幻影戦妃 alpha ver. draft

短文ちゃん

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* ◆ ◆ ◆


 ホレホレ、必殺マサカドのクビヅカだぞォー、ほーれほーれ。

 『チッ……下らねェ』
 【さてと、さっさと行こーぜ。外野がうるせーし】
 『が、外野ですか? 良く分かりませんが分かりました』
 【これ以上細切れにされたら——】
 『オイ待て……まあ良い、これでもう転生はねェぞ』
 『ハイ、行きますよー』

 バタン。

 ……アレ?
 何か急に真っ暗になっちまったぞ。
 またさっきの状態に逆戻りだってか。

 「く、暗いの怖いですぅ」
 「おろ? 直接しゃべれる?」
 「え? 今の声は……?」
 「おう、アンタが今大事に抱えてる生首だぜ」
 「ひえぇ」
 「何かキャラ変わってねーか?」
 「そりゃ変わりもするでしょう!」

 何でだ? さっきあの音が聞こえたが……何がきっかけか分からねえ。
 まあ今に始まったことじゃねーけど。
 まあ良いか。

 「ここは小屋ん中だよな、誰がドアを閉めたかは知らんけど」
 「ええ、その筈ですが……というかその声、還暦のおじさんとは思えないんですが」
 「おう、そうだぜ……ってまたかよ……
 自分の声でしゃべってる様にしか聞こえねーんだけどなあ」
 「えぇと……凄いかすれただみ声というか……壊れたスピーカーみたいな感じですよ」
 「おっと、新しいパターン……つーか生首な時点でお察しだってか」
 「ちなみにご自分でも今は首だけの状態な感じなんでしょうか?」
 「うーん、言われてみりゃそーだな。首から下がある感じはしねーんだよな」
 「ほら、腕が無くなった人なんかだと幻肢痛とかあるじゃないですか。そういうのはどうですか?」
 「いや、首だけの状態でそんなもんがあったらやってられんだろーに」
 「まあ確かに」

 しかし首チョンパの状態がそのまんま続いてて周りは真っ暗、それでいてお隣さんらしい人とはフツーにしゃべれるよーになった。
 まあ良いかとは思ったがやっぱ気になるぜ。
 こりゃ一体どーゆー状態だ?
 それに真っ暗だがここは確かにあの掘っ立て小屋ん中だ。
 真っ暗って状況がさっきここを通った時と同じなんだよな。
 コイツはやっぱし似て非なる場所って奴なのか?
 いや、そもそも今は横倒しの状態じゃねーよな。
 こっから落っこちた先で引っ掛かったのが今の俺自身……ん?
 そーいやあの声だけ聞こえてた奴、“その変な口調は何だ”、“元の方が変だけど”とか言ってたな。
 変な口調って話からすっと、元の方ってなのあのナントカなのじゃーとか言ってたアレなんじゃねーか?
 イヤでも横倒しじゃねーし……ってこれじゃドードー巡りだぜ。
 まあまずは詰所側に出てみたら何か分かるかもしれねーな。

 「うヒひ……そ、そノ……それ……何かなァ……」

 へ? 誰だ? つーか明らかに正気じゃねーな!

 「うひっ」
 「きゃっ」

 ゴスッ!

 どわ!?

 ドン、ゴロゴロ……

 えーと……何かにぶつかってセンセーさん、じゃなかった……いやもうセンセーさんでいーや、そのセンセーさんが俺を取り落として今床を転がってるとこなんだぜ!

 「ひ、必殺ハリセンチョップぅ!」
 「ホぇー?」

 何かブンブン振り回してる音がすっけどいっこも当たってねえな!
 つーかやっぱコノ人キャラ変わってね?
 それか超常現象の連続でくるくるぱー()になっちゃったかな?

 「うっぴっぴィー」

 くっ……面白……じゃなかった——

 ゴスッ!

 「あひー!」
 「ドこかナー」

 えー、今はセンセーさんがどっかに手をしこたまぶつけて悶絶してるとこだな!

 くっ……やっぱ面白やベェぞコノヤロー。


* ◇ ◇ ◇


 「ハリハリハリセン——」
 「ハリセンがスゲーのは分かったから落ち着けって」
 「やだぁーこっちこないでぇー」

 あーもーダメだなこりゃ。キョーフ心が限界突破しちまったか?

 「あー、あッたアったァ」

 げっ、見つかっちまったか?
 コレ持ち上げられてるよな。
 ……っておろ?
 コイツってさっきのヤツだよな? 何でだ?
 意味分かんねーぞ?
 カタコトっつってもガイジンとかそっち方面じゃねーとは思ったが……

 「こレおいしイんだヨねー!」

 えっコレ食べられちまう流れなのかよ!
 つーか何に見えてんだ俺。

 「ちょ、待てよ、俺なんか食っても美味くねーぞ」
 「うへぇ、いただキまァす」

 聞いてねーし。そしてうへぇって昭和か!

 「オイ、毒入りだそオラァ……オイ、待てってば」

 バリバリボリボリ……

 うぇぇ……ちょっと待て、これハッ!? とかいって夢だったってパターンたよな!?
 だって俺ってば今、首だけなんだぜ!?

 「オ、オイ待てって……」
 「うまウま、むフー」

 あ、ダメだこりゃ。
 こうなりゃセンセーさんに正気に戻ってもらうしかねーぞ。

 「オーイ、コイツってさ、多分アンタの妹サンなんじゃねーかって思うんだけどよ……」

 コレでワンチャン……

 「うっぴっぴィ」
 「あああ小指の骨が折れたあぁぁぁ」
 「オイ、ソイツが狙ってんのはアンタじゃねーからダイジョブだって」

 うーむ、やっぱダメだわこりゃ。
 偶然誰かが入って来たり、は……しねーよな。
 じゃあどーやって逃げるか……

 バリバリボリボリ……

 「むフー?」

 なーんて考えてるヒマなんてねーぞってかオイ……
 マサカドみてーに飛んで帰りてーぜ。
 口からビーム出せるアレの方がえーかな。

 じゃなくてぇ!
 今に始まったことじゃねーけど一体いってー何がどーなってんだか。
 こうなったらスイ——

 ガチャ。

 『! 先客だ?
 お前たちはそこでそのまま待機だ。』

 な、何だ急に明るく……って人影!? 今入って来た方のドアだぞ?

 「す、すみません、あの——」
 『ム……混沌の使徒だと!?』
 「あ、おネぇチャ——」
 「待って……」

 何だこの臭そーなえせ中世ヨロイオヤジは。
 ってオイ、ちゅーちょナシかよ!

 「オイ待て!」

 ザシュッ!

 「ギャアーーーーッ!!」
 「きゃーっ!?」

 コイツ見るなり問答無用で袈裟斬けさぎりにして来やがった!
 落武者みてーなカッコしくさって何なんだコイツは!
 クソ……俺もセンセーさんも返り血で頭から真っ赤に汚れちまったぞ……
 それに今ので俺は助かったが……さっきのいちかばちかが裏目に出ちまったか……
 センセーさん、下手すっと再起不能だぞ。

 「あ、ああ……何てこと……」
 『これは……!』
 「……ッ!」
 『にがさん!』
 「あぁッ」

 ヒュッ……ドン、ゴロゴロ……
 
 『この有様は一体何だ!
 この領域には何人なにびとも立ち入らせるなと申した筈だ!』
 「オイ待て、見るなり一体何だはねーだろ!
 そりゃコッチのセリフだっつーの!
 オイ、聞いてんのかよゴラァ!」

 いくら何でも展開が早過ぎんぞ、オイ!
 つーか俺の声が聞こえてねーのか、コイツは。
 いくら呼び掛けてもイチベツする素振そぶりすらねぇんじゃ話にもなんねーぞ。

 「オイ、しっかりし……」

 ……声を掛けても無駄か。
 センセーさんも首チョンパされて床に転がってる……

 そーだ、さっき目の前で目付きの怪しい女——さっきまで俺を抱えてかじりついてたヤツ——が、まず一刀両断よろしく袈裟斬けさぎりにされた。
 ソイツは断末魔の叫び声を上げながら赤い血を吹き出し、もんどり打って倒れた。
 その後は二、三回けいれんした様にビクビクと動いたがそれっきりだ。
 そしてその野蛮人はセンセーさんにも襲い掛かり……ひと振りで首をねた。

 だが、センセーさんの方は血の一滴も出てねえぞ……?
 イヤ、考えてみりゃ今の俺自身だってそーだぞ?
 コイツは何だ……?
 今のこの状態は一体いってえ何なんだ?
 センセーさんもだ。
 センセーさんもピクリとも動かねえが……俺と同じならあるいはな……

 『急ぎ帝都へとおもむき、かの噴水広場をあらためるのだ。
 地下墳墓にまで奴らの手が及んでいるやもしれぬ。
 何? ああ、ヒクイドリだ。順番を間違えるなよ』

 何だ、表にいる手下にでも指示してんのか。
 ……ヒクイドリ? 噴水広場?
 てことは帝都ってのはあの廃墟の町のことか……?

 だがそれが分かったところで何も出来ねーじゃねーか。
 首だけで誰からも認識されてねえこの状況で何ができるっつーんだ、クソォ……

 『何なのだ、これは……』

 知るかアホカスボゲェ!


* ◇ ◇ ◇


 『おい、そこの! 観測班を呼べ! 奴らの——』 

 バタン。

 『ほら、お前だぞ』
 『エ……エッ!? 俺っすかあー?』
 『ぼさっとすんな、さっさと行って来い』

 ありゃ、出てっちまったぜ。
 何かワーワー騒いでっけどお片付けとかせんでもえーんかのう。

 「す、すみません、あのぉ……」
 「のわぁ!?」
 「あ、すみません」
 「ふう、口から心臓が飛び出るかと思ったぜぃ」
 「えぇと、あるんですかね?」
 「さあなあ? “何なのだ、これは……”、なんちてなんちてぇー」
 「イヤ、マジメにお願いしますよ?」
 「てゆーか血の一滴も出ねーと思ったらやっぱピンピンしてたか」
 「いえ、ピンピンはしてませんからね?」
 「してんじゃんか」
 「まあ、自分も必殺マサカドなんたらをやるとは思ってもみませんでしたが」
 「順応はえーなオイ」
 「いえ、別に順応はしていませんが」
 「んでどーするよ、この状況」
 「どうする、と言われましてもさすがにホントにマサカドするのは無理ですよ」
 「分かっとるわんなコト」

 しかし真っ暗な部屋に生首二つに首無し死体に血まみれの死体だろ、ヤベーな。
 完全に犯罪の現場じゃねーか。
 そんな状況でイキナリこのやり取りが出来るとか、やっぱ馴染んどるな!

 「あの、今斬られた人なんですが」
 「ああ、さっきのは当てずっぽうだったんだが」
 「いえ、あれは確かに私の妹でした。でもどうして元の姿でいたのか……」
 「言動もかなりアレっつーか子供感マシマシって感じだったしな。
 それに俺が出くわした場所はマシン室だったからな、それを考えても同じ奴とは考えにくいな」
 「あなたが見たその肉塊……というのが別人だったという可能性もありますね。
 とにかく今ここで殺されたのは私の妹で間違いありません。
 実際見てしまいましたからね」
 「そうか……だがな、下手人のヤローの姿を見ただろ。
 アレはどー考えても日本人じゃねーよな。
 言動もマジメそのものだったしコスプレって訳でもねーし」
 「ですが言葉は日本語でしたね?」
 「ん? 言われてみりゃそーだな。どーゆー奴らなんだか」
 「どう言う訳か彼らにはあなただけが見えていない様でしたね。それをどうにか利用出来ないでしょうか」
 「その前にまず奴らを利用してどーすんのかを決めねーとだろ。
 言っとくがフツーに考えたらこの状況は詰みなんだからな。
 俺たちは今自分じゃ動けねーどころか視点を変えることすら出来ねーんだぞ」
 「そうですね……私たち、これからどうなっちゃうんでしょうか……」
 「今さらソレかよ……やっぱアンタどっかズレてんな」
 「でも私はあなたと違って彼らの目に映っているんですよ?
 あなたは声すら聞こえないといった風でしたが」
 「うーん……さっきみてーに俺を抱えてもらったら解決できたかもしれねーが」
 「結局彼らが粗大ゴミとして処分しないことを祈るしかないのでしょうか」
 「まあなあ。それに自分でどうにか動けたとして、それに気付いた奴らが何をして来るか分からんしな」

 最悪、俺だけ取り残されて永久に放置なんてことにもなりかねねーのか。
 それに今元に戻ったらどーなるんだ?
 首チョンパのまんまだったらとんだスプラッタショーじゃねーか。

 とりまセンセーさんは元の場所に戻るってのが目下の目標だよな。

 「なんつーかさ、その……首から下はそこに転がってんだしさ、リモート操作とかできねーの?」
 「出来る訳ないじゃないですか、ロボットじゃあるまいし。
 あなたこそ出来るんじゃないんですか?
 扉を隔てた向こう側に……いえ、それは無理でしたね」
 「いや、断面を見たカンジじゃ思いっきり機械だったけど?」
 「え?」
 「あ、ちなみに俺もか。今のハナシっぷりだと特に考えてなかった感じだな。
 ナマ首でさすがにこの状況はねーだろ」
 「どういう状況なのか、ますます分からなくなって来ましたね……」

 話は分かるんだが……取り敢えずやってみようとかそーゆーことは思わねーんかのう。

 ズズズ……

 「ん?」
 『お、オ……ェ……ちゃ……ン……』

 ズルッ……ズルッ……

 「お、オイ、コイツは……」


* ◇ ◇ ◇


 コレ、何やら重厚そーな音から察するにマシン室で出くわしたアレにちけーんじゃねーか?

 「オイ、コイツは何かさっきと違うぞ」
 「何ですか、この引きずる様な音は」

 うーむ……我ながら落ち着いとるな……
 まあどーせ動けんしなー。

 真っ暗だから分からんけど実はもう別な場所に運ばれてたりしてな。

 『お、お、お……』
 「おっとっと?」
 「違うでしょう!」
 『ち、ち、ち……』
 「ち○……」
 『良い加減にしてください』
 「いやースマンスマン、緊張感が足りんかったわー。
 自分らが今首だけなのフツーに忘れてたぜ」
 「私今何も言ってなかったですよ!?」
 「え?」
 『え?』
 
 えーと……今ここに何人いるんだコレ。

 「うーむ……コイツは三人だけいるエレベーターの中ですかしっ屁の犯人を特定するよりもムズい作業だぜぃ!」
 「一体何の話ですか!?」
 『何何? どこなのここ! 何で真っ暗なワケェ!?』
 「誰だ!?」
 「誰」
 『まわりには……何も無い……おっととと……す、すみませぇん……って壁かい!』
 「あー、こりゃおなじみのパターンか」
 「あちら側、ですか」
 『ん? 今何か聞こえた様な……』
 「おろ? あっそーか。アンタの方は見えてるかもな。
 さっきのオッサンと一緒ならな」
 「あー、じゃあ私ならコミュニケーションが取れるかもしれないですね」
 『やっぱ何か聞こえる、怖っ!』

 何かコイツスゲー怖がりじゃね?
 うーむ、ヤな予感……
 ……じゃなくてえ! コイツどっから湧いて来たんだ?

 「やっほー、こんにちはー、こっちだよこっちー」
 『えっ!? どこ!?』

 「何だよその急激なキャラ変」
 「えー、良いじゃんかー」
 「まあヤメロとは言わんけどな」
 「じゃあ黙って見といて」
 「わーったよ、見えねーけど!」

 ムリして若作りしてもボロが出るだけなんじゃね?

 『ねえ、どこにいるの?』
 「こっちこっち、こっちだよー」
 『え、見えないけどこの辺でしょ……あっ』
 「ぷご」
 
 おっと、見事にステーンと行ったぞ。
 こりゃ思いっきり踏んづけたな!

 『あ痛たたたぁ……』
 「何すんのよぉ」
 『あ? え?』
 「何よお……」
 『きゃあああああああああ生首いいいいいいいい』
 「ちょ、ちょっと危ないわよぉ!?」

 ドタドタドタドタドタ……バンッ!

 『きゅう』

 ドン!

 「あ痛っ」

 ゴロゴロゴロ……

 「あー、私の胴体ぃぃぃ……」

 あ、ドアが開いたぞ。
 そしてセンセーさんがゴロゴロと転がって外に出て行っちまったぜ……

 『う、うーん……あ痛たたたた……はっ!?』

 あ、再起動した。

 『ぎゃあぁぁぁ首無し死体ぃぃぃ!』

 バタン。

 『きゅう』

 ……忙しい奴だな。
 マンガみてーに直立不動のまま器用にひっくり返ったぞ。
 んでやっぱコイツはセンセーさんの妹さんじゃねーな。
 見た目が別人だもんな。
 つーかだ。
 その妹さんの斬殺死体が消えてるんだけど一体いってー何があった?
 暗くて分からんかったけど……ってアレ?

 よく見たらここ、定食屋じゃね?
 イヤ、定食屋に似てるけど世界観はエセ中世だな。
 つーことはさっきのコスプレヤローとの矛盾はねーのか。
 そこでひっくり返ってるねーちゃんは例外だけど。

 ん?
 誰か来た?

 『まいどー、観測班でーす』
 『あらー、こりゃ事件ですなー』
 『クッソ誰だよ、オレのシマ荒らしやがって』
 『見かけねー女だな。コイツが下手人か?』
 『うーん……げっ、何この状況……って首無し死体は!?』
 『あー、コレのこと?』
 『ぎゃあああああ』
 『うるせえ、静かにしろや』
 『お助けええええええ』
 『だからうるせーっちゅーに』
 『コイツどーします?』
 『取り敢えずふん縛ってクスリでも嗅がしとけ』
 『えぇ……訳分かんない……』
 『スマンね、これも仕事なんだわ』
 『おウチ帰りたい……』

 コイツらいつもそんなモン持ち歩いとるんかい。
 ぜってーカタギじゃねーだろ、コレ。

 『ところでこの人形、首はどこにあるんすかね』
 『首? そこにあんだろ』

 ん? こっちを指差した?
 もしかして俺が見えてる?
 ……アレ?
 あのボコボコの鎧……あん時の定食屋……?

 『ソコってドコっすか?』
 『ソコってソコしがねーだろ』
 『はあ?』
 「オイ定食屋、俺が見えてんのかよ」
 『あ? 何でソレを』
 「俺俺、俺だってホラ」
 『あん? そのオレオレ詐欺みてーな物言い……もしかしてあのおっさんか?』
 「そうそう、だからさ——」
 『メッチャ怪しいなオイ』
 「イヤ、話せば長くなるんだけどよ」
 『何か隊長が部屋の隅っこに向かってブツブツ言い始めたぞ』
 『最近ストレス溜まってたみてーっすからねー』
 『オメーら、うるせーぞ』
 『隊長、悩みがあるんなら俺ら相談に乗るっすよ?』
 『隊長はひとりじゃねーんだぜ』
 『いー話だなー』
 『うるせえ! 俺で遊ぶな!』
 「だー、何でも良いから取り敢えずカツ丼食わせろや!」
 『うるせえ!』

 えー、俺も相談に乗って欲しーんですけどー。
 あ、どっかに息子はいるんかね。

 『カツ丼食わしてやるから尋問させろ』
 「刑事さんみてーなコト言い始めた!?」
 『隊長、さっきから誰とお話してるんすかね?』
 『ホラ、イマジナリーフレンドって奴だろ』
 『隊長……可哀想に……』
 『うるせえ!』

 難易度高けーなオイ!


* ◇ ◇ ◇


 『オメーら、おふざけはしめぇだ』
 『ふざけてんのは隊長の方なのでは?』
 『うるせえ! 良いから俺の言うことを黙って聞け!』
 『仕方ないっすねー。
 最近ウチの職場って何か離職率が高いと思ってたんすけど隊長にまで辞められたらこっちも体が持たないっすからねー』
 『ぐぬぬ……』

 コイツも苦労してやがんなあ。
 でも何でもかんでもハイハイ言うけど言われたことしか出来ねー様な奴なんかよりよっぽど良いんだぜ。
 まあ俺もちっと黙って見ててやるとすっか。
 部下の生暖けぇ視線ほどこっ恥ずかしいモンはねーだろーしな!

 『まずは今お縄にしたヤツからだ』
 『う、うーん……はっ? え? 何コレ!?』
 『いかん、目を覚ましたぞ!』
 『な、何? あんたら! 私をどうしようってゆーの?』
 『不審者を見つけたら拘束すんのは当たりめーだろーが』
 『そこの首無し死体もあんたらのしわざなんでしょ、この人殺し!』
 『ちげーわ! 逆にオメーは何なんだよ』
 『はぁ? 不審者はあんたらでしょ!』

 あー、さらに難易度アップしちまったかー。

 『助けてー、誰かぁー、こいつらヘンタイでーす』

 出た! 必殺ヘンタイ呼ばわり!
 ソコはなぜか共通!

 『だー、面倒臭え! うりゃ!』

 ゴスッ!

 『あぅ』

 ドサッ。

 『ったく、手を焼かせやがって』

 オイオイ、持ってたゴツイ剣のつかでぶん殴ったぞ?
 まあ大分手慣れた感じだったし大丈夫ではあるんだろーけど。
 
 俺もせいぜい蹴っ飛ばされねー様にしねーとな!

 『隊長、暴力はマズイっすよ』
 『そうですぜ。今の俺ら、チンピラ感パネェって』
 『良いからさっさと行くぞ、コイツを担いでけ。
 オメーはその首無し人形の方だ』
 『へ? コレ人形なんすか?』
 『見たら分かんだろ。それで良く観測班なんてやってられんな』
 『そ、そうなんすか……うーむ……リアル過ぎるでござる……』
 『オイオイ、妙な気を起こすんじゃねーぞ?』
 『やだなあ、欲求不満は隊長だけで十分っすからねー』
 『ゴタクは良いからさっさと行け!』
 『ハイハイ』
 『返事は——』
 『いちどいちどー!』

 妙な気って……どんなキなのかキになるんですけどー(棒)。
 ってふん縛った子とセンセーさんの胴体が運び出されて行ったぜ。
 コレ出口の横辺りで『あー私の胴体ィ』とかわめいてそーだな。

 『ったく……やっと行きやがったか。世話の焼ける奴らだぜ』

 それにしてもさっきから言ってる観測班て何だべ?
 例の“観測所”絡み……じゃねーよな。
 世界観()が違うし。
 なーんつって試しにやってみたら出来たりして。
 うし。
 定食屋(仮)しか残ってねーしいっちょやってみっか。

 せーの!

 「タァミナァル……オゥプンヌッ!!」
 『……?』
 「……アレ?」
 『アレ? じゃーねーよ、ビックリしたじゃねーか!』
 「いやースマンね……おっ!? ホントに出たぁ!?」
 『何が出たっつーんだよ。生首だけで腹一杯だっつーの』
 「いや、コレだよコレ! 俺は見えてんのにコレは見えねーの?」
 『分からんわ! コレってドレだよ! 指差せ!』
 「ねーよ、んなモン! 今気付いたけどやっぱ詰んでるじゃねーか!」
 『何が詰んでんだよこの生首ヤローめ!』
 「だー、面倒臭え!」
 『マネすんな!』
 「してねーよ!」
 『わーったからえー加減会話させろや!』
 「チキショー、しょーがねーなコノヤロー!」

 そーなんだよなー。
 今気付いたけどコレ、キーボードインターフェースしかねーから出てもコマンド叩けねーんだよな。
 コンチキショーめ。

 だけど何でコレが出来るんだ?
 うーむ……分からん!

 『聞いてんのかよ、おっさん!』

 ん? 今おっさんて言った?


* ◇ ◇ ◇


 『オイおっさん! おっさんおっさん!』
 「うるせえな、何だよ」
 『おー、やっぱおっさんか』
 「つーか何がどーなってこーなった?」
 『そりゃこっちが聞きてーよ! 首だけとか意味分かんねーぞ』
 「それよか見えねーか? コレ」
 『いや、だから分からんて』
 「うーむ……やっぱダメかあ」
 『今に始まったことじゃねーが説明無しに色々しゃべり始めんのはどーかと思うぜ』

 仕方ねえ、コイツはお預けだぜ。
 しかしこのダム端モドキっつーかエミュってことになんのか……とにかくソイツが出て来てんのはなあ……
 だーっ、分かっちゃいるが歯がゆ過ぎんぜ。

 「あー、分かった。分かったよ。かくかくしかじか(中略)……」
 『な、何だってぇー(棒)』
 「何だよその反応はよ」
 『イヤだって結局なんも説明してねーだろ!』
 「仕方ねーだろ、面倒臭えんだよ、色々とよ」
 『それじゃ俺が説明しづれーじゃねーか』
 「まあこっちは大方の予想はついてんだけどな。
 何でかって、たぶん俺今から三年くれー未来のオメーに会ったことがあるんだよ」
 『はあ? 三年後? ……って生首がしゃべってる時点でどうツッ込めば良いか分からん訳だけど!
 しかもおっさんの生首じゃなくて何で中庭の像なんだよ』
 「中庭の……? ちなみにその像は今どーなってる?」
 『とっくの昔に鋳潰されて剣やら槍になってるぜ』
 「ああ、非常時なんだっけか」
 『そうそう……ってその三年後ってのがすげー気になるんだけど』
 「まあ、先の話は気になるよな」
 『やけにこっちの事情に詳しそーなのは分かるけどよ、未来から来ただなんてホントにあんのか?』
 「未来から来たのかは分からんな。俺にとっちゃどっちも“今”って感覚しかねーからな」
 『えーと……つまり?』
 「今いるここが何なのかって話だな」
 『うむ、サッパリ分からん!』
 「分かんねーときは取り敢えず受け入れて後で考えんのが王道だぜ」
 『分からんけど取り敢えず分かったぜ!』

 やっぱちょれーわコイツ。
 まあ本心じゃねーんだろーけどな。

 「しかしオメーも容赦ねーな、さっきのアレ」
 『そりゃあ今は戦時中だからな。しかも相手は正体不明のエイリアンときた』
 「エイリアンだあ? ああ、そういや宇宙人が攻めて来た的なことをほざいてたっけかな」
 『おう、訳の分からんカッコしてっけど何かスゲー未来兵器みてーなので武装しててよ』

 あー、やっぱコイツはあん時の定食屋に違えねえ。
 つーか息子家族やお隣さんたちももどっかにいるんかね……あ、オタとかアホ毛も忘れてねーぞ、一応!
 ……つーかそもそもどっかに行っちまったのは俺の方だよな、この場合。

 まあ良い、切り替えてくか。

 「訳の分からんカッコってのはもしかして宇宙服みてーな感じのヤツか?」
 『おー。そーだぜ、よく知ってんな。まあ連中の弱点つったらそこぐれーだからな』
 「だけどさっきここに来てた奴は人間にしか見えねー奴を一刀両断にしてたぞ?」
 『ん? あの人形のことか? まあありゃ見る奴が見りゃあ奴らが作ったカラクリだってコトはすぐに看破出来るらしーからな。
 騎士団とかのレベルなら楽勝だろーな。
 どーやってんのかは知らねーけど』
 「ナルホド、容赦ねーのは単に正体不明の奴が転がってたからか」
 『んにゃ、単に不審者が不審な行動を取ったからってだけの理由だぜ。
 こー見えて俺も訓練されてんだぜ、結構よォ』
 「ナルホドな、エセ中世様々だぜ」
 『……?』

 多分だけど赤いドレスの女だとか何かが空を横切ったとか、しゃべるガイコツが出たとか、あそこら辺で出くわしたあの定食屋……どーやらその過去の姿がコイツってコトなんだな?
 んで、あんときの定食屋といやあ……

 「そーだ……双眼鏡は持ってねーのか?」

 一発目に双眼鏡を出してそれで俺を視認してたんだよな。
 アレは三年前に塔のてっぺんとやらで手に入れた、確かそんな話だったが……

 『双眼鏡? アレか? 確かウチの押し入れにしまってあった筈だけど』
 「以前会ったオメーは持ってたけどな。
 確か塔のてっぺんで見付けたとか何とか……」
 『塔のてっぺん? 確かにここはてっぺん近くの階だけど。
 いやそれより以前会ったって話なら、ここで伝えちまったらカンニングになるんじゃねーのか?』
 「そう言われてもなあ……そーなのか? いや、大丈夫だよな……?」
 『何か自信無さそーなのがメッチャ気になるんだけど!』
 「多分今しゃべってんのはモノホンの俺らじゃねぇと踏んでるんだがな、ここまで関わっちまうともしかすっとだなぁ……」
 『うーん、やっぱ分かんね』
 「うーむ……だろーな」

 これが過去の記録じゃなくて、誰かが過去の記録をもとに再現した現実だって可能性はねーのか……?

 なら、それを俺が変えちまったらどーなる?

 『ま、まあ苦節五年、ようやく俺にもチャンスが来たかって……んな話しても分かんねーか』

 苦節五年か……まあなるよーになると考えるしかねーか。

 「……知らんけど、地方勤務から本社勤務になったみてーな感じ?」
 『そうそう、完全に運なんだけどな!』
 「そういや塔は壊れた、なんてことも言ってたが」
 『イヤ、だって今いるのって塔の中だぜ? 壊れてたら来れねーだろ』
 「うーむ……そーか」
 『……おっさん、何か知ってそーだな?』
 「ま、まあな」
 『いや、皆まで言うなよ? 知っちまったら——』
 「しかしだな……」

 戦略兵器みてーなので一撃でふっ飛ばされた筈だぞ。
 そいつをどーにかしたら……?

 『面白くねーだろ』
 「フツーの反応じゃねーな」
 『まあフツーなら質問攻めだよな』
 「オメーは違うのか?」
 『そーゆーの、ネタバレ無しで解きてーじゃん。
 双眼鏡をここで手に入れるってコトと三年後にゃ塔が無ぇって特大のネタバレを食らっちまった後だからな』
 「そーか……そーだな」 
 『何なら出てみっか? 街によ』

 完全に振り切れてんなー。定食屋らしいっちゃまあその通りな訳だが。

 「生首抱えてか? つーか俺も不審者だぞ?」
 『まず誰からも見えねーだろ。おっさんは俺のイマジナリーフレンドって位置付けらしーからな。
 それに首しかねーからどーせ何も出来ねーだろ。
 俺が連れ回すのは逆に合理性があるぜ』
 「あー、そーいやそーだったな。しかし手に何か持ってたらパントマイムしてるみてーに見えちまうんじゃね?
 それにメシはともかくトイレはどーするよ」
 『おっさん……自由になりてーのかなりたくねーのかどっちなんだよ』
 「ただ疑問に思っただけなんだぜ」
 『声だけでも誰かから聞こえてたんならぜってー連れてけねーな!』
 「ぬはは……あ、そーだ。この小屋の入り口のわき辺りにもう一個頭が転がってなかったか?」
 『ん? どーだったっけかな?』
 「それがさっきの首無しの奴の頭部なんだけど」
 『えっ!?』
 
 人の頭が転がってたらフツー気付くだろ……!

 『隊長ぉー!』
 『何でぇ、うるせえっつっただろーが』

 げげっ、あいつらもう戻って来やがった。
 
 『大変なんすよ、頭、アタマっすよー!』
 『だから分かるよーに報告せえっちゅーに!』
 『屋上の空中庭園に人の頭が転がってたんすよぉ!』
 『何だとぉ!?』

 ってそこでこっち見んな!
 つーかセンセーさん(仮)はマジでマサカドしちまったんか……!

 『ケガ人は!』
 『そ、それが聖女サマが腰を抜かして膝小僧を擦りむいたとか!』
 『マジか!?』

 オイ、そこはそんなにビックリするとこじゃねーだろ。

 『やべぇ、巡回警備サボってたのがバレちまう』
 『俺らの首が転がっちまいますよぉ』
 『まだ間に合うっす! 今から知らん顔して“何かあったんすか”とかすっとぼけときゃ何とかなりますって!』

 えーと……オメーら公務で来てたんじゃねーの? 

 『ああああギロチン刑は嫌だああああああ』
 『うるせえ!』


* ◇ ◇ ◇


 『とにかく現場に急行すっぞ』
 「待てよ、オメーら観測班てヤツなんじゃねーのか」
 『あん? 観測班ならここんとこ活動なんてしてねーぞ』
 「んじゃ何でんなコト」
 『サボり口上の定番なんだぜ、まいど観測班でっすってな』
 「そりゃ何かの皮肉か」
 『隊長ぉー』
 『おう、今行くわ』
 「オイ待てよ、俺は置いてけぼりか」
 『悪ィな』
 「待てってば」
 『また来るぜー』
 「だから誰と話してるんすかぁ」

 あーあ、行っちまったぜ……
 まあ、ありゃあぜってーウソだよな。
 しっかり戸締まりまでして行きやがったし。
 それにサボりなら何であのわーわーうるせー姉ちゃんやらセンセーさん(仮)の胴体やらを運び出したりしたんだって話になるぜ。
 敵対組織の横取りとかか? はたまた権力抗争か?
 ヤローのおかげで妄想がひろがりんぐだぜ。
 まあ何であれ誰をかっさらったのかハナっから分かってやってたんだろーな。

 しかしまたヒマになっちまったぜ。
 ……うーむ。

 あの定食屋(仮)が本当に定食屋だったと仮定すっと色々と矛盾が生じちまってる気がすんぞ。
 俺がここに放り込まれたのが偶然なのか何なのか……
 機会があるんなら確認してーとこだが一切身動きが取れねーからなあ。
 
 ん? 物音?

 『おうオッサン、さっきぶりぃ』
 「ありゃ? 今度はどーいった風の吹き回しだ?」
 『あーまあ、何つーかな』
 「おう、さっきのは結局何だったんだよ」
 『あ……あー、まあちっとばかし面倒くせーコトになっちまってな』
 「何でぇ?」
 『こちらがそうですか』
 『へ、へい』
 「へ? 誰?」
 『先ほどの奇跡はこれが原因でしたか』
 『そうみたいっすねー』
 「おろ? 見えてる?」
 『いや、見えてねーと思うぜ』
 「つーか誰? そのパツキン縦ロールの姉ちゃん。
 何でぇさっきのうるせーねーちゃんの服着てんの?」
 「あー、このお方はだな……」
 『御遣い様、かのお方は何と?』
 「おつかい? 何その肩書」
 『えー、“誰?”だそーで』
 『こ、これは失礼致しました。不肖わテぁくし……あいでっ』
 「ワテくし?」
 『わ、ワタクシは聖女サマなのですのよぉー』
 「ズコー!」
 『聖女サマぁ? かの者は“ズコー”と申しておりますぜぃ?』
 「ノリノリだなおい!」
 『おもしれー人だろ!』
 『セリフひとつでメッキが剥がれるとか考えてもみませんでしたわー!』
 『ホラホラ、ぶっちゃけるのもホドホドにして脱走がバレる前にちゃちゃっと済ましちまいましょーぜ』
 『そ、そうだったわ! これよこれ』
 「お、双眼鏡か」
 『おう、マジでこっちにあったぜ』
 『コレを使えば男湯も覗きホーダイ……アレ? 何も見えませんわ! カネ返せですの!』
 「逆ですぜお嬢。あと誰も金なんて払ってねーっす」
 『あ、あら、ワテクシとしたことが……オホホオホホのホ!』
 「漫才はえーから早よせんかい! おつかい出来てねーだろおつかいサマもよォ」
 『それゆーなし!』
 『コホン、どれどれ……エッ!?』
 『まあビックリするよな』
 『カネ返せですの!』
 『ちげーだろ』
 『……コレ、マジなの?』
 『おう、マジだぜ』
 「んで俺はどー見えた?」
 『まずな、今おっさんは俺らにしか見えねえ。そのおかげでギリギリ大事おおごとになってねーんだ』
 「アレでセーフなのかよ!?」
 『あんなの日常茶飯事なんだよ。外に転がってた生首だって俺の手下共がコイツん家の庭に投げこんだんだからな』
 『だからってイタズラすんのにも程があんのよ』
 『その割にビックリしてなかっただろ』
 「ヒザ小僧はホントに擦りむいたのか」
 『そんなウソついてたの?
 せいぜいアタマに直撃してお星様がキラキラした位よ』
 「どー違うのかサッパリ分からん。てかもうすっかり素に戻ってんな!」

 つーかセンセーさん(仮)の扱い酷過ぎじゃね?
 もしかして放置されたまんまピーピー騒いでんのか?
 あ、さっきす巻きにされて運び出されてったねーちゃんとアレやコレやでだべってんのかね。

 それにしてもここの奴ら、首チョンパに耐性あり過ぎだろ。
 そんだけ野蛮で暴力的な生活をしてるってことか?
 いや違うな……生首がしゃべってることに違和感を持ってねえのか。
 もしかしてそーゆーのが当たり前なんかね。
 それに頭が飛んできて頭に直撃したらお星様が見えた程度じゃ済まねーだろ。
 だいいちこのねーちゃんは……ってアレ?
 どこで会ったんだっけ……?
 うーむ、謎だぜ。
 てゆーかそもそもここ、とてもじゃねーが現実とは思えねーんだよな。
 聖女サマだって? ふざけんのも大概にしろっちゅーに。

 「しかしその双眼鏡は定食屋にしか見えねーし使えねーって聞いた筈なんだがその前提は見事にくつがえったな」
 『その話がホントなら原因はおっさんしか考えられねーだろ』
 「そもそも俺とこうして話してる時点で逸脱してたってか」
 『そのそもそも論から行くとだな——』
 『何でここにいんの? しかも首だけとかウケるー、でしょ?』
 「知るか。トシがバレんぞ。昭和かよ」
 『うぐ……』
 「んでどーやって手に入れたんだ、その双眼鏡。てゆーか何でフツーに手に持ってんの?」
 『何がおかしいって……おかしいというのかしら?』
 「何急に取りつくろってんの?」

 コイツ明らかに慣れてねーな。
 てことは急にエラくなっちまったのは最近の話なのか。

 『おい、ムリすんなよ。このおっさんは“こっち側”だぜ』
 「何だそれ?」
 『聞いただろ、“おつかいサマ”だよ』
 「この生首がか?」
 『ソレが何の頭か分かってんだろ?』
 「あー、女神像か」
 『そゆこと。しかもだぜ。この世界の女神像の頭部は大昔に消滅してるんだよ』
 「それが今オメーたちだけが見える状態でここに転がってるってか」
 『だから御遣い様なのよ』
 「でも他の奴らが見えんかったらオツカイかどーかなんて分からねーだろ」
 『ところがどっこい、そーゆーとこだけ良く出来てんだよな』
 「あ、もしかして“聖痕”とか言ってたヤツか」
 『そゆこと』
 『どゆこと?』
 『あのなあ……』 

 まああらましは分かったぜ。
 肝心なとこは分からんかったけど。

 「つーかさっきのうるせーねーちゃんはどーしたよ」
 『うるせーねーちゃんならここにいんだろ』
 『不敬ですわ! 死刑ッ!』
 「残念だったな、骨は拾ってやんぜ」
 『うるせえ!』
 「ちなみによォ」
 『何だよ』
 「俺って今何語で話してんだろ」
 『何語って日本語に決まってんじゃん……ですわ!』
 『もー良いだろ、ホレ』
 『あーっ!? ハラヒレホロハレー!?』
 「ヘ? その金髪縦ロール、ズラだったんかい!」
 『ソレ気に入ってたのにィ』
 「ん? じゃあ聖女サマってのは?」
 『ソレはマジなんだぜ。
 んでさっきわーわーきゃーきゃー騒いでたねーちゃんに自分の服を無理くり着せて置き去りにして来た』
 「酷ッ!」
 『だからボロが出る前にさ……』
 『こっちはソッコーで出しちまったけどな!』
 『ぬぬぅ……』
 「お前ら何でそんなに仲良いんだよ……ってもしかしなくても定食屋でバイトしてた女子高? ……生? だよな?」
 『何で急に尻すぼみになんのよ!』

 だってさ……聞いたとこによるとオメーさん、三十路だろ。
 いや待て、5年経ってるからそれどころじゃねー可能性がでけーな。
 それが自分のソックリさんを替え玉にして職場脱走して、んでもって金髪縦ロールのヅラかぶってはしゃいでんだろ。
 ソレって客観的に見てかなり痛々しくね?
 えー。
 ジトー。

 『俺をそんな目で見んな! つーか怖えーんだよ!』
 『何なのよもう!』
 「ナルホド、こりゃ嫁さんも家出する訳だぜ」
 『うるせえ!』


* ◇ ◇ ◇


 『うるさい!』
 「二度も言わんでも分かっとるわ! 大事なことなのも分かるけど!」
 『ちょっと待った! アンタ妻子持ちだったワケ!?』
 『待て! 嫁さんはいたが子供はいねーぞ!』
 『ムキー! よくもだましたわね! おめーは追放でございぜーますわぁ!』
 『すんなよボゲェ!』
 『不敬! 不敬だわ! 死刑ッ!』
 『うるさいと言っているだろうが! お前ら頭出せ!』
 『あ痛っ!』
 『痛ぇ! って誰でぇアンタ』
 『それはこちらのセリフだ 番所は厳に立ち入りを禁ずると通達しただろうに……っておいそこの娘、どこへ行く!
 お前が一番怪しいんだ、待て、おい!』
 『えへへ……じゃあアタシはこれでぇ』
 『おい待……離さないか』
 『えへへ……じゃあアッシもこれでぇ……』
 『待てと言っている』
 『えーと……勘弁してくだせぇよ、ねェダンナァ?』

 えー、誰が乱入して来たんだよと思ったらこのオッサン、初めにセンセーさん()たちを叩き斬ったヤツだよ。
 聖女サマ(定食屋のバイトのねーちゃん?)は誰なのか分かってたっぽい一方でヤツの方は分かってなかったっぽいな。
 ズラの方が平常運転なのか?
 つーかズラは持ってかねーのか……
 ……何にせよまたワケワカなことになってきやがったぞ。
 いや待てよ、聖女サマ(バイト)が双眼鏡持ってどっかに行っちまったじゃねーか……ってだから追っかけよーとしてんのか。
 じゃあそーしたらまた俺はほったらかしになるって訳か。
 誰にも見つけてもらえねーでずっと地面に転がったまんまかよ。
 てゆーかさすがにコレは現実とは違うよな? そーだよな?
 でも取り敢えず保険かけといた方がえーよな?

 「オイ、出てくのは良いけど忘れモンは取りに来いよー」
 『あ?』
 『ん?』
 「は?」
 『貴様は……何だ』
 「おろ? ……あ、そーか」
 『何がそーかだ、説明せーや。俺も分かんねーんだよ』 

 むむっ……こやつ今俺の言葉に反応しやがったぞ?
 まあコレはコレでチャンス到来か。
 てな訳で——

 「やだ」
 『えー』
 『何だこれは。ここにこんなものは無かった筈だぞ』
 『その前にあなたサマがドコのどなたなのか説明して欲しいんすけど』
 『何だと? この場所の正体は騎士どころか皇族も知る者はほとんどいない筈だ。
 その様な場所に立ち入っているお前が俺を知らんだと?』
 『その物言いはつまり、あなたサマがどこぞの王族か要職につくエライ騎士様だってコトっすよね?』
 『何だ、それが分かっているのなら何故ここに立ち入ったのだ』

 ソイツは俺も知りてーとこなんだけど、すっとぼけんのもそろそろ良い加減にしねーと叩っ斬られんぞ。
 このオッサン容赦無さそーだからな。
 どのみちこっちは静観するしかねーんだけど何だかなあ……ってあー、そーか。
 こりゃ時間稼ぎってやつか。

 『先ほどお連れの騎士の方々がゾロゾロと出ていくのを目にしちまったもんで』
 『ほう……』

 おい、そりゃ悪手だぞ。
 ホントに見てたかはさておき、ここがヒミツの場所でさっきのテンマツも秘密裏に片付けよーとしてんならここで始末されても全然おかしくねーんだぞ。
 そして今のでオッサンの目が心なしか鋭くなった気がすんぜ。

 さっきいそいで帝都に行ってなんちゃらしろー、とかわめいてたよな。
 そーすっと王様ってのは違くねーか?
 帝都がっつーくれーだから別に皇帝陛下がいるんだよな。

 『良いか。ここはな、かつての神託の巫女様がお隠れになられた場所なのだ』
 『えー、くわばらくわばらー』
 『くわ……何だと?』
 『コッチの言葉でナンマンダブナンマンダブってコトですぜ。
 都会のお貴族サマにゃー聞き苦しいかもしれませんがねぇ』
 『ふむ。何だか分からんが分かった……気もする』

 イヤ、ナンマンダブも分からんだろ。そこは知ったかすんなし。
 それにしても神託の巫女だ? そこは聖女サマなんじゃねーの?
 まあどっちも何なのか全くもって分かってねーんだけどな!
 何でかって、ここってシャーマニズムのカケラもねーじゃん?
 んなとこで巫女サマとか何のオマジナイをすんだよって話だぜ。

 『で、そんな場所で立入禁止にも関わらず大人数で立ち入って何かをしていたと……』
 『我らは状況を確認しに来たに過ぎないのだ』
 『公にはお隠れになられた、という話になっているのだがな……
 その実巫女様は今もその柩の中で眠りについていた……筈なのだ』
 『筈……?』
 『今、その柩の中は……見ての通り空になっているのだ』
 『その柩って……もしかしてこのガラスのショーケースみてーなのっすか?』
 『ショー……何だか分からんがその通りだ』
 
 また急展開になったなコレ。
 やっぱコレ最後は口封じだコノヤローってなる流れなんじゃね?
 そーいや忘れてたけどそもそもの経緯を聞いてねーんだわ。
 もうそれどころの話じゃねーけど。

 『ときに』
 『何すか?』
 『そこにある彫像の頭部は女神像のものではないか?』
 「へっ!?」
 『!』
 『! やはり……あなた様は神託の巫女様……!』

 えー、今度は巫女サマ扱いかよ。
 何なんだ一体いってーよォ……
 
 「……言っとくが俺は何も関係ねーぞ」
 『その言葉遣い……伝承の通りだっ!』
 「えっ?」
 『ホントでゲスねー(棒)』
 「オイ」
 『しかしまた何故この様なお姿に……』
 「あ? オメーらの仕業なんじゃねーのか?
 ついさっきまで五体満足だったのに鎧着た野蛮そーなオッサンに首チョンパされたんだがな」
 『な……馬鹿な……』 

 ゆーて最初は中庭の台座に立ってんですけどー。
 なのでここで起きた事件とは無関係なんですぜー。

 『ではやはり先ほどの異形が……』
 「え、アレ俺のトモダチだったんだけど。何してくれちゃってんの?」
 『な、何と……』

 ぬふふ、コレで形勢逆転だぜぃ。

 『巫女様が異形共の手先だったとは……!』

 ズコー!

 「何でそーなるんだよ!」
 『いや、なるだろ常考よォ!』

 『クッ……しばし待お待ちを。神官共を連れて参りますゆえ。
 ……扉は外から施錠させてもらいますぞ』

 あー、こりゃオオゴトになんぞ。
 それにしちゃあ定食屋(仮)は落ち着いてんな?

 「んで結局何なんだよアレ」
 『まずな、実をゆーとここは確かに今も立入禁止になってるんだわ』
 「話としちゃ一応のつじつまは合ってるってか」
 『んでここはその番所の奥の部屋ってコトになってるんだぜ』
 「ほーん」
 『それでここからが本題なんだがな』

 ん? 番所って何だっけか? 詰所とは違うんかね。
 ……あ、あの紙切れに書かれてたメモか。
 誰も入れんなとか何とか。
 ん? “今も”?

 『中身は例の巫女サマのお告げで奴らが持ち出したんだよ。
 あ、大昔の話だぞ』
 「え? 巫女サマのお告げ?
 つーか巫女と聖女の違いが分からんのだが」
 『神託の巫女ってのは初代の聖女サマのことなんだぜ』
 「は?」
 『昔話でさ、女神サマがご降臨なさるためのヨリシロが巫女サマなんだとよ』
 「それが今の話と何か関係あんのか?」
 『その話にゃ続きがあってよ、あるとき巫女サマの前に本物の女神サマが現れたんだと。
 んでワラワが来たからにはオヌシのお役目は終わりなのじゃー、なんて言ったとか何とか』 
 「それじゃ巫女サマの歴史もそこで終わりになっちまうんじゃね?」
 『ところがどっこい、何でか知らんけどその女神サマが殺害されるっちゅー大事件が起きてだな』
 「何つーか随分と雑な話だな。ヤローは俺を見て巫女サマと勘違いしてたみてーだがソイツは?」
 『俺も良く分かんねーんだけどさ、さっきヤローが言ってた“異形の者”とかゆー奴らが攻め込んで来たとか』
 「それがくだんのエイリアンだってか」
 『今俺らが戦ってる相手がそれなのかは正直分からんけどな。
 何しろ何千年も前の神話みてーな話だからな』
 「何千年?」
 『言ってただろ、帝都にーってよ。俺らの感覚でゆーところの古代ローマみてーな感覚だぜ。
 んで今ここにあんのは帝国じゃなくて大神殿な。
 更に言うとここの城下町はその後栄えた王国の遺跡の上に建ってるんだぜ、豆知識な』
 「豆知識はどーでも良いけどそれじゃ女神サマと巫女サマと聖女サマが繋がんねーんじゃねーのか?」
 『あー、その巫女サマってのがまたうさんくせーってゆーか……
 一説によれば初代の巫女サマがそもそも異形のバケモンで、そこのハコにどーやってか封印されてたとか何とか……
 まあそーゆー説もあるんだぜ。
 んでもってそのへんの昔話が全部ホントのコトだとすっと、多分今の奴らなんだよな』
 「奴ら……?」
 『んで今の奴らってかあのおっさんたちってよ、多分バケで出た地縛霊か何かなんじゃねーかなって思う訳よ』
 「地縛霊って……ンなアホな」
 『あのよォ……おっさんがそれ言っちゃう?
 おっさんの存在がすでにオカルトなんだ、そこんとこ分かってるか?』
 「それを言ったら俺らみんなひっくるめてこんなとこにいんのがファンタジーなんじゃね?」
 『ま、まあそいつは否定出来ねーけど今は置いといて先に進まねーか?』
 「あースマンスマン、いつもの悪ィクセが出ちまったぜ」
 『んで、だ。あのおっさん……イヤ、あのヤローが女神サマがどうこうわめきながら不審者よろしく駆けずり回ってたって訳なんよ』
 「その言いっぷりだとアイツら結構な有名人だったりする?」
 『まあオバケとしてはな』
 「コミュニケーションは?」
 『取れる訳ねーだろ。スーッと現れては大騒ぎするおじゃま虫的なポジに収まってた感はあるけどな』
 「じゃあここに現れた理由は?」
 『さあな、何が引き金になったのかは分からんけどそのハコに対して相当な心残りでもあるんだろ』
 「むむぅ……分かったよーな分からんよーな……」

 何か忘れてる気がすんぞ……何だっけ?
 ん?
 コイツは……ハリセン?

 バァン!

 「おわ!?」
 『巫女様ァ! お待たせ致しましたァ』

 っておかしくね?

 『もーちっと静かに入って来れねーんか……ってまた別なヤツかい! いや同じヤツか!? いややっぱ別なヤツぅ?』
 「めんどくせーなー、任せた」
 『えぇーそんなごムタイな』
 『ぬぬうっ!?』
 「今度は何だよ(ハナほじ)」
 『な、なぜ伝説の武具がここに……?
 いや、待てよ……そうか! ではあのお方はまさかッ……!』
 『行ってらー(適当)』

 はい? 何じゃそりゃ?
 何かブツブツ言いながらまーた勝手に出て行っちまったぞ。
 思わせぶりにアレとかソレとか言い残して出てくのえー加減やめてくんねーかな。
 何にせよ思いっきし黒幕ムーヴじゃね?
 てかアイツらもあんなんで良く職務が全う出来とったな。
 あー、だからガバガバザル神話なのか。

 いや待てよ、このまんまじゃここは何やらとんでもねー兵器で木っ端微塵にされんじゃなかったっけか?
 あっそーか。忘れてたってコレかあ。

 『あー、見ねー顔だと思ったらバイトくんだったんかあ。
 コイツさぁ、後始末が面倒臭ぇから見境なく斬りまくんのやめて欲しーんだわー——』

 ……はい!?

 『ってマジ!? 何でコイツ!?』

 あ、定食屋()も想定外のヤツだったのね。

 『えーと……多分こーゆーのは大抵おっさんが原因なんだぜ、豆知識な』
 「ほーん」

 ガバガバ、俺のせいなんかー。
 そっかー。

 「ってんなワケあるかボゲェ!」

 くっそォそこのハリセンメチャクチャ使いてーけど出来ねーぞコノヤロー!


* ◇ ◇ ◇

 うーむ。

 また何かあったのは分かるが一体いつだ?
 センセーさん()の頭が別の場所に転がってたって話も気になるぜ。
 もしかしてさっき定食屋()がアイツの裾をつかんだせいか?
 いや、今までの例から行くと俺が体のどっかに触れてる必要があるだろーしな。
 その俺は今動けねーし絡んでねー筈なんだがなあ。
 ズラもハリセンもさすがに関係ねーよな。

 「なあ、今のヤツらは前からこの辺をウロチョロしてたんだよな?」
 『あ? そーだぜ。まあそれもひっくるめておっさんのせいかもな』
 「何でも俺のせいにすんな。何かきっかけとかあっただろ」
 『例えば?』
 「俺がここに飛び込んで来たタイミングとか」
 『ソレついさっきの話じゃん。俺がここに迷い込む前にはもうその辺にいるのが当たり前になってたぞ』
 「トイレの花子さんみてーな話かよ。でも言動が何かおかしくなかったか?」
 『それはあるな、明らかにおっさんが原因だぜ』
 「だから何でそーなるんだよ」
 『女神様絡みの案件だからだろ、宗教関係はこえーぞ』
 「またかよ……だがそれだけでもねーだろ。今までオバケみてーだったモンが急に話せるよーになったんだ」

 とはいえ俺の感覚だとセンセーさん()以外の声は全員頭の中に響く感じなんだよな。
 フツーにやり取りしてんのとは明らかに違うんだよ。
 俺がしゃべってる声はセンセーさん()によれば壊れたスピーカーだっつー話だけど、この分じゃ他の奴らにはどう聞こえてるか分からんな。
 つーかいつまでこのまんまでいりゃいーんだ俺は……
 ずっとこのまんまとかぜってーイヤだぞ。
 あーあ、首チョンパ仲間のセンセーさん()は元気してっかなー。

 『おーい、おっさん。おーい』

 おっと久しぶりだなコレ。
 ……じゃなくてえ!

 「あー悪ィ悪ィ、考えゴトしてたんだわ。まずな、そこにハリセンがあんだろ」
 『おう』
 「その持ち主ってのがさっきまでここに俺と一緒に転がってた人の持ち物だったんだよな」
 『でも何でハリセン?』
 「それは知らんけどとにかくその持ち主の——」
 『その前に世界観が違いすぎね?』
 「まあ落ち着いて聞けよ。その持ち主の話を聞くとだな、どう考えても隣の奥さん……つまりオメーの先生なんじゃねーかって思えてな」
 『そりゃ明らかにコッチじゃねーな』
 「ああ、場所はあの廃墟でもねえ、30年くれー前の親父の会社の中庭だった」
 『山ん中の廃墟じゃねえ? でもあそこは……?』
 「ああ、言っただろ。親父の会社は家から歩いて行けるトコにあったんだ。クルマで小一時間掛かる廃墟と違ってな」
 『でもあの町にいたときはそんな場所見たことなかったぞ?』
 「じゃああの町がここみてーな異世界だったら?」
 『は? いや、そーゆーこともあんのか……そーゆー仮定のもとじゃねーと説明がつかねーってか。
 実体験してなかったらアホかよボゲェで終わる話だな』
 「ぶっとんだハナシだと思うだろ?
 でも今じゃ俺らの町とそっくりな場所が何か所もあるっぽいってことはほぼ確信に近いんだよな」
 『まあその状態で言われたら信じるしかねー……のか?』
 「いやソコは信用するトコだろ」
 『んで?』
 「俺らの町とそっくりな別の町、定食屋がある筈の場所に建ってた戦前風の古い家……その場所に踏み込んだのがここに来るきっかけだったんだよ」
 『えー、まさかウチの勝手口がその廃虚の入り口だったとかなのか?』
 「まあそんなとこだな。まあストレートにここまで来た訳でもねーんだけど」

 正直言うとあの町、いつの間にかそこにいたって感覚しかねーんだよな。
 んで何がどーなってあーなったのかイマイチ覚えてねーのがまた怪しいんだけど。
 しかし考えてみっとあそこの住人、ここの人なんじゃねーかとも思えて来るぜ。
 別の国から疎開して来ましたー、みてーなことを言ってたもんなー。

 『とにかくその勝手口がここまでつながってた訳か』
 「話せば長くなるんだけど要するにそうだな」
 『で、先生は?』
 「若い頃ここで働いてたみてーなんだよな。
 とにかくその頃のセンセーさんらしき人物に会って一緒にこの小屋にだな」
 『待てよ、じゃあここで首チョンパされたら先生になれねーじゃねーか』
 「ソレな。まあ考えてみろよ。30年前のセンセーさんが目の前に現れたらフツー本人だと思うか?」
 『あー、違うな多分』

 しかもそのセンセーさん()が定食屋にいたガイコツかもしれねーって線もあるんだよなー。
 それを言ったら話がややこしくなるから出すタイミングに迷っちまうぜ。
 いっそのこと黙ってた方が良いんかね。
 テキトーにごまかしとくか。

 「じゃあここでわーわーしてたアイツらは? センセーさんも同じなんじゃね?」
 『おお、ナルホド。
 いや、でもそれが急に俺らと話せる様になったって部分の説明にはならねーよな?』
 「でもハリセンは分かっただろ」
 『いや分かったけど分かんねー』
 「センセーさんの趣味だろ」
 『どんな趣味だよ』
 「今度聞いてみたら? 知らんけど」
 『取り敢えずどういう仕組みか分かんねーけど、まあカラクリは見えてきたな』
 「しかし何なんだよ、伝説の武具ってのはよ」
 『知らんわ。ハリセンがエクスカリバーか何かに見えちまったんじゃねーの?』
 「うーむ……いや、有り得るか」
 『えっ、マジで!?』
 「俺らにとっちゃハリセンでもあのオッサンは別なモンだと認知してる可能性はあんだろ」
 『えーあんの? 頭おかしいだけなんじゃね?』
 「そこは本人に聞くしかねーだろ」
 『俺が聞くんか』
 「オメー以外に誰がいんだよ」
 『手下連れて来る』
 「待て、俺を置いてくな。つーかひでー上司だな」
 
 基本的にここも作りモンなんだよな。
 つまりは俺ん家があったあの町と一緒か。
 あの町は親父の会社のための町だ、なんてセンセーさん()は言ってたが……じゃあここは何なんだ?

 バタン!

 『おいっ!』
 「うわっ!?」
 『だからもーちっと静かに入って来れねーのかって言ってんだろ』
 『そんなことよりそこに女神像の下半身が転がっていたのだが』

 えー。
 ……ぶった斬った暴力女はどこの誰で今何してるんかな。
 つーかこのオッサンがこんなこと言ってる以上はソイツもここに乱入して来る可能性がある訳か。
 マジかぁ。

 『おウチに持って帰ってもイイだろうか?』
 『良い訳ねーだろ!』

 えーと……ちなみに持って帰ってナニに使うのかな?
 教えて欲しーなー、オジサン怒んないからさー。


* ◇ ◇ ◇


 つーかコイツどこに何しに行ってたんだ?
 そもそもハリセンエクスカリバーを見ておったまげてたのは一体何だったんだ?
 ハイカイする幽霊みてーな扱いをされてるけど俺の読みじゃコイツらはコイツらでアッチ側の住人であってリアルな生活があった筈なんだよな。
 別にオバケとかそーゆー類のモンじゃねー筈だぞ。

 「おい、コイツ何アホなことほざいてんだ?」
 『しょーがねーだろ、しょせんはその辺でつかまえたバイト君だからな』
 「待てよ、バイト君が帯剣して不審者を一刀両断にしてもえーんか?」
 『一刀両断したんかー。へー、そーなんだー……って良い訳ねーだろーがボゲェ!』
 『え? ダメなら元の場所に戻して来るが』
 『それよかさっきの待ってろってのは何だったんだ?
 “あのお方”って悪の幹部かよ』
 『“あのお方”? はて、一体誰のことか……』
 「話がかみ合ってねーな」

 大丈夫かコイツ……ってゆーか誰かが出入りするたんびにこの部屋以外が場面転換してねーか?
 元の場所に戻して戻って来たらまた新しいキャラになんのか?

 ちっと試してみてーな。ぐひひ。

 ……じゃなくてぇ!

 結局俺はこっから動けねーからな。

 結局“あのお方”ってのも妄想力で当たりをつけるしかねーんだろ。
 モヤるぜコンチクショーめ。
 もしかしたら最初から何も変わってねーって可能性だってあるんだ。
 あんときは外で騒いでる声が聞こえてたからな、せめてそんくれーの情報は欲しートコだぜ。

 『無表情だけど何となくロクでもねーこと考えてるってことは分かるぜ』
 『隊長殿? 誰と話しているのでアルのでアリマスか?』
 『あ? あー、イマジナリーフレンド?』
 『?』
 『てゆーか俺はアンタんとこの隊長殿じゃねーから』
 『では何とお呼びすれば』
 『俺は聖女様んとこの……あー、面倒臭ぇからやっぱ隊長殿で良い』

 えぇ……また俺が見えてねー状態に戻ってんのか?
 つーかソレ敬語のつもりなのかよ。

 ん?
 てことは俺を首チョンパした奴とは会ってなさそーだな?

 「もー何しに来たか聞いちまった方が良いと思うぜ。
 ハリセンも見えてねーだろーし“巫女サマ”の方も怪しいだろ、コレ。
 オメーのこと隊長殿って呼んだとこからすっとバイト君設定は有効みてーだからな、知らんけど」
 『いや、それは多分ダンナ呼びの間違った敬語表現……あー、もうえーわ面倒臭え。
 じゃー聞いてみっか、おい!』
 『おう……じゃなかったハイ、持ち帰るのである……マス!』
 『何でそーなる!?』

 何かポンコツ感がパネぇなあコイツ。
 クッソォいじくり回してぇなあ。
 マサカドも口惜しみを感じる(?)ってもんだぜ。

 『で、では何だろうか……いや、ナンデショウカ?』
 『今までどこで何をしていた? そしてなぜここに来た?』
 『あ、いや、礼拝所に巫女様が現れて……まして』

 “巫女様”絡みは続くんか……てことは時代は大昔か。
 しかしこのオッサン、エライ人が落ちぶれてお寺(ココ)に駆け込んで住み込みで下働きさせてもらってるとかか?
 そうなると定食屋()との関係は偶然の一致なのかね。
 クッ……妄想がはかどるぜぃ。

 『無理しないで良い。普段通りの言葉遣いで話してくれ』
 『済まん、助かる。巫女様が直々に礼拝所にお出ましになられてな、女神像が何者かの手で破壊されたというのだ』
 『それがこれか』
 『ああ、だが他にもあるのだ』
 『この有様からすると上半身か?』
 『上半身……というか胴体と両腕だ。だがな……』
 『残りは頭部か』
 『そうだ。首から上がどこを探しても見付からないのだ』

 それで頭を探してここいら辺をウロチョロしてたってか?
 それ何てホラー?

 『加えて……』
 『まだ何かあるのか』
 『加えて女神像が手にしていた杖と羽根飾りも見当たらない』
 『杖と羽根飾り?』
 『あれは像の一部ではなく、女神様ご自身が使ったと言われる本物の装備品なのだ』

 羽根飾り……? 
 アレが元々は大昔の女神像の付属品だったってか。
 いや、色違いを持ってる奴がいた筈だしちげーよな。
 確か学校の卒業記念品とか何とか……
 しかし杖は分からねぇな。

 『む……羽根飾りはここにあったか。しかし一体何故……?』
 『ん? ああ、それか……ってコレ?』

 ってハリセンかーい。

 『じゃあ杖は? 杖はあるか?』
 『杖は……どうやらここには無さそうだ』
 『一体何の目的があってこんなことを……? いや、像の破壊と杖がそうなのか』

 何だろーな、ハリセンのせーで二人とも至ってマジメな会話をしてる筈なのに漫才にしか聞こえなくなって来たぜ。
 つーコトで奴さんに気取られねー様に聞いてみっか。

 「なあ、羽根飾りがハリセンなら杖もまんま杖ってコトはねーんじゃねーのか?」
 『確かにな』
 「ちなみに礼拝所ってのは?」
 『下のフロアにある一般市民がお祈りするための場所だぜ』
 「そこにあるとか?」
 『いや、そもそもハリセンが羽根飾りで先生がそれをここに落っことしてった経緯を考えるとだな』
 「何の脈絡もねーよな」
 『先生の頭が空中庭園……いつの間にか上のフロアに移動してたのも分かんねーんだよな』
 「実際マサカドじゃあるめーし誰かが持って歩いてたって考えんのが自然なんじゃね? それがいつの話なのかは知らんけど」

 何かこう……急にアレがビンゴなんじゃね? って考えが浮かんで来たんだけどまさかな……どー考えても結びつかねーぜ。

 『ひょっとして双眼鏡か?』
 「やっぱそー思うよな」
 『お嬢が持ってる筈だがこの分じゃ怪しいな』
 「オツカイ様って呼んでくんねーもんな」
 『それヤメテ』
 『御使い様ですと!?』
 『あー、それは良いから他の部分も出来るだけ集めよーか』
 『承知した、御使い様!』
 『あー、……行っちまったか。あんま他で使って欲しくねーんだよな』
 「ソイツはスマンかった」
 『つーか今度は大丈夫だよな』

 バタン。

 「お、戻ったぜ」
 『これが胴体と両手だ』
 『どうやらさっきの続きらしーな』
 『?』
 『あーいや、こっちの話だ』
 『そうか……ところで』
 『ダメだ』
 『まだ何も言ってないが』
 『ダメ』

 まあそーだよな。
 つーか持って帰ってどーすんだよ、マジで。


* ◇ ◇ ◇


 『あらかた持ち帰ってあんなコトやこんなコトをするつもりなんだろう』
 『うっ、なぜそれを!?』
 『マジかようけるんだけど!』
 『エッ、ソコ驚くのか』
 『冗談に決まってんだろーが!』
 『紳士のたしなみであろうに』
 『マジかよ最悪だよこのオッサン』
 「テメーらえー加減にせい!」
 『おっと、俺としたことが』
 『ム。いまじなりーふれんど殿か』
 『ナゼにひらがな?』

 コイツら一体いってー何の話で盛り上がっとんじゃい!
 つーかこのオッサンも地味に日本語話してねーか?
 そして定食屋()は他人にツッコミ入れる前にまず、ナゼにカタカナとひらがなの区別が付くのかを説明せーや。

 『マジメに言うとだな、何でコレがココに存在してるのかが分からんのだよ』
 『それで巫女様が急ぎ向かう様にと仰せになられたという話なのでは』
 『その巫女様ってのは何千年も昔の人物の筈なんだがな。
 像に関しちゃ破壊とかそれ以前に俺らで鋳潰いつぶしてるし』
 『な、何と!? そんなバチ当たりが許されてたまるか!』
 『だからウン千年前の話なんか知らん』
 『では俺は巫女様の導きによりはるか未来の世界へといざなわれたということか』
 『それは分からんがバラバラになった像が急に現れたのだ、何かが起きていることは間違い無い』
 『俺は一体どうすれば……』
 『まあ……女神様の試練なのだろうな、知らんけど』

 オイオイ、一応オメーんトコのバイト君なんだろ。
 本音出てるやん最後の方!

 『それで……巫女サマは像について何と?』
 『何者かに破壊されたと』
 『イヤソレはさっき聞いたから』
 『しかし他には何も……』
 『ホラ、他に何かあるだろう。破壊されたから下手人をしょっ引けとか、職人を手配して修理させろとか』
 『ああ、そういえば……!』
 『何か思い出したか』
 『破壊されたと聞いていても立ってもいられずその場を飛び出してしまったので、あとの話は全く聞いてなかったなあ』
 『ズコー!』
 「どーすんだコレ」
 『と、とにかくどうにかしてコレを持ち帰るんじゃ』
 『だからダメだって』
 『そ、そうではなく何とかしてもとの時代にコレを持ち帰らねばと』
 『どうにかしてって言われてもなあ』
 『わ、ワシはどうすれば……』
 『急に言動がおじいちゃんぽくなったな』
 「ウラのシマコみてーだな」
 『まあ乗りかかった船だ、気を取り直してガンバレ』

 ぶん投げやがった! 一本取れそうな勢い!

 『ならば今出来ることをやるだけですじゃ!』
 『おーそのイキそのイキ』

 立ち直り早っ! でもおじいちゃん言葉は直ってねー。
 そして定食屋()、やっぱし最悪な上司!

 『それにしても、頭部はどこに行ってしまったのだろうか』

 ハイそれココ、ココにありまっせー。

 『杖も無いな、というか杖が大事なんだと思ってたが』
 『全部が大事だ』
 『まあ、実際のとこは聞かされてないんだろうが』
 『俺の様な下っぱにとってはそれが当たり前だ。
 そうだ、像が安置されていたケースは! そこにある筈だがそれも破壊されたか!?』
 『ケース? つーかおじいちゃん言葉はロールプレイかい!』
 『ロール……? 女神像は大きなガラスケースにすっぽりと入れられてこの部屋で厳重に管理されていた筈だが』
 『ガラスケース……? あー、それか……って見えてないな?』
 『……どこかの時代で移動されたということか。ではこの有様は……』
 『そうか、コレはその巫女サマの時代の後のモンなんだな。
 今の時代じゃケースの中にはその巫女サマ自身が眠ってるって言われていたが』
 『そのケースはいずこに……?』
 『やはりか……今もそこにあるんだが』
 『何と……俺の目には何も無い様にしか見えないが』
 『実を言うと頭部もそこにある』
 『な、何ですと……! しかしまたどうして……』

 ここで定食屋()何か合図して来た。
 あー、さっきからしゃべってる相手が誰か話してもいーかってか。
 さっきいっぺん見付かったと思ったけどまあ別人だよな。

 「良いんじゃね?」
 『良し。んじゃ説明するがさっきから俺が誰かとしゃべっていただろう?
 実はその相手がここに転がってる女神像の頭なんだよ』
 『……はい?』
 『あ、信じてねーな』
 「まあ、ムリもねえ」

 しかしさっきの奴らは……もーちっと後の時代の奴なんか?
 俺のことも巫女様呼ばわりだもんな。
 しかし像に関しちゃ何で頭だけが見えてねーんだ?
 俺とそこのケースが見えてねえ、首から下は見えてる、んでハリセンは羽根飾りか。

 さっきのケースの話からすっと……作られた時代が違うんかね……首だけ?

 杖は最初っから無かったよな……無い様に見えて実はそこにあるってパターンもあるしコレもー分かんねーぞ。
 つーかハリセンが羽根飾りならやっぱセンセーさん()と双眼鏡持って出てった聖女サマがキーマンなんじゃねーか?
 となりゃやっぱその空中庭園とやらに行ってみるしかねーだろ。

 「てな訳で行くか」
 『イキナリ話題変え過ぎ! 行くってどこにだよ』
 「流れ的に空中庭園とかいうトコだろ。
 センセーさん()もオメーの言う“お嬢”もそこにいんじゃねーのか?
 ついでに俺を抱えてそのオッサンの体のどっかに触れてみちゃもらえねーか?」
 『ナルホドな……つーかんなことしてどーなる……ってこのオッサンにおっさんが見える様になるかもしれねーって話か……
 クッソややこしーな!』
 『隊長殿?、 その……今話している相手というのが……?』
 『あー、ちょっと待てよ……これでどーだ?』
 「あーあー聞こえるかぁー」
 『何と……! 何か聞き取りづらいが』
 『そりゃ首から下が無いからだな』
 「ちなみに見えてはいねー感じか?」
 『あ、ああ。しかし……』
 『言っとくが中身は女神様じゃないからそう身構えてなくて良いぞ。
 俺とタメ口で話す関係の相手だとだけ言っておくがな』
 『隊長クラスの階級ということか』
 「近所のおじちゃんなんだよ」
 『ああ、そういう……っておじちゃん?』
 「そう、おじちゃんだ!」
 『お姉さんではなく?』
 「まごうことなきオジサンだ!」

 この会話が“日本語じゃないけど自動的に変換されてる! スゴイ!” 的なヤツだったらオッサンとおっさんとおじちゃんてどう表現されてんだろ。
 ナゾは深まるばかりだぜ!
 つーか今話してんのは多分日本語なんだけどソレはソレで意味が分かんねーぜ!


* ◆ ◆ ◆


 「でだ。まず一個確認させてくれ」
 『ん? 何だよ急に』
 「他でもねえ。
 ここんとこ俺な頭を悩ませてた最大のナゾ、おじちゃんとオッサンとおっさんの違いについてだ」
 『ナゾでも何でもねーし!』
 「な、何だとぅ!?」
 『下らん話はその位にしてそろそろ……』
 『そうだな』
 「俺のハナシは無視かい!」
 『だってホントにどーでもいーだろーが』
 「えーマジかー」
 
 だってさー気になんじゃん?
 コイツらが日本語で話してんだったらあのカタコトのおっさんの母国語は何なんだべなってな。
 ハナっから日本語だったらカタコトになんかなりよーがねーんだからな。
 ってコイツらにそれ言っても分かんねーか。

 『ところで』
 「あん? 何だよコッチは忙しーんだよ」
 『ウソつけ!』
 『空中庭園、とはどこにあるのだろうか?』
 『あ? 外に行きゃ分かんだろ』
 『イヤ、完全に忘れてたぜ』
 「マジかよオイ! 何やってんだテメー!」
 『そもそもこの小屋に入ってる時点で立場的に当然』
 「で、何を忘れてたって?」
 『分からんで突っ込んでたんかい!』
 『空中庭園ってのはこの塔……あー、大神殿の屋上のことなんだぜ』
 「ほうほう、それで?」
 『でだな……オッサン』
 「ん? 俺?」
 『俺か?』
 『どっちでもいーわ! とにかく最上階の上にそんな場所があるなんてことは一部の関係者を除いて明かされてねーんだ』
 「知ってた。知らんけど」
 『どっちだよ』
 『ここが最上階ではないのか。中庭からは空を仰ぐことも出来るではないか』
 「オメーが見てたのって大神殿じゃなくて犬神殿の方だったんじゃね? 知らんけど」
 『ねーよンなモン。マジメにやれっつの』
 「中庭の景色はプラネタリウムみてーなやつなんだろ?」
 『プラ……何だって?』
 『プラネタリウムだよ。要は天井に空の絵を写してるってこと』
 『どうりで雨の日は公開せぬ訳だ』
 「そーなの?」
 『そーいやこっち来てこのかた雨なんて降ったの見たことねーな、どーなってんだここの天気』
 『そんなことはあるまい』
 「ありそーなハナシだぜ」
 『そーなのか?』
 「何ならノミとかダニなんかもいねーだろ」
 『言われてみりゃそーだな。なんてだ?』
 「全部が作りモンだからだろ。知らんけど」
 『あー分かった、スペースコロニーみてーなやつだな!?
 イヤ、分かったけどそんなん実現出来んのかよ』
 『良く分からんが空中庭園とはかように常軌を逸する場所であるということか』
 「いや勝手に決めつけられちゃ困るって。知らんけどって言っただろ」
 『だが敢えて言うぜ。知らんがな、と』
 「ぐぬぬ……」
 『それでその空中庭園とやらにはいつ案内してもらえるのだろうか』
 「よっ、ナイスツッコミ」
 『何でぇ、謎かけしといてお預けかよ』
 「まあ何だ、お楽しみは次回のコーシャクでってヤツだ。
 とはいえ——」
 
 なんつって次回はねーんだろーなあ、コレ。
 でねーとあの町で出くわした定食屋は何なんだってコトになるんだ、どこまで行ってもコレはここだけの話なんだよ。

 「——行くも行かねーもオメー次第なんだし、納得行かねーならここでもーちっと問答してってもいーんだぜ?」

 何かここが別世界みてーな感覚で話してるけど、実は位置関係的にゆーと親父の会社の中庭にある掘っ立て小屋なんだよな。
 こっから外に出たとして空中庭園とやらには行けるんだろーか(いや、行けねーだろ笑)。

 まあ親父の会社は大神殿てヤツに似せて造った施設だったってことだな。
 実はその逆だった、なんて可能性もあるんだろーけど。
 30年前の出来事に俺が用意してたPCまで出て来るメチャクチャぶりなんだ、どことどこがどうつながってたってもう驚かねーぞ。

 しかしまあ、俺は一体いってーナニを見せられてんだろーなあ?

 『まあ、分かったぜ。ぼちぼち行くとすっか』
 『このままの体勢で行くのか』
 「俺と話すにゃ必要なコトなんだ、ガマンしてくれや」

 まあそれだけじゃねーんだけど。

 「なごり惜しーけど胴体はここに置いてくぜ」
 『まあこのカッコで持ってける訳もねーしな』

 ってオイオイ、話しながらおもむろに出るんかい。
 もーちっともったいぶったってえーだろーに。

 『ちょ、ちょっとお客さん。準備中って書いてあるのが見えなかったんすか!?』

 ……へ?
 い、いや、驚かねーぞ。驚かねーからな!


* ◇ ◇ ◇


 『ああ、申し訳ない。それでは我々は出直すとするか』
 『出直すなよ! つーかウチのじーさんの、若ぇわけー頃……?』
 「あー、そういう……」
 『ぬおっ!? 何だソレ気持ち悪ィ……ってその顔……!?』
 『何だよ、何キョロキョロしてんだよ』
 『き、消えた……?』
 『はあ?』

 ん? 何か違くね?

 「オイ……見てみろ、ヤローの足下をよ」
 『ん? な、何と……!』
 『オイオイ、何かヤバくねーか?』
 『ん? ああ、コレか。コレなら問題ねーぞ』
 『女子高生がひっくり返ってて首が変な方向にひん曲がっててオマケに白目をむいて泡吹いてんのが問題ねーだと?
 バカも休み休み言えってんだ。
 ……ってよく見りゃ聖女サマじゃねーか!
 何だよオイ、訳が分かんねーぞ』
 「オイ、ここは抑えとけよ」
 『チッ……何か知ってるんなら後で教えろよな』
 『聖女様……巫女様の後世での呼び名だったか。それがあそこに倒れている少女だと……しかし一体……』
 『聖女? 何だそりゃ? つーか何だよそのチンドン屋みてーな格好はよ。どー見てもあんたらフツーじゃねーよな。
 かといってヤッコさんらの関係者とも思えねえ』
 『どーゆーこった? 何でコレが問題ねーのかとかヤッコさんて誰やねんてトコも含めておっさん、解説ヨロ』
 「何で俺がそこまでせにゃーならんのか分からんけど、少なくともこの有りサマは問題しかねーだろと思うがなぁ」

 そう、ソイツは定食屋の爺さんにぶん殴られた例の女子高生だ。
 見た目があのバイトのねーちゃんとスゲー似てるからな。
 必然、さっきの縦ロールの聖女サマにも似てる様に見える訳だ。

 んで何でそれが問題ねーのかって理由についちゃホントにさっぱり分からん。
 だってフツーに殺人じゃん?
 定食屋のじーさん——俺にとっちゃクラスメートの親父さんなんだけど——このオッサン、腕力ひとつで人を殴り殺す殺人鬼なんだぜ。
 あ、だから本人は何の問題もねーとかほざいてんのか。
 その辺定食屋が知らねーみてーなのが気になるが、まあフツーに考えたら家族にゃ知られんよーにするよな。
 その前に引っ越しもしねーでフツーに殺人現場で店を続けてたのが信じらんねーんだけど。
 
 てかその前に誤解は解いとかねーとな。

 「オイ、そこに掛かってるカレンダー見てみ?」
 『ん? 1976? あー、どーりで古臭え電話とかテレビなんかがあるワケだ』
 「そーだ、ここは76年の定食屋なんだぜ」
 『分かったけど何で? コレ戻ったらさっきの部屋に戻んのか?』
 『俺が先ほどひとりで出入りしたときはそんなことは無かったが』
 『じゃあやっぱオッサンが原因だな』
 「知るか。定食屋なんだからオメーが原因なんじゃねーのか?
 とにかくこの場面が76年だってゆーならさっきの聖女サマとやらはここにゃいねー筈だろ」
 『まあな、あの部屋から出たときにオッサンが一緒じゃなかったってくれーしか根拠がねーがな!』
 「ぐ……ま、まあそういうことにしといてやるから心配すんなよな」

 だがちょっと様子がおかしいぞ。
 いや、おかしいっつーより展開がかなり違うって方が合ってるか。
 ……あ、そーか。あの女子高生の隣にいた奴がいねーのか。
 俺が見せられたのは隣りにいたヤツ目線の映像だったからな。

 つまり今のこの場じゃあ俺がその隣にいたヤツの立ち位置になんのか。
 イヤしかし今の俺、ナマ首のまんまなんだけど。
 って定食屋のじーさんが俺をガン見しとる……まあさっきの“消えた……?”って挙動からの流れからしてまあ俺が見えてて然るべきなんだとは思うが。
 とにかく俺がここに存在してることによって色々と展開が変わっちまってるんか。

 『オイ、まさかとは思うが……アンタはさっきまでそこにいた——』
 「いや、違うぜ」
 『じゃあ——』
 「その前に聞かせろ。そこに白目むいて横たわってる子は何だ?」
 『見ただろ。そいつはこの木箱をここに届けただけのメッセンジャーだ』
 「ああ、見たぜ。アンタがその子を殴り飛ばすところをな」
 『ソイツはバケモンだ。人間じゃねえ』
 「じゃあ俺は何に見える?」
 『おいオッサン、見たってのは何——』
 「まあ黙って聞いとけや」

 この後ここには親父と母さんが現れる……筈なんだ。
 それでもしそうなったのなら聞きてえ事があるんだ。
 たとえホンモノじゃなくても答えはホンモノかもしれねーからな。

 『オッサン。何も言わねーがひとつだけ、そもそも俺らが外に出た目的は何なんだってことを忘れんじゃねーぞ』
 『……アンタもバケモンだろ。さっきまですまし顔でそこに座ってた癖してよ。何だよそのアリサマはよ』
 「そうだな……ここじゃバケモンてトコは否定しねえ。
 そんならそれでさっきその子が木箱から出して見せたソレは一体何だと認識している?」
 『木箱? ああ、それで“認識”なのか。それはな、特殊機構の本体施設に立ち入るためのパスだ。
 分かるか? ソイツを使って“認証”されると立ち入ることが出来る』
 「特殊機構……!」
 『知ってると思うがその資格を得るには所有者を殺して奪うしかねえ』
 「何だと!? それであの有り様になったんか……」

 待てよ……羽根飾りって単語が一切出ねえってコトは木箱の中身は別の何かだったのか?
 あるいは羽根飾りとして認識されてねえ?
 じゃあ俺が持ってた木箱、その中に入ってたのは……何だ?

 『まあ聞けよ』
 「何をだ」
 『特殊機構はもう御せねえ、オメーら……イヤ違うか……ヤツらが下した判断だ』
 「その話は知らねーな……まあ続けろや」
 『でな、そこを明日の午後12時に爆破するんだと』
 「待てよ、その話が今出ただって?」
 『そんなときに奴はどこで何をしているのか』
 「“ヤツ”?」
 『アンタの生みの親、そう言やァ分かんだろ?』

 待てよ、情報量多過ぎだぞオイ。


* ◇ ◇ ◇


 『おいオッサン、大丈夫なんだろーな?』
 「良いから黙ってニコニコ……いや無表情で突っ立ってりゃ良い」
 『何でぇ兄ちゃん、その生首とお話すんのがそんなに楽しいのか?
 後生大事に抱えちまってよォ』
 『あァ?』
 『おい、落ち着くのだ』
 「オメーのじーさんの性格は分かってんだろ。言葉のキャッチボールなんて出来ねーんだから無視だ無視。
 俺に任せとけって」
 『チッ……わーったよ』
 『俺が割って入る余地が一切無いことは理解した。というか全く話しについて行けんしな』
 「頼むぜ?」
 『オッサンこそ変な方に話が行ったら後で罰ゲームだかんな』

 ヤツの親父さん……つまり定食屋のじーさんは確か、人の話は聞かねーけど興が乗ると誰も聞いてねー話を延々と続ける悪癖があったからな。
 ここはやっこさん自身に説明させんのが一番だろ。

 『どーした? 相談ゴトは終わったのかよ。あぁ?』
 「あー、お待たせしてスマンね」
 『何だ、やっぱりオメーがしゃべんのか。生首ヤローが』
 「悪いのかよ」
 『チッ……見た目はマトモじゃねークセして言うことは一番マトモそーじゃねーか。何なんだ、オメーらはよ』
 「知るか」
 『答えになってねーぞ』

 まあしかしこの言いっぷり、俺のことがホンモノの生首に見えてたりすんのかね?
 マサカドがしゃべるとかソレ何てホラーだよ。
 面白そーじゃねーかチキショーめ。

 「さっきまあ聞けよってアンタに言われた様な気がしたんだが、俺は何の話を聞きゃあ良いんだ?」
 『しらばっくれるんじゃねぇぞ。あれを一体どうやって壊そうってんだ?
 ありゃあ原爆でもキズ一つ付けられなかったシロモンなんだぞ?』
 「原爆だと!? つーか実験したんかい!」
 『知らねえとは言わせねえぞ——』

 定食屋()、俺を抱えたままガビーンて顔しとる。
 分かる、分かるぜ。
 俺も「な、何だってー()」とか叫びそーになったからな。
 しかしくだんの戦略兵器ってのはまさかとは思うが原爆なのか?

 そんなモンこの日本で……って考えてみりゃあそもそもここが日本なのかも怪しーんだよな。

 『何せそこのヤローが言った話なんだからな』

 そこのヤローだ……?
 定食屋()? じゃねーな。
 まさかとは思うがそこに倒れてる子のことなのか?

 「だからってイキナリぶん殴ったんか」
 『正当防衛だ。先に脅してきたのはそこのゴミの方だぜ』
 「脅す? どーやって?」
 『エサやり機を止めたらどーなるか分かってるな、なんてほざきやがったんだ。
 呆れてモノも言えねえとはこのことだぜ、全くよォ』
 「エサ……何だって? 言ってることが分からんしアンタが脅されにゃならん理由もサッパリ見えんのだが」
 『チッ……ここまで話の通じねえヤツは初めてだぜ。給餌きゅうじ装置のことだっつの』

 初対面のクセしていきなりなれなれしくしてくるヤツって苦手なんだよなー。
 今の絵ヅラだと俺が一方的に知ってるってカンジの筈なのになー。
 つっかかる前に関係性をちゃんと説明せぇっちゅーに。
 何だよエサやり機って。
 昭和なんだよセンスがよ……ってリアタイ昭和だったわコレ。

 『なあおい、ウチのじーさんとはいえコイツはちょっとアレなんじゃねーか?』
 「他人の話を聞かねーのは今に始まったことじゃねーだろ」
 『程度ってモンがあんだろ』

 とはいえ……やっぱ俺が見たときと展開が違うな。
 もっとこう、“違う! やったのは俺じゃねえ”とか“俺はなんてことをしちまったんだー”、みてーな感じじゃなかったか?
 そんな話をするために出してたってんなら、羽根飾りってのはどういう扱いのブツだったのやら……いや、こんだけ状況が違ってたらやっぱ羽根飾りじゃねえ、別な何かなのかもしれねーな。

 ん?

 と、後ろでバーンと勢い良くドアを開ける音……おう、ついに来やがったか……!
 ならここは一発ハデにタンカを切って盛大なフリとさせてもらおーじゃねーか。

 「いや、分からねーな、サッパリ分からねぇ!
 そこで倒れてる子がバケモンだと? それに俺の生みの親とは何だ?」
 『へ? 何? 誰?』

 ありゃ? イキナリ何かが切り替わった?
 こりゃまた急展開だな……?

 『おいオッサン、任せとけって言ったよな?』
 「お、おう」
 『武士に二言はないでゴザルな?』
 「な、ナゼにゴザル言葉……?」
 『うるせぇ、このマサカドオヤジめ。罰ゲームだぞ』
 「えートシこいたオヤジが何言ってやがる」
 『もののふウソをつかぬものでゴザルぞ』
 「そんな言葉づかいどこで覚えたんだよ……」
 『ちょっとゴメン、何言ってんのか全然分かんないんすけど』
 「だよな! 俺も分かんねえ!」
 『ざけんな! マジメにやれ!』

 ここ、定食屋だよな。
 しかもこの光景、さっきと同じ76年の店だ……?

 『あのーお客さーん、冷やかしなら帰ってもらって良いっすかー?』
 「冷やし中華禁止!?」
 『違うわボゲェ!』
 『カツ丼おごれ』
 「あー」
 『何だよ、この期に及んでよ』
 「俺氏、カネ持ってない」
 『出てけよ、この無銭飲食め!』
 「ひぇーすんませんしたー」

 退散退散ー。

 『で、ここはどこなのだ?』
 『おい、オッサン』
 「ああ」

 ……もとの町か。


* ◇ ◇ ◇


 「ここってやっぱオメーん家だったりすんのか?」
 『場所的にはそーだがどーも所有者は既にいるらしーな』
 『ここは隊長殿のご実家で、何者かに不法占拠されているということか』
 『いや、違うだろーな』
 『ム……また難しい話か?』
 「多分ここって俺らが元々住んでた町なんだけど時代がな」
 『ああ、軽く60年近くは経ってるだろーな』
 「あー、60年以上、じゃねーんか」
 『おっさんの感覚じゃそーなのか』
 「さっき話してて分かったけど多分俺とオメーの間にゃ結構な時間差があるな。
 そーだな……ざっと3、4年てとこか」
 『いや、んなコトより』
 「ん?」
 『何かフツーになじんでなかったか?』
 『俺もそれが気になっていたところだ』
 「何の話?」
 『オッサン、あのよ……店ん中に鎧着た野蛮人が生首持ってイキナリ登場したらフツーひっくり返るだろ』
 『俺は別に野蛮人じゃないが』
 『今つっ込むとこじゃねーからソコ』
 『オマケにその生首が“カネ持ってない”とか口走ってたのにも冷静に出てけとか返してたからな』
 『この様な状況をマジパネェと呼び習わすのであったか』
 「お、おう、そうだな! 死語だけどな!」

 じゃなくてえ!

 これ完全にあちこちごちゃ混ぜになってねーか?
 俺があちこちに飛ばされてワケワカなんだと思ってたけどコレ完全に事故ってるよな?
 この町っつーかどの町も、になんのか。
 ソレが何かの目的で造られたモンで、住んでる人がどっかから連れて来られたってのは一応分かった。
 けど何なんだこりゃ?

 俺はいつまでこの生首プレイを続けてりゃいーんだ?
 
 「んでよ、何であの店員は俺らにフツーに対応してんだろーな?」
 『そりゃー考えられる可能性はひとつしかねーべ』
 「どんな?」
 『俺らが別に変わった客じゃねーってコトだろ』
 「えーマジでェ!?」
 『考えてもみろよ、さっきの店、昔のウチとおんなじなんだろ?
 でも店員はじーさんじゃなかった。
 じゃあありゃ誰なんだ?』
 「ソイツは俺も分からんけど似たよーなのはあったな」
 『そーなのか』
 「ああ、俺らの時代の町とソックリなんだよ」
 『んで住人は違うと』
 「ああ、別な国から連れて来られたって言ってたが、明らかにオメーが今いるトコと同じ世界観て感じのとこに住んでたって印象しかなったな」
 『え? 俺らんトコに来る前からこんなんだったのか?』
 「そーなんだよなー」
 『そーなんだよなーってその生首はさすがに違うだろ』
 「まーな。誰が何のためにこんなことしてんのかも全く分からんしな」
 『それ以前に何なんだろーなコレ。異世界?』
 「しかし日本の特定の町のコピーだぞ。しかも年代別で同じ場所で同じコトをやってるときた」
 『ま、まあ、新しい場所に来たのならまずは探索ではないか?』
 『ダンジョンかよ』
 「ある意味その通りかもしれねーな。他に住人もいるだろーしそれもアリっちゃアリだな」

 どこでどーなるか分かんねーしな!
 76年の町ってのも気になるし親父の会社もあるんじゃねーか?
 なら行ってみんのも手だよな。

 『えー、店にもーいっぺん入ろーぜ?』
 「ゆーて無銭飲食はアカンやろ」
 『ぼ、冒険者ギルドで仕事を探すとかは』
 「んなモンねーわ!」
 『えっ定番だと思うのだが』
 「ねーの! 以上!」
 『むむぅ……』
 『まあエセ中世から来たらそう思うのも無理もねーわな。
 しかしだぜ。
 貨幣経済が成り立ってるってことはここは単なるマボロシの町的なヤツじゃなくて、経済を回してく仕組みがちゃんとあるんじゃねーのか?』
 「おおう、何かアタマ良さそーなコト言い始めたぞコイツ」
 『先生だったらこー考えるんだろーなってな』
 「あー、隣の奥さんかぁ」

 ゆーて俺の中じゃあのハリセンエクスカリバーでイメージ上書きされちまったがな!
 ついでにゆーと食材がホントに食材なのかって点も俺は大いにギモンに感じるけどな!

 「しかしそれならなおさらどーすんのか考えねーとだぞ。
 まずは食事と排泄が必要なのかってとこの検証からだな。
 その結果次第でどーしなきゃなんねーのかが大きく変わってくだろーな」
 『おっさんと一緒にいるとその途中でまたワケが分かんねー感じに状況が変わってくんだろーけどな!』
 「ぐぅ……反論出来ねえのがまた何ともなぁ……」
 『それにメシ屋がここにあるって時点で客は来んだろ。
 なら食事排泄はあるんじゃねーのか?』
 「言っとくけどオメーらはどーなんだって観点だぜ?
 オマケにゆーと俺は自分がどーやって動いてんのかサッパリ分からんのだけどな!」
 『店主がフツーに対応していたところを見るに、メシを食らって活力を得るのではないのか?』
 「んなことしても首からこぼれるわい!」
 『で、どーするよ』
 「無銭飲食してここで雇ってくだせぇって土下座でもすっか?」
 『まあ究極の選択としてはアリだな』
 「えーんかい!」
 『もとの職場に戻れる保証なんてねーからな、主におっさんのせいで!』
 「そうか? 今ごろ“ホンモノ”がいつも通りに出勤してるかもしれねーぞ?」
 『めっちゃありそーで怖えーわ!』
 『と……となると俺も……?』
 「当然!」
 『ナルホド、だからメシもウンコもねーかもって話になる訳か』
 『えぇ……』
 「理解した?」
 『出来る訳ねーだろ。だけど確かにこーなりゃじっとしてる方が損だって考えにもなるわなぁ』
 「じゃあ行くか」
 『どこに? オッサン家か、それか……』
 『待て、大神殿はどこにある? まずはそこではないのか?』
 「ねーよ……と言いてぇとこだが……」
 『エッあるの!?』
 「いや、あるっつーか何つーか」
 『どっちなんだよ』
 「あのよ、親父が勤めてた会社……会社かどーか分からんけど……まずはその会社に行ってみてーんだよな」
 『それが何か……ってまさかその会社ってのが……』
 「そう、その大神殿かもって話」
 『あー』

 どう考えてもさっきまでいた場所とつくりが同じなんだよなー。
 絶対ぜってー何かあんだろ。

 『しかし思いっ切り不審者の我々が入れるものなのか?』
 「それな」

 多分キーになるのは羽根飾りなんだよな……ここに来てさっきの場面と何かしらつながってたんじゃねーかって思えて来たぜ。
 どーすっぺなー。
 うーむ。

 『おーい』

 ん?

 『お客さん……いや客じゃねーけど忘れモンだぞ、ホレ』
 『あ、どーも……オッサン、コレは?』
 「何ちゅーご都合主義! 礼だ礼」

 羽根飾りじゃん!
 でも何でだ?

 『す、済まねえ助かるぜ。しかし礼になるよーなモンなんて持ち合わせてねーしなぁ。
 あ、そーだ。この生首いらね?』
 「ま、待て、マジで言ってんのか!?」
 『誰がんなモンいるかっつの。そう思うなら店を手伝ってくんねーか?』

 ホッ……何を言い出すかと思えばよ……

 『俺料理人なんで厨房手伝えるぜ』
 『おー、そいつは助かる、カツ丼とか作れるか?』
 『おう、俺の十八番オハコだぜ』
 「ちょっと待て」
 『ん?』
 「そのカツ丼て何の肉使うの?」
 『オッサン、そーゆーとこだぜ……』

 えー、極めて真っ当なギモンだろーがよー。


* ◇ ◇ ◇


 『今、どっから声出してたんだ?』
 『ん?』
 『腹話術なんだろ?』
 『お、おう?』
 「何ちゅーご都合主義!」
 『見たとこ芸人さんか何かか』
 「オー、ゴツゴウシュギデース! オカシーデース!」
 『いーから黙ってろって』
 「イマサラナニヲユーカ!」
 『わはははは、なんか面白れーな!
 で、見た感じおたくら新顔さんだな?』
 『新顔?』
 『ここは住む場所を無くした連中が集まる町だ。
 あんたらもそのクチなんだろ?』
 『あー。住む場所をなくしたってのは職務タイマンがタケり狂い過ぎて、スポーンと世界が俺からドロップアウトしちまったとかそーゆー感じ?』
 「おめーソレ何言ってんのかちゃんと自分で理解してしゃべってんの?」
 『……何か思ってたのと違うな。あんたらだけか? 他には?』
 『敢えて言おう。知らんがな、と』
 「だから何なんだよそのノリはよ」
 『俺には全くついて行けん。ノリもそうだがそもそも話が見えん』
 『んだんだ。見慣れねー俺らの顔を見てすぐに新顔か、なんて言葉が出て来る位には転入者が多い訳だ。
 んで住む場所を無くしたって言葉、それを何を思って言ったのかは大体想像出来るんだが、ここじゃそーいうのが当たりめーなのかってな』
 「すげーな、めー探偵じゃねーか」
 『めー探偵ゆーな、バカにしてんだろ』

 住む場所を無くしたってのは文字通りの意味ってカンジかね。

 前に会った人らは気付いたらここにいた、必要な知識はいつの間にかアタマにインスコされてたって言ってたが、そのあたりが共通してんのかは分からねーな。

 しかし俺を見ても大した反応がねーのを見ると下地は違うのか?
 それとも彫像の生首ってシチュがそーさせてんのか?
 いや、彫像が誰のものかって点を考えるとそれは考えづれーな。

 となるとこの店主はコッチ側だな。

 『で、どうなんだ?』
 『あー、この三人だけだぜ』
 『そのアタマも含めて三人?』
 「ウン、ソーダヨー」

 カクカク。

 『おおう!?』
 『遊ぶなよ、オッサン……』
 「もうメンドクセーからオメーにだけヒソヒソ声で話しかける様にするわ。任せんぜ」
 『お、おう』

 カクカク。

 『気が付いたらここに?』
 『ああ、そんな感じたぜ』
 「しかしこの羽根飾り、どっから湧いて出たんだろーな?」
 『いーから、余計なことゆーなよ?』
 『あんたらは学院の関係者なのか?』
 『学院?』

 あー、出たよ。なんちゃら学院。
 ……ってやっぱコッチ側じゃなかった?
 カクカク。

 『学院て昔々のおとぎ話なんかに良く出てくる学校のことか?』
 「オトギバナシー?」
 『おとぎ話だ? そんな昔じゃねーだろ。俺のじいさんも持ってたぞ、コレ』
 『店主、お主の祖父殿は学院の関係者だったのか?』

 あ、そーいやコッチのオッサンはそーゆー出自のヤツだったわ。

 『関係者っつーか、関係者が知り合いにいてな、まあ言っちまうと形見なんだと』
 『形見?』
 『何でも海軍で同じ艦に乗ってたんだと。同じ釜の飯を食った仲間ってヤツだな』

 海軍? 羽根飾りを持ってるヤツが?
 何か世界観がメチャクチャじゃね?
 ……いや待てよ? そーいや……

 「オイ、海軍って何だって聞けねーか?」
 カクカク。
 『おう、俺も気になった。聞いてみるわ』
 『そのクビの動き……クセになりそーだな』
 カクカク。
 『お、おう……んでそいつはいつの話なんだ? 海軍てのは?』
 『あー、あんたらに話して理解出来るか分からんが……』
 『興味があるんだ、分からんでもえーから話しちゃもらえねーか?』

 定食屋のじーさんは確か俺のじーさんから双眼鏡を預かったって話だったよな。
 あながち無関係って話でもねーのか?

 『話っつっても俺だって聞いた話だぞ。そもそも海ってのが何なのか分かるか?』
 『俺は分かるが……』
 『俺は初めて聞いたな』
 『あんたは知ってるのか』
 『……ここじゃ知らねーのが割とフツーだったりすんのか?』
 『ああ。アンタの隣のおっさんみたいなのがたまに集団で現れるっつーか、そういう人らが集められてるみたいなんだよ』
 『じゃあアンタも?』
 『俺は親父がそうだったらしいってだけで生まれも育ちも日本なんだがな』
 『じゃあ聞くけどここは日本なのか?』
 『さあ……正直なところ良くわからん』
 「ツマリオレラトオナジッテコトカー」

 カクカク。

 『まあそうなるな。
 んでひとり分かってるやつがいるからそのまま続けるとだな、その知り合いが太平洋戦争で軍艦に乗って遠征してた訳だよ』
 『このおっさんみてーに日本初上陸の異世界人がか?』
 『ああ、そうだが“異世界人”か……ナルホド、言い得て妙だ』

 あー、そーゆー概念がまだねーのか。

 『んでその知り合いは戦死しちまったけどアンタの親父さんは生還したと』
 『まあそうだな』

 やっぱそーなのか。

 「ミンナデカタミワケシタッテワケカー」

 カクカク。

 『それ腹話術で聞くことか?』
 『ああ、すまねーな。手が勝手に……』

 ぬはははは。

 『ああ、まあそうだ。ご家族と話し合って思い出の品を一品ずつ預かろうって話になったそうだぜ』

 ナルホドそーか。

 『まあ詳しい話はギルドで聞いた方が良いな。町民の登録も兼ねてるから手っ取り早いぞ』
 「ギルド!?」
 『ギルド!?』

 おっと、ビックリし過ぎてカクカクすんの忘れちまったぜ。
 まあ丁度怒られたとこだし良いか。

 『ギルドって冒険者ギルド?』
 『あ、ああ。何だよその食い付き様は……』
 『んでそれはどこにあるんだ?』

 ん? 何かイヤな予感。

 『待ってろ、地図を書いてやる』

 そーいやだいぶ店を空けてたけど客はいねーのかね?
 
 『待たせたな』
 「イッシュンダゼ!」
 『お、おう……』

 ホントに一瞬だったな!
 カクカク。

 『ここがこの店、でココがギルドだ』
 『ナルホド助かるぜ』

 うーむ……見えん!
 まあ良いか、定食屋()が連れてってくれんだろ。

 『じゃあ早速行ってみることにするわ。礼は後でキッチリするからな』
 『おう、気を付けてな。あと礼なんざいらねぇぞ。困ったときはお互い様だ』
 『済まねえ、あんがとな』
 「アンガトナー」

 カクカク。

 「しかしフツーに人が歩いてんな」
 『おう、こりゃ結構歴史を感じるぜ』
 「何つーか昭和の日本に感化された異世界?」
 『そんな感じだな』
 『何とも奇妙な町だな』
 『日本語じゃねー看板が大分あるぞ』
 「オメーらがいたとこよりよっぽど異世界らしーわ、コレ」

 コレが76年の町?
 いや、日本と違い過ぎんな。
 バタン、と店のドアが空いたあの瞬間にこーなったのか?
 うーむ、分からん。

 ……てな訳で結構すぐに着いちまったぜ。
 正味10分てとこか?

 『おお、あるじゃないか冒険者ギルド!』
 「へ? んなワケ……」

 と思ったら俺ん家じゃん!

 「オイ、ここ俺ん家なんだけど! 何で俺ん家がこんなんなってんだよ」
 『オッサン、俺の店もあんなんなってたんだからココがこんなんなってたって別に不思議はねーだろ。
 だいいちいつからここに住んでたんだ?
 ここって1976年時点の町なんだろ?』
 「だからってこんなんあるんか」
 『だってよ、町の住人がエセ中世な世界観の国から連れてこられた連中だけってのがあったんだろ?
 住んでる連中が現代の日本人じゃねーならあり得るんじゃねーの?』
 「じゃあ何で日本語オンリーで書いてあんだよ」
 『そこはほら、郷に入れば郷に従えってゆーじゃん?』
 「そもそも冒険者ギルドが郷に従ってねーし!」
 『いーから入んぞ』

 ……えー。

 『冒険者ギルドへようこそ。
 初めての方とお見受けしますがご登録でしょうか』
 『あっハイ、メシ屋のご主人に教えてもらいました』

 ど、どっかで見たよーな顔だぜぃ。

 『それでは、登録手続きを行いますのでこちらにご記入下さい』
 『何語でも良いのだろうか?』
 『すみません、日本語でお願いします。代筆も出来ますがどうされますか?』
 『いや、大丈夫です』
 『同じく』
 「ちょっと待て、何で2枚だけなんだよ。俺の分はどーした」
 『え?』
 『おっさんは黙ってろっちゅーに』
 「ちぇ」

 てな訳で色々と事務手続きしたり説明を聞いたり、レベルとかランクはねーけどもーコレ異世界モンだわ。

 「うし。ひと通り話しは聞いたしさっきの件——」
 『早速ダンジョンを探索してみたいのだが』
 『はい、では追加で実力査定を行いますので練習場へどうぞ』
 『実力査定?』
 『ダンジョンは危険な罠があったりや凶暴なモンスターがかっ歩していたりするので、ギルメンになっただけでは探索は許可されません』
 『つまりは腕っ節を見せれば良い訳か』
 『それだけではありません。罠への対処、冷静な状況判断など生死に直結する能力も査定の対象になります』
 『ナルホド、それは至極もっともな理由であるな』
 「イヤ納得してないでさっきの件をよ——」
 『良し、行くか』
 「ちょっと待てーい! ダンジョンなんかより大事でーじなモンがあんだろーがよォ」
 カクカク。
 『何だっけソレ』
 「マジデスカー」
 カクカク。
 『ちなみにダンジョンというのはどこにあるんだ?』

 そりゃーここまでくりゃー山奥の廃墟だろ、絶対によ!

 『それならこの事務所の奥にありますよ』
 「ナ、ナンダッテー」
 カクカク。
 『えー、ダンジョンがあるからここにギルドの建物が出来たと』
 『はい、ご推察のとおりです』
 「ヘースゴイナー」

 カクカク。

 『オッサン、それもーやんなくていーだろ』
 「あ、ついクセになっちまってよ」

 カクカク。

 『あ、あの……敢えて見て見ぬふりをしていましたが……そちらはどういった魔導具なのでしょうか?』
 「ガハハハハ、クッチマウドー」

 カクカク。

 『だからもうええっちゅーに!』
 「ぬはははは」
 『……あの、なぜ私と同じ顔なのでしょうか』
 『それは俺も思っていた!』
 『同じく!』
 「急にしゃべんな、ビックリすんじゃねーか」
 『おっさん、やっぱズレてんな!』
 「そ、そーか?」

 カクカク。
 ズレてねーよな? 俺。


* ◇ ◇ ◇


 『それでその……おっさん、というのは?』
 「俺のことに決まってんだろ」
 『俺もオッサンだがな!』
 『ややこしくなるコトをわざわざゆーなよな』
 『えーと、しゃべる魔導具で名前は“おっさん”、と……』
 「いちいちメモるんかいな」
 『どういった機能があるのですか?』
 『しゃべる』
 『他には?』
 『うざい』
 『それは機能なのですか?』
 「知らんがな!」
 『そもそもコイツは庭に飾ってあった像の首の部分だからな』
 『あの、像なのですか? 魔導具ではなく』
 「乱暴なお姉さんに首チョンパされた。胴体も真っ二つだぜ」
 『乱暴なお姉さん? 冒険者ですか?』
 「さあ? 知らん奴だった。向こうはそうじゃないみたいだったけど」
 『ということは白兵戦用のゴーレムでしょうか……ていうか何でそんなにしゃべれるんですか?
 インテリジェントウェポンはまだ実現されていないと聞いていますが』
 「知らんがな。近未来のスーパーロボットじゃね?」
 『確かに何かメカメカしいんだよな、やってることはオカルトだけど』
 『良く分からない用語ですが、他の方々とはまた別な世界から来られたのでしょうか?』
 「別な世界? そーゆー設定?」
 『設定って何だよ。それとおっさんの場合、コレアバターみてーのなんじゃねーのか?』
 『あばたー? 何でしょうか』
 『人間が遠くから操作してる人形ってこと』
 『ああ、なるほど。それでその方はどちらに?』
 『良く分からんけど遠いところ?』
 『まさか別な世界ですか……それならやはり私と同じ顔なのがなおさら気になるんですが……』

 また出たよ、別な世界って言葉。
 ホントにそーなんかね。
 さっきの定食屋の主人の親父さんは戦争帰りだろ、そんでダンジョンがあって冒険者ギルドがあって魔導具うんぬんだろ。
 フツーに考えたらコレ日本から持ち込まれた文化なんじゃねーかって考えるとこだけど、その日本は1976年あたりの時代だからな。

 「別な世界別な世界って連呼してるけどアンタはどこの世界の出身なんだ?」
 『え? 私は生まれも育ちもここですが』
 「あー、質問を変えるぜ。ここってどこ? 日本なのか?」
 『ここは日本ですよ』
 『じゃあここには俺らみたいなのが集められてる場所ってことか?』
 「ついでにゆーと他の人らの現れた場所が偶然ここだったって訳じゃないんだろ?」
 『あ、あの……本当に初めてなのでしょうか、ここに来られるのは』
 「そりゃ日本人だからな、片方は。さっきからの話っぷりからするに多分初めてだろ、日本人なんてよ」
 『そうですね……ほとんどの方が日本人の子孫であるようなお話は伺っていますが、職員以外で日本生まれとなると初めてかもしれませんね』
 『子孫?』
 『ええ、昔異世界に連れて行かれたという日本人です』
 「てことはコイツ以外にも随分と沢山の日本人が飛ばされてった訳か」
 『沢山、というか何万といますよ』
 「マジで!?」
 『はい、マジです……というかこのお話、まだまだ続くのでしょうか。あ、私としても興味深いお話なので続けたいのはやまやまのですが』
 『あー。じゃあアンタに貸してやろーか、このアタマ』
 『本当ですか? ああ良かった、どうやってお預かりしようかと思案していたところでしたので』
 「待て、それマジで言ってんの?」
 『だっておっさん小脇に抱えてダンジョンとか動きづれーだろ、帰って来るまでの間だって』
 『ダンジョンへの立ち入りはお話した通り危険を伴いますので、生存確率を下げる様な手荷物は必要最低限にしていただきたいのです』
 「お、おう……」

 言っとくがそれメッチャフラグだからな。
 つーか当初の目的はどーしたよ。全くよ……
 まあダンジョンとか言われてコーフンしちまうのも分からんでもないけどな。
 かくいう俺もちっとばかし興味がある訳だが……
 魔導具とか言ってるとこを見ると魔法なんてモンもあるんかね。
 あるんならめっちゃ見てみてーんだけど。

 『それではご案内しますね。こちらへお越しください』
 『お、実力査定ってやつか』
 『ちなみにその実力査定とやらは日を改めて受けたりは出来るのだろうか』
 『いえ、実力査定は都度受けていただく決まりになっておりますので、必ず当日受けていただくことになります』
 『ナルホド。じゃあおっさんは預けとくわ』
 「えー」
 『はい、確かに』
 「あー」
 『じゃあおっさんまたなー』
 『後でなー』
 『それではダンジョンへの入り口を開きます。どうかお気を付けて』
 『ん? 査定は?』
 『はい、中に専任の担当がおりまして、その者がご案内いたします。低層階での実地試験ですね』
 『おー、ナルホド。じゃあ今度こそまたなー』
 「お、おう……」

 あーあ、行っちまったよ。

 「つーかコレ、フツーにキッチンの床下収納だな」
 『キッチン? ここがですか?』
 「イヤすまん、こっちの話」

 つーかこの上に俺ん家が建ったんか……ココがそのまんま俺が住んでた町になったかは分からんけど。

 『さて、亡霊たちがさまよい歩くこの都にどの様なご用件でお越しになられたのでしょうか。
 見たところ何かのトラブルに巻き込まれたとお見受けしますが、その乱暴なお姉さんという者に心当たりなどは?』
 「ん? 俺が何かエライ人とでも勘違いしてる?」
 『人形を使ってわざわざ現地人を連れて来る様な好事家などめったに見ませんからね。
 そういった方々の出入りを管理するのが私どもの本来の職務な訳ですし』
 「好事家? 何だそりゃ。まあ良い、俺を襲ったやつは多分だけど俺と同じ見た目の人物が何かすんのを阻止しよーとしてたみてーだったぜ。
 その人物ってのがまさかアンタなのか?」
 『私に危害を加えようとする者ですか、それはまた興味深いですね』

 つーか一番気になってんのは亡霊たちがさまよい歩くってとこなんだけど!
 何か勘違いしてるみてーだし、いっちょ便乗してみっか。


* ◇ ◇ ◇


 「何か恨みを買う覚えでもありそうな言いっぷりじゃねーか」
 『まあ仕事柄、えもいわれぬ恨みを買う様なこともままある訳ですが』
 「逆に聞くけどその乱暴なねーちゃんに心当たりはあんのか? 正直俺はサッパリなんだが」
 『どんな方かも分からないので何とも言えませんね』

 仕事柄って何だよ怖えーんだけど!
 どんな仕事だよ一体!

 『それ以前に私の人形をあなたが使っていることに納得がいっていないのですが、どうやって、何の意図があってその様なことをされているのでしょうか』

 今の話を聞いて興味深いって感想が出て来る時点で怪しいって思うだろ常考。
 話をそらしたりなんかしたらもっと怪しいって思っちまうじゃんかよ。
 アホか。アホなのかコイツ。

 「まるで俺に何かの狙いがあってアンタのフリをしてたみてーな言いっぷりじゃねーか」
 『だからそう申し上げているのです。
 その破損した人形では何も出来ないでしょう。もうお帰りになられてはいかがですか?』
 「そりゃアンタも一緒だろ」
 『……一体どこから侵入したのですか。何の痕跡もなく追跡もかなわないとは』
 「あれ? 今帰れって言ってたと思うんだけどどこに帰れって話なのか分かってなくて言ってた?」
 『そう思われるのでしたらせめてまともに掛け合ってはいただけないでしょうか』
 
 何つーか……隠しゴトしてんのがバレてる体で話してんな?
 知らんけど。
 ただなあ……何つーか、この人って親父の会社の関係者だよな?
 んでここは例の女神様とか何とかをあがめてる連中が連れて来られてるよな。
 
 『この人形を使うことに意味があることはご存知だと思いますが……』

 あ、そーか。
 その連中からしたらこの受付の格好ってその女神様の似姿なんだよな。
 連中がここに来たらまずどーなるかって話か。
 そいつらがここで暮らしていけるよーにダンジョンとか持ち出して話を合わせてんのか。
 そーなるとあの前説の内容はどーゆー解釈になるんだ?

 「あー、その亡霊さんたちに何をやらせよーとしてんのかは知らんけど、知られたらそんなにマズイ話なんかね。
 あ、もしかしてダンジョンでーすって言いつつどっかに連れてって誰かと戦わせてるとか?」

 つーか何なんだよ、亡霊ってよ。

 『あの者たちは最終的には無駄なく活用されますのでご心配なく』
 「心配するわ! 何じゃそりゃ!」
 『件のブラックボックスを御する仕組みとして……あ』
 「何だそれ? 御する仕組みって何だ?」
 『……あなたはそれを壊しに来たのではないのですか?』
 「何言ってんの? 頭しかねーし何も出来ねーぞ?」
 『ではこの人形はどの様な原理で駆動されているのでしょうか』
 「んなことも知らんで話しとったんかい!」 

 俺も知らんけどな!

 『経験的には分かっていましたが……異形たちとの接触で彼らが未知の文明世界の住人であること、そして……』

 コレ、アレだよな。
 床下収納から出て来た奴ら。
 アイツらが言うに——

 「奴らも人間だってゆーんだろ?」
 『……何と……そこまでご存知でしたか。おみそれいたしました』

 だから知らんて。

 『彼らを地下世界で殺害したとき、一体につきひとりの異邦人……異世界人、と言うのでしたか……が、この町に出現することはすでにご存知のことと思いますが——』

 イヤだから知らん……てゆーかさらっと殺害するとか言っただろ!

 『なぜその様な現象が起きるのか、それを解明するべくこの地に研究施設を建設しています。
 そして幸いにして彼らは地下世界で起きたことを認知していない様子でしたので、まずは彼らを定住させてその文明的背景を研究することから始めました。それに続き……』
 「ほーん」

 幸いって何じゃい!
 つーか続きがあるんかい!


* ◇ ◇ ◇


 『……あの、どうかされましたか?』
 「取り敢えず説明どーも」
 『——え? あ、ありがとうございます?』
 「あー、キニセズニツヅケタマエヨ?」
 『あっハイ?』

 コイツはまごうことなき説明要員だな!
 そうと分かりゃ俺の口先三寸砲が火を吹くぜ!

 『それに続き、私どもはこの世界の成り立ちの調査に着手しました』
 「待ってくれ。この町も地下世界の一部、そういう認識なのか?」
 『その答え“はい”であり、同時に“いいえ”でもあります』
 「その“彼ら”はここが唯一の地上世界だと認識してるってか」
 『はい、ご指摘の通りです』

 分かってますぜってムーヴをかますのもえー加減つれーな。

 「へぇ、ここがねェ……」
 『……』

 しかしホントの話なのかね。
 てことはこの上にゃ現実の地上世界があるってか。
 まさかとは思うが単にそーゆー伝承があるとかって話じゃねーよな?
 ……ってギモンを自然体でぶつけてみてーけど、さてなあ。
 あと気になんのはいつか聞いた「船外活動」ってキーワードなんだよなあ。
 多分だけどコイツらの言う人形ってのは、要はアッチの環境で活動するためのロボットなんだよな。
 奴らは宇宙服みてーなの着てたっつーから、生身じゃコッチに来れねーとかそんなトコなんだよな、きっと。
 しかも定食屋()はそいつらと戦争してたってんだからコイツらがその敵対勢力だって可能性もある訳だ。

 それが仮に60年くれー前の話だとしたら、ここでの研究がアッチ側との戦争にどー繋がるんだろーな?
 聞く限りこの“人形”ってのもどーやって動いてるか分からねえオーパーツ的なヤツっぽいし、原因つーかそもそものコトの発端はまた別の存在が絡んでるって感じだよな。
 戦争っつってもコッチ側もどういう連中なのかがイマイチ分からんし。
 結局謎勢力対謎勢力の異世界大戦争なんだよなあ。
 それが俺の平穏な日常をぶっ壊したとして、その理由は一体何なんだ?

 「それで分かったことは?」
 『それはご説明いたしかねますね』

 おっと、ここに来てすっとぼけよーとしやがるか?

 「とか言っといて本当は何も分かってねーんだろ」
 『いえ、そんなことはありませんが、機密事項ということでご理解いただけますと助かります』
 「んでご丁寧に説明までしてもらったのはいーんだが、結局おたくらは俺をどーしたい訳?
 二人が戻って来るまで待ってれば良いって話じゃねーんだろ?」
 『このまま私どもにご協力いただけないかと』
 「上からの指示か?」
 『指示というか、その様な方針になっております』
 「そのココロは?」
 『恐らくですが私どもでは何かしたくてもどうにも出来ないのではないかと思いますので、そのような場合は話し合いを試みると』
 「へぇ。何か前例でもあるみてーな言い様じゃねーか」
 『そう伺っております』

 俺って重要参考人みてーな扱いなんだと思ってたが違うんかね。
 てゆーか上に会わせろよ上に……ってかこの町ってどこまでホンモノなんだろーな。
 部分的に切り取られた舞台に過ぎねえ仮初めの現実、そこに普段いねえ偉いさんなんて登場人物がそー都合良くいる訳もねーか。

 そーいやあの場面……ここに来る直前にバタンと音を立てて定食屋に入って来た人物、アレは多分母さんなんだよな。
 んであの後……確か誰かを連れ込んで“全部現実、全部本物”とか“責任とれ”みてーなことを言ってた気がするが……

 ……まあこんだけ時代がさかのぼってたら現実も何もあったもんじゃねーか。

 だがなあ。
 
 「じゃあさ、ここにずっと置いてもらって良いか?」
 『ここにですか?』
 「それとも何だ、別のどこかにご案内って段取りがすでに終わってたってな感じか? それとも——」
 『あの……直接お会いすることは可能でしょうか』
 「直接か……」

 さて、何て答えたもんかね。
 二人をどうにかしねーとならねーな。

 「そーだな、じゃあまずは俺を抱えたまんま“ダンジョン”に入ってもらおーか? そんなら応じてやってもいーぜ?」
 『あの、出来れば私のことは見逃していただけると』
 「俺と一緒にいりゃ大丈夫だって」

 知らんけど!
 てかやっぱヤベー感じなのか?
 コレ本人はどっか安全なとこにいるんだよな?
 ハメ殺しみてーになっちまったら寝覚めが悪ィぞ。

 俺のが立場が上みてーな絵面なのがビミョーに怖えーけどな!

 「だからさ、約束してやるって言ってんの」
 『約束……それは実際にどこかでお会い出来るということでしょうか』
 「だからそー言ってんの」
 『はあ……分かりました。約束ですよ』

 ゆーてクチ約束だから知らんけどな!
 70年代の仕事人てのはこんなんばっかなんかね。
 チョロいわー。

 「言っとくがな、俺は奴らの生活とか文化にゃーちっとばかし詳しいからな?」
 『えっ!?』
 「何だよ、その意外そーな顔は」
 『あ、いえ……じゃあ行きましょうか!』

 何だ? 急に元気になったが。
 まあそれならそれで好都合だな。
 チョロいわー。


* ◇ ◇ ◇


 「しかし受付(リビング)のすぐ裏(キッチン)にこんなとこ(床下収納)があるとはなあ」
 『皆さん()驚かれます』
 「ま、そーだろーな」
 『では、扉を開きます』
 「お、おう」

 トビラねぇ……
 つーか皆さんて俺ら以外見てねーんだけどなー。

 ギ、ギィィ……

 うーむ……
 マジで見た目が完全に床下収納なんだけどどーなってんだコレ。
 なんつって中から異形の皆さんが飛び出して来たりしてな!
 しかしもしそーなら他の奴らには別な景色が見えてたってことになるな。
 つまりは俺の時代にゃここが廃墟になってんのか。

 『あそーれぇ、ホイっ!』
 「へ?」
 『とぅ』

 ひゅるるるるるぅー……パシ。

 「イキナリ投げんな! つか何だよ、真っ暗?」
 『え? あ、ここからはワタクシがご案内いたします……というか同一人物なんですけど』
 「どゆこと?」
 『受付を空ける訳には参りませんので』
 「どっちがホンモノ?」
 『どっちもニセモノですって』
 「ロボット的なやつ?」
 『遠隔操作で動かしてます』
 「2台同時に?」
 『はい』
 「器用だな」
 『まあ、慣れですね』

 ホントかねぇ。
 中の人がいたって今別の方にも人が来たら同時に二人と話さにゃならんだろ。
 手足と顔を動かしながら同時にンなコト出来るんかいな。

 『不思議に思ってますね?
 あちらの人たちには“多重存在”というスキルです、と言ってごまかしてますが』
 「スキル?」
 『スキルとか魔法で説明すると大体が納得するんです。何なんですかね?』
 「ちょっと待て、今って何年だ?」
 『はい?』
 「今年って西暦何年?」
 『セイレキ?』
 「あー、分かった。やっぱいーわ」
 『はあ?』

 マジかー。
 今俺何語で話してんの問題が再び来ちまう感じかー。
 スキルとか魔法とか60年前の日本人が言い出す訳もねーし、まあそーゆーコトなんだろーな。
 ごまかすとか言ってるけど実際どーなってんだろーな?
 その人形が何なのかも分かってなくてそれをごまかしてるって感じじゃねーだろ。
 つーか真っ暗なのは俺だけなんかね。
 何だ、またかよって感じではあるんだがなあ。

 何はともあれ分かってますぜムーヴは続けねーとな。
 つーか続けられんのかコレ。

 「まあまずは明かりをつけよーぜ?」
 『え? 明かりならもとからついていますよ?』
 「つーことは今俺は目が見えねー状態なのか」
 『まあその状態で正常に稼働しているのも奇跡的とは思いますが』
 「仕組みもろくすっぽ分からんのによーゆーわ」
 『まあ完全に見た目で判断しているだけなのですが』

 しかし先に入った二人がいねーな。
 そんなに長話はしてねー筈なんだがなあ。

 『しかし気になりますね』
 「ん? 何がだ?」

 やべぇ、バレたか?
 イヤ、バレたら何だって訳でもねーんだけどな。

 『あなたをそんな姿にした乱暴なお姉さんという人物です』
 「まあアンタを狙っての犯行かもしれねーからな」

 もちろんテキトーだぜ。
 だってここは俺がバラバラにされた“場所”じゃねーからな。

 『いえ、それももちろん気にはなるのですが……』
 「?」
 『どんな方法でもキズひとつ付けられない筈のあなたをどうやってバラバラにしたのか、そのことが気になるんです』
 「そうか? フツーに人斬り包丁でズバッと両断された感じだったが」
 『ということはそのカタナに何か秘密がある、と……』

 ナルホド、その発想は無かったわー。
 言われてみりゃそーだよな、今までも何度か見たけど何で固定されてたりどーやってもバラせなかったりぶっ壊そうとしても壊れなかったり、そんなのばっか見てたからマヒしちまってたわ。
 それがフツーの感想だよなー。

 そういや特殊機構も破壊不能オブジェクトみてーな性質を持ってたよな……
 それってつまりそーゆーコトなのか?


* ◇ ◇ ◇


 考えてみたら何をしても壊れねー物質なんてこの世に存在するワケがねーもんな。
 何にしても気をつけるに越したことはねーな。

 『それで、ここに入ったら次はどうなさるのですか?』
 「まずは先に入った二人に合流してーんだけど」
 『ああ、それは無理ですね』
 「へ? そのココロは?」 
 『どの様な仕組みなのかは不明なのですが、入り口をくぐったタイミングでランダムな場所に飛ばされるらしいんです』
 「ランダムな場所? つまりここはさっきまでいた町から離れた場所なのか」
 『はい、おそらくですが』
 「おそらくねぇ……じゃあ二人は別れ別れにされたって訳か」
 『あ、いえ。一緒の筈です』
 「どゆこと?」
 『手をつなぐなど身体的接触を維持したまま入り口をくぐれば同じ場所に行けることが分かっていますので』

 あー、やっぱそーゆー仕組みなのね。
 しかしランダムな場所か……
 ……ん? 待てよ?

 「ここまでの話でひとつ腑に落ちねぇ点があるんだけど」
 『何でしょう?』
 「そんならアンタはどーしてココにいられるんだ?」
 『ああ、それは簡単です。私は全部の場所で待機しておりますので』
 「へ? 受付も?」
 『はい』
 「全部の場所を押さえてるってコトか? 未確認の場所なんてねーってコトなのか?」
 『えぇと……仕組みは分からないのですが……』
 「またソレ?」
 『こちら側では場所がひとつしかないんです』
 「ひとつ? 何だそれ? 誰か来るたびに増殖してるなんて訳じゃねーんだろ?」
 『えぇと……仕組みは分からないのですが……』
 「もうツッコミ入れんのも面倒臭ぇわ」
 『えー、その』
 「続けろってホラ、どーぞ」
 『はい。増殖しているかどうかの観測は出来ていないのですが、私自身は一か所で待機していて一か所で対応しているという感覚なんです』
 「でも他の場所じゃあ他のあんたが別な奴の相手をしてるんだろ?」
 『それは分からないんですよね……』
 「じゃあたまたま同じ場所に飛ばされたら?」
 『それも分からないんですよね……』
 「何じゃそりゃ」

 まあ実を言うと分からんでもないって感じなんだがな。
 定食屋でいつか見たアレだよな、入り口から今店にいる奴と同じ人物が入って来てアレ? と思って振り向くと誰もいねえってあのシーンだ。
 多分だけど俺がこっちに飛ばされたのってあのとき母さんが俺を連れて来たからとかそんな理由なんじゃねーのか?

 「じゃあここに来てから急に場所が切り替わったりしたことは?」
 『それはないですね』
 「あ、そーなの?」
 『何か思い当たることでもあるのですか? 可能なら教えていただきたいのですが……』
 「良いけどその前に2つほど確認させてくれ」
 『何でしょう?』
 「あんたと同じ姿の人物を目にしたことはあるか?」
 『いえ、無いですね……あなた以外はですが』

 なるほど……ナルホド?

 「あとさっき言ってた“こちら側”ってのはどーゆー意味だ? コチラってのはドチラだ?」
 『ああ、それはですね……何というか私の感覚なのですが』
 「アンタが属してる組織とかそーゆー意味じゃねーってコト?」
 『はい。何というか、感覚としてはひとつの場所でひとりひとりと向き合っているのですが、相手からしたら違って見えるらしい……というのが分かって来たというか……』
 「分かって来た、というのは?」
 『何となくですが、話がかみ合わないときがあるんですよね……』
 「相手がボケをかましてるとかじゃなくてか?」
 『はい、経験した事実が異なっていると感じることが度々ありまして……』

 ナルホドなあ。
 コレ、俺の感覚と違って飛ばされてるって自覚がねーんだな、多分。
 この違いは何なんだろーな?
 先入観の差か? いや、そんなレベルじゃねーな。
 しかしこの受付が俺に興味を持つに至った理由が分からねえな。
 誰なのか分からんけど上からの指示ってヤツなのか?
 だけど今の話からしたらそれすらも怪しいぞ。

 あるいは俺の素性に何か心当たりがある、んで自分が感じてる違和感の正体を解き明かしてーと思ってる、そんなとこか?


* ◇ ◇ ◇


 「なあ、自分の感覚じゃどう感じてるんだ?
 自分がおかしいのか、それともまわりがおかしいのか」
 『……実際のところどうなんでしょうか?』

 うーん、あの町はやっぱり親父の会社(?)の施設の一部だったんだよなー。
 そっからここに来るまでの間に少なくとも2回は場所が変わってる筈だ。

 「俺が思うに、あの町にいるって時点でまわりがおかしくなってるコトに気付くべきだったな」
 『えっ?』
 「そーなると職務なんて概念が成立すんのかも怪しいんじゃね?」
 『どういうことですか?』
 「感覚がずれてるってのはあながち間違いじゃねーと思うんだよな」
 『具体的には?』
 「実際には“ダンジョン”てとこに入ったときと同じことがどっかで起きてるんだよ。
 似てるけどちょっと違う別な場所にさ」
 『じゃあ今まで受付でやっていたことは』
 「その受付が同じ場所だったとは限らねえな」
 『でもどうしてそんなことが……』
 「それは知らんけど、時間の経過とか場所の移動とか……それから……何らかのアイテムかな……」
 『アイテム? 道具、ということですか?』
 「あー、まあそういうことになるな」

 アイテムって言葉はなじみがなかったか。
 しかしここで羽根飾りってキーワードは出て来ねーか。

 『あの、そういえばこのダンジョンの入り口を開けるときに専用の鍵が必要なのですが、それもアイテムというものに含まれるのでしょうか?』

 なぬ?

 「もちろん。その鍵ってのは今も持ってんのか?」
 『はい……あ、入り口の外側で、ですが』
 「あわ、ナルホド。ちなみに今どーなってんのかは……」
 『すみません、分からないですね』
 「まあそーだよな。ちなみに鍵ってのはまんまガチャって空ける鍵なのか?」
 『あ、いえ。この位……結構大きい羽根の形をしていますね。
 これまたどういう仕組みなのかよく分かっていないのですが、その鍵と同じ形の刻印が扉にあって、そこにこう、かざすと開く仕組みです』
 「そこは同じかー」
 『どこか他にも同じ様な扉があるのですか?』
 「ああ、まあな。知ってるだけで2ヶ所かね」
 『あの、そんなに簡単に話してしまって良い情報なのでしょうか……』
 「さあ、知らね」
 『そ、そんな適当な……』

 んなこと言われてもなー。
 何かさ、俺ってガキの時分にあの町に住まわされてて、実は初めっからおかしな環境にズッポリのドップリだったってのがハッキリしちまったからなー。

 『っておっととっとっとっとおおお!』
 「危っぶね! 落っことすなよな!」
 『すいません、何かに足を引っ掛けました』
 「って歩きながら話しとったんかい!」
 『はい、時間ももったいないですし』
 「どこに向かってたかくらい説明しろっちゅーに」
 『何じゃ、やかましいのう。もーちっと静かに出来んのか』
 「あースンマセンすー、コイツおしゃべりなんでー」
 『軽っ!?』
 「って誰!?」
 『何じゃ、誰かと思えばお主じゃったか』

 おろ? この声は……

 『お主と言われましても……どなたでしょうか?』
 「もしかしてもしかしなくてもドラゴンさんか?」
 『おっと、思わぬところから返事が返って来おったぞい』

 えー、そーいやこういう訳の分からん奴がいたのをすっかり忘れてたぜ。
 こんなのまで親父の会社(?)絡みなのかね。

 「結局俺らはあの後どーなったんだ?」
 『俺ら、とは何じゃろうかのう?』
 「あ、そーか。俺だよ俺俺」
 『今度は何じゃ、新手のオレオレ詐欺か?』
 「オレオレ詐欺じゃねーよ、だいいちこっちだって“お主”って誰やねんって思ってんだからお互い様だぞ」
 『コレ、新手の玩具なんかのう。お主はこーゆーのが趣味なんかの』
 『違います!』

 バタン。
 ん? 誰か入って来た……ってここって部屋ん中だったんか?

 『あ、間違えました』

 バタン。

 ……何だったんだ?

 『えーと……もう訳が分かりません!』
 「まあそうだよな」
 『何なんですか、オレオレ詐欺って』
 「そこかい!」

 考えてみりゃ今いるのって1976年て設定の場所なんだよな。
 まあ76年にオレオレ詐欺なんてねーよな。
 イヤ、今さっきの問答の内容からして76年ですらねーのか?

 ここはいつのどこなんだ?


* ◇ ◇ ◇


 「なあ、さっきの今で聞くんだけどさ」
 『今も何も今初めて会ったばかりじゃろ』
 「えー真っ暗だから会ったって実感無いしー」
 『あのー』
 『真っ暗じゃと? 何を言っとるんじゃこ奴は』
 「アレ? 最後真っ暗じゃなかったか?」
 『最後って何じゃ?』
 『すみませーん』
 「あー、分かったぜ。アンタは俺の知ってる奴のソックリさんてことにしとく」
 『むむぅ……何じゃかスッキリせんのう』
 『私は分かりませんてさっきから言ってるじゃないですかー』
 「あー、悪い悪い。じゃあ現状を確認しよーぜ」
 『ぬぬぅ……なぜに我を差し置いてお主が仕切るんじゃ……』
 「文句ある? あ、もしかして町内会長サマだからか?」
 『ちょ、町内会長ぉ!? ダンジョンでぇ!?』
 『待て、なぜそこでビックリするのじゃ!』
 「ハイハイそこまでなー。こーなるから俺が仕切ってやるっつってんだよ」
 『ぐぬぬ……分かったわい』
 『もとから反対の余地はありませーん!』

 えー加減飽き飽きしてる作業だがまあやむを得ねーよな。

 「確認してーことがいくつかある。分かりきったことだと思ってもマジメに答えてくれ。あとツッコミてえと思うことがあってもガマンしてくれ」
 『いちいち聞かんでもええわい』
 『もとから反対の余地はありまし……せーん!!』

 コイツ今ありましぇーんて言いそうになったな?
 あわてて取りつくろったけど実は90年代生まれなんじゃねーのか?
 ……まあ良いか、ツッコむなって言ったハナから言った本人がツッコんでたら示しがつかねーしな!

 「まず、ここはどこだ?」
 『詳しくは分からんが何かの遺跡じゃな。しかも相当でかいぞ』
 『町とつながるダンジョンのひとつです』
 「なるほどな、ここはダンジョンで巨大な遺跡か……どっちてあっても矛盾するとこはねーな。
 ちなみにお互いの姿は見えてるよな?」
 『我からは見えておるぞ。女性型の人形が同型の人形の頭部を抱えておるな。
 今オレオレとしゃべっとるお主は首だけの方じゃな』
 『えぇ……私からは声はすれども姿は見えずの状態なのですが』
 「ちなみにさっきも言ったが俺目線じゃここは真っ暗闇だぜ」
 『それはお主の目がぶっ壊れとるからなのではないかのう』
 『えぇと……さっきまでは見えてましたよね?』
 「ああ、この“ダンジョン”に入る前にはまわりもちゃんと見えてたぜ」
 『何と……不思議じゃのう』
 「ちなみにこの場所は広さ的にはどんな感じなんだ?
 俺の記憶じゃ今話してるドラゴンさんは家いっこ分くれーの身長があったけど」
 『廃墟、というのは一致してますね。ただ、周囲は石のガレキばかりで巨大な遺跡があったかはこの景色からでは判断出来かねますね』
 『我の目からも同じ様に見えるが違う点があるとすればそのガレキの上に新しい建物が建っているとこじゃな』
 「つまりガレキの上に新しく町を建設したってことか」
 『そのとおりなのじゃ』
 『すみません。そうなると巨大な遺跡、というお話はどこから出て来たのでしょうか?』
 「そうだな、それは俺も思った」
 『それは単純な話じゃ。この場所自体が大きな縦穴の底に存在しておるからの』
 『自然洞穴なのでは?』
 『この穴にすっぽり収まる形をした人工的な構造物が存在した痕跡が壁面の至るところに残されておるんじゃよ』

 あー、それって何か上の方に出っ張ってた奴か?
 あーゆーのが他にもあるんかね。
 ……じゃあ俺が住んでた町はやっぱこことは別モンなのか?
 いや、床下収納が入り口になっててこっちに繋がってたなんてコトがあんのか?
 大名屋敷じゃあるめーしンなコトあるわきゃねーか。
 そーいや前にドラゴンさんに会ったときは推定定食屋の古い屋敷の裏手から飛ばされたんだっけか。
 それが巨大名構造物の一部だった?

 うーむ……分からん。

 『ちょっと待ってください。私の目からは地平線が見えるくらいに開けた場所なのですが、それも一致していますか?』
 『それは違うのう……かなり広いが地平線が見えるほどではないからの』

 入り口が床下収納的な場所だったからな、やっぱ俺が通って来た場所と何かリンクしてんのかね。
 いや、そーすっとこっちでのスタート地点の定食屋()は何だって話になっちまうな。

 『何やら難しそうなことを考えておるの?』
 「ん? まあな。俺が通って来た場所との位置関係がな」
 『そもそもの話、単に見た目が似とるだけでお主の記憶とは全く別な場所におるのではないのか?
 我とて他人の空似かもしれぬと思ったのであろうに、全部が全部同じく似て非なる場所という発想に至るのはごく自然なことだと思うがのう』
 「さすが! 頭良いな!」
 『私もはじめからそう思ってましたけど』
 「はい?」
 『お主何か分かった風なことを言っといてその実何も分かっとらんかったのではないのか?
 かっこ悪いのう、ぬははははは』

 えー、確かに先入観みてーなのはあったけど……そーなのか?


* ◇ ◇ ◇


 『そもそもですよ? こんな変な状況になったのは初めてなんです』
 『変な状況とは何じゃ? 我は別に何とも思うとらんぞい?』
 「俺らが急に現れたとこも含めての話?」
 『急に? はて、そうじゃったかのう?』
 「えー、何か間違えましたーとか言ってたアレは?」
 『何じゃそれは? 前言撤回じゃ。やっばお主ら変じゃぞ?』
 『すみません、それじゃ私も変みたいじゃないですか』
 「え、変だろ」
 『変じゃありません!』
 『お主、話が進まんから任せろと言ったんじゃなかったんか』
 「あー、俺としたことが。正直スマンかったわ」
 『有り体に言ってアホじゃのう』
 「行ったハナからあおんのやめーや」
 『何でこう三者三様なんですかねぇ』
 「そうだな、今この場で見聞きしてるもの全部に関してな」

 うーむ……直接触れたらお互い見えたりすんのかもしれんけどなー。

 「ま、多分原因は俺なんだけどな」
 『原因かどうかは分かりませんが、少なくとも首だけで登場した方はあなたが初めてですね』
 『待て、ナゼにそーなるのじゃ?』
 「あー、その反応新鮮だわー。今までは大抵が俺のせいで片付けられてたからなー」
 『そのココロは何じゃ?』
 「まず、じっさい起きてることとして俺を経由して見聞きできねーモノに触れるよーになるっつーか……一緒にいると別な場所に移動しちまうんだよな」
 『では先程のお二人も?』
 「まあご想像の通りだぜ」
 『それで新顔さんと間違われていた訳ですか』
 「新顔にゃ違ぇねーだろ?」
 『何の話か分からぬぞ。我にも分かる様に説明せんか』
 「コッチのねーちゃんがいたとこじゃよそから団体さんで転移させられた人がゴマンといてさ」
 『ゴマンと言うのは文字通り五万人くらいはいるということなのかの?』
 『まあ、そうなりますね』
 「ちょっと待て、アンタらどんだけダンジョンの中でコロコロしてたんだよ」
 『コミックか何かかのう?』
 「何でそのボケが出て来る……じゃなくてぇ!
 つーかさっきからアンタもフツーにドラゴンさんとしゃべってるけどやっぱ見えてねーから?」
 『怖くないかということですか?』
 「まあ端的に言えばそーなるな」
 『怖いとか失礼千万な奴らじゃのう』
 『まあそこにいるって実感がないですからねぇ。それに……』
 「他になんかあんのか」
 『そのドラゴンさんというのも人形なんじゃないんですか?
 そう考えると』
 「えー、そーなんか。前にブレスとか見たけどそれは……っつーかあのイカのバケモンは間違いなくナマモノだったからなー」
 『イカのバケモノ? そんなのがいるんですか?』
 『今はおらんがたまに見るのう。我は余り気にせぬがブレスで丸焼きにするのは悪手じゃぞ』
 「メッチャ臭ぇんだよな」
 『そこまで知っとるのか』
 「人じゃねぇんだよな」
 『アレは違うな。さっきのはやはりそのことじゃったか』
 「まあな、前に会ったときは冬だったんだよな。そーいや真っ暗だから見えねーけどドラゴンさんが今いるとこって寒くねーか?」
 『暑さ寒さはそれほど気にしたことはないが雪なら降っとるぞ。かれこれ1万年ほどな』
 「い、いちまんねん!?」
 『あの……一体いつからここに……?』
 『そりゃ前回のリセットのときからずっとじゃ』
 『リセット?』
 『確か大災厄とか言ったかの』
 『大災厄!?』
 「ナ、ナンダッテー!?」

 いや、何それ? 知らん言葉が出て来たぞ?
 受付のねーちゃんも何でフツーにビックリしてんの?


* ◇ ◇ ◇


 『そ、その……一体どれだけの時間をここで……』
 「あん? 何をそんな大ゲザな」
 『しかし“大災厄”ですよ? それが実際にあったなんて』
 「イヤ、そんなん知らんし」
 『え? 誰でも知っているおとぎ話ですよ』
 「誰でもって、オメーらの常識なんぞ知らんから」
 『おとぎ話とはまた随分と大げさな話じゃのう』
 「待てよ、何でここに来て共通の話題で盛り上がってんだよ」
 『言われてみればそうですね』
 『何じゃ、お主だけ仲間外れか。ぬはははは』
 
 ぬははじゃねーっつーの、このオッサンはよォ……
 しかしおとぎ話だと……?
 この受付は日本人かどーか怪しーなとは思ってたけどこりゃ連中のお友達だったか?

 「こんだけ意気投合すんだったら意外とオメーらオナ中だったりすんじゃね?」
 『お、オナチュー? 何ですかそれは?』
 『はて、我は学生の時分はボッチだったから分からんのう』

 えー、冗談のつもりだったんだけどドラゴンさんの方からそのセリフが出て来るとは思わんかったわー。
 どっちかっつったら受付の方だろコレ。完全に逆じゃんかよー。

 ……じゃなくてえ!

 「学生って何じゃい! ドラゴンの学校なんてあるんかいな!
 メダカの学校じゃあンめーしよォ」
 『とことん失礼なヤツじゃのう。我にだって純粋無垢な子供時代というのは存在したのじゃぞい?』
 『そっそれは大災厄の前ですか後ですかどーなんですかぁ!?』
 『何か怖いんじゃけど!?』
 「何言ってんだコイツ」
 『コホン……失礼しました』
 「んでそのリセットってのは結局何なんだ?
 前にあったときはパーンてなるのじゃーとか何とか言ってたが」
 『何じゃ、知っとるではないか』
 「イヤ知らんから」
 『だからパーン、てなるんじゃよ? 合っとるじゃろ』
 「コントしに来たんじゃねーっつーに」
 『じゃあ何しに来たんじゃ?』
 「えーと……何だっけ?」
 『用もないのに来たんか、呆れた奴じゃのう』
 『あの、パーン……とはどういった擬態語ですか?』
 『パーンはパーンじゃろ』
 「ボキャ貧極まり過ぎじゃろ!」
 『我のマネすんなやー、なのじゃ!』
 『お、お二人とも落ち着いてくだしゃい!』
 「オメーが一番落ち着いてねーだろ!」
 『す、すみません……』
 「それで結局そのリセットとやらがあったときからいるって、その前はどーだったんだ?」
 『その前なんぞ知るか。リセットされた時点でここにおったんじゃからのう』
 「ここにいるのが初期状態だからってか?」
 『そうじゃ。リセットというのは文字通りのリセットじゃ』
 「じゃあその初期状態は誰がいつどうやって設定したのかについてはどーだ?」
 『さてな、我には分からぬよ』
 「ここは初めっからでっかい縦穴だったってことかね」
 『少なくとも我にとってはそうじゃな』

 ほーん。
 ホントかね?
 まあ俺からすりゃまわりは真っ暗だし、実際のところここがあの廃墟だなんて確証はミジンコ程もねー訳だけど。

 『すみません、それでは“大災厄”は何度も繰り返され、その度に世界は時が巻き戻されている、ということになりますが……』
 『状態が戻っとるのは確かじゃが時間が巻き戻されているかどうかまでは分からんのう』
 「じゃあリセットされた自覚はどっから湧いて出て来るんだ?」
 『そりゃリセットされたって記憶まで巻き戻る訳じゃないからのう』
 「じゃあ事実上のトシがいくつなのか分からんくれーにはなっとる訳か」
 『いや、そんなことは無いぞ』
 『それはどういうことですか?』
 『我、何度となく死んどるらしいからの。多分じゃが』
 「それまでの記憶はねーのか?」
 『あいにくとな』
 『しかし全くのゼロから始まる訳ではないのでは?
 それとも死んだらスタート地点が変わる、とかでしょうか』
 『前と違うかどうかは分からぬよ、どうやら我は死んだときにリセットされるらしいからの』
 「まわりも一緒にか? それともあんただけ?」
 『いや、どうやらまわりがリセットされるタイミングはまた別らしいのじゃ。やられた場所を見たり聞いたりしとるからの』
 「見たり聞いたり? あんた以外にも住人はいんのか……ってまあ町内会長とか言ってる時点でいるか……うーむ」
 『そもそも、仕組みも理由も分からないんでしょうか。まあ今に始まったことではありませんが』
 「待てよ、“やられた”ってのは何だ?」
 『文字通りじゃよ。聞いた話じゃと誰かと戦って負けたとかそんなのが多かったのう』
 『あ、あの……もしかしてこちらからダンジョンアタックと称してそちらに行った者達と遭遇したのでしょうか』
 『それは我もリセットを繰り返しておるゆえ分からぬよ。まあ今聞いた話じゃとその可能性は否定できんのう』
 「オイ、どーなってる?
 ここでやられた奴は上で人間としてリスポーンするんじゃなかったのか?」
 『リ、リス……何ですか?』
 「ダンジョンでモンスターを一体討伐するたびに地上に人間が一人ずつ出現するって話があっただろ。
 じゃあ今俺らと話してるドラゴンさんがやられたら同じドラゴンとしてダンジョン内で復活してきたって言ってる話はつじつまが合わねーんじゃねーのか?」
 『なるほど、確かに』
 『何じゃと? そんな話は初耳じゃぞ?
 そんなことが可能なら喜んで討伐されてやるわい』
 「待て、早まるなよ。そうと決まった訳じゃねーんだ」
 『可能性としては私どもが案内した者達以外にここで何らかの活動を行っている集団がいて、その集団と接敵して戦いになった、といったところでしょうか』
 「しかし復活するときの姿と場所、それが誰にやられたかってことで左右されるなんてアホなことがあんのか?」

 そもそもやられたらリスポーンするって何だ?
 ホントにダンジョンみてーじゃねーか。
 俺自身もいつまでこのまんまでいりゃいーのか分かんねーし、何か糸口はねーのか糸口はよ……!

 『あのー……』
 「今度は何だよ」
 『つかぬことをお尋ねしますが……』
 「もったいぶらねーで早よ言わんかい」
 『これ以上進めません』
 「へ? つーか歩いてたの?」
 『はい』
 「で? 見渡す限りの水平線が拡がってるんじゃなかったんか?」
 『いえ、前方はそうなのですが……足元を見たら切り立った崖になってまして』
 「回避ルートは?」
 『見渡す限りずっと崖なんですが……』
 『崖? そんなものは我には見えんがのう? いっそのこと飛び降りてみたらどうじゃ?』
 『えぇっ!?』

 何だべ? いや、モノは試しか……?

 「よっしゃ、行くか!」
 『えぇぇぇぇ……!?』

 まーそーなるよな。
 ここいらでドラゴンさんにバトンタッチかね。


* ◇ ◇ ◇


 「なあなあ、ドラゴンさんや」
 『何じゃ、改まってからに』
 「あー、いっこ聞くけど俺らを抱えて歩いてもらうコトって出来たりするんかね?」
 『えぇぇぇぇ……???』
 『まあ、出来るとは思うぞい』
 「んじゃーよろしく」
 『しかしこっちが見えとらんじゃろ、じゃからそのまんまだと持ち上げにくいんじゃ。
 ちと直立不動の姿勢を取ってほしいんじゃがのう』
 「直立っつっても俺は落とすなよー」
 『こっこここっこっこうかしらあ!?』
 「ニワトリかい!」
 『良し、持ち上げるぞい……そりゃ』
 『ひょえー』
 「ソレ人形なんだろ。宇宙猫出来るとか器用だな」
 『いやだって何で今宙に浮いてるんですかあ……あ、うちゅーねこってそーゆーイミですかあ!?
 物理法則的におかしいですって絶対ィ!』
 「何を今更」
 『そうじゃぞ……そうじゃぞ?』
 『今の絶対単なるノリで言ったでしょう! 崖崖っ! そこ崖ぇ!』
 「うるせーなあ。ちっとばかし黙っとってくれんかね」
 『イヤでもうちゅーねこがぁ』
 「それ用法間違ってっから」
 『これこれ、足をバタつかせるでないぞ。抱えにくいじゃろ。
 落っこちるぞい』
 『ひえぇぇぇ』
 『ところでうちゅーねことは何じゃ?』
 『スマン、死語の世界行きのワードだった。忘れてくれぃ』
 『すまぬが何のことやらサッパリじゃ』

 このよーにうちゅーねこなんて言葉をヘタに使ったらトシがバレるんだぜぃ!
 死語の世界も以下同文だぜ!
 
 『のんきに話してる場合じゃ……』
 「マジ何でそんなに怖がんの? ……あー分かったぜ、ホントは人形じゃなかったりとかか?」
 『そんなことはありましぇん』
 「もうすっかりキャラが崩壊しきっとるな」
 『念のために言っておくが我の腹の上で粗相をするでないぞ。そんなことしたらまじで放り投げるぞい?』
 『はっはぃ……』

 しかしこの受付からはどう見えるんだろーな?
 あるはずのない場所を歩く訳だし……っていつかの定食屋みてーにマップの外に出ちまった感じになんのかね。
 あと自己申告で人形ですとか言ってるけどその場合はどうなる?
 物理的な接触で相手の橋渡しが出来るのは分かったけど、人形ってのが何なのか分かってない以上はどーなるか想像もつかんな。
 ……てことは黙っとこ。
 まあ俺はなんも見えてねーからダメージゼロだけど。
 つーか人形が粗相なんてするんかね。

 「ところで」
 『ところで』
 『と、ところでぇ』
 「何だよ、先に言えよ」
 『我、どこに向かっとるか知っとる?』
 「知らんがな」
 『えぇ……そもそも私真っ暗なんですが……』
 「え? アンタも? つーかまた俺の知らん間に移動しとったんかい」
 『だってヨロシクって言ったじゃろ』
 「そりゃ言ったけどよー。つーかそれでどこに向かっとるんかなんて聞いて来た訳か」
 『ノリと勢いが大事なんじゃぞ』
 「ナゼにそんなに偉そうなんだ……?」
 『あ、何か見えます』
 「へ? 何だよヤブから棒に」
 『そんなこと言われましても……』
 「んで何が見えたって? 今さっき真っ暗だーとか言ったばっかじゃねーか」
 『いえ、本当にたった今の出来事だったので』
 「で、見えたってのは?」
 『はい、小さな光というか……はるか遠くにひとつ、光って見えるものが……って今度は何か聞こえてきましたよ?』
 「はあ? 何だそれ?」
 『我にも何のことやらサッパリなんじゃが』
 「ドラゴンさんからしたらフツーに町の中を歩いてるだけなんか」
 『最初から一貫してそうじゃぞ』
 『すみません、ちょっと静かにしてもらえませんか?』
 「分かったけどさっきとの落差がひでーな」
 『まあまあ、せっかくだから静かにしてやろうではないか』
 『……ん?』
 「何だ? 今度はちゃんと聞こえたのか?」
 『えぇと……』
 『もったいぶらんで早く言うのじゃ』
 『あの……私の聞き間違いでなければなのですが……』
 「何か言い辛そうにしてるけどまさかのソッチ系?」
 『違います!』
 「じゃあ何だよ」
 『あの、“帰りに八百屋で長ネギを買って来い”と……』
 「はい?」
 『何じゃ、我への伝言じゃったか』
 「誰からだよ! つーかドラゴンが八百屋で長ネギ買うんかい!」
 『何が悪いんじゃ! それに突っ込むなら金はどーすんだとか他にもっとあるじゃろ!』
 「え? 金持ってねーの? 俺も持ってねーけど」
 『あ、あの……私持ってますが……』
 『そ、それなら我に180円貸してもらえんかのう?』
 「現金かよ! つーか安っ!」
 『もう何に突っ込んだら良いのか分かりません……』

 あ、何本買うんだろ。
 ……じゃなくてえ!


* ◇ ◇ ◇


 「話は戻るけど、どこに向かってんだ俺たち。
 まさかホントにネギ買いに行く訳じゃねーだろ?」
 『そりゃモチロンそうじゃ』
 『あの、今声をかけて来た方はどうされるのです?』
 「あー、言い返してやれや」
 『何と?』
 「そりゃ決まってんだろ、バカめーだよ」
 『はい?』
 『お主、そのギャグは年齢偽っとらんか?』
 「何そのツッコミ! ぎゃくに怖えーわ!!」
 『はぁ……何だか分かりませんけど今のは冗談ということですね?』
 「当たりめーだろ! つーかリアタイかもしれねーのに知らんのか」
 『だって、マンガは子供が見るものですから』
 「知ってんじゃねーか!!」
 『これこれ、お主らメタネタで盛り上がるのもたいがいにせんか』
 「アンタが言うんかい!」
 『あの、ネギの方が待ちくたびれてキレそうになっていますが』
 「ネギの方ってひでーな」
 『だってそれ以外に言い様がないじゃないですか』
 「そーだけどよ」
 『お主がネギ呼ばわりしとるからじゃろ』
 『ちゃんと聞こえない様に小声で言いました』
 「ネギの方であってネギそのものではねーだろ」
 『あ、こっちに走って来ます』
 「え、そーなん?」
 『それはフシギじゃのう』
 『何がですか?』
 「だってまわりが見えねーんだろ?」
 『ちなみに我にも見えとらんぞい?』
 『え?』
 「え?」
 『待ってください、今こっち見てますか?』
 「そりゃなあ」
 『あっ!?』
 「どした?」
 『あーっ!?』
 「いや、だからどしたん?」
 『い、いえ……これはですね……』
 『何なんじゃ?』
 『ナマ首を抱えた怪しい女が直立不動でスーッと移動してきたぞーって騒ぎになってます……』
 「待て、ネギはどーした?」
 『それ重要!?』
 『向こうからコッチは見えとらんのじゃろ? じゃあその者らにはこの辺りはどう見えておるのかのう』
 「こっちが話してんのは向こうに聞こえてんのか?」
 『どうでしょう? 話しかけてみますか』
 「おう、“地獄の使いたる我が主への不敬は許さぬぞー”とか言ったったれや」
 『言いませんよ、そんなこと……あの、すみません。
 ……はい、ああ、その……先程のネギというのは……ああなるほど、分かりました。ありがとうございます。
 え? 違いますが……あの、そんなこと言われても困るのですが……話してみますので少しお待ち下さい』
 「こっちから向こうが何て言ってるのか分からんのがなあ」
 『我にはコッチの発言も一部聞き取れんかったが』
 「あ、俺もだぜ」
 『取り敢えず今のお話をまとめると、長ネギを買ってこいというのは別に私に向かって言ったことではないそうです』
 「まずそれか。まあ分かるけど。んで?」
 『その首は生きている様だがデュラハンなのかと聞かれました』
 「おろ? ネギ買って来いとか言ってるけどそういう世界観?」
 『我がおるのにソレ言っちゃう?』
 「デスヨネー。で?」
 『はい。それでですね、当然違いますと答えた訳ですが、私が使役する使い魔ならばこちらの町に居を構えてはどうかと提案されまして……』
 「ほうほう、つまりダンジョンの中に町があり、そこの住民にならないかと勧誘されたと」
 『まあその話に驚きはないのう。ヨソから見たら我らも同じじゃからの』
 「同じっつーのは自分目線じゃ他の奴らはみんなダンジョンの住人だぜって話だよな」
 『八百屋さんが未帰還になってしまったのでネギが不足していると』
 「話が見えねえ!」
 『私が今話しているのはネギなどの野菜を入手する目的で計画されたダンジョンアタックのメンバーなんだそうです』
 「何でダンジョンに野菜が……そーいや八百屋のおばちゃんはどっから仕入れてたんだっけな……ってもっと話が見えねえよ!」
 『あとはあなたの素性について説明しなければならないのですが……』
 『我は?』
 『特に何も……そもそも彼らの目に映っていないのだと思います』
 『イヤ、さっきからメチャクチャ目が合っとるけど』
 『え?』
 「ええっ!?」

 まさかの見て見ぬフリ!?
 つーかそもそもコイツら何なんだ?


* ◇ ◇ ◇


 つーかドラゴンさんが見えてるんだったら絵ヅラ的にゃーなかなかにヤバめな感じなんじゃねーか?

 『どれ、ちっとばかし驚かしてやるかの。
 ほーれ、がおー……お、バツが悪そうに目をそらしおったぞ?』
 『あ、遊ばないでください』

 えー、バツが悪そうって知り合いなんかー。

 「結局どーゆー状況なんだ? つーか実は顔見知りだったりすんの? 俺だけカヤの外みてーでイヤなんだけどー」
 『いや、我は知らんがのう』
 「じゃあ目をそらすほどヤベー見た目なんか」
 『失礼なヤツじゃのう。我はシュッとした感じのカッコイイイケメンじゃぞ?』
 「さいですか」
 『信じとらんなお主、我に会ったことがあるというのはひょっとして虚言なのかのう?』
 「俺が知ってるドラゴンさんはテッパンのイメージっつーかガタイは家一軒分くらいあったし、そんなん目の前にいたら現実逃避したくもなるだろ」
 『お主は現実逃避しとらんではないかの?』
 「とっくにしとるわ! 現実でナマ首とかあり得ねーだろ!」
 『え、コレ現実じゃないんか?』
 『あ、あの……そろそろどう回答するか決めませんと』
 「じゃあ何で目をそらしたのかって直接聞きゃー分かんだろ」
 『あのー、聞いてます?』
 「聞いてるって。教えねーと一考の価値もねーぞって脅しちゃれ」
 『あ、はい。………あの、……あー、なるほど……え? 違いますよ? ええ、単に運んでもらっているだけです』
 『なあ、こ奴ら何か急に謝り出したんじゃけど?』
 「こういうとき声だけ聞こえねーのも不便だな」
 『むしろ何にも見えん方が何も考えんでええから楽じゃしのう?』
 「俺を見て言うなよ」
 『あの、聞いてみた結果なのですが』
 『何で急にペコペコし出したんじゃ?』
 『えぇと……操り人形を器用に動かして一生懸命人間さんのフリをしてるのを台無しにしたら悪いと思って合わせてあげてましたぁ、だそうです』
 「何ソレウケるー」
 『ソレはつまり我が残念なドラゴンだと思われとったということか』
 「また出た! その残念て概念を理解してるとこが怖えーんだけど!」
 『何をそんなに残念に思っていると?』
 「あー、そのかみ合ってない返し聞くと安心するわー」
 『はあ?』
 『で、お主らどーすんの?』
 「何か急にテキトーになって来てね!?」
 『だってこ奴ら悪い奴じゃなさそーじゃろ? 手伝ってやったらどうじゃ?』
 『あの、この体勢のままは厳しいのでは……?』
 「直立不動のまんま“おつかれっすー”とか言って出勤すんだろ? 無理ゲーだろ」
 『ゲーとはゲー、ヴェー、ゲーダッシュのゲーのことでしょうか?』
 「俺が知らんわ、そんなん」
 『この奈落の底に搾取階級なんぞおるんかのう』
 「話がどんどん不穏な方向に行ってる気がすんだけど!?」
 『何、お主らをどっかテキトーなところにポイ……じゃなかった送り届けたら戻って来れば良いのじゃろ?』
 「今ポイっと捨てるって言いかけてなかった? つーかそれじゃ会話が出来ねーだろ」
 『何、ナントカなるじゃろ。ホレ、後から我だけ参加してやると伝えるが良いぞ』
 『は、はい。それでは……あのですね……え? あーなるほど。伝えます』
 『何と言っとるのじゃ?』
 『えぇと……非常に申し上げにくいのですが』
 「お、面白そーな展開?」
 『茶化さないでくださいね。ドラゴンさんは体が大き過ぎて戦力にならないと……』
 『がーん』
 「うん、知ってた」
 『じゃがのう……』
 「だってソイツらの仕事って長ネギの収穫だろ? 見えてねーけどそのガタイじゃ引っこ抜くだけでもひと苦労だし、そもそもダンジョンに入れねーだろ」
 『正論過ぎてぐうの音も出んかった!』

 しかしまあ、たかだかネギの収穫なんぞで何でそんなに大騒ぎするんかね。


* ◇ ◇ ◇


 「なあ、ネギってネギなのか?」
 『それってそのまま伝えて通じますかね』
 「じゃあ何て言やあ良いんだよ」
 『そんなの分かりませんよ。だって私も分かっていませんから』
 「ホラ、何かの隠語とか、そーゆーのがあんじゃねーの?」
 『えっ……隠語ですかぁ』
 『隠語というのはイヤな客とかそーゆーアレかの?』
 『あっ、そういう……』
 「オメーぜってー違うベクトルの想像してただろ」
 『おゲレツは禁止なのじゃ!』
 「そーだそーだ」
 『わっわっ私はおゲレツなんかじゃありましぇん!』

 んー、何か既視感のあるやり取りだぜ……
 思えば遠くへ来たもんだなーとかそーゆーことばっか考えてたけど、意外と近くだったりしてなー。
 何かのキッカケでポンと戻ったりとかなー。
 ……あー、まさかとは思うけどそんときもナマ首のまんまなんかねー。

 『で、何て聞いてみます?』

 ナマ首抱えた受付のねーちゃんが虚ろな顔して直立不動で浮いてたら、定食屋のヤツもビックリすんだろーなあ。
 でも孫にゃこんな姿見せらんねーな。
 ビックリして腰抜かして息子の嫁がしねばいーのにとか口走りながら蹴っ飛ばして来そーだぜ。
 はぁ……つーかどーやって来たのかも分かんねーのにどーやって帰るんだよって話なんだよなあ。

 『おーい、聞いとるかー、てかついにただのナマ首に戻ったんかのう?』
 『ひぇ……あっあっ』

 あっあって何だよ。あっあってよー。
 そのうちあばばばばばーとかみょみょーんとか言い出すんじゃねーだろーな。

 ……じゃなくてえ!

 「オイ、ビビって放り投げんなよ……って手遅れかあ!?」
 『はっ!? わったたたったったったったっとお!
 ……ふう、危ないあぶない』
 『おー、お見事お見事、10点満点じゃ』
 「えーと……何か今お手玉して遊んでた感じ?」
 『遊んでなんかいませんけど!』
 『のうお主ら、敢えて言わんかったがギャラリーの視線が痛いのじゃ。聞くならさっさと聞かんか』
 「何やってんだよ……ッたく」
 『ほぼほぼアナタのせいなんですが!?』
 『ホレ、早よせんか』
 『何て聞きますか?』
 「あー、そーだな……こーゆーときはまんま聞くのが良いんじゃね? そもそも八百屋がいねーから代わりにダンジョンアタックって何なんだよってな」
 『ああ、そこ……』
 『ソレ、我も気になっとったぞい』
 「あと八百屋で長ネギ買って来いって言ってた奴はいるかってのも頼むわ」
 『つーかおらんのかの?』
 「いねーだろ、売ってねーんだからよ」
 『はい?』
 「いーから早よ聞けや」
 『は、はい……えーと、……あー、なるほど。それは分かりました。じゃあ……あ、すみません、こちらの間違い? でしょうか?』
 「どーした?」
 『あの、“八百屋”というのは役割みたいなもので、主に植物系の収集依頼をこなす人たちを総称する言葉なんだそうです』
 「んで? 続きがあるんだろ?」
 『はい。やはり長ネギを買って来いという発言をした人物はいないそうです。そもそも八百屋というのは店のことじゃない、だそうです』
 『やっぱそーかあ』
 『ひとりで納得しとらんで早よ説明せぬか』
 『確かにさっき長ネギ買って来いという言葉聞いたと思ったのですが……』
 「あー、それはだな——」

 うーむ……
 さっきから気になってたんだけど実は誰もいなくてコイツらがパントマイムしてるって可能性もあるんだよな。
 まあ言わねーけどな!

 「——バグ技でマップの外に出ちまったんじゃね?」
 『……』
 『……』
 「ん? どしたん?」
 『あ、あの……もう少しかみ砕いていただけると……』
 『我もじゃ!』

 アンタはちげーだろ!


* ◇ ◇ ◇


 つーかだ。
 現在進行形でやり取りしてる奴らをガン無視して俺らだけで盛り上がってるってイメージわりーだろ。
 ホントにパントマイムして俺のことだまくらかしてるだけなんじゃねーだろーな。

 「説明する前にやることがあんだろ。まずはそっちを片付けてからにしねーとダメだろ、社会人的によ」
 『えっ? やることって何でしたっけ?』
 「こんなトコでボケなんぞカマさんでもえーっちゅーに!」
 『いえ、冗談など言っているつもりはありませんが』
 『我もじゃあ!』
 「ウソつけ!」
 『何がウソなものか!』
 「何だよ、二人そろって話をややこしくしやがって。
 テキトーにパントマイムやって俺のことダマそーとでもしてんのか?」
 『わざわざそんなことをする意味が分からんぞい』
 「そもそものコトの発端が何だったのかよく思い出してみろっての」
 『コトというのは出来事のことでしょうか?』
 「今度は何だよ、ったくどーしたってんだ」

 やべえ、自分で言っててたいがいムダなダメ出しばっかしてるんじゃねーかって気がして来たぞ。
 直接触れてる者どうしで物理的な“ズレ”が解決出来ても、それ以外はどーなってるのかサッパリ分からねーからな。
 しかもコイツら、今何かおかしくなってねーか?
 ネギか何かは知らんけど、コレぜってー何か起きてんだろ。
 となりゃいっぺんこっから離れた方が良さそーだな。
 コイツが芝居じゃねーってんなら原因は十中八九、長ネギがどーたらって話をしてた奴らの方だろーからな。
 ってどーやってこっから動きゃえーんや……

 「なあ、俺らバラバラになる訳にゃ行かねーからさ、ここは断わっとこーぜ?」
 『……?』
 「オイ!」
 『あの、断るとは……何を?』

 えー、何だよ、そっからかよ。

 『あ……ぐ……な、何をするんですか……』
 「オイ、どうした!? 俺を離すなって」
 『ぐぇ』

 グシャッ。

 オイ、何だ今の音!
 グシャって何だよグシャってよォ!
 何かドシャって落っこちる音もしたぞ!?
 くっそ何も見えねえ……身動きも取れねーしどーすりゃいーんだよ!

 『あ、あの……』
 「オイ、どーした、大丈夫か!?」
 『い、今……ドラゴンさんが私を……に、握り……潰……し……ました……』
 「何だって!?」
 『です……が……大……丈夫……あ……なたの……ことは……見……えて……いな……い……様……で……す……』
 「オメーが大丈夫じゃねーだろ!」
 『い……え……わ……私は……人、にん、形、……』
 「オイ、どーした!」
 『……』
 「オイ、——ッ何だぁ!?」

 何だよオイ!
 急に視界が真っ白になったぞ!
 何つーか……まぶしいっつーよりいちめん真っ白?
 そんなイメージだけど何が起きた!?

 『み、み、み……見つ……ま……タ——』

 何だ!? この声、ドラゴンさんか?

 『ど……コ……』
 「何だ、何があった!? 何でこんなこと——」
 『あばばばばばぁー!』

 はい?

 『みょみょーん!』
 「ってふざけてる場合かこんチキショーめ!」
 『……』
 「オイ!」
 『……』
 「何とか言えよこんにゃろー!」

 …………
 …

 ……誰もいねーのか?

 ……えーと。
 どーすんだコレ。


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