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しおりを挟む私は屋敷の前で侯爵家の暗殺者たちが来るのを待つ。暗殺者たちを足止めするため、いや殺すための準備はし終えた。そうなれば、あとは来るのを待つだけだった。
準備をしている間、色々なことを考えた。そして、何度も何度も後悔した。私は選択を間違えたのだろう、と思った。今更それに気づいたことに私は後悔している。いや、今日気づけてよかったのだと思う。
私は愚かだった。私はお嬢様の命を守ることを優先し、お嬢様の心を守ることができず、傷つけることしかできなかった。
私が旦那様の命令にずっと従い、お嬢様を監視したのはそれが一番だと思ったからだ。私以外の人間では、お嬢様を守れないと思った。この屋敷に向かうとき、お嬢様の味方はミシェルと私だけであった。ミシェルはまだ小さく、お嬢様を守ることは難しかった。旦那様の刺客はいつ来るかもわからなかったし、お嬢様を守ることに命を懸けるという気概を持つものはいなかったのだから、魔物に殺されるかもしれなかった。
だから、私はお嬢様の命を守るためだけに、尽力した。それぐらいしかできないと思っていた。どれだけお嬢様が私の裏切りに傷ついているのを知っていたのだが、それしか私にはできなかった。それだけが、私のできることだと信じていた。そして、時が来れば私の手で殺してあげるのがお嬢様のためだったと信じていた。いやそれが自分ができる最も賢い選択だと信じていた。
「だが、違った」
私は逃げていたのだ、お嬢様と向き合うことを。お嬢様の心と向き合うことを。私は怖かった、お嬢様の心の中の闇は大きかった。私はそれになにもできない、とずっと前に決めた、いや決めつけてしまったのだ。できることは少しでもあったのだろうに。
私はミシェルとカーヒルより弱かった。あの二人はお嬢様に向き合った。真正面から。だからずっと一緒にいる、となど言えなかった。
私はそんなことを言えない、いやいう資格はない。それも決めつけなのかもしれない。だが、今の私にはそれよりもやらねばならぬことがある。
あたりは気づいたら、暗くなっていた。そして、視界の範囲内に馬に乗った者たちが近づいているのが見えた。私はもともと決めてあった合図を送る。お嬢様を殺すことに成功したことを示す合図を。
彼らは私の前まで来た。彼らの数は10人ほどであった。そして、彼ら一人一人が暗殺に長けたものだと私は知っている。彼らがこのままお嬢様たちを思えば、すぐに追いつかれ殺されてしまうだろう。
「クリスティンの遺体は?」
一人の男が、森の中で話した男が尋ねてくる。私は右腕を抑えながら返答する。
「中だ、少し抵抗されて右腕を失ってな。ここに持ってくることができなかった」
「なるほどな。傷は大丈夫か?」
私は問題ない、と言うと男は遺体まで案内しろ、と言ってくる。私は頷くと屋敷に向かう。私についてきたのは数人であった。私が遺体があることにしているお嬢様の部屋に向かう途中、男は尋ねてくる。
「メイドと騎士は?」
「殺した。遺体は先に燃やしておいた」
私の返答を聞いた男はそうか、と言うとその後何も言わなかった。
私はお嬢様の部屋につくと、この中だ、と言う。男は頷くと、数人を引き連れ中に入っていく。私もそれに続く。彼らは中を見て、不審なことに気づくだろう。私が思った通りに、男が私に向かって振り向いて、何かを聞こうとしてくる。
その瞬間、私は男の首元にナイフを刺す。男は驚愕の表情を浮かべる。周りのものたちも驚いたようであった。私はそのまま、ナイフを引き抜くと、近くにいたものに刺そうとする。だが、さすが手練れなものであった。私のナイフを腕で阻むと、そのまま別のものが私の残った腕を斬り飛ばす。
「すぐに止血だ。こいつには聞きたいことがある」
男はそう言いながら私に剣を向ける。もう一人のものが私に治癒魔法をかけて止血を始める。私は一人しか殺せなかったと思いながら男を見る。
「どういうつもりだ、ロドリグ?」
私は何も答えない。少しして、治癒魔法によって止血が終わる。その瞬間、男は私を蹴り飛ばす。
「クリスティンはどこだ?」
「答えると思うか?」
私がそう返すと、すぐさま、私の左足に剣を突き刺す。私は痛みにうめきながら、男をにらむ。男はため息をつく。
「なぜこんなことをした、ロドリグ?クリスティンを殺すと言ったのは貴様だと聞いているぞ」
「父親は娘を守るものだ」
私の返答を聞いた男は何を言っているんだ、と言う顔をする。男はこれ以上私に時間をかけるつもりを失くしたのだろう。男は私の左足かた剣を引き抜くと、近くのものに話しかける。
「外の奴にクリスティンを探すように言え、まだ遠くには行ってないはずだ」
それを聞いたものは頷き、外にでようとする。その瞬間に私は魔法を発動する。この屋敷に仕掛けていた魔法を。
次の瞬間、私が思っていたように、部屋の中が燃え盛る。私の魔法がきちんと発動していれば、屋敷全体に火がついたはずだ。男は舌打ちをする。
「ロドリグ、貴様」
「貴様らをお嬢様のもとに行かせるわけにはいかん」
私はそう言うと、少しでも時間を稼ぐために、少しでも追手を減らすために男に向かって体当たりをしようとする。だが、すぐに男は反応すると私に向かって剣をつく。剣は私の胸を貫き、私は壁に突きつけられる。男は馬鹿が、と一言言った後、剣を引き抜き、この燃え盛る部屋から出ていく。
私は一度動こうとするが、全く体に力が入らなかった。そして、私はここで死ぬのか、と思う。私はやはり、お嬢様との約束を守れなかった、と思い、お嬢様に心の中で謝りながらお嬢様のことを思う。
お嬢様の顔が浮かんでは消えていく。泣いている顔や暗い顔のほうが多かったのは、とても申し訳ないとお嬢様に思う。それはほとんど私のせいなのだから。
最後に、厩舎の前でお嬢様と別れた時のことを思い出す。そして、お嬢様が私に抱き着かれた時、言ったことを思い出した。
『愛してる、父として』
私はそれを聞いた時、うれしかった。こんな私でもお嬢様は父親として愛してくれた。何もできなかった、と言うのに。だから、私は返してあげた。自身の本心を。噓偽りなく、もう二度とその言葉がゆがむことはないと思いながら。
『私も愛してます、娘として』
私はの意識はどんどんとなくなっていく。燃え盛る屋敷の中、私は死ぬ。私はそっとつぶやく。おそらく人生最後の言葉になるだろうと思いながら。
「お幸せに、私の愛しき娘、クリスティン」
私の意識はその一言を言い終わると同時に失われる。
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