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四章
スレイヤとシルフォード家
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「ーー養、子……?」
「あぁ、そうだスレイヤ君。私がここに来たのはこの話をする為だ」
スレイヤ君は自分の耳を疑っているようだ。いきなり目の前に現れた男からそんな事を言われれば当然だろう。
しかし、まさかパパさんとここに来るとは思わなかった。彼は公爵家の当主。護衛も無くーーいや、まぁオレが護衛だとしても、こんな危険な場所に来るなんて普通はありえない。
加えて屋敷からも距離があり、片道だけでも馬車では二日程度かかるほどだ。
それでも、フードに眼鏡と最低限の変装はしてもらってなんとかここまでこぎつけた。まぁ、ここまできたら後はパパさんの交渉力次第だ。なんとかなるように祈るしかない。
「テメェ……正気か……?」
「フフ、そんな事を面と向かって言われるのは若い頃以来だね。マークス家から除名されたとはいえ、君は王族に連なる者。私の養子となる資格は充分にあるさ」
呆気に取られるスレイヤ君をよそに、パパさんは淡々と話しを進める。
「加えてシルフォード家には現在、正式な跡取りがいなくてね。勿論、婿養子を取れば済む話ではあるんだが……娘には心に決めた人がいるからね。私も娘の幸せを邪魔するようなことはしたくないんだよ。ただ、君にも悪い話ではない筈だよ? 養子になった暁には当然、将来的に君が公爵家の長となりうるからね」
ただ静かにスレイヤ君を見据えるパパさん。しかし、スレイヤ君の目から油断は消えず、パパさんの瞳をジッと睨む。
「……何が目的だ……?」
「目的?」
「養子なら……オレでなくてもいいはずだ。適当な親戚筋がいない筈もねぇ。何考えてやがる……」
「ふむ。まぁ当然の反応だね。そうだね……一番重要な目的は、ここに捕まったエレナ君を助ける為だよ」
「あ? どういうことだ?」
スレイヤ君の問いかけに、パパさんは語り始めた。スレイヤが攫われる現場に居合わせてしまったエレナちゃん。そんな彼女だけを助けた場合、何かあった際に逆恨みされる可能性があること。それを防ぐためにはスレイヤとマフィアとの関係を清算する必要があること。そのために国に協力を取り付けられるよう、大義名分が必要なこと。
そしてパパさんの話が終わった後、暫く考え込んでいたスレイヤ君だったが、眉にシワを寄せながら顔を上げた。
「……それでオレを養子にする? お前、やっぱり正気じゃねぇのか? 神鏡の仲間として扱うだけで大義名分は立つだろ」
そんなスレイヤ君に、パパさんは「はぁ~」、と長い息を吐いた。
「……スレイヤ君。自分がどれだけ信用されていないか分かっていないね? 養子にするのは君を監視する意味もあるんだよ?」
「……っ!? ざっけんな! そこじゃねぇ! 養子になんざなれるわけがねぇだろうが!」
自分をバカにしたようなパパさんの言動に、ただでさえ余裕のなくなっていたスレイヤ君の堪忍袋の緒が切れる。
「テメェは三公当主だろうが!? そのテメェがなんで三公の役割も知らねぇんだ!? 王家の暴走を止めるだけじゃねぇ、各家への防波堤だぞ!? そこでマークス家の血を受けたオレがーーいや、神鏡の仲間にもなるならそれ以上の影響力か? ともあれ当主になってみろ! 三公のパワーバランスが崩れるぞ!? しかもオレは前科持ち。すねに傷があるやつが当主になれば余計な混乱が起こるのは間違いねぇだろうが!!」
烈火の如く怒り狂い、パパさんを怒鳴りつけるスレイヤ君。
へぇ……。意外な一面だな。
パパさんもオレと同じ感想を抱いたようだ。驚いたような顔をスレイヤ君に向ける。
「……ふむ。君には思っていたよりも学があるみたいだね。娘から聞いていた話と随分印象が違う」
「テメェ……どこまで人をコケにーー」
「いや、すまないね。君をバカにしたいわけじゃない。それよりも、君の疑問に順番に答えようか」
「……疑問?」
「あぁ。まず、三公のバランスについてだけど……。正直ね、魔人との戦いの後は貴族全ての力関係が崩れるだろうね」
「なに?」
「まず三公。マルタ公爵家には現在、魔人に協力した疑いがかかっている」
「なっ!? 初耳だぞ!?」
「そうかい? 先日処刑されたドゥーク侯爵。彼は魔人と通じていたことで処刑されたけれど……彼はマルタ公爵の派閥だった。それに、彼が私達を貶めようとした際には、マルタ公爵はすぐに彼と連携して王に進言した。状況証拠だけでも疑うには充分すぎる程の迅速さだったよ」
スレイヤ君は黙ってパパさんの顔を見つめている。アレは国を揺るがす大事件だったから知らない筈が無いと思うけど、スレイヤ君はそこまで興味を持ってなかったのかな。
「次にマークス家だが、彼らは神鏡の仲間となる素質を持った君を勘当したんだ。君が神鏡の仲間となれば当然、彼らの求心力は落ちるだろうね」
『マークス家の求心力が落ちる』と聞いて、スレイヤ君の眉がピクリと動く。そりゃあ自分を追い出した実家に仕返しが出来るなら魅力的だろう。尤も、スレイヤ君の場合はスレイヤ君にも問題がある訳だけども。
「更に、私の娘のサラだが……あの子にも特別な力があってね。いずれ発表することになるだろうが……その際には当家の影響力は更に上がるだろうね」
「……」
「だから君の事が無くても三公のバランスが崩れるのは時間の問題だよ。加えてカイウス君、メルク君、ロイド君。そして彼らの婚約者達。彼ら彼女らの実家は魔人との戦いで大きな名声を得る。こうなっては最早、三公だけに力を集約させることは難しいだろうね」
「……で?」
「うん?」
スレイヤ君が鋭い目を向けたまま、パパさんに問いかける。
「……今の話を聞いても、シルフォード家が一人勝ちするようにしか聞こえねぇ。そこにオレを加えればますます独走状態になるだろうな。それで……テメェは何がしてぇんだ? シルフォード家をデカくすることが目的じゃねぇんだろ……?」
「そうだね。君の言う通り、このままではシルフォード家だけが突出してしまう。それは私の望むところでは無いよ。だからーー」
パパさんはスレイヤ君にニッコリと笑顔を向ける。
「ーー君にシルフォード家を終わらせて欲しいんだ」
「……は?」
「あぁ、そうだスレイヤ君。私がここに来たのはこの話をする為だ」
スレイヤ君は自分の耳を疑っているようだ。いきなり目の前に現れた男からそんな事を言われれば当然だろう。
しかし、まさかパパさんとここに来るとは思わなかった。彼は公爵家の当主。護衛も無くーーいや、まぁオレが護衛だとしても、こんな危険な場所に来るなんて普通はありえない。
加えて屋敷からも距離があり、片道だけでも馬車では二日程度かかるほどだ。
それでも、フードに眼鏡と最低限の変装はしてもらってなんとかここまでこぎつけた。まぁ、ここまできたら後はパパさんの交渉力次第だ。なんとかなるように祈るしかない。
「テメェ……正気か……?」
「フフ、そんな事を面と向かって言われるのは若い頃以来だね。マークス家から除名されたとはいえ、君は王族に連なる者。私の養子となる資格は充分にあるさ」
呆気に取られるスレイヤ君をよそに、パパさんは淡々と話しを進める。
「加えてシルフォード家には現在、正式な跡取りがいなくてね。勿論、婿養子を取れば済む話ではあるんだが……娘には心に決めた人がいるからね。私も娘の幸せを邪魔するようなことはしたくないんだよ。ただ、君にも悪い話ではない筈だよ? 養子になった暁には当然、将来的に君が公爵家の長となりうるからね」
ただ静かにスレイヤ君を見据えるパパさん。しかし、スレイヤ君の目から油断は消えず、パパさんの瞳をジッと睨む。
「……何が目的だ……?」
「目的?」
「養子なら……オレでなくてもいいはずだ。適当な親戚筋がいない筈もねぇ。何考えてやがる……」
「ふむ。まぁ当然の反応だね。そうだね……一番重要な目的は、ここに捕まったエレナ君を助ける為だよ」
「あ? どういうことだ?」
スレイヤ君の問いかけに、パパさんは語り始めた。スレイヤが攫われる現場に居合わせてしまったエレナちゃん。そんな彼女だけを助けた場合、何かあった際に逆恨みされる可能性があること。それを防ぐためにはスレイヤとマフィアとの関係を清算する必要があること。そのために国に協力を取り付けられるよう、大義名分が必要なこと。
そしてパパさんの話が終わった後、暫く考え込んでいたスレイヤ君だったが、眉にシワを寄せながら顔を上げた。
「……それでオレを養子にする? お前、やっぱり正気じゃねぇのか? 神鏡の仲間として扱うだけで大義名分は立つだろ」
そんなスレイヤ君に、パパさんは「はぁ~」、と長い息を吐いた。
「……スレイヤ君。自分がどれだけ信用されていないか分かっていないね? 養子にするのは君を監視する意味もあるんだよ?」
「……っ!? ざっけんな! そこじゃねぇ! 養子になんざなれるわけがねぇだろうが!」
自分をバカにしたようなパパさんの言動に、ただでさえ余裕のなくなっていたスレイヤ君の堪忍袋の緒が切れる。
「テメェは三公当主だろうが!? そのテメェがなんで三公の役割も知らねぇんだ!? 王家の暴走を止めるだけじゃねぇ、各家への防波堤だぞ!? そこでマークス家の血を受けたオレがーーいや、神鏡の仲間にもなるならそれ以上の影響力か? ともあれ当主になってみろ! 三公のパワーバランスが崩れるぞ!? しかもオレは前科持ち。すねに傷があるやつが当主になれば余計な混乱が起こるのは間違いねぇだろうが!!」
烈火の如く怒り狂い、パパさんを怒鳴りつけるスレイヤ君。
へぇ……。意外な一面だな。
パパさんもオレと同じ感想を抱いたようだ。驚いたような顔をスレイヤ君に向ける。
「……ふむ。君には思っていたよりも学があるみたいだね。娘から聞いていた話と随分印象が違う」
「テメェ……どこまで人をコケにーー」
「いや、すまないね。君をバカにしたいわけじゃない。それよりも、君の疑問に順番に答えようか」
「……疑問?」
「あぁ。まず、三公のバランスについてだけど……。正直ね、魔人との戦いの後は貴族全ての力関係が崩れるだろうね」
「なに?」
「まず三公。マルタ公爵家には現在、魔人に協力した疑いがかかっている」
「なっ!? 初耳だぞ!?」
「そうかい? 先日処刑されたドゥーク侯爵。彼は魔人と通じていたことで処刑されたけれど……彼はマルタ公爵の派閥だった。それに、彼が私達を貶めようとした際には、マルタ公爵はすぐに彼と連携して王に進言した。状況証拠だけでも疑うには充分すぎる程の迅速さだったよ」
スレイヤ君は黙ってパパさんの顔を見つめている。アレは国を揺るがす大事件だったから知らない筈が無いと思うけど、スレイヤ君はそこまで興味を持ってなかったのかな。
「次にマークス家だが、彼らは神鏡の仲間となる素質を持った君を勘当したんだ。君が神鏡の仲間となれば当然、彼らの求心力は落ちるだろうね」
『マークス家の求心力が落ちる』と聞いて、スレイヤ君の眉がピクリと動く。そりゃあ自分を追い出した実家に仕返しが出来るなら魅力的だろう。尤も、スレイヤ君の場合はスレイヤ君にも問題がある訳だけども。
「更に、私の娘のサラだが……あの子にも特別な力があってね。いずれ発表することになるだろうが……その際には当家の影響力は更に上がるだろうね」
「……」
「だから君の事が無くても三公のバランスが崩れるのは時間の問題だよ。加えてカイウス君、メルク君、ロイド君。そして彼らの婚約者達。彼ら彼女らの実家は魔人との戦いで大きな名声を得る。こうなっては最早、三公だけに力を集約させることは難しいだろうね」
「……で?」
「うん?」
スレイヤ君が鋭い目を向けたまま、パパさんに問いかける。
「……今の話を聞いても、シルフォード家が一人勝ちするようにしか聞こえねぇ。そこにオレを加えればますます独走状態になるだろうな。それで……テメェは何がしてぇんだ? シルフォード家をデカくすることが目的じゃねぇんだろ……?」
「そうだね。君の言う通り、このままではシルフォード家だけが突出してしまう。それは私の望むところでは無いよ。だからーー」
パパさんはスレイヤ君にニッコリと笑顔を向ける。
「ーー君にシルフォード家を終わらせて欲しいんだ」
「……は?」
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