アクアリネアへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
55 / 105
二章 襲いかかる光と闇

第55話 別れ=旅立ち

しおりを挟む
「リネアちゃん、別れるなんて嫌だぉー」ぱふっ
 そう言いながら私の胸に飛び込んできたのは大親友でもあるヴィスタ。
 もともと二人は母国でもあるメルヴェールに不審な動きあり、という理由で避難して来た訳なので、問題が全て解決した今、ついに王都の実家でもある伯爵邸から戻ってくるよう連絡が届いた。

 ヴィスタは私と違いアプリコット家の大事なご令嬢。いつまでもこんな田舎に留まっていれば良からぬ噂も立ってしまうし婚期を逃してしまう。ヴィルに関しては次期当主となる訳だから、なるべく早く戻り伯爵様の元で色々学ばなければいけないだろう。
 どうやら今回の騒ぎで、各家々は世代交代をしてイメージアップを図ろうとしているらしく、あちらこちらで当主が入れ替わっているのだという。

 まぁ、それはそうよね。行方不明とされている王子とエレオノーラを推していた家が多くいたわけだし、王妃の威厳を盾に私服を肥やしていた貴族も多くいた事だろう。
 これが単純な王権交代ならばここまで問題は大きくならなかったのだろうが、今回行われるのは前王権の完全廃止なので、どの貴族も今の立場を守るために必死なのだ。
 ただ聞いている話では、陛下の暗殺に関わった一部の貴族を除き、そのままの新王国へと移されるそうなので、余程の事がない限り爵位を剥奪される事はないという事だった。

「前とは立場が逆になっちゃったわね」
 以前の別れは旅立つ私を二人が見送ってくれたのだが、今回は旅立つ二人を私が見送る。
 だけど不思議な事に悲しみや寂しさという感情はあるものの、笑顔で二人を見送る事ができる。
 恐らくそれは悲しい別れではなく旅立ちという事からだとは思うけれど、それでも少しは強くなったんじゃないかと感じるから。

 あの日、私は逃げるようにアージェント家の門を飛び出した。
 その後もノヴィアに助けられ、ヴィスタやヴィルに助けられ、そして二人のご両親にも助けられた。
 今思えば前世の記憶があるから大丈夫だと、そう思っていた自分の甘さが恥ずかしくなってしまう。
 この世界で生きる事は難しい、それが女性という身なら尚更だ。
 もしあの時ヴィスタのご両親に止められなければ、今頃私はカーネリンの街で娼婦として働いていたかもしれない。
 そう思うと私は多くの人たちに助けられ、ここまで強くなれたのだと、今なら強く感じてしまう。

「お嬢様、そろそろよろしいでしょうか?」
 二人で別れを惜しんでいると、アプリコット家の執事さんが急かしてくる。
 今はまだ太陽が高い位置にはあるものの、暗くなる前に予定の宿場町まで辿り着かなければならないからだろう。

「ごめんね、長く引き止めちゃって」
「ううん、私の方こそごめんね」
 そう言いながらお互い両手で硬く握り締めた後、ヴィスタは執事さんにエスコートされながら馬車へと乗る。

「手紙をいっぱい書くからね」
「うん、私もいっぱい書くわ」
「王都で可愛い服を見つけたら送るかね」
「うん、あまり高いものは困るけど、私もこのアクアでとれる美味しいものをおくるわ」
「ぐすん、お父様にお願いしてパーティーの招待状も送るからね」
「いや、それはちょっと遠慮したいかなぁ」
 馬車の扉から別れを惜しむヴィスタ。
 途中からご遠慮したい内容が飛び出して来たので丁重にお断りを入れておく。

「リネア、その……」
 ヴィスタがようやく馬車へと収納された後、今度はヴィルが私の前へとやってくる。

「ヴィルも色々ありがとう。貴方が居てくれなかったら商会もこんなにすぐ軌道には乗らなかったわ」
 いくら私に前世の知識があるといっても、現場を任せる者がいなければこうもスムーズには進まなかったであろう。
 このアクアの地で暮らす人々は、文字の読み書きはできるものの人を扱うという意味では素人同然。その点ヴィルは若いけれど、次期当主として父親の姿を見てきた訳だし、それなりの勉学もこなしてきた。
 そう考えると二人がいなければゾッとしてしまうわね。

「でも僕はまだこの地でやり残したことが……、仕事も中途半端に投げ出した状態だし、リネアの事が心配で……やっぱり僕は!」
「ダメよヴィル。気持ちはすごく嬉しいけれど、貴方にはやらなければならない事が沢山あるわ。それにアクアとアプリコットは隣同士なんだから、これからははよき隣人として、よきパートナーとして私を助けて頂戴」
 商会的にはヴィルを引き止めたい気持ちは十二分にあるが、流石に伯爵家の跡取りを私が独占するわけにはいかないだろう。
 伯爵様も『息子にもいい勉強になった』とおっしゃってくださっていたし、これからは取引先としてちょっぴり優遇なんてしてもらえると、アクア商会にとってはプラスになる。決して親友なんだからサービスしてよ、という打算があるわけではないと……言い切れなくもないかな。

「パートナー……リネア、それってどういう?」
「ん? 良い仕事仲間ってことなんだけど、やっぱり伯爵様相手には失礼だった?」
 私的にはヴィルも掛け替えのない親友だと思っているし、ヴィルも同じように付き合ってくれていると思っているが、流石に次期伯爵様相手には失礼な表現だったかな?
 っと、少し自分の中で反省していると。

「リネアちゃん、それはちょっと酷いかな」
「へ? 酷い?」
 私、変な事言ってないわよね?
 だけど私とヴィスタとのやり取りをみていたアプリコット家の執事さんや、護衛の騎士様達が、何とも言えなさそうな表情でヴィルの方を眺め、私の付き添いにやってきたノヴィアとメイドさんズからは、何とも申し訳なさそうな姿で何度も頭を下げている。
 あれ? これはどういう状況?

 一人何がなんだかわからない状態の中、なぜか意気消沈してしまったヴィルの姿。
 そのあと慰めるように護衛に騎士様達に馬車へと連れて行かれ、そのままヴィスタの待つ馬車の中へと収納される。

 ちょっ、ちょっと! 私、何もしてないわよね!?

「うん、やっぱりリネアちゃんだ。取り敢えずヴィルの事は任せておいて」
「う、うん。いまいち良く分かってないけれど、任せたわ」
 なんだか私だけ取り残された気分だが、ヴィスタに任せておけば大丈夫だろう。
 私が二人に感謝していた事は間違いない訳だし、悪く言ったつもりも全くない。現にヴィスタは笑顔で手を振っているのだから、多分大丈夫な筈だ。

 そう自分に言い聞かせ、私は旅立つ二人を見送る。
 今度会うときはお互いもっと大人に成長している事だろう。もしかすると二人とも結婚しているかもと思うと、ちょっぴり寂しさを感じてしまうが、これは永遠の別れではなく旅立ち。
 次の再会にはお互い誇れるような人間になっていようという誓いなのだ。

「またねヴィスタ! ヴィル!」
「またねリネアちゃん!」
 やがて馬車はアクアの地を抜け森の方へと消えていく。
 私は馬車が見えなくなるまで見送り、一陣の風が吹き抜ける。

「そろそろ春だっていうのに寒いわね」
 もう一年になるのね。なんだか随分長くこの地にいた気がするけど、私がこのアクアに来てからまだ一年しか立っていないのだ。

「さぁ、戻りましょうリネア様」
「そうね、リアとフィルが待っているし帰りましょ」
 アレクもいなし、ヴィスタとヴィルもいない。
 何だかパーティーが終わって一人取り残された気分だが、私には立ち止まっている暇はない。
 二人が抜けたアクア商会を動かさなければならないし、リゾート化計画も進めなければならない。なによりカーネリンの街との問題も山積みだし、実家のアージェント家の方も気掛かりだ。

「よし、頑張らなくっちゃだね」
「そうですね」
 よし! っと一人気合を入れていると。

「その前にリネア様にはお説教ですね」
「へ? なんでいきなりお説教?」
「やはりお気づきではありませんでしたか。」
 はぁ……と、私を見て何とも思いため息をみせるノヴィアとメイドさんズ。

 この後ノヴィアと集まって来たメイドさんズから散々叱られました。
 だってパートナーになろうというのが、プロポーズのセリフだなんて知らなかったんだもん、ぐすん。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

処理中です...