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処分〜モンタギュー商会
しおりを挟む「アーサン、明日から隣国への商船へ送る」
「なっ!!父さん!どういう事ですか!?」
学院を卒業したのに家から出され商船送りにされる…
それは後継として外されただけでなく、完全にモンタギュー家から勘当されるという事だ。
「…どういう事だと?お前は学院に入学する際に私が言った事を覚えていないのか?」
執務机に両肘をつき鋭い目で睨むと、アーサンは少し怯え、商会長である父から目をそらした。
「平民の分際で、ローゼンベルク公爵令嬢へ無礼を働くなど許される事ではない。そして、私はお前に言ったはずだ…ヴァレンシュタイン子爵家だけは敵に回すな、と」
「それは!それは、私がしたわけでは…アメリア嬢とダリウス様がやっただけで…」
アーサンは何度も言われていた事だった為に、だんだん声が小さくなってしまった。
マルガレーテへの無礼もダリウスがいたからこそ、誰も、それこそ、マルガレーテさえ無礼打ちを出来なかったのだ。
「商人は信頼と信用が命だ。高位貴族に無礼を働いた事はすでに噂されていて、うちの取引停止もいくつか出て来て損失はまだ増えるだろう。それなのに、原因であるお前を商会に置いておけるわけがないだろう!!!」
モンタギュー商会長は執務机をドンッと大きな音を鳴らしながら拳を叩きつけた。
アーサンはその音にビクッと体を震わせ、父親が言った現実に顔が真っ青になった。
まさか、自分の行動のせいで…そこまで、商会に影響が出るなど、アーサンの計算ではありえなかったのだ。
「そ、そんな…か、カスティエール公爵家に頼んでみてはいかがでしょう?今回の事だって、元はと言えばダリウス様がマルガレーテ嬢を蔑ろにしたのが始まりで…「黙れ!!」」
自分の非を認めず、言い訳や責任転嫁をするアーサンに更に腹が立ち、怒鳴り声で言葉を遮った。
「カスティエール小公爵様が例え、原因であろうと、それにお前は関係ない!!お前がカスティエール小公爵様とブライトン伯爵令嬢とともにローゼンベルク公爵令嬢へ濡れ衣を着せようと画策した事くらい、私が知らないとでも思っているのか!!!」
学院への入学が必須ではない平民であるアーサンの動向など慎重に動いていれば、例え、高位貴族であろうと完全には把握し切れないだろうと高を括っていたのだった。
「次期商会長の座は、お前の弟か妹に任せる。お前みたいな事をされては困るからな。今はどちらとは決めない。今日中に荷物はまとめておけ。自分の手元の物と多少の金は持たせるが、これ以降はお前はモンタギューの名は名乗らせん」
そう言うと、モンタギュー商会長は全身を椅子の背もたれに預け、少しだけ椅子を回転させると『出て行け』と言わんばかりに払うように手を振った。
平民でありながら、モンタギュー商会という大商会の跡取りとして育ったアーサンは、下手をしたら貧乏な貴族よりも裕福な生活を送っていた。
モンタギューの名を失った、ただの平民のアーサンになど何の価値もない。
自分の将来が完全に閉ざされた事を思い知るのは、そう遠い話ではなかった。
次の日の早朝、アーサンは持ち出す事を許された荷物二つと少し多めのお金を持たされ、いつもよりも粗末な馬車で隣国行きの港まで連れて行かれた。
それ以降、アーサンの行方は分かっていない。
航海中に海に落ちたとか、港町の粗暴な男たちに襲われたとか、見目は良かった為に男娼として売られたとか…
真実を知る者は誰一人いなかった。
⸺⸺⸺
「ヴァレンシュタイン女子爵閣下、この度は愚息が大変申し訳ございませんでした」
ヴァレンシュタイン子爵邸にモンタギュー商会長は改めてお詫びに訪問していた。
「もう、貴方に愚息はいないでしょう?」
鈴の音のような声で答えたのは、いつもとは違い黒髪で深いロイヤルブルーの瞳でこちらを微笑みながら見るセリーナだった。
「はい、ですが、あれが我が家の者であったのは事実です。誠に申し訳ございませんでした」
さすが、小さな商会を一代で大商会と呼べるまでに成長させた男である。
誠意を見せる場をちゃんと心得ているところが、さすがだとセドリックは感嘆した。
「ふふっ、さすがですわね。貴方はそんなに優秀なのに、なぜ、あれはあんなに愚かだったのか…不思議ですわね」
紅茶の入ったティーカップに口をつけ、セリーナはそう評価した。
「まぁ、いいでしょう。今回の事でモンタギュー商会は大きな代償を払いましたけれど、貴方の誠実さに免じて私が救済いたしましょう」
モンタギュー商会長への依頼はセリーナとセドリックの婚約発表パーティーで使うドレスと礼服の生地と宝飾品だった。
珍しい生地、宝石な為に手に入れるにも時間もお金もかかる。
しかし、その間にモンタギュー商会の評判も落ち着くであろう事が予想できた。
「あ、ありがとうございます!!ありがとうございます!!このご恩は決して忘れません」
商会の売上が半数に落ち込み、しばらくは保つだろうがそれでも従業員達に影響が出ないようにする事は難しい状態だった為に、モンタギュー商会長は涙ながらに深く頭を下げた。
(帝国の不要な物は取り除くが、その周囲には影響を出さない…これが、ヴァレンシュタイン子爵…いや、セリーナの力か)
セドリックはセリーナを眩しそうな瞳で見つめながら、口元を緩めた。
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