影の女帝

シエル

文字の大きさ
16 / 39

貴族としての矜持

しおりを挟む




ヴァレンシュタイン子爵家に住み始め数日が経った。


最初は侯爵家とは違う事が多く、戸惑う事もあった。

それでもセリーナの側にいられるという事が幸せで仕方なかった。

 
学院の登下校も同じ馬車で一緒に移動した。

初めてヴァレンシュタイン子爵家の馬車からセドリックが降り、その後にセリーナをエスコートした際は、それを見た周囲がざわめいた。



「え、何故ドラッケンベルグ小侯爵様がヴァレンシュタイン様の馬車から!?」


「あの二人、何か関係があったのか!?」



予想していた通りの反応だった為、セドリックはもちろんセリーナも気にせず、直接聞かれた際には婚約の事実を伝え、いつも通りの対応をしていた。


昼食はレイルをあのメンバーの中に放置するわけにもいかない為、みんなで共に食べようかと思っていたのだが、今回の件の調査対象者に近過ぎるのは好ましくないという事と、セリーナ自身あまり食べないというのでレイルとも相談し、昼食後はさっさと食べてから解散する事にした。


その後はいつも通り、図書室へ向かいセリーナと共に過ごす。


でも、普段何気なく行動する際などセリーナとの時間は以前より増え、それに周りも慣れたのか注目される事は減っていった。



そんな日々が愛しく、セドリックの胸は温かい気持ちになった。





⸺⸺⸺





「ごきげんよう、ダリウス様、ブライトン伯爵令嬢」

 

いつも通り…いつも通りなのだが、たまにアメリアとマルガレーテの衝突もあった。


最近はダリウスとアメリアをよくある恋物語の『政略結婚に引き裂かれた恋人』かのように支持する者が増えているらしく、マルガレーテの評判はまるで悪役かのように悪化していた。
 


その日は、たまたま友人とホールで食事をしようとしていたマルガレーテが、ダリウスの腕にくっついていたアメリアを見て苦言を呈した。



「何度言えば分かるのですか?お二人の距離感は紳士淑女の距離ではありません。婚約者のいる異性の体に触れるなど…はしたない事ですわ」


「そ、そんな…わたしはただ…」

 

マルガレーテの言動に何ら間違いはない。

なのにも関わらず、アメリアが瞳に涙を浮かべ怯えているように見せるだけで、ダリウスはアメリアを自分の後ろへ隠すとマルガレーテを睨みつけた。



「マルガレーテ、私たちに別にやましい事は何もない。そのように下衆な勘繰りは止めろ」


「やましい事があるか、ないかではありません。貴族たる者、周りにどう見られるのかが全てですわ。公爵家嫡男であれば、そのくらいお分かりでしょう」




マルガレーテは呆れたように溜め息を吐いた。

しかし、その様子を見たダリウスは更に怒りが増した。



「周り?例えば、誰だ!?そんな風に下衆な疑りをする者こそ、貴族として不適切だろう。貴族たる者、情報の是非は正確に把握しなければならないだろう!」




揚げ足を取るようではあるが、ある意味間違いではない為、マルガレーテは少し怯んだように見えた。


それを見ていた周囲の者たちは「やはり、マルガレーテ様はアメリア様がお嫌いなのね…」「ダリウス様を取られて嫌味をおっしゃるなんて…」など、勝手にさえずる。


マルガレーテの様子と周囲の反応に満足したのか、ダリウスは蔑んだような視線をマルガレーテに向けた後、アメリアの肩を抱きながらレイルたちの席に移動した。

 


⸺⸺⸺


 

ダリウスたちはレイルたちの席まで、にこやかに笑いながらやって来ると席に着いた。

先ほどからのダリウスたちの様子を不快に感じていたセドリックは、我慢できずに苦言を呈した。

 

「ダリウス、少しやり過ぎではないか?」


「何だ?セドリック、お前もマルガレーテの味方なのか?」



 
ダリウスは不愉快そうに顔をしかめながら答えた。

その様子をアメリアは不安そうに見ているが、その姿は視界に入れずにダリウスだけを見る。



「言い方は少しキツかったのかもしれないが、マルガレーテは何も間違った事は言っていなかったぞ。お前、最近マルガレーテと婚約者としての交流はもっているのか?」


「セドリック、他家の事に首を突っ込むな。マルガレーテには婚約者としての義務は果たしている。文句を言われる筋合いはない」



婚約者としての義務⸺⸺


ダリウスの言う義務とは、恐らく公式の場でのエスコートやドレスなどの贈り物の事だろう。


セリーナが調べたところ、最近は月に一度あるお茶会などの交流は全て欠席している事は分かっている。
 
ドレスなどの贈り物もアーサンや自分の侍従に選ばせ、エスコートも会場に入った後かファーストダンスを踊った後で別れるか、のどちらかである事も把握済みだった。




「そこまでだ。さっさと食べよう。せっかくの料理が不味くなる」



最近ではレイルはダリウスやアーサンに自ら声をかける事はなくなった。

それをダリウス達はレイルは自分達の味方だと勘違いしているのだろう。


だが、それは違う。レイルはマルガレーテとのやり取りを冷たい瞳でただ見ていた。

今までであれば、きっと仲裁をしていただろう。
 

セリーナもレイルも帝国皇族・貴族としての矜持をしっかりと持っている。

それを示す事ができない貴族は帝国貴族として相応しくないと、ダリウスたちを見放しているのだ。



今であれば、ただ側近から外されるだけで済む。

ただ、これ以上エスカレートするのであれば…




(もう、救いようがないな)




幼い頃から親交があるダリウスだ。

本来であれば、こんなところで躓いて欲しくはない。

だが、ダリウスはもう一線を超えてしまった。




もはや、ダリウスにもアメリアにも未来はない。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので

藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。 けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。 それなら構いません。 婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。 祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。 ――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。

婚約破棄されたので、もう私が支えるのはやめます

ふわふわ
恋愛
王太子アルヴィスの婚約者として、誰よりも完璧であることを求められてきた侯爵令嬢エレノア。 けれど卒業舞踏会の夜、彼女は突然、王太子から婚約破棄を告げられる。 隣に立っていたのは、可憐で愛らしい義妹ミレイユ。 「真実の愛」を掲げる二人に悪女として断じられたエレノアは、すべてを失った――はずだった。 しかし、王宮はなぜか急に回らなくなり、王太子と義妹は少しずつ綻びを見せ始める。 そんな中、エレノアの手腕にいち早く気づいていた冷徹公爵レオンハルトが、彼女へ手を差し伸べる。 「もう、あちらを支える必要はない」 王太子のためでも、侯爵家のためでもなく。 今度こそ自分の意思で立つために、エレノアは公爵家で新たな一歩を踏み出す。 一方、彼女を失って初めて、その価値の大きさを思い知る王太子と、奪ったはずの場所で何も支えられない義妹。 静かに、けれど確実に始まる立場逆転――。 これは、ずっと「選ばれる側」だった令嬢が、もう誰かのために自分を削るのをやめて、幸せも未来も自分で選び取る物語。

婚約者を妹にあげました

あんど もあ
ファンタジー
私の妹ポーリィは、私の持っている物を何でも欲しがってはすぐに飽きて捨ててしまう。そんなポーリィが次に欲しがったのは、私の婚約者ユージン。 「ポーリィ。人間は、飽きても捨てるわけにはいかないのよ」 「今度は飽きないわ!」 「私はポーリィを一生愛すると誓う!」 「ユージン様がそのお覚悟でしたらいいのですが……」 ポーリィとユージンは婚約するのだが……。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...