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婚約
しおりを挟むおおよその事情を聞き、現状の把握ができた。
今は判断材料が少なく、これ以上できる事がないという事で解散することになり帰宅する事になった。
セリーナも帝城に帰るのかと思えば、ヴァレンシュタイン子爵邸に帰ると言う。
専任の護衛騎士になる以上、子爵邸の事も把握しないといけない為、子爵家の馬車に同乗させて貰う。
「帝城の離宮にも確かにわたしの部屋はあるんだけど、あまり向こうには帰ってないの。諜報員さんやら暗殺者さんが忍び込もうとするのが多くて……別にそれを処分するのは問題ないけど、皇帝陛下やレイちゃんに影響があるといけないでしょ?」
「それにヴァレンシュタイン子爵の正体を隠すにもちょうどいいの」と明るく話している。
子爵邸は高位貴族の邸宅よりは離れているが、それでも他の下位貴族よりは帝城に近い位置にあった。
少し古めの屋敷ではあるが、きちんと手入れがされているのが分かる。
「うちにいるのは基本的に自分の身は自分で守れる者たちだけなの。だから、使用人は最低限しかいないわ」
侵入者や不測の事態を想定し、そういう人員になっているそうだ。
帝国騎士団の騎士は一人もいないらしい。
「それって、近衛騎士団長も…」
「そうね、ドラッケンベルグ卿も知らないわよ」
知っているのは皇帝陛下、レイル、宰相、そして帝国騎士団総長、帝国魔術師団総長のみだそうだ。
「本当に知らない人のが多いんだな…」
その中に入れたという事は、少しはセリーナの内側に入れたという事だろうか?
胸の棘があった場所が少し温かく感じる。
専任の護衛騎士になるとなれば、学院内でもセリーナの傍に控えるつもりなのだが、今まで一緒に行動する事がなかった為、急に傍にいると周囲が不審に思うだろう。
生徒会役員は、セドリックがセリーナを気にしていた事は知っているが、図書室で交流していたことまでは知らない。
何の理由もなく傍にいると、淑女としてはしたないと見られたり、セリーナが皇女である事や最悪、ヴァレンシュタイン子爵家の正体がバレる可能性もある。
その懸念をセドリックが溢すと、セリーナは少し考えた表情をした後に軽く提案した。
「セドリックにはあまり良くない事かもしれないけれど、わたしと婚約する?」
その案を思いつかなかったわけではない。
ただ、それを提案された事にセドリックは驚いた。
確かに婚約者であれば側にいても問題はない。
嫡男・嫡女同士で婚約・結婚する事は珍しい事ではあるが、ないわけではない。
子どもを2人以上設け、その内一人をもう一方の跡取りにするという事はたまにある話だ。
セドリックとしては大歓迎である。
帝位継承権についても聞けば、セリーナは現在継承権第一位になっているらしい。
帝国は皇女にも継承権が認められている為に第一子であるセリーナが第一位なのだが、皇帝陛下もセリーナもレイルもどちらが皇帝になっても構わないと考えているらしい。
その為、現在皇太子の椅子は空席のままになっている。
「セリーナさえ良ければ、それでいこう」
この機会を逃すセドリックではない。
セドリックとしては例え、仮初の婚約であろうと傍にいられるだけでも幸せなのだ。
ただ欲を言えば、少しでもセリーナの「内側」に入れてくれたら⸺
そうと決まれば、さっさと手続きするに限るわけだが婚約ともなれば家と家との話になる。
当主である父の許可がいる為、後日ドラッケンベルグ侯爵とともに子爵邸に来てもらい、すべてではなくとも事情を説明したうえで婚約を結ぶ事にした。
⸺⸺⸺
「初めまして、ドラッケンベルグ侯爵閣下。ヴァレンシュタイン子爵家当主、セリーナ・フォン・ヴァレンシュタインでございます」
セドリックは婚約の許可が欲しい事を伝え、父のドラッケンベルグ侯爵が休みの日にともにヴァレンシュタイン子爵邸を訪問した。
通された執務室には当主であるセリーナはもちろん、なぜか面白くなさそうな顔をしたレイルまでいた。
「……お初にお目にかかる。カイン・フォン・ドラッケンベルグだ…ところで、なぜここにレイル皇子殿下が?」
「ああ…本来であれば親や後見人が立ち会うが事情がある為、今日は弟である私が立ち会う事になった」
「…弟?ですか?つまり、それは……」
普段、無表情のカイルは僅かに眉を上げた。
どうやら驚いたらしい、という事はこの場にいる三人は気付いている。
「詳細は皇族の秘匿でもある為、別の機会に…という事になりますが、今回の婚約に関しては、もちろん皇帝陛下にも許可を頂いておりますので、ご安心なさって?」
にっこりと笑いながらセリーナが答える。
カインがチラッとセドリックを見て何かを確認すると、再びセリーナとレイルに視線を戻し、了承の意を示した。
帝位継承の事など、まだ決まっていない事も多い。
おおよその事ではあるが、どの立場で結婚するかなどパターンごとに話し、双方納得のうえで結婚は卒業後ニ年以内を目処に婚約を結ぶ事になった。
セドリックはこの日から執務の手伝いをするという名目で子爵邸で暮らす事になり、レイルはだいぶ渋ったがカインに連れられ帰城した。
⸺⸺⸺
セリーナとセドリックは二人並んで子爵邸宅の庭園を歩いた。
「…仮初の婚約だと思った」
セドリックは先ほどから思っていた事を、ふと漏らした。
レイルもそう思っていたのだろう。
それが、正式に婚約するとなって拗ねていた事は予想がついた。
「どうして?わたしは仮でも意の沿わない契約を結ぶなど不誠実な真似はしないわよ?」
それは少し期待をしてもいいと言うことだろうか?
そう聞き返したくなったが、口に出す事を止めた。
例え、どうであろうと死が二人を分かつまで、共にいる為に婚約という名の契約を結んだのだ。
(最期まで共にいる…どんな時にでも…)
セドリックはそっとセリーナの手を取り、優しく握った。
その手を不思議そうな顔で見た後、セドリックの顔を見上げたが、お互い何か言葉にする事もなく、そのまま庭園を歩いた。
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