33 / 39
処分〜モンタギュー商会
しおりを挟む「アーサン、明日から隣国への商船へ送る」
「なっ!!父さん!どういう事ですか!?」
学院を卒業したのに家から出され商船送りにされる…
それは後継として外されただけでなく、完全にモンタギュー家から勘当されるという事だ。
「…どういう事だと?お前は学院に入学する際に私が言った事を覚えていないのか?」
執務机に両肘をつき鋭い目で睨むと、アーサンは少し怯え、商会長である父から目をそらした。
「平民の分際で、ローゼンベルク公爵令嬢へ無礼を働くなど許される事ではない。そして、私はお前に言ったはずだ…ヴァレンシュタイン子爵家だけは敵に回すな、と」
「それは!それは、私がしたわけでは…アメリア嬢とダリウス様がやっただけで…」
アーサンは何度も言われていた事だった為に、だんだん声が小さくなってしまった。
マルガレーテへの無礼もダリウスがいたからこそ、誰も、それこそ、マルガレーテさえ無礼打ちを出来なかったのだ。
「商人は信頼と信用が命だ。高位貴族に無礼を働いた事はすでに噂されていて、うちの取引停止もいくつか出て来て損失はまだ増えるだろう。それなのに、原因であるお前を商会に置いておけるわけがないだろう!!!」
モンタギュー商会長は執務机をドンッと大きな音を鳴らしながら拳を叩きつけた。
アーサンはその音にビクッと体を震わせ、父親が言った現実に顔が真っ青になった。
まさか、自分の行動のせいで…そこまで、商会に影響が出るなど、アーサンの計算ではありえなかったのだ。
「そ、そんな…か、カスティエール公爵家に頼んでみてはいかがでしょう?今回の事だって、元はと言えばダリウス様がマルガレーテ嬢を蔑ろにしたのが始まりで…「黙れ!!」」
自分の非を認めず、言い訳や責任転嫁をするアーサンに更に腹が立ち、怒鳴り声で言葉を遮った。
「カスティエール小公爵様が例え、原因であろうと、それにお前は関係ない!!お前がカスティエール小公爵様とブライトン伯爵令嬢とともにローゼンベルク公爵令嬢へ濡れ衣を着せようと画策した事くらい、私が知らないとでも思っているのか!!!」
学院への入学が必須ではない平民であるアーサンの動向など慎重に動いていれば、例え、高位貴族であろうと完全には把握し切れないだろうと高を括っていたのだった。
「次期商会長の座は、お前の弟か妹に任せる。お前みたいな事をされては困るからな。今はどちらとは決めない。今日中に荷物はまとめておけ。自分の手元の物と多少の金は持たせるが、これ以降はお前はモンタギューの名は名乗らせん」
そう言うと、モンタギュー商会長は全身を椅子の背もたれに預け、少しだけ椅子を回転させると『出て行け』と言わんばかりに払うように手を振った。
平民でありながら、モンタギュー商会という大商会の跡取りとして育ったアーサンは、下手をしたら貧乏な貴族よりも裕福な生活を送っていた。
モンタギューの名を失った、ただの平民のアーサンになど何の価値もない。
自分の将来が完全に閉ざされた事を思い知るのは、そう遠い話ではなかった。
次の日の早朝、アーサンは持ち出す事を許された荷物二つと少し多めのお金を持たされ、いつもよりも粗末な馬車で隣国行きの港まで連れて行かれた。
それ以降、アーサンの行方は分かっていない。
航海中に海に落ちたとか、港町の粗暴な男たちに襲われたとか、見目は良かった為に男娼として売られたとか…
真実を知る者は誰一人いなかった。
⸺⸺⸺
「ヴァレンシュタイン女子爵閣下、この度は愚息が大変申し訳ございませんでした」
ヴァレンシュタイン子爵邸にモンタギュー商会長は改めてお詫びに訪問していた。
「もう、貴方に愚息はいないでしょう?」
鈴の音のような声で答えたのは、いつもとは違い黒髪で深いロイヤルブルーの瞳でこちらを微笑みながら見るセリーナだった。
「はい、ですが、あれが我が家の者であったのは事実です。誠に申し訳ございませんでした」
さすが、小さな商会を一代で大商会と呼べるまでに成長させた男である。
誠意を見せる場をちゃんと心得ているところが、さすがだとセドリックは感嘆した。
「ふふっ、さすがですわね。貴方はそんなに優秀なのに、なぜ、あれはあんなに愚かだったのか…不思議ですわね」
紅茶の入ったティーカップに口をつけ、セリーナはそう評価した。
「まぁ、いいでしょう。今回の事でモンタギュー商会は大きな代償を払いましたけれど、貴方の誠実さに免じて私が救済いたしましょう」
モンタギュー商会長への依頼はセリーナとセドリックの婚約発表パーティーで使うドレスと礼服の生地と宝飾品だった。
珍しい生地、宝石な為に手に入れるにも時間もお金もかかる。
しかし、その間にモンタギュー商会の評判も落ち着くであろう事が予想できた。
「あ、ありがとうございます!!ありがとうございます!!このご恩は決して忘れません」
商会の売上が半数に落ち込み、しばらくは保つだろうがそれでも従業員達に影響が出ないようにする事は難しい状態だった為に、モンタギュー商会長は涙ながらに深く頭を下げた。
(帝国の不要な物は取り除くが、その周囲には影響を出さない…これが、ヴァレンシュタイン子爵…いや、セリーナの力か)
セドリックはセリーナを眩しそうな瞳で見つめながら、口元を緩めた。
238
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる