影の女帝

Ciel

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言いがかり

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あの日以降もダリウス達と不快な昼食時間を過ごした後、いつも通りに図書室でセリーナと合流する。



「ダリウスとアメリアには困ったものねー」



婚約して以来、他の者の目がない時はこんな風に口調が崩れる事が増え、それもまたセリーナとの距離が近付いたようで嬉しかった。



「何か掴んだのか?」


「ふふっ、こないだね、レイルのところにカスティエール公爵とローゼンベルク公爵を呼んだのよ。2人共、学院内の事はちゃんと把握していたから警告したのよ」


「警告?」


「そう、ダリウスはもはやレイルの側近どころか皇族の側に置く事はないわ。カスティエール家は代々宰相など政治家を輩出する家柄ですもの。それが皇族の側に侍る事ができないなど一族として不適格なの。今の段階で自らを省みる事ができ、マルガレーテと結婚するのであれば、まぁ及第点で次代までのになるでしょうね。でも、婚約解消や破棄をするようであれば…」



意味深に言葉を止め、認識阻害の魔法を解いた妖しく煌めく深いロイヤルブルーの瞳でセドリックに視線を移した。



「そうか…俺にも何か手伝える事があればいいんだが…」


 
心配そうに言うセドリックをきょとんとした顔で見つめ、すぐににっこり笑い何か言おうと口を開こうとした⸺⸺
 
しかし、視界に何か入ったのか窓の外に視線を移した瞬間、セリーナ顔から表情が消えた。



「セリーナ?どうし…」



その様子を見てセドリックもセリーナの視線の先を見ると、そこにはダリウスとアメリアが口づけをしている姿があった。


不貞とは、どこからを不貞と呼べるのだろう?

心を移した瞬間から?
⸺⸺しかし、人の心の中までは分からない上に縛る事はできない。


では、体に触れたら?

手を繋いだら?

口づけをしたら?

性行為をしたら?


明確な線引きはないのかもしれない。

ただ、ダリウスとアメリアは決して越えてはならない一線を越えた事だけは分かった。



⸺⸺⸺
 


図書室から戻る間、セリーナの表情は固かった。

もはや、セリーナの中でセドリックとアメリアという2人は帝国貴族としてと判断されただろう。

放課後、レイルと3人でさっきの事を話す事にし、その場は別れた。



そして、放課後。話し合いの為、セリーナと一緒に移動していると、いきなりセドリック達の前にアメリアが立ち塞がった。



「セドリック様!最近、わたしに冷たいのはその人のせいですか?」



うるうるとした瞳でセドリックを上目遣いで見る。




(いきなり現れて何を言い出すんだ?)




「ブライトン孃、君の言っている意味が理解できないのだが?」


「だって!最近、レイル様もセドリック様もわたしやダリウス様に冷たいじゃないですか!最近、その人とばかり一緒にいるから、その人から何か言われてるんじゃないんですか?!」

「セドリック」



アメリアが叫ぶように捲し立てながら言った言葉に深い溜め息を吐いた瞬間、隣にいるセリーナから、いつもの鈴の音の様な高い音ではなく固さの残る低い音の声が聞こえた。


人前でセドリックを敬称なしで呼ぶのは初めてで相当に怒っている事が伝わる。

セリーナに視線を移すとアメジスト色の瞳が、いつも以上に深く輝き、冷え切っていた。


 
「あなた、彼女に名前を呼ぶ事を許可しているの?」


「いや、私もレイルも許していない」


「そう…ならば、不敬ね。格下の令嬢が婚約者でもない異性の名を許可も得ず呼ぶなど貴族として教育を受けていないのかしら?」


「なっ!!」



恐らくセリーナの名も身分も知らないのだろう。
侮辱されたとアメリアの顔はカッと赤くなった。


「アメリア!」



そうこうしている内に今度はダリウスが急いでやって来た。
これは今以上に拗れる事は間違いないだろう。



「ダリウス様!あの人がわたしを!!」



ダリウスに必死に訴えようと叫びながらセリーナに向かって指を差した瞬間、セリーナが思いっきりその手を叩きつけた。



「きゃっ!」


「お前!何をする!」



いきなり、叩かれた事に驚きピンク色の瞳に涙を浮かべたのと同時にダリウスが声をあげた。


「人に向かって指を指してはならないなど貴族でなくとも教育される事ですわ。それに名乗りもしない方に『お前』などと呼ばれる筋合いもございませんわ」



冷えた声と何か分からないが妙な圧を感じた上、正論を言われダリウスは声を詰まらせた。



「セドリック、ダリウス」


そんな時、騒ぎを聞きつけたレイルがやってきた。



「これ以上、ここでは目立つから生徒会室へ移動しよう」



その言葉に従い、アメリアとダリウス、そしてセドリックとセリーナも生徒会室へ移動した。




⸺⸺⸺



「で、事の発端は何だ?」



レイルは執務机の上で肘をつきながら手を組んでいる。
その瞳は全く笑っていない。



「こい…この令嬢がアメリア孃の手を叩き怪我をさせたんだ!」


「今、こいつと言おうとなさいました?先程もお前と呼ばれましたが、全く少公爵であろう方が随分な言葉遣いですこと」


「さっきから、この人わたしやダリウス様を侮辱してくるんです!」


「何も間違った事は言っていないかと思いますわよ?いきなり目の前に立ち塞がったと思ったら、許可も得ず人の婚約者や第1皇子殿下の名を呼ぶなど…不敬ですわ。ですので、貴族としての教育は受けてないのかしら?と事実を述べただけですわ」


「…婚約者?」




ダリウスはアメリアの無礼な振る舞いより、そこに引っかかったらしい。



「そうだ、セリーナ・フォン・ヴァレンシュタイン女子爵と先日正式に婚約したんだ。それで一緒に行動をする事が増えたのだがブライトン孃は何を勘違いしたのかセリーナが嫌がらせをしているかのように言いがかりをつけてきた」


「じゃあ、何で、レイル様…「いい加減になさい!貴女は皇族よりも上の身分なの?許可を得てない者が勝手に名を呼んだりや敬称を変えるなど話になりません!」」



話を途中で遮られ、先程よりも強く否定された上に支配者たる独特な圧を感じアメリアは本気で怯えた。




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