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ローゼンベルク公爵家③
しおりを挟む「ど、どうしてって、私は…公爵令嬢だから…」
ロイヤルブルーの瞳を見ていると、何だか恐怖と共に答えなくてはならない、という気分になってくる。
しどろもどろに答えようとすると、父が深くため息を吐いた音が隣から聞こえた。
「それが傲慢だと言っているのだよ。格下の他家に、お前ができる罰と言えば、せいぜいお茶会に招待しない、名を呼ぶ許可を出さない、後は相手にしないくらいだ。だが、お前はわざわざ相手の土俵に立ち、嫌がらせをしたり、相手に身分を振りかざし脅しをかけたり…」
そう言うと、また溜め息をつきながら「話にならない」と言い捨てた。
「そう、公爵なのは『貴女のお父様』であり、他家に圧力をかける権限は『貴女にはございません』わ」
公爵の言葉の続きをセリーナが話した。
「貴女はプライドが高く、そのプライドを傷つけられたと感じると感情に振り回されて人前だろうと、愚かな言動を抑えることができません」
セリーナは入れ直してもらった紅茶の入ったティーカップを優雅に持ち、口をつけながら釣書の人選について話し始めた。
「今回の醜聞のせいで、帝国内では高位貴族との縁談は難しいので、他国の者を探しましたけれど、貴女のその短慮さのせいで帝国の名を汚しかねませんわ。ですが、あまりにも下位すぎるのもローゼンベルク公爵家の名に傷がつきます。その妥協点が伯爵位でしたの」
「本来でしたら、王族や高位貴族に嫁いでいただいて、その国内の情勢や社交界を牛耳って欲しかったのですが」と、にっこりと笑みを浮かべ、マルガレーテに視線を向けた。
今日、ローゼンベルク公爵家に訪問する前までセリーナは、どうにかしてマルガレーテの傲慢さやプライドの高さをへし折れないかと考えてもいた。
しかし、アーサンの処分への不満を漏らした瞬間、セリーナの中で『帝国貴族の適正なし』と判断を下した。
ここまで酷いと、恐らく今から矯正したとしても無理だろう。
できたとしても、数年がかりになるだろう。
年齢的に今が適齢期ギリギリである。
それならば、伯爵位でもいいからマルガレーテを管理できる他国に嫁がせて、何かしら帝国にとってメリットのある契約をした方がいい。
恐らく、ローゼンベルク公爵もマルガレーテに失望した目を向けたことから、セリーナの意図も察したであろうし、信頼を失ったことで娘を他国へ出すのも躊躇していることが見える。
修道院に送りたいのだろうが、世間ではマルガレーテは被害者なのだ。
それを修道院送りにしては体裁が悪すぎる。
だから、セリーナの案が一番ちょうどいい。
(これで、ローゼンベルク公爵に貸しを作れた)
そう思うと口元がにやけたが、ティーカップでバレないように隠す。
ただ、セドリックにはばっちり見られていた。
今回、ローゼンベルク公爵家に勅令は出さなかった。
出さずとも公爵はあの釣書の中から、ローゼンベルク家と帝国に有益な家を選ぶだろう。
「では、ローゼンベルク公爵。私たちはこれで失礼しますわ。そちらの釣書はよくご検討下さいな」
そう言うと、セドリックと立ち上がりカーテシーを披露した。
「えぇ、お気遣いいただき感謝いたします」
公爵は感謝の言葉を述べると、バウ・アンド・スクレイプを返した。
マルガレーテは呆然としたまま、ソファーに座り込んでおり、セリーナたちが立ち上がっていることも見えていないだろう。
セリーナとセドリックが帰ったあと、公爵とマルガレーテの間で話し合いがあったのかは分からない。
しかし、この日から半年もしないうちにマルガレーテは隣国のとある伯爵家へ嫁いで行った。
公爵家の事業に必要な資源を持つ家門だったため、それを優先的に融通してもらえることで、ローゼンベルク公爵家は飛躍的に収益を上げることができた。
その後のマルガレーテは子が二人でき、特に社交界などで目立ったことはしなかったようだが、それでも公爵令嬢として教育されたことを生かし、格下の他国で伯爵夫人となったことで侮られることはなかったらしい。
ただ、マルガレーテが何を思い、どんな生涯だったのか…
それだけは、誰にも分からない。
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