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1.始まりは突然のプロポーズから

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 またまた次の日の朝。
 私はいつもと違う道を選択し、離れた曲がり角の壁に身を寄せながら例のあの場所をのぞきこんでいた。
 ここまではいくつもの脇道や遠回りできる道があったからいいものの、さすがにあそこの一本道だけは避けて通れそうにない。
「よし、誰もいないわね。今が、絶好のチャンス!」
 ホッと安堵の息と共にそちらへむかおうとして――、背後から声をかけられた。
「そんなところで何をしているの? 美結さん」
「!!」
 私は驚きに目を見開いてから、マッハの速度でふりかえる。そこには、きょとんとした表情の超イケの姿があった。
 この前とは全然印象の違う、なんだか軍服っぽいグレーの服装。胸元で、立派な勲章っぽいものが揺れている。茶色の短い髪はきれいに整えられていて、これで白い馬にでも乗っていたものなら――、完璧に白馬の王子様だ。
 雰囲気が変わって、見た目の破壊力が増している。確実に。
 ふうと私は吐息をつきながら、ギギイ、と錆びた音でもしそうなほどぎこちなく視線をはずした。
「どうして、超イ――もとい、あなたがここにいるのかしら?」
「どうしてって、美結さんがここにいるからだけど」
 不思議そうな顔で、当然のように言ってのける超イケ。
 ああ、そうですか……
 超イケ――ってさすがにこの呼び名も、変えた方がいいかもしれない。さっきみたいに口からすべって、それを訂正するのもめんどくさそうだし……、うん。
「どうしたの、美結さん?」
「あ、ちょっと待って」
「? わかった」
 さて、どうしたものか。
 『あっくん』は幼い小学三年生のあの子に固定されてしまっているから、イメージが結びつきそうにない。
 ちょっと丁寧にして、『あっさん』? 紅茶の品種に似たようなものがあったな、うん。って、それはアッサムか。
 『瀬田さん』、『瀬田くん』って苗字で呼ぶのは今更過ぎるよね。
 じゃあ、まあ普通に――
 ごく普通に、でいいか。
「美結さん?」
「ああ、ごめん。それで、今日はなんの用? 秋斗、くん」
「……!」
 ガバッ。そんな効果音が聴こえた――、ような気がした。
 次に我に返ったとき、私の身体は彼の両腕の中にスッポリと収められていた。
 ……
 ……?
 …………!
 ぎゃぁあああああ。
 昨日に引き続き、私のかばんが地面に落下する。
 お弁当、と一瞬思ったけれど、そうだった。今日のお弁当は、昨日買った広告の品のあんぱん。個包装だから、モーマンタイ。つぶれている可能性は、とりあえずスルーで。って、いやいやいや!
 それより何より、この状況の方をどう――
「美結さん……!」
 感極まった声で、しかもすぐそばで名前を呼ばれた私は、うかつにも両肩をビクッとはねあげてしまう。
「今、おれのこと、秋斗って……。おれが瀬田秋斗だって、認めてくれたんだよね? すごく……、すごく嬉しいよ」
 ギュッとさらに強く抱きしめられ、「ありがとう」なんてささやかれるものだから、私はそのままカチーンと硬直してしまった。
 見た目に合った、さわやかなイケメンボイス。耳元での破壊力は、げに恐ろしきものでございました――
 ようやく解放されたものの、私はその精神的な大打撃から復活できずに、目を見開いた状態のまま固まっていた。そんな私にはお構いなしに、「でも」と彼は小さく笑う。
「名前で呼び合うなんて、なんだか照れちゃうな。こ……、恋人同士みたいだ」
 はにかんだ表情でうしろ頭をかきながら、彼は少しだけ私から視線をそらした。
 あの……、ですね。
 さっきの行動といい、その関係を飛び越えて結婚なんて言い出しているくせに、なんで一歩手前でそんなに恥ずかしがっているんですか。
 私が胸中でツッコミを入れていると、「ああ、そうだ」と秋斗くんがポンと手を叩く。落ちていた私のかばんを拾い、それと一緒に人懐っこい笑顔もむけてくる。
「美結さん、きいて。おれ、ちゃんと就職してきたんだよ!」
 就職? ああ、なるほど。だから、服装が変わっていたわけですね。
 納得しながら、かばんを受け取りお礼を言う。続けて「おめでとう」とも口にしたけど、昨日の夜→朝ってそんな短時間で書類審査や試験や面接が行われたってことだから――、大丈夫なの? その会社。私的には、公務員とか安定した平々凡々なものがいいなあと思うんだけれども。
「ちなみに、どんな職についてきたの?」
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