在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇13話◇異変・後編 ①

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◆在るべきところへ◇13話◇異変・後編 ①


 育ての親のレイや幼なじみのアテネ、親友のライネ以外で、長い時間話をした相手なんていなかったようにインティスは思う。
 大体そこまで話すような話題がないからだ。

 六歳の時に砂漠の村に来て十年、何か大きな事件があったわけでもない。普通に暮らしていただけの十年など、人に話す価値などないと思っていた。
 それなのに、フェレナードはそれを教えてほしいと言ってきた。
 彼は森の国の人間で、砂漠を見たのも初めてだと言うのだ。砂が細かくて歩きにくかった、あの上を走るなんて信じられないとも言っていた。

 賢者目当てに村を訪れ、生活の様子を社交辞令のように聞いてくる連中と違って、フェレナードはとにかく詳細を知りたがった。
 それに答えざるを得なかったのは、彼が村の中をあちこちを熱心に見て回っていたのを知っていたからだ。社交辞令たちはそんなことはしない。
 知らないことに対する興味は留まることを知らなかった。途中で女主人が朝食を持ってきたので、行儀は悪いが食べながら喋るような状態だ。
 時々二階に客は上がって来たが、用が終わればすぐに下りて行った。

 フェレナードの言う世間話は、食事が終わった頃にようやく一段落した。喉がカラカラだ。

「随分長く話し込んでるじゃない」

 振り返ると、先ほどの女主人が飲み物のおかわりを持ってきてくれた。受け取って礼を言うと、彼女と目が合った。

「あんた、見ない顔だね」
「ちょっとわけありなんだ」

 フェレナードが代わりに答えた。

「あらそう」

 そう言うと、女主人はそれ以上聞かないようにしてくれた。

「フェレ、あんた王子様の相手は?」
「今日は休み」
「あっそ」

 女主人は大柄な体で、椅子を片手で軽々と引き寄せるとどかっと座り、インティスの方を向く。

「あんた、こいつをよろしくしてやってね」
「え?」

 森の国の言葉で話しかけられ、内容はわかったが、彼女が自分に言う意味がわからなくて聞き返してしまった。自分は世話になっている方だから。
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