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ローゼンベルク公爵家①
しおりを挟む⸺⸺マルガレーテ・フォン・ローゼンベルク
彼女は名門ローゼンベルク公爵家の長女として生まれた。
ローゼンベルク公爵家は代々、忠誠は皇帝陛下へ捧げるが、皇帝派や貴族派などという派閥には入らず『帝国のため』という信念を掲げ、常に中立だった。
それが、派閥争いなど面倒事を避けたい家門が集まり、いつの間にか中立派という第三の派閥となっていた。
しかし、政治の舞台においては、どうしても数の力が不可欠であることは否めない。
法治国家である帝国において、やはり皇帝の言葉は絶対的な力を持つが、決して法や他者の意見を無視する存在ではない。
欲深い貴族たちが団結すると、政策が通らないこともあるため、中立派を少しでも皇帝派に近づけたいという思惑のもと、カスティエール公爵家の嫡男とマルガレーテの婚約が結ばれたのだ。
高位貴族の中でも尊い身分である公爵令嬢のため、第一皇子であるレイルの婚約者候補としても考えられたが、皇帝が他国から皇后を迎えたこともあり、本人の意思を尊重すると宣言をしたため、ダリウスとの婚約が決定された。
ある意味、それほど重要な婚約だったとも言えるだろう。
そんなマルガレーテは、まさに典型的な貴族令嬢らしいと言えた。
高位貴族として教育を受け、狭い箱庭の中で、蝶よ、花よと育てられた。
ダリウスと共に帝城に出入りし、皇子であるレイルとも交流ができる唯一の令嬢だったこともあり、周りからの羨望と嫉妬を一身に受けていた。
素直な性格ながらも、少し気が強い面も持つマルガレーテは、中立派筆頭として、他の貴族令嬢をまとめなければいけないというプライドもあり、許容範囲ではあるが少しだけ傲慢に成長した。
⸺⸺⸺
「初めまして、ローゼンベルク公爵令嬢」
その日、父であるローゼンベルク公爵に呼ばれ、執務室へ足を踏み入れると、そこにはソファーに並び座る令嬢とドラッケンベルグ小侯爵のセドリックがおり、向かい側のソファーにはローゼンベルク公爵が座っていた。
(ヴァレンシュタイン女子爵、いえ、第一皇女殿下…)
五年前に一つの公爵家が爵位を剥奪され、取り潰しとなったため、現存する公爵家は三家である。
他の公爵令嬢はマルガレーテよりも10歳近く年下なうえ、皇女は病弱のために表に姿を現さず、実質、帝国国内で最も身分が高い令嬢はマルガレーテだった。
それが、先日の断罪劇の際に突如、自分より身分の高い皇女が現れた。
どこか、心の中で軽んじていた部分があったのだろう。
身分は上でも、今まで社交を一切してこなかった皇女…
貴族をまとめるのは無理だろうと判断していたが、あの時の威圧感、その場の空気をすべて自分の思い通りに変えたセリーナを見て言葉を失った。
これが、本当に支配する側の人なのだと。
『決して、逆らってはいけない人なのだ』
その時はそう感じたが、時が経つほどに、その意識は薄れていた。
「…お父様、お呼びとのことで参りました」
「あぁ、今日は先日の話でヴァレンシュタイン子爵とドラッケンベルグ小侯爵がいらしたんだ」
「さようですか。ごきげんよう、ヴァレンシュタイン女子爵閣下、ドラッケンベルグ小侯爵様」
マルガレーテは堂々と完璧なカーテシーを披露し、挨拶の言葉を述べた。
「ごきげんよう、ローゼンベルク公爵令嬢」
セリーナは胸元に美しい扇子を広げて挨拶を返し、セドリックも軽く、頭を下げた。
挨拶が済むと、父が「ここに座りなさい」と促し、ソファーの父の隣に座った。
「さっそくですが、処罰がほとんど終わったので報告しますわね」
そして、カスティエール公爵家、ブライトン伯爵家の処分内容を話した。
「モンタギュー商会のアーサンさんのことは商会長にお任せしたところ、家を放逐し隣国への商船の一乗組員にしたそうですわ」
その報告にマルガレーテは目を細め、少し眉間にシワを寄せた。
「発言してもよろしいでしょうか?」
「あら、何かしら?」
「なぜ、アーサンさんだけ商会長に任せたのでしょう?」
「処分内容にご不満?」
「…平民の彼が高位貴族で公爵令嬢の私にしたことは死罪でもおかしくないはずです。それを父親である商会長に「マルガレーテ!!」」
マルガレーテは平民のアーサンがダリウスの意を借り、自分に対して無礼を働くことに内心、ずっと不満だった。
レイルたちがたまに嗜めてくれたし、マルガレーテ自身も注意したが、ダリウスの手前、強く言うことができず、ずっと胸の中で燻っていたため、処分内容への不満が漏れてしまった。
ローゼンベルク公爵が途中で遮ったが、それは十分、セリーナとセドリックには伝わった。
「…そうですわね、確かに平民の彼が貴女にした言動は無礼極まりないことですわ。ただ、こちら側の事情を申せば、モンタギュー商会は帝国を代表するほどの大商会ですわ。彼を処刑するのは簡単ですが、それによって商会が帝国から出てしまったり、傾いて多くの従業員が解雇されたりなどの影響が出ると困りますの」
「それならば、少しだけ商会長へ恩を売り、帝国へ縛りつけた方がいい…商会長は小さな商会をあそこまで大きくした手腕を持つ商人だ。いくら息子とは言え、軽い処分では済まさないだろう。そういうことですね?」
セリーナの説明の続きをローゼンベルク公爵が話し、目で合っているか?と確認をすると微笑みながら頷いた。
同時に公爵は心の中でマルガレーテへがっかりしていた。
少し考えれば予想がついた話だ。
それを感情に振り回され、正確に判断が出来ない…
表情には出していないが、公爵がマルガレーテに失望したことは、セリーナにはバレているだろうと言うことも理解していた。
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