復讐を果たした騎士は破滅の魔女の生まれ変わりと呼ばれる令嬢に出会う

紙條雪平

文字の大きさ
9 / 16

5

しおりを挟む
 俺が自分の道を理解した数日後の夜、俺はうまく寝入ることができず、自分の部屋をこっそりと出る。なぜだかはわからなかったが、誰かに呼ばれるように感じたのだ。あまりよくないのはわかっていたのだが、俺の足は止まらなかった。

 外に出ても、誰もいなかった。俺は気のせいだったか、と思いながら、どうせ出たことだしと思いながらしばらく外にいることにする。眠れないのは変わらなそうだったし、星空がきれいだったのもある。

 俺が特に何かを思うこともなく、ぼーっとしながら星空を眺めていると、 突如後ろから声をかけられる。

「カーヒル、何かあった?」

 俺が降りむくと、そこにはクリスティン様がいた。俺は眠れなくて、と答える。彼女はそうと言って笑うと隣に来る。そして、こちらを向いて問うてくる。

「ねえ、カーヒル、今の生活どう?」
「楽しいですよ」

 俺はすぐにそう返す。彼女は少し驚いたような顔をした後、上を見る。俺も彼女と共に、上を見る。

「カーヒル、きれいな星空ね」
「そうですね」

 俺と彼女はしばらくの間、そうして黙って星空を眺めていた。いや、彼女は何か違うものを見ていたのかもしれないが。

「カーヒル、あなたはここ最近どこか変わったわね。何かあった?」

 彼女はまっすぐこちらを向いて問うてくる。その視線は期待と困惑とで彩られていた。俺は自分が行きついた考えについて話す。

「自分が、いえレインという個人は愚かだったと気づいただけです。だが、同時にレインは正しかったとも」
「復讐を果たしたということについて?」

 彼女は変わらず、まっすぐこちらを見て問うてくる。視線の中に込められる感情は変わらない。

「ええ、復讐は愚かな選択でした、それを達成した先には何もなく未来はない。でも、その道をとらなければレインという個人はとうの昔に死んでいたのだと私は思いましたよ」

 俺はそう言うと笑う。もう自分に迷いはないのだ、自分のやったことに関しての整理はついたのだ。彼女は俺から視線をそらし、下を向きながらぼそっと言う。

「私は愚か者になりたくない。でも」

 そう言った彼女の体は震えだした。彼女は自分の体を自分の両腕で抱きしめる。そして、彼女は叫ぶように言う。

「私はお父様を、お母様を、妹を、いえこの国が許せない」

 俺は何も言わないで彼女を見続ける。彼女は続ける。

「なぜ私がこんな目に合わなきゃいけないの?なぜどうして私は何も悪いことはしていない、なのになぜ?」

 俺は何も言わない。いや何も言わない。今彼女が叫ぶように言っていることは彼女がずっと抑えてきたものなのだろう。だから、俺はすべてを聞こうと思う、彼女はずっと抑えてきたことをようやく吐露できているのだから。

「私は復讐がしたい。お父様に、いえお母様もに妹にも。それだけじゃないこの国のすべてに。これが私のすべきこと」

 彼女はあらかたすべて抑えてきたことを言い切ったのだろう。そして、息を整えると彼女は顔をあげる。そして、俺のほうを見てくる。彼女の眼には涙が浮かんでいた。そして、同時にその目は死んでいるかのようだった。彼女は俺に向かって問う。

「私は生きていればいずれこの国を燃やす。だからカーヒル、私を殺してくれる?」

 俺は彼女の問いにすぐさま答えを返す。

「それが本当のあなたの望みなら」

 彼女は微笑む。そして、彼女はそのまま目を閉じる。どうやら彼女は俺がいますぐ殺してくれると思っているようだ。だが、それはまだだ。彼女には問わねばならぬことがある。

「クリスティン様、死ぬことがあなたの本当の望みですか?ほかにないのですか?」

 彼女はゆっくりと目を開ける。彼女は驚愕の顔をしていた。そして、目で問うていた。あなたは何をいっているの?と。

「クリスティン様、私はあなたに救われました。だから、私はあなたにすべてを捧げる覚悟がある。あなたの進むべき道に最後までついていく覚悟もあります。その道がどれだけ辛く苦しいものでも」

 彼女はやめて、と小さな声で言う。彼女は俺が何を言いかをわかっているようだった。俺が今から言うことは彼女を追いこむことになる。だが、それでも俺は言う、いや言わねばならぬのだ。
 
 この今死ぬことが最善の道と死んでいる彼女に。

「俺はあなたに命を捧げる。あなたがどのような選択をしても肯定する。多くの人に恨まれ、殺すことになっても構わない。あなたが話してくれた物語の騎士であるカーヒルは王女を殺した、王女の道が間違っていたと気づき、それを正すために。でも私は殺さない、どのような道であろうともついていきます」

 俺がそう言いきると、彼女はどうして、と小さく言う。その声は震えていた。

「あなたは俺のすべてだ。だから聞かせてください、本当の願いを」

 俺の言葉を聞いた彼女はしばらく、何も言わなかった後、突如すべての思いがあふれたかのごとく言い始める。

「私は生きたい。復讐なんてどっちでもいい。ただ私は生きたい。生きて色々なものを見たい、色々な場所に行きたい、色々な人に会いたい。それに誰かに愛してほしい、私を一人にしないでほしい。ミシェルでもロドリグでもない、誰かに一緒にいてほしいの」

 彼女は泣いていた。俺は何も言わずに彼女に近づき、彼女を抱きしめる。そして、俺は彼女の言葉に返答をする。

「一人にはしませんよ、一緒に生きましょう」

 彼女はそのまま、俺に抱き返すと泣き叫び始める。今までため込んできたものをすべて吐きだすかのように。

 しばらくして、彼女は泣き叫び疲れてしまったかのようで、そのまま眠ってしまう。俺はどうしたらいいのだろうか、と思っていると後ろから声がする。

「お嬢様を運べますか?カーヒルさん」

 俺が振り向くと、そこにはミシェルがいた。俺は驚くが、これだけクリスティン様が泣いていれば誰か来てもおかしくないか、とも考える。俺はええ、と言って頷くと、彼女を持ち上げる。思った以上に軽かった。

「では、こちらへ」

 ミシェルの後に、俺は続く。ミシェルが向かった先はクリスティン様の部屋だった。ミシェルが扉を開けてくれて、そのまま中に入ると、俺はクリスティン様をベッドの上に寝かせる。

「少しの間、外へ出てください」

 ミシェルの言ったことに従い、俺は外へと出る。俺が外で待っていると、ロドリグさんがやってくる。

「お嬢様は大丈夫ですか?」
「ええ、今は眠っていますよ」

 そうですか、と言うとロドリグさんはどこか安堵したような顔を見せる。俺が何も言わないでいると、ロドリグさんは俺に問う。

「お嬢様を殺さなかったのですね?」
「ええ」

 俺がそう返すと、ロドリグさんは何も言わずに背を向けてどこかへと行く。俺はロドリグさんがクリスティン様のことを愛しているように感じられた。なぜなら、彼はずっと心配そうな視線をクリスティン様の部屋に向けていたのだから。それはたぶんではあるが、仕える対象への心配ではなく、大事な娘に対する心配なように感じられた。

 ロドリグさんが去ってから少しして、クリスティン様の部屋の扉が開き、ミシェルが出てくる。そして、ミシェルは俺のほうを向きながら、頭を下げる。

「ありがとうございました。お嬢様を救ってくれて」
「救ってませんよ、俺はただ自分の本音を言っただけです」

 俺がそう言うと、ミシェルは頭をあげて首を振る。

「いえ、お嬢様は救われました。私ではできなかったことをあなたはしてくれた。私ではお嬢様を救えなかった。メイドであり友人の私では」
 
 ミシェルの声色はどこか悔しそうなものであった。ミシェルはもう一度頭を下げる。少しして、彼女は頭をあげると俺に向かって言う。

「お嬢様の近くにいてあげてください。ただし、手は出さないでください」

 ミシェルは後半若干俺をにらみながら言う。俺は出しませんよ、と笑いながら言う。ミシェルはでは、お願いします、と言って、どこかへと去ろうとする。だが、俺はそれを引き留める。聞きたかったことがあったので。

「クリスティン様とロドリグさんの間には何があるんですか?どこか二人の関係は微妙なようですが」

 ミシェルはどきりとした様子を見せた後、小さな声で返答をする。

「ロドリグさんはルートビッヒ侯爵家にずっと仕えてきている家の人間です。それにロドリグさんは旦那様に長い間お仕えしてきました。なので、ロドリグさんはお嬢様の監視役です」

 俺はそれを聞いて、すべてに納得がいた。きっとクリスティン様はロドリグさんのことを疑っているのであろう。ロドリグさんは疑われているのを知っている。いつか、ルートビッヒ侯爵の命令さえあれば自分を殺しに来る、と。だけど、同時にロドリグさんの本心は違うのだろうと思う。
 
 きっと彼はクリスティン様のことを思っている。だけど、それと同じくらいにルートビッヒ侯爵家に対しての恩義などもあるのだろう。だから、彼は迷っている。
 しかし、その迷いを知ったクリスティン様にとってはロドリグさんは信用ならない人物なのであろう。ロドリグさんはそのことすら知っている。

「お二人は本当は互いを愛しているのでしょうね」
「ええ、たぶん。お嬢様にとってロドリグさんは父親です。そして、ロドリグさんにとっても娘なのですよ」

 俺は心の中でつぶやく。お互いはそれを理解できなくなっているけれど、と。ミシェルもおなじことを思ってはいるのであろう。俺はミシェルにありがとうございました、ではおやすみなさいと言う。ミシェルはええ、おやすみなさい、と言うとどこかへとさる。

 俺はミシェルが去った後に、クリスティン様の部屋に入る。ミシェルが色々と整えたようで、ベッドの近くに椅子が置いてあった。俺は椅子に座ると、クリスティン様の顔を覗き込む。その顔は安らいでいるようであったが、眺めている間に、徐々に彼女の顔は暗くなっていく。辛く、悲しそうなものに。

 俺はそれを見て、彼女の手を取るとそれを握る。彼女の顔は少し安らいでいるものへと変わった。俺はそれを笑顔で眺めながら、そのままずっと朝になるまで握っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

処理中です...