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三章

勧誘状況見直し

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 学園に魔人の痕跡が無いかを一通り調べた。今のところ怪しいものはない。
 最も、洗脳されている人や、幻覚用の謎の箱以外、オレだけで見つけられるものなんてないだろうけど。
 ん? お昼のチャイムが鳴ったようだ。じゃあ、サラちゃんと合流しようかな。


 …………


「ただいまー」

「お疲れ様。玉木。どうだった?」

「うん。問題なかったよ」

「あ、玉木様がおられるんですか? 玉木様、お疲れ様です」

 えっと……周りには誰もいないな。

「ピッ!」

「あ、これが噂の笛でのやり取りなんですね」

「えぇ。さっき玉木が周囲を見てくれたから、普通に会話しても問題ないわよ?」

「あ、ありがとうございます。えっと……そういえば、先日の男子会についてはやっぱり玉木様も喋れないんですか?」

 ん? 男子会について? なんのことだ?

「クレア、それじゃ伝わらないわよ。玉木は男子会の概要は説明してくれてるんだし」

「あ! そっか……そうですね。えっとーー」

 サラちゃんがクレアちゃんに説明を促す。今後の為にも、サラちゃんやフローラさん抜きでオレとコミュニケーションが取れた方が良い。だから今日はクレアちゃんのフォローに徹するようだ。有難い。オレもより良い方法を模索していこう。

「男子会の次の日、マリア様がメルク様に男子会の様子を聞いたんです。そしたら、その時のメルク様の様子がおかしかったみたいなんです。でも、マリア様にそれ以上聞かないでくれって懇願したそうで……。それでも、マリア様はやっぱり気になるみたいでーー」

 あぁ、そういう事ね。メルク君は話を聞いて顔面蒼白になっていたから本人としてもトラウマなんだろう。そうなると、いよいよ勝手には話せないな。

「ピッ! ピッ!」

「そうですか……。でも、マリア様達はどうしましょう?」

「どうしようもないわよ……。マリアだけならまだしも、リリーまで乗り気なんじゃ止めようがないわね。カイウス様の奮闘に期待しましょう」

 そうか、あの二人がカイウス君の元に……
 可哀そうに……。カイウス君はまたもや犠牲になるのか。彼は一切悪い事してないのになんて不憫な。


「まぁ、私達は普通にお昼にしましょ? クレアも玉木と直接やり取りすること、これまであまりなかったでしょ? 丁度いい機会だと思うわ」

「あ! そうですね。私も玉木様とお話ししてみたいです」

「ピッ!」

「あれ? ひょっとして玉木様もそう思ってくれてるんですか?」

「ピッ!」

「あ! えへへ……はい! 是非、お話ししましょう!」

 あ、直接やりとりすると普通に可愛い。流石乙女ゲームのヒロイン。天然あざとい。これで攻略キャラ達を落としていくのか。なんか色々納得できたな。

「……玉木? なにか変な事考えてない?」

「変な事?」

「ピッ! ピッ!」

「そう……。まぁ、そういう事にしておきましょうか。とりあえず人の少ない場所を探して来てくれる?」

「ピッ!」

 さて、これ以上変な勘繰りをされる前に、早めに良い場所を探しに行こう。

「サラ様? 玉木様が何か変な事を考えてそうだったんですか?」

「うーん……。何を考えていたかはわからないけどね。ただ、なんかクレアを見て、変な納得の仕方をしていたから」

「納得? うーん……。良くわからないですね」

「ま、クレアの気を悪くするような事は考えてないと思うけどね」

「そうなんですか? じゃあ、まぁ良いんですかね?」

「良いと思うわよ? そういう所は信用出来るから」

「わかりました」

 二人の所に戻り、紙に書いて見せる。

『二人共。裏庭の隅の方なら大丈夫そうだよ』

「そう。じゃ、行きましょ?」

「はい」

「ピッ!」


 …………


「そういえばサラ様? ロイド様とスレイヤ様の勧誘はどうしましょう? メルク様も加入いただけましたし、お二人も説得していきます?」

「そうね。そこも今後の課題ね」


 そう。魔人との戦いについて、勧誘して断られたのはメルク君だけではない。というより、素直に頷いてくれたのはカイウス君だけだ。まぁ、いきなり「魔人と戦えるのは君くらいだから、命かけて戦って?」とか言われて、素直に頷く方が珍しいとは思うが。

 だが、特にロイド君に関しては予想外だったよなぁ……


「驚きましたよね。『この僕がそんな事をするわけがないだろう。僕の損失は世界の損失だからね』って断られるなんて思いませんでした」

「彼はかなり特殊なパターンよ……。まぁ、あの態度に関しては、マリアと同じように実家からも敬遠されてるみたいだけどね」

「やっぱりそうなんですね……。でも、あの態度に関しては、ってことはそれ以外は受け入れられてるんですか?」

「そうね。ロイド様があんな振る舞いを出来るのも、実績を残しているからね」

「凄いですよね。シルヴァ様やサラ様より入学試験の成績が良かったなんて。新入生代表挨拶で前に出てた姿、今でも印象に残っています」

 そう。それはオレも驚いた。まさかあの完璧王子や、努力の鬼のサラちゃんをも超えるなんて。生まれつきの頭も良いのだろうが、いくらなんでも才能だけでこの二人を超えるとは考えづらい。多分、相応の努力も出来る男なのだろう。

「そうね。でも、クレアにはあまり近づかないで欲しいけどね」

「なんでですか?」

「彼、女癖が悪いのよ……。まぁ、手を出された女の子と揉めたって話は聞かないから、手を出す相手は選んでるんでしょうけどね」

「あれ? でも、ロイド様も婚約者がおられるって話じゃなかったですっけ?」

「えぇ。エレナね」

「え!? あの、入学試験成績上位の方ですよね?」

 誰だ? 流石にそこまではオレも把握してないな。どんな娘なんだろう。

「でも……あの方、かなり頑固な方じゃなかったですか? ロイド様がそんな事をしてたら揉めるんじゃ……」

「えぇ。だからあの二人の仲は最悪よ。ただ……彼女の実家は伯爵家なんだけど、かなり貧乏なのよ。だからロイド様との婚約は、彼女の実家にとってはとても重要なものでね。彼女も怒るに怒れないの」

「え? 貴族なのに貧乏なんてあるんですか?」

「彼女の実家は国境近くにあるんだけど、かなり治安が悪くてね。略奪や他国との小競り合いがしょっちゅう起こっているの。しかも、国境からも若干遠いから、国から警備費も出ないの。だから、どうしても財政的に苦しくなっちゃうの」

「それ……引っ越したりとか、出来ないんですか?」

「無理ね。どの土地を治めるかは国が指定するもの。だから自分の領地外に引っ越しなんかできないわ。領地の端っこに実家を置いても統治に不便だし、そもそも端っこですら国境から少し遠いわね」

 そんな貧乏くじを引かされる貴族もいるのか。なんか、少し気の毒だな……

「でもエレナ様、制服とかいつも綺麗に着こなしていますよね?」

「それはそうよ。学園とはいえ、そこに通う生徒の姿はその家そのもの。みっともない恰好なんかしたら他家に舐められるわ」

「……サラ様達と一緒にいると忘れますけど、やっぱり貴族社会って恐いんですね……」

「えぇ。貴方もいずれ知る事になるわ」

「うぅ……知りたくないです……」

「頑張りなさいな。見方を変えればそのお陰で、私たちと対等な友達になれたんだし」

「そう……ですね。私の振る舞いが悪かったら、一緒にいる皆さんにまで迷惑がかかりますもんね。頑張ります!」

「えぇ。頑張りましょう」

 クレアちゃんが意気込む。そうだよな。平民がいきなり貴族社会に飛び込むなんてホントに大変な事だ。きっと、本来のゲームの話でも、クレアちゃんは色んな壁を乗り越えたんだろう。


 まぁ、それはそれとして。

『二人共、話がズレてるよ? ロイド君たちをどうするかって話じゃない?』

「あ! そうでした!」

「そうね。ただ、今は中間試験に集中しましょ? お二人の勉強の邪魔になっても余計にこじれるわ。だから説得は後回しね」

「わかりました」

『了解。二人共頑張って』

「えぇ。ありがとう」

「はい! 頑張ります!」
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