機械人形"妖精姫"、"氷の王子"に溺愛される

ノンルン

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第6話 再会

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「メリッサ」

 クロヴィスは微笑みながらメリッサに挨拶をした。ところが数秒後、ついさっき見たばかりの人と同じように固まった。
 これはこれで美しいのだが、

(わたし、どうしてこうなるのでしょうか……)

 メリッサは困惑せずにはいられない。

 白い陶器人形のように整った顔立ち。それは年を増すごとにさらに美しくなって……もはや人ではない、メリッサは心からそう思う。
 そして、タンザナイトのような瞳には切れる鋭い光が浮かび上がっている。
 ダイヤモンド。誰よりも強いその瞳に、暖かい光が浮かんでいる。 
 それがあの時と同じようで、母と同じようでメリッサの心が暖かくなったのを感じた。

「お久しぶりです、殿下。こうして再びお目通りがかない、心より感謝申し上げます」
「ああ、久しぶり、だな……」
「呼んでくださりありがとう存じます」

 メリッサが笑うと、クロヴィスは微笑む。
 氷の王子と呼ばれる人の、めったに見せることのない笑顔だということにメリッサは嬉しく思う。 
 それに……笑顔を浮かべてもドス黒いアベルと違って、クロヴィスの笑顔はひたすら綺麗だ。

(不公平、まさにこの事を表す言葉だと思うわ……。女の子のように美しいなんて……もはや比べる気もおきないわね……)

 ただひたすらそんな事を考えているメリッサは、自分がそれを持っていることを自覚はしていない。

 メリッサは見とれていた。
 タンザナイトのような瞳に浮かんでいる凛とした凛々しい光。
 不機嫌になると……いつも不機嫌なのだが、無愛想にめんどくさそうになる言動。

 彼が大して変わっていないことに安堵を覚えるもののどこか情けなくてメリッサは肩を落とした。
 メリッサは彼に見とれながらも、彼の情報をメリッサの膨大な情報量の中から整理する。

 ――クロヴィス・ティラス。

 世紀に一人とも呼ばれる"稀有の天才"でありながら、"氷の王子"と呼ばれている。

 この大陸に、その名を知らぬ者はいないだろう。しかし、"氷の王子"の異名とセットで"稀有の天才"で言われることから氷の王子としての印象が強かったが。

 そもそも、魔法大国のティラス王国は魔法学院の教育も最高峰と言われている。
 魔法学院は12歳になる魔力を持つ子ならば行かなければならない。
 ティラス王国の魔法大学は推薦を受けたものしか受けられず、それこそ最高峰と謳われているだろう。
 
 魔法学院を14で卒業し、たったの二年で国内の魔法大学の卒業資格を取ったクロヴィスは、より広い世界を求めて国外の大学に飛び出していったというわけである。

 国内の魔法大学で行われているのは魔法省などのエリートに着くための育成教育、そして主に魔法の研究。魔力と加護などについてはひたすら研究されている。
 魔法大国のティラス王国は魔術は発展しているが、魔道具についてはあまり積極的に開発をしてはいない。

 という事で変人が集まる魔法大学に飛び込んだわけだが、そこで行われるのは「魔道具の研究」ただ一筋。
 魔法具の研究は魔石の研究ともなるが、魔力と加護、魔術について研究していたクロヴィスは魔道具の研究に没頭した。
 変人が集まる中でも際立って天才だと言われたのがクロヴィスで、これもたった2年で卒業資格を取ると……まあ三年から入ったのだが、その後研究生として明け暮れていた、という桁違いの頭脳と変人の方である。

 ちなみにアベルは魔法よりも行政に才能があり、その面ではクロヴィスと並ぶ天才である。
 クロヴィスが海外に行った時、自分も勉強をしに出ていって……音信不通であった。
 アベルは家で息子、でもあったとメリッサは思っているが。

「尋ねられなくてすまない」

 悔しそうにクロヴィスが言ったので、首をかしげながらも静かに首を振った。

 これが他の令嬢だったのならば、家に尋ねてくれることに執着しただろうが、メリッサにそんな考えなど浮かばなかった。

「いいえ。心配していたのですけれど、アルの無事を確認できました。それに、殿下が使者を派遣してくださって嬉しゅうございました」
「そうか……お前、連絡していなかったのか?」

 クロヴィスはやけに神妙な顔をしてうなずくと、アベルの方を振り返る。

「それは殿下も同じでしょう」

 そんな息のそろった二人を見て、メリッサは微笑んだ。この辺は、どこかのバカ王子と変わらないような気もしながら。

「ふふっ、変わらないですわね。ところでいつお戻りになられたのですか?新しい開発もしていらしたと聞き及んでましたが」

 メリッサがそう言うと、バツの悪そうに視線をそらすクロヴィス。

「……昨日、戻ったばっかりだ。その……妙な噂を耳にしたから、な……」

(妙な噂……婚約破棄の事かしらね……。それとも、あっちの事……?)

 9年前に決まったバカ王子との婚約。
 その頃には大学の準備で忙しくなり、母が亡くなって王宮に来ることが無くなったメリッサは、婚約者としてきちんと挨拶はしていない。
 いずれにせよ、その形の良い口から発せられる言葉にメリッサは身構えた。

「君が……いや、いい。ところでメリッサ。あのバカ……愚弟が君にとんだ迷惑をかけたと聞いた。本当にすまない!」

 メリッサはびっくりしすぎて固まる。
 一国の王子がメリッサに向かって頭を下げたからだ。

「で、殿下!頭をお上げください。一国の王子が頭を下げたとなったら……。そもそも殿下が謝られることではありません」
「いや、しかし……あのバカが……!」
「いいえ。バカおうじ……クローディア殿下の意志ですし、わたくしは気にしておりませんわ」

 むしろ、開放されましたから嬉しいです、とはさすがに言えないが。

 メリッサが微笑むとやっと顔を上げたクロヴィスは口を開いた。

「メリッサ」
「何でしょう、殿下」
「あのバカ王子に未練は?」

 二度目のその問いかけにメリッサはきっぱりと笑顔とともに即答する。

「まったくありませんわ」

 メリッサが残念なのは書物庫の出入りができなくなったことくらい。

 そもそも、この婚約はバカ王子の彼の口から出たことなのだから。
 メリッサに未練など、あるはずもない。

「そうか。……その髪と目、覚悟の上でなんだな……?」

 どこか安堵して、納得したようにメリッサは呟いた。
 メリッサは一瞬ビクッとした。
 
(知られている……バカ王子は分からなかったのに……。さすが、クロヴィス様ですね)

「ええ、そうです。でも、あちらの方が動きやすいのですがね……」

 誰にも目立たなくて、ひたすら地味で。そりゃあメリッサは満足していた。
 が、どこか心配そうに見てくるクロヴィス。

(どうしたのかしら?)

「殿下。向こうはどうでしたか?」
「面白かった。……メリッサ、大学に来る気はあるか?」

 メリッサはうつむいた。
 と言うものの、父が許してくれるはずがない。

「いいえ。国外は……その、教授が特別研修生としてくださいましたし……」

 メリッサは小さくはにかみながら言った。
 クロヴィスはなぜかそれに驚いたようだった。

「特別研修生?メリッサ、君は大学に行っていたのか?」
「あ、あの……魔法学院に入ってすぐから声をかけられて……その、皆さんには言っていませんでした。すみません」

 メリッサは怖くなって身を縮こまりながら頭を下げた。

 メリッサは何かと規格外である。
 11の時に魔法学院に入り、その年すぐに大学に内密に声がかっかった。
 一方で魔法学院の卒業資格を2年でとり、さすがに王子をこしたらと、もう一年、魔法学院に、ただの"メリッサ"として主席で卒業したのが数日前。
 それと同時に大学の卒業資格も取っていた。

 しかし、メリッサは父にその事を言えなかった。
 "約束"それを破ってしまうことになるから。

「メリッサ」

 生真面目な声とともにクロヴィスは呼んだ。

「何でしょうか」
「なぜ誰も推薦しない」

 真面目にクロヴィスは聞いてくる。
 メリッサは首をかしげるしか無い。
 それに、彼が答えを聞きたいと思っているとはメリッサには見えなかった。

「君は魔法大学に来るきは無いのか!?それとも……陛下か。何でもない、メリッサ」
「はい?分かりました……」

(国王陛下がどうかしたのかしら?)

 メリッサは困惑した。
 しかし、クロヴィスはそのメリッサに熱心に話しかけてくる。

「メリッサ。君にはこの国は小さすぎる」
「は、はい?」


 メリッサは更に困惑した。
 でも、クロヴィスはメリッサに視線をそらすことを許さないとでも言うようにじっと見つめてくる。

「メリッサ。君は俺の決められたっ」

 ――決められたっ

 ものすごく不自然に切られた言葉。
 ……なんだろう、メリッサは首をかしげる。

「殿下?やはりお疲れなのではありませんか?」

 クロヴィスの頬には珍しく朱色がさしていた。
 メリッサはびっくりして、そして心配になった。

「リサ。大丈夫。ちょっと混乱しているだけだから」

 肩を震わせながらアベルはメリッサに言った。
 それにメリッサは更にクエスチョンマークが増える。

(何が?何で……?)

 メリッサは何故と言うものがずっと頭の中で回っていた。

「うるさいぞ!アベル。何でも無い、何でも無いから気にするな……」
「そ、そうですか。あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「大丈夫そうに見えませんが……」

 メリッサはなおも心配で問いかけた。
 しきりにクロヴィスが首を振るので納得することにしたが。

「メリッサ」
「何でしょうか」
「明日、大学に顔を出す。一緒に行ってもいいだろうか」
「はい、殿下がそうお望みなら」

 メリッサは首を立てに振った。
 やけに"メリッサ"というのに熱がこもっていなくも無いのだが。
 どうしてだろう、メリッサは首をかしげる。

 そして、頭の中にずっと浮かんでいた疑問を口に出した。

「殿下。どうしてわたくしのことを知っていらしたのですか?母のことも……」
「……知っているよ。君が知らなくても」

 どういうことだろう、メリッサの頭の中には更に疑問がわいたものの、それ以上クロヴィスが口を開きそうに無かったのでメリッサも口を閉じ、静かに礼をして退出した。

 

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