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復学
しおりを挟むローゼンベルク公爵家から帰宅したセリーナをセドリックは出迎えた。
ここ数日、セリーナがカスティエール公爵と色々動いていた事は聞いていた。
「ただいま~」
「おかえり、セリーナ」
専属護衛にも関わらず連れて行って貰えなかった事に胸が痛んだが、セリーナが皇族である事やヴァレンシュタイン子爵家の本来の役目などを話すかどうかが分からなかったので押し通す事ができなかった。
「どうだったんだ?」
「うーん、そうね。まぁ、思い通りかしら?」
執務室へ移動し、準備された紅茶を飲みながら話した。
「やっぱりローゼンベルク公爵が一番くせ者ね。さすが皇帝のご意見番だわ」
セリーナはそう言うと、ソファの背もたれに体を預けながら天井を見上げた。
気のせいか…いつもとは違い、疲労のようなものが見える気がする。
「…疲れたんじゃないのか?」
「そう見える?」
予想外の事を言われたかのように目を見開き、セドリックに視線を移した。
「あぁ、何かいつもと違う気がする」
「そう…そうね。思い出したくない事を思い出させられたから、疲れたのかもしれないわね」
少し考えるかのような表情をしたかと思ったら、紫色の瞳から光が消え、深く濁った気がした。
感情が見えないのは変わらないが、いつもとは違う。
「そうか…」
「…聞き出さないの?」
「…話してくれるなら聞きたいが無理に聞こうとは思わない。話したくなったら言ってくれ」
不思議そうに目をぱちぱちと瞬きをすると柔らかく笑った。
まるで心を許してくれたような、たまにレイルに向ける笑顔に嬉しくなった。
⸺⸺⸺
次の日、ダリウスとアメリアが復学した。
相変わらず、二人一緒に行動しながらアメリアに傾倒する信者たちを侍らせ、表向きは休学前と同じように見えた。
しかし、裏ではダリウスとアーサンはアメリアが主張する嫌がらせの証言を強要したり、アメリア自身も側にいる信者たちに泣きながらマルガレーテの所業を匂わせた。
「あ、あのマルガレーテ様!」
普段、教室内ではお互いに関わらない事が多いはずのアメリアが、突然声をかけてきた事に戸惑っているように見える。
「…何かしら?ブライトン伯爵令嬢…」
警戒心を滲ませながらマルガレーテは返事をした。
両手を胸の前でぎゅっと握りながら、不安そうな表情をしているアメリアの後ろにはダリウスとアーサンの姿がある。
クラスのど真ん中で声をかけてきた為、他の生徒からの注目度も高い。
その様子をセドリックもレイルも見ていた。
いざという時は間に入れるようにと考えていた。
「あの…何か、わたしとダリウス様の事で…その、誤解を招いてしまったみたいなので…お詫びをしたくて…」
ピンク色の瞳をうるうるさせ、体をふるふると震わせている姿は同情を誘っていた。
「誤解ですか?何の事でしょう?」
「その、マルガレーテ様がわたしに…嫌がらせを、している…とか…」
「その件はそうですわね。私はブライトン伯爵令嬢に嫌がらせをするほど暇ではありませんわ。それに直接嫌がらせをするよりブライトン伯爵家に圧力をかけた方が早いですもの」
射抜くような視線で真っ直ぐと見ながら言った台詞にアメリアはビクッと体を震わせ、ダリウスやアーサンは目を細めながら睨みつけていた。
周囲でその様子を見ている者たちの中にもマルガレーテの台詞に「やっぱり、ローゼンベルク公爵令嬢は…」などと疑いを濃くしている。
(まずいな…)
明らかに流れが悪い。
「それに私は婚約者のいる異性とは距離は置くようになど、当たり前の事しか注意しておりませんわ。名前も呼ばないで欲しいと何度もお伝えしておりますのに…まだ、ご理解されていないようですわね」
「マルガレーテ、アメリアは反省し謝罪しているんだ。何故、素直に許してあげないんだ」
我慢し切れなくなったダリウスが口を挟んできた。
「謝罪は受け取りますが、許す許さないは私の自由では?何故、謝罪されましたら必ず許さなければなりませんの?」
強い正論にダリウスは苦々しい表情を浮かべるが、すぐに戻した。
「君がそんな冷たい態度だから嫌がらせだと思われるんだ。高位貴族なら、もう少し心を広く持つべきでは?」
「高位貴族ですからこそ、ですわ。本来、自分より下位の者たちの模範であるべきですのに、ブライトン伯爵令嬢はいつまで学びませんわ。これが平民なら打ち捨てられても文句は言えませんのよ?それなのに無礼を働かれ、心を広く持ち、許すなどあり得ません」
お前たちは模範になっていないと言外に言われ、怒りが込み上げたが、ぐっとダリウスは我慢した。
「そうか、君とは価値観が合わないようだ。アメリア、これ以上は時間の無駄だ。行こう」
そう言い捨てると、アメリアを連れ教室を出て行った。
これも、ダリウスたちの作戦の一つだった。
人前だろうと自分に不利であろうと、マルガレーテはそのプライドの高さから、どうしても発言が威圧的になる。
それが周囲にどうしても悪い印象を与えてしまっていた。
「もっと、上手くやればいいのにな。こういうところはローゼンベルク公爵に似なかったな」
隣で呟いたレイルに同意した。
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