影の女帝

シエル

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貴族としての矜持

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ヴァレンシュタイン子爵家に住み始め数日が経った。


最初は侯爵家とは違う事が多く、戸惑う事もあった。

それでもセリーナの側にいられるという事が幸せで仕方なかった。

 
学院の登下校も同じ馬車で一緒に移動した。

初めてヴァレンシュタイン子爵家の馬車からセドリックが降り、その後にセリーナをエスコートした際は、それを見た周囲がざわめいた。



「え、何故ドラッケンベルグ小侯爵様がヴァレンシュタイン様の馬車から!?」


「あの二人、何か関係があったのか!?」



予想していた通りの反応だった為、セドリックはもちろんセリーナも気にせず、直接聞かれた際には婚約の事実を伝え、いつも通りの対応をしていた。


昼食はレイルをあのメンバーの中に放置するわけにもいかない為、みんなで共に食べようかと思っていたのだが、今回の件の調査対象者に近過ぎるのは好ましくないという事と、セリーナ自身あまり食べないというのでレイルとも相談し、昼食後はさっさと食べてから解散する事にした。


その後はいつも通り、図書室へ向かいセリーナと共に過ごす。


でも、普段何気なく行動する際などセリーナとの時間は以前より増え、それに周りも慣れたのか注目される事は減っていった。



そんな日々が愛しく、セドリックの胸は温かい気持ちになった。





⸺⸺⸺





「ごきげんよう、ダリウス様、ブライトン伯爵令嬢」

 

いつも通り…いつも通りなのだが、たまにアメリアとマルガレーテの衝突もあった。


最近はダリウスとアメリアをよくある恋物語の『政略結婚に引き裂かれた恋人』かのように支持する者が増えているらしく、マルガレーテの評判はまるで悪役かのように悪化していた。
 


その日は、たまたま友人とホールで食事をしようとしていたマルガレーテが、ダリウスの腕にくっついていたアメリアを見て苦言を呈した。



「何度言えば分かるのですか?お二人の距離感は紳士淑女の距離ではありません。婚約者のいる異性の体に触れるなど…はしたない事ですわ」


「そ、そんな…わたしはただ…」

 

マルガレーテの言動に何ら間違いはない。

なのにも関わらず、アメリアが瞳に涙を浮かべ怯えているように見せるだけで、ダリウスはアメリアを自分の後ろへ隠すとマルガレーテを睨みつけた。



「マルガレーテ、私たちに別にやましい事は何もない。そのように下衆な勘繰りは止めろ」


「やましい事があるか、ないかではありません。貴族たる者、周りにどう見られるのかが全てですわ。公爵家嫡男であれば、そのくらいお分かりでしょう」




マルガレーテは呆れたように溜め息を吐いた。

しかし、その様子を見たダリウスは更に怒りが増した。



「周り?例えば、誰だ!?そんな風に下衆な疑りをする者こそ、貴族として不適切だろう。貴族たる者、情報の是非は正確に把握しなければならないだろう!」




揚げ足を取るようではあるが、ある意味間違いではない為、マルガレーテは少し怯んだように見えた。


それを見ていた周囲の者たちは「やはり、マルガレーテ様はアメリア様がお嫌いなのね…」「ダリウス様を取られて嫌味をおっしゃるなんて…」など、勝手にさえずる。


マルガレーテの様子と周囲の反応に満足したのか、ダリウスは蔑んだような視線をマルガレーテに向けた後、アメリアの肩を抱きながらレイルたちの席に移動した。

 


⸺⸺⸺


 

ダリウスたちはレイルたちの席まで、にこやかに笑いながらやって来ると席に着いた。

先ほどからのダリウスたちの様子を不快に感じていたセドリックは、我慢できずに苦言を呈した。

 

「ダリウス、少しやり過ぎではないか?」


「何だ?セドリック、お前もマルガレーテの味方なのか?」



 
ダリウスは不愉快そうに顔をしかめながら答えた。

その様子をアメリアは不安そうに見ているが、その姿は視界に入れずにダリウスだけを見る。



「言い方は少しキツかったのかもしれないが、マルガレーテは何も間違った事は言っていなかったぞ。お前、最近マルガレーテと婚約者としての交流はもっているのか?」


「セドリック、他家の事に首を突っ込むな。マルガレーテには婚約者としての義務は果たしている。文句を言われる筋合いはない」



婚約者としての義務⸺⸺


ダリウスの言う義務とは、恐らく公式の場でのエスコートやドレスなどの贈り物の事だろう。


セリーナが調べたところ、最近は月に一度あるお茶会などの交流は全て欠席している事は分かっている。
 
ドレスなどの贈り物もアーサンや自分の侍従に選ばせ、エスコートも会場に入った後かファーストダンスを踊った後で別れるか、のどちらかである事も把握済みだった。




「そこまでだ。さっさと食べよう。せっかくの料理が不味くなる」



最近ではレイルはダリウスやアーサンに自ら声をかける事はなくなった。

それをダリウス達はレイルは自分達の味方だと勘違いしているのだろう。


だが、それは違う。レイルはマルガレーテとのやり取りを冷たい瞳でただ見ていた。

今までであれば、きっと仲裁をしていただろう。
 

セリーナもレイルも帝国皇族・貴族としての矜持をしっかりと持っている。

それを示す事ができない貴族は帝国貴族として相応しくないと、ダリウスたちを見放しているのだ。



今であれば、ただ側近から外されるだけで済む。

ただ、これ以上エスカレートするのであれば…




(もう、救いようがないな)




幼い頃から親交があるダリウスだ。

本来であれば、こんなところで躓いて欲しくはない。

だが、ダリウスはもう一線を超えてしまった。




もはや、ダリウスにもアメリアにも未来はない。




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