機械人形"妖精姫"、"氷の王子"に溺愛される

ノンルン

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第11話 あの人達は今

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 あの婚約破棄から4日後の第二王子の執務室。
 第二王子の執務室を、そそくさと補佐官たちが出ていった。

 メアリーはその補佐官たちに頭を下げるとクローディアを見る。

「ごめんなさい。クローディアさま……」
「待て。君が謝ることはないではないか⁉」

 メアリーはしっかりとクローディアに頭を下げた。

「いいえ。違うのです……」

 クローディアと同学年のメアリーは、あの日学校を卒業してから彼の権限で客室に招かれていた。
 自分が使えるようなところでは無いと言いたかったものの、メリッサのことを考えるとそうとも言えずにここまで来てしまったと言うところだ。
 本当は彼に言うべきだった。メアリーが彼に偽っていた事を。
 そうしなければメリッサはあのようなことになることは無かったのだから。

 メアリーは子爵令嬢であり、比較的裕福層に生まれた。
 別に、メリッサから婚約者を奪いたかったわけではない。

(わたしは……平穏に、それこそぶどう園でぶどう狩りでもしてたかったわ)

 あくまで彼の独断だった。

 メアリーは彼のことをいい友人だと思っていたし、彼だってそう思っていたと思っていた。
 まさか、婚約者になり上げられるなんて……故郷の人たちになんと言えばいいのか。

 しかたない、と決意したのが今日である。

 しかし、仕事も真面目にしないクローディアは……やれば出来る方だとメアリーは思っているが、今ひとつエンジンが入らない彼は補佐官に仕事を任せっきりであった。
 メアリーが部屋に入ってきたらパッと顔を輝かせる姿に大丈夫かと本気で心配したものだ。

 自分が手伝うのもバツが悪い。女主人を気取ったようにはしたくない心境である。

「何が違うのだ!君に手を出したのも、意地悪をしたのもメリッサだろう」
「だから、そこが違うのです。クローディアさまは勘違いをなさていますわ。メリッサさまは何もしておりません」
「君は優しすぎる!あいつは家紋でも捨てたらいいんだ!」

 メアリーは彼に、メリッサから何かをされたなどと口にしたことはない。――少なくともメアリーの記憶はそうである。
 
 必死にメアリーの言うことを否定しようとするクローディアに、メアリーはひたすら首を横に振る。

「ですから、それがクローディアさまの思い違いでしょう。……真実とは、知っている人の数だけ存在するのです」

 いつか、メリッサが言っていた。

 メアリーは無能ではなかったが、家が家なために貴族としての価値観が違う。

 そんなメアリーとクローディアにメリッサは陶器みたいな無表情の顔と、温かみを込めた瞳であることを語った。

『――真実とは、人の数だけ存在しますわ。自分の真実が人の真実とは限らないのです。しかし、貴族は事実を決められる立場にあり、真実を覆せるのです。それは王族とて同じでございます。わたくしたちは自分の中の真実と事実を常に見極めなければございません――』

 あの時、メアリーは自分より年下の女の子から出たその言葉にびっくりした。

 ――ああ、この子は王族の必要とする、王族としての覚悟のある素晴らしい方なのですね、と。

 メアリーはメリッサをしれたことに心から嬉しく思った。でも、クローディアはメアリーがびっくりした意味を違う理由と思ったのだろう。
 ひどくメリッサのことを糾弾して、メアリーは悲しくなった。

 きっと、この方はメリッサにふさわしくない。クローディアは彼女を必要とするかもしれないが、メリッサにはもっと広い世界が似合うのだろう、と。

 まさか、それがメアリーがメリッサの婚約者を奪う形で叶うとは夢にも思わなかった。


 メアリーのメリッサからのその言葉を聞いて王子はひどく怒った顔をする。

(だから、メリッサさまはいつも注意をしていらしたのでしょう。きっと、彼のことが心配で……)

 王族は民、臣下の意見を聞けてこそだと言うのだろう。
 メアリーはクローディアのことを最初こそ心配したものの、今はそれが理解できる。否――理解しなければいけない状況と言うものだろうか。

「君までそんな事を言うのか⁉メリッサに何を言われた!あいつの言うことは信じるな。あの、機械人形が……」
「クローディアさま。分かりました。しばらく言うのを控えますから、せめてお仕事だけでもされたらいかがですか?」
「……やる気がしない」
「そうですか。兄君に抜かされて、せっかくの機会を台無しにされてしまいますよ?」

 メアリーはブスッと怒っているクローディアに向かって微笑む。

(メリッサさまは決して"機械人形"などでは……。本当は、わたしがクローディアさまに誤解を解くように言うのが賢明なのでしょうけど……)

 メリッサがそれを望んでいるかは別である。

「あいつは兄上の秘書官までか兄上まで……。やる」
「わたくしも手伝いますから」

 やっとやる気になってくれたクローディアにメアリーは苦笑いを浮かべた。
 クローディアの相手……お守りはまるでベビーシッターの作業だな、と。

「クローディアさま。ここは話し合いを付けたほうがいいのでは無いでしょうか?」
「うるさい!」

「クローディアさま。ここは間違っていますわ。予算の上乗せ、調査をしたほうがよろしいのでは?」
「う、うる……そ、そうしよう」

「クローディアさま。ですから、何でも予算と温情をかければいいわけではございませんわ。視察をしたほうが……」
「そんな事は分かっている!……君はメリッサにそっくりだ。メリッサの方が口うるさいが、仕事は完璧にやる」
「ごめんなさい」

 メアリーは間違いを見つけてはクローディアに指摘していたが、さすがに怒鳴られてからは辞めることにした。

 メリッサのことを比べる王子は残念な方です、と心のなかで呟いてから。

 そして、しばらく王子の相手ををしなければならないことに苦笑を浮かべて補佐官たちに頭を下げた。

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