正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー

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終 章 ヴィクトリア編

第96話 招かざる編入生達(裏)

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「おいライナス、お前が言ってたアリスってのはあのチビっ子銀髪か?」

 編入初日、お兄様とは別のクラスになってしまったが、従兄妹であるシオンとは同じクラスに振り分けられた。
 少々レガリア側の作意が見え隠れするが、『王族二人を同じクラスにすると人が集まりすぎて授業にならない』と説明されれば納得もできるというもの。
 そうよね、私とお兄様のファンが一箇所に集まれば流石の私も対応しきれないわ。
 家臣達は護衛がどうのと騒いでいたみたいだけれど、お兄様の剣の腕に敵う者などいないだろうし、シオンはそんなお兄様の次に剣の使い手。それに私だって多少の剣が扱える上に切り札ともいえる奥の手の用意している。
 そもそもレガリアの負け犬達が、私たちに手を上げるような度胸があるわけないじゃない。

 むしゃむしゃ
「おっ、やっぱりアリスはシオン達のクラスか。こっちのクラスにいないからそうじゃないかとは思っていたが、やはり同じ学年だったか」
 学園の食堂で昼食をとりながら三人で談笑する。
 公爵家の人間であるシオンが、王子であるお兄様に対して馴れ馴れしい言葉で話しかけるが、幼馴染であり従兄妹でもあるシオンは私たち兄妹にとっては心の許せる関係。
 もっとも、それ以外の同年代貴族が気安く話しかけて来るなら、それ相応の教育を教えてあげるんだけれど。

「あぁ、だがあのちびっ子ペチャパイの何処がいいんだ? 顔はまぁまぁだが、あのペタンコはなぁ。やっぱ女は胸だろ!」
 一瞬自分の事を言われたかと思い慌てて両手で胸元を隠してしまう。
 そうだった、シオンは昔からおっぱい魔人。女性の価値を胸の大きさでしか判断しない、そんな人間。
 私はまぁ、その、決して小さな方でない、はずである。

「お前は相変わらずおっぱいが好きだなぁ。あんなのただの脂肪のかたまりだろ?」
「分かっちゃいねぇなぁ。揉むのにも、吸うのにも大きい方がいいに決まってるじゃねぇか」ガハハ
 思わずジト目でシオンの方を見つめてしまう。
 揉むのはともかく、吸うってバカじゃないの? ほら、近くで食事をしていた女性達が、軽蔑するような目を向けながら慌てて離れていくじゃない。
 シオンの事は嫌いではないけれど、こうデリカシーのない発言や行動は流石についていけないのよね。

「そういえばなんて言ったっけ、この国の第二王女。メルシアだっけ?」
「ミ二アリアよ。そのぐらい覚えておきなさいよ」
 二人の会話の途中、シオンの間違いを思わず横から訂正する。
 せめて教養があるってところぐらいはこの国の者達に見せつけておく必要はあるわよね。

「そう、そのミニアリアの取り巻きで、胸がでけぇのが一人いるんだよ。なんて名前だっけなぁ」
 シオンの言葉に頭の中で記憶のページをめくってみる。
 あぁ、そういえば背が低いのに胸だけやたら大きい小娘が一人いたわよね。
 特に目立つような子でなかったし、何か特徴があるわけでもなかったのでただの取り巻きその一としか見ていなかった。たしか名前が……
「……ルテアだったかしら?」
「そう、そのルテアちゃんだ。俺はまずその子を狙うぜ」
「ルテア? 誰だか知らんがアリスには手を出すなよ」
「心配するな、ペチャパイには興味がない。お前こそルテアちゃんを誘惑するなよ」
「心配するな、脂肪のかたまりには興味がない」
「「ゲラゲラゲラ」」
 そういいながら人目も気にせず二人で誰を落とすかで盛り上がる。
 全く、今の話で何処が面白いというのよ。
 恋人にするならやっぱり白馬にまたがり、お姫様がピンチの時に颯爽と助けに来てくれる王子様じゃなくちゃ……
 妄想の中で白馬の王子がジーク様に変わり、眠り続ける私に寄り添って、キ、キスを……きゃっ

「ちょっとあなた達、アリスお姉様がペチャパイとか、ルテア様がおっぱい星人だとか聞き捨てならないわね」
 お兄様達が馬鹿笑いの最中、私たちに話しかけてきたのは一人の少女。
 この学園はたしか胸のリボンの色で学年が分かるるようにされていると聞いているので、この子は私たちとは違う学年なんだとわかる。
 すると、あのアリスという小娘を姉と呼ぶなら年下の学年なんだろう。
 それにしてもおっぱい星人ってなにかしら?

「誰よあなた? 私たちに注意してくるなんていい度胸ね」
 睨め付けるように話しかけてきた小娘に低い声色で返答する。

 編入当日だからどうせ私たちの事は知らないんでしょ。
 あえて自分が誰だか名乗らず挑発するかのように対応する。そして煽るだけ煽って私の正体を教えてあげるの。そうすれば皆んなそろっと青い顔をするのよ。その時の気分と来たらもう最高の高揚感なんだから。うふ、うふふふふふ。

「私はユミナ、ユミナ・ハルジオンよ。アリスお姉様がペチャパイとかゆるさないわ」
 ハルジオン……そう言えばジーク様のファミリーネームもハルジオンで、あのアリスとかいう小娘もハルジオンだったわよね。
 気になって一人の生徒を捕まえて聞き出したら、アリスとかいう小娘はジーク様の親戚筋に当たるんだとか。するとこのユミナとか言う小娘はアリスの妹か何かなんだろう。これがジーク様の妹ならまだしもアリスの妹ならば容赦する必要もない。本人もお姉様とか言っているし間違いないだろう。

「なんだこのチンチクリン。ペチャパイには興味がねぇよ。さっさとどっか行きやがれ」
「おいおい待てよシオン。アリスの妹だよな? だったらそう邪険にするなよ」
 シオンは胸を確かめた後に興味を無くし、お兄様はアリスの妹ということで興味を示す。
 まぁ、これがジーク様の妹なら私も同じ反応をしてしまうだろうから気持ちはわかるわね。だけど私たちに刃向かったことの報いは受けてもらうけれど。

「ペチャパイ、ペチャパイって、アリスお姉様は成長期なんです! それにペチャパイならそこのオバさんも大して変わらないじゃない!」
 ブフッ
 余裕を見せるために飲んでいた紅茶を思わず吹き出す。

「だ、だれがオバさんよ! それに私はペチャパイじゃないわよ!」
「オバさんじゃなければなんでそんなに厚化粧なのよ! それにパッドで盛って盛って、さらに盛ってることなんて見ればわかるわよ!」
 グググッ
 思わず図星を衝かれて動揺するが、ここで引き下がっては認めたも同じこと。ここはハッキリとさせておかねばならないだろう。

「し、失礼ね! パットはたったの2枚だけよ! 盛って盛って、さらに盛ってなんかいないわよ!」
「ロベリア、やっぱお前盛ってたんだな」
「気づいてなかったのかライナス? 俺は一目見てわかってたぜ」
「「ガハハハ」」
 反論したつもりがなぜか盛大に自爆したのであった。
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