えてくれるのだ。


チラッとレイルの方を見れば、こちらをジッと見ている。
揶揄う色もない、かと言って殺気も感じない…
ただ、セリーナが示した選択肢に対して、どう返答するのか?と淡々とその結果を受け入れるような…感情が見えなかった。



「…分かった。セリーナ付きの護衛騎士になる」



死にたくないから、もちろん、その気持ちがないわけではない。
それよりも、セリーナの側にいたい。側にいられる。
その気持ちの方が強かった。



「良かった!わたしね、専属の執事はいるんだけど、護衛はいなくて、いい加減に1人くらい付けろって宰相に言われてたの!」




セリーナが求めているのは自分をではなく、が必要なのだ、という事が伝わる。


それでもいい。
少しでも側にいられて、セリーナにとって1番の味方でいられたら…
セリーナの盾となり、例え命を散らそうとも悔いはない。


そう、心に誓う⸺⸺⸺



⸺⸺⸺⸺



セドリックがそんな誓いを噛み締めていると、それまで黙っていたレイルが立ち上がり、ソファーにいるセリーナの隣に移動してきた。



「さて、それじゃ、セドリックの配属先が決まったところで今後を話し合おう」


「今後?」


「そう、最近のわたしの仕事はアメリア・フォン・ブライトンの件よ」



学院は皇族から下位貴族、そして少数ではあるが平民も通う言わば、小さな社交界であり、帝国である。

教育としては身分の垣根は設けていないが確実に爵位による上下はあり、貴族としての義務と権利はなくならない。

学院内の事は、成人前の事だと許されているものと考えている者が多いかもしれないが、実際は皇族や高位貴族、そして貴族としての責務をしっかりと理解している下位貴族の保護者・帝城勤務の者たちの観察の場でもあるのだ。


帝国皇族・貴族が愚かでは困る。
己が貴族であるという矜持があれば、その責任や義務を忘れるはずがない。

しかし、中には羽目を外したり義務を忘れ、権利のみを主張する者が出てくる。


それをするのにちょうどいいのが、この貴族学院なのだ。



「アメリア・フォン・ブライトンが編入してきて、彼女が元となり婚約解消となったのが、既に数件出てるの。おまけにダリウス・フォン・カスティエールとの不誠実な関係…本当に汚らわしい」

 

セリーナは嫌悪感を隠そうともせず顔を歪ませながら、そう吐き捨てた。


「あれは最近、生徒会にも入り込み、それと同時に俺やセドリックにも絡もうとするだろ?高位貴族や大商会のアーサンなんかにも近付くのを見ると他国の諜報員か?とも思ったわけなんだが…」



レイルはそこでチラッとセリーナに視線を移す。
それに気付いたセリーナは首を振り、レイルの続きを話した。



「夜会の時の伯爵家はアメリアの祖母が関係してるから探ったんだけど、祖母はただの平民でメイドとして働いていただけで、自分と同じ平民と結婚して、アメリアの母を産み、その母は働いていた酒場で偶然、ブライトン伯爵と出会い、アメリアが産まれた。かなり細かく調査したけど白ね」



(つまり、ブライトン孃のあの言動はすべて彼女の本質であるという事か…)
 


それが分かり、ダリウスとアーサンの言動を思い出すと…頭が痛くなり溜め息が出る。

ダリウスにはマルガレーテという婚約者がいる。

婚約とは家と家の契約であり、更に貴族・平民関係なく守らなくてはならない最も身近な契約と言える。


もちろん、愛人をもつ貴族などは少なくないが、それは結婚後に正妻との間に子をもった後、というのが暗黙の了解である。

それすら、守れない者が信頼できないと判断されてもおかしくない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたにわたくしは相応しくないようです

らがまふぃん
恋愛
物語の中だけの話だと思っていました。 現実に起こることでしたのね。 ※本編六話+幕間一話と後日談一話の全八話、ゆるゆる話。何も考えずにお読みください。 HOTランキング入りをしまして、たくさんの方の目に触れる機会を得られました。たくさんのお気に入り登録など、本当にありがとうございました。 完結表示をしようとして、タグが入っていなかったことに気付きました。何となく今更な感じがありますが、タグ入れました。

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

勘違いって恐ろしい

りりん
恋愛
都合のいい勘違いって怖いですねー

私、悪役令嬢に戻ります!

豆狸
恋愛
ざまぁだけのお話。

この偽りが終わるとき

豆狸
恋愛
「……本当なのか、妃よ」 「エドワード陛下がそうお思いならば、それが真実です」 この偽りはまだ終わるべきときではない。 なろう様でも公開中です。

愛は、これから

豆狸
恋愛
呪いだよ、とクリサフィスは呟くように言った。 「カシア嬢は呪われていたんだ」 「莫迦な。ヴァトラフォス大神官が違うと言っていたんだぞ? わかった。呪いは呪いでもあの女がフィズィを呪って返された呪いなんだろう?」

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...