復讐を果たした騎士は破滅の魔女の生まれ変わりと呼ばれる令嬢に出会う

紙條雪平

文字の大きさ
13 / 16

7

しおりを挟む
 俺とクリスティン様とミシェルは昼夜を問わず、馬を走らせた。できる限り、早く隣国につくために。

 だが、その途中、不幸が起こった。無理をさせすぎたのもあって、一匹の馬が走れなくなってしまったのだ。俺たちは馬を休めながらどうするかを悩む。二人乗りをすることもできるが、馬への疲労はさらに加速するし、速度が落ちる。そうすれば、隣国に入る前に追手に追いつかれてしまうだろう。

「俺がここで残って、追手を足止めします。その間に」

 俺が提案をしようとすると、それを言い切る前に。すぐさまクリスティン様が首を振って反対する。

「だめよ、そんなのだめ。一緒じゃなきゃだめ」
「でしたら私が残ります」

 ミシェルはそう言いながら手をあげる。俺は首を振る。

「ミシェルでは、追手の足止めは難しいでしょう」
「なめないでください、これでもお嬢様付きのメイドです。ある程度戦えます」

 彼女は力強い声でそう言う。だけど、俺にはわかった。彼女の体が震えているのを。彼女はほとんど戦ったこともなく、人を殺したこともないはずだ。ここに残る人間に待っているのは追手との殺し合いだ。

「追手は侯爵家の雇った暗殺者です。実力は高い。ミシェル、自分でもわかるだろう」

 ミシェルは俺の言ったことを聞いて下を向く。彼女の手は強く握られていた。するとクリスティン様が提案してくる。

「じゃあ全員で一緒に一度追手と戦いましょう。そうすれば」
「だめです、何が起こるかわからない。あなたが殺されたら終わりなんです」

 俺はクリスティン様のほうを向いて言う。彼女は大きな声で言う。

「私の命なんて、あなたたちが一緒じゃなきゃ意味なんて」

 クリスティン様はそこで一度言葉を切り、涙を浮かべながら悲し気な寂しげな笑顔をしながら言う。

「ない。それにもう誰かを失いたくない」

 おそらくロドリグさんのことを言っている。ロドリグさんはもう死んでいるのだろうと思う。もしかしたら、マンに一つの可能性で逃げ出したかもしれないが。

 しばらく、無言のままであった。俺はそろそろ馬が走れるようになると思いながら、もう結論を出すべきと判断する。俺はミシェルに視線を向ける。ミシェルも俺のほうを見ていた。考えていることは同じのようだ。俺はクリスティン様のほうを向く。

「クリスティン様、お願いがあります」
「いや、いやよ。そのお願いは聞きたくない」

 クリスティン様は俺が何を言うかをわかっているようだ。だから、手で耳を塞いで聞かないようにする。俺がミシェルに視線送ると、ミシェルはすぐにクリスティン様の近くに行くとその手をはがす。ミシェル、やめてとクリスティン様は言うがミシェルはその指示に従わない。俺はクリスティン様に向かって言う。言ってしまう。彼女が今この場で最も聞きたくない願いを。

「クリスティン様、ミシェルと共に先に行ってください。それが俺の願いです」
「いやよ、一緒に生きてくれると言ったじゃない。私を一人にしないって」
「ええ、だから俺はここで残って追手を足止めします。生きるために」

 俺は笑顔でそう言った。クリスティン様はダメ、いやだ、と言って泣きながら首を振る。

「クリスティン様、絶対に後から追いかけます。一時一人にしますが、すぐに合流します」
「なんでみんな嘘をつくの、もう私は騙されないし、嘘はもう聞きたくない」

 クリスティン様は小さな声で言う。それは彼女にとってずっと思ってきたことなのだろう。だから、俺は酷だとわかっていても言わなければならない。

「嘘じゃありませんよ、絶対にあなたのもとに戻ります」

 俺はまっすぐクリスティン様を見つめながら言う。クリスティン様は少しして観念したかのようにしながら、笑顔で尋ねてくる。

「じゃあ私の願いも聞いて」
「何でしょう?」

 俺は尋ねる。彼女はすぐに返答する。

「クリスって呼んで、カーヒル」
「クリス、絶対にあなたのもとに戻ります」

 俺は笑顔でそう言った。クリスはきっとだが、誰かにそう呼ばれるのをずっと前から望んでいたのだろうと思う。なぜなら、俺がその名を呼んだ後、とても嬉しそうな表情を浮かべたのだから。

「絶対よ、約束。必ず戻ってね、カーヒル」
「ええ、戻ります。ですからミシェルと共に先に行ってください、クリス」

 クリスはうなずくと、ミシェルと共に馬に乗る。そして、一度俺のほうを向いて念を押すように言う。

「待ってるから、カーヒル」
「ええ、待っててください、クリス」

 クリスは笑顔を見せると、ミシェルと共に馬を走らせる。どんどんと距離は遠くなっていく。俺はそこに座り込むと追手を待つことにする。

 かなりの時間が経った。クリスとミシェルと別れた時は、明るかった周りはすっかりと暗くなっていた。すると、俺は視線の先に明かりを見つける。近づいてくる速度から馬に乗っているものたちのもだろうと思う。また、明かりは数個あって、数人がちかづいてくるのがわかった。

 俺の予感は告げていた。クリスを追う追手であろうと。俺は立ち上がり、剣を引き抜く。人を殺すと覚悟を決めているのは、キリングを殺した時以来だ。

 だが、あの時とは殺しの理由が違う。あの時は復讐という自己満足のためだった。だが、今は違う。

「守るための殺しだ」

 そう今から、俺はクリスの命を守るために、クリスとの約束を守るための殺しをする。あの時、キリングを殺した時に比べて、どこか気分が晴れ晴れしていた。今から人を殺すというのに。

 俺は近くにあった木に登る。そして、馬が近づいてくると、誰が乗っているのと数を確認する。数は四人で乗っていたのはあのロドリグさんが森で話していた相手のような格好をしていた。俺は相手が追手であると理解する。そして、彼らの一人が木の近くまで来ると、叫びながら俺は飛び降りる。

 俺の近くにいた追手は驚愕の表情を浮かべる。俺はそのまま、そいつの頭に剣を突きさす。奇襲だったので、そいつは反応できなかった。

 俺は残るは三人だと思いながら、俺はそいつらのほうをみる。全員がもうこちらに対して、戦う態勢を整えていた。侯爵家の雇った暗殺者である、たぶんではあるが俺より実力は高いもしくは同じくらいだろう。それに、相手は三人でこちらは一人。死ぬ可能性が高い。

 だが、それでも俺はこいつらを殺して、生き残らなければならない。

 クリスとの約束を守るために。

 俺は追手たちとの戦いを始めた。絶望的な戦いを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...