影の女帝

シエル

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5年前

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放課後、生徒会役員で仕事を終わらせてからアーサンが退室すると、セドリックとレイルだけになった。



「セリーナは上手く進めているようだな」


「詳しくは知らないが、こないだローゼンベルク公爵と話をしたようだな」


「…ローゼンベルク公爵な…」



セドリックが答えると、レイルは手を頭の後ろで手を組みながら天井を見上げ呟いた。



「何か、ローゼンベルク公爵が気になるのか?」


「…気になる、とは違うな。ローゼンベルク公爵の名前を聞くと五年前の事を思い出すんだよ…俺も、セリーナもな…」





 
⸺⸺⸺五年前


それは悍ましい事件だった。

皇帝陛下の唯一無二である皇后を一貴族である、今はなき家門の公爵令嬢が毒殺したのだ。


その公爵令嬢は皇帝と皇后が結婚する前、当時皇太子だった皇帝に想いを寄せていた。

順当にいけば身分的には公爵令嬢が皇太子妃だろうと言われていたが、皇太子は彼女の下位の者たちへの傲慢な態度に嫌悪感を現していた。


そんな時に隣国の公爵令嬢であった皇后に出会い、その美しさや人柄に惚れ込み婚約、結婚が決まったのだ。

公式発表の際には、その公爵令嬢は荒れに荒れ、次期皇太子妃に対し度重なる無礼を働き、危機感を覚えた父親が別の他国の貴族へ嫁がせた。


皇太子と公爵令嬢は結婚し、セリーナとレイルという子どもたちにも恵まれ帝位を継いだ。まさに幸せな家族だった。


しかし、五年前に他国に嫁いでいた公爵令嬢の夫が亡くなり未亡人になった為、帝国に戻ってきたのだ。

さすがにあの頃から十年以上も経っており、本人も落ち着いていた為に最初は警戒していた周囲も少し気を抜いていた。



ある日、皇后が愛する我が子たちと庭園でお茶会をしていた時だった。


紅茶を一口飲んだ皇后が目を見開き、ものすごい勢いで娘たちが口をつけようとしていたティーカップを払い除けたのだ。

いきなりカップを振り払われた事を驚いている様子を見て、ほっとした表情をしたかと思えば、急に口元を手で抑え、おびただしい程の血を吹き出した。



「お母様!」
「母上!」



急いでセリーナが皇后に駆け寄り、治癒魔法や解毒魔法をかけるが容態は変わらず、体を痙攣させて目が虚ろになっていた。



「おい!誰か、医師を連れて来い!」



レイルはそう叫び治療の為に皇后を部屋に急ぎ移すと、すぐに医師と皇帝がやって来たが、既に脈も呼吸も止まっていた。



「…皇后?目を開けよ…レオーナ?……うあああぁぁぁ!!」



どこか現実感がなく、お互いに気付かないうちに手を繋ぎながら、母に縋り慟哭する父の姿をぼーっと見ていた。




⸺⸺⸺




「毒は特殊な物で医師も何の毒か分からない物だったんだ…犯人は間違いなく、その公爵令嬢だろうと分かっていたが証拠がなかったんだ」



しかし、怒りに支配されている皇帝は公爵令嬢を処刑すると勅命を出し、近衛騎士に命じて捕縛させようとした。


それを止め、諫言したのがローゼンベルク公爵だった。



「ローゼンベルク公爵は証拠もなく断罪し処刑したとなれば、それは法治国家である帝国の根底を揺るがす事であり、帝国法の効力がなくなる。そうなると貴族たちも陛下に不信感を抱くだろう、と淡々と言ったんだ」


「陛下も理解していたんだ。だが、それでも怒りが収まらなかった。そんな陛下にセリーナが言ったんだよ」



それまで思い出すかのように少し上を見ながら話していたレイルが、セリーナの名前を出すとセドリックに視線を戻した。



「陛下、私にお任せ下さいませ」


「セリーナ…何を…」


「先日ヴァレンシュタイン子爵家の教育をすべて修めました。ですので、正式にヴァレンシュタイン子爵として行動する事ができます」


「「!!!!」」


「皇后陛下を毒殺する事など皇族、ひいては帝国に叛意があると同一。影の皇帝であるヴァレンシュタインの名のもとに、必ず、皇后陛下を毒殺した犯人と証拠を叩き付け公の場で断罪いたしましょう」



セリーナは胸に手を当てながら跪き、深く頭を下げた。

それは臣下としての最高礼である。



「分かった…セリーナ、お前に任せる。ローゼンベルクにも止められた事を理由にの処刑は待つ。レイル、お前もセリーナに手を貸しなさい。母の仇を決して逃がすな」



「「承知いたしました」」



そこからセリーナは公爵令嬢の周囲はもちろん、公爵邸や嫁いだ家門に潜入したりと、取りこぼしは一粒たりとも許さないという気迫で調査を重ねた。


そして、半年も掛からずに公爵令嬢が犯人である証拠や証言を掴んだ。

殺害に使用された毒は、嫁ぎ先の領地の端に住む小さな部族だけが作る事ができる呪術がこめられた物で、公爵家の領邸に隠されていた。
 


「何故、何故ですか!?あの女が死んだのに!邪魔者は消えました!次は私がお側におります!」



証拠も突き付けられ、断罪されているにも関わらず、はそう叫んで陛下に縋りついたが、目を合わせただけで殺せそうな程、冷えた目で見下されただけだった。



「結果、その女と協力者であったの母親を始めとする関係者を母上と同じ毒杯を賜り、親類を含む一族すべての者の身分を奴隷に落とし、その公爵家は潰された…



表向き…恐らくヴァレンシュタイン子爵家が関係しているのだろう。

それ以上詳しくは聞かなかった。


五年前の皇后陛下の事件は、衝撃的な事件でセドリックも覚えていた。


法治国家である帝国は、法の下にすべてを進めなければならない。

皇族が守らなければ、下のものも守らなくなってしまう。


だが、愛する妻、母が殺された事実は陛下やセリーナたちに暗い影を落とした。


ローゼンベルク公爵の諫言は頭では理解していたのだろう。

ただ、感情がついていかなかったのだ。




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