2 / 10
2.
しおりを挟む戻ってきた侍従のレナードによると、酒場に向かった2人はまだ開店していない酒場の2階で関係を持っていたという。
夜の酒場で気に入った女性と2階で数時間過ごせるという場所らしい。
チャールズは独身時代にその店に通い、その女性と親しくなっていた。
今は夜ではなく、昼に利用しているということだ。
その女性は、夜は別の男を連れ込んでいるのだろう。
ゴリゴリゴリゴリ………
「キアラ様、それは?」
「仕返しのお薬。アレに飲ませたら相手の女性が性病になるの。」
「それは……チャールズ様への仕返しになりますか?」
「時間が経てばね。その前に種無しにした方がいいかなぁ?」
「……離婚はなさらないのですか?」
「このお腹の子供を取られちゃうかもしれないし。
妻として居座ってあげるの。
この子はアレの子だから、侯爵家の跡継ぎでしょ。
アレを種無しにしたら、他に子供は作れなくなるし。
この私を裏切って怒らせたら怖いってことを教えないと。」
「……やりすぎると魔女だってバレますよ?」
「誰も信じないわ。お母様もカイラも依頼は受けてないから何十年も流通していないもの。」
祖母の時代までは、依頼を受けていたらしい。
そのために『魔女の秘薬』の何種類かは、出回ることになってしまった。
依頼人が契約を破り、他の人に渡してしまったからである。
祖母は強い薬を作れる魔女だった。
契約を破った男が、薬の入手先を話せないように用心はしていた。
だが、しばらくは捜索が続いたために依頼を受けることをやめてしまった。
魔女と依頼人が直接話すわけではない。
間に仲介人がいる。
レナードの祖先が代々ソレにあたる。
レナードの祖父が、依頼人を見誤ったということだ。
それからは元々秘匿された存在だった魔女が噂されることもなくなり、自分たちの世代では物語なのではないかと魔女の存在を信じる人などほとんどいない。
「やっぱり強力な惚れ薬を最初に使うべきだったわ。」
「ですが、キアラ様に惚れていてもチャールズ様なら性欲は別だと浮気しそうです。」
「……そうね。」
惚れ薬は確かに好きになってはくれる。
他の女性に好意を持つことはない。
だけど、性欲にまで効くかといえば、そうではない。
元々、愛と性欲は別だという考えの男に使っても浮気しないというわけではないのだ。
「婚約前に調査した時は問題のない男だったのですが……婚約後も監視を続けるべきでした。」
「婚約をきっかけに色欲にハマってしまったのね。
私も気づかなかったし、あなたは私の側にいることが仕事だもの。あなたのせいじゃないわ。」
「キアラ様を裏切るなんて、許せることではありません。」
レナードの忠誠心は厚い。
キアラの初恋の人だけど、それ故に融通が利かない男でもあった。
なので、私は婚約者になったチャールズを愛していると自分に暗示をかけて愛した。
裏切りによって、すっかりその暗示は解けてしまったけど。
解けてしまったからには、遠慮する必要はないわよね?
私が求めるのはあなた唯一人なんだもの。
「……ねえ。作ってほしい契約書があるの。」
「どんな内容でしょうか?」
「妊娠しなければ浮気しても構わないと言った内容で。」
「構わないのですか?」
「誰が、とは決めなくていいじゃない。」
「……なるほど。かしこまりました。少し内容を変えて何パターンかご用意します。」
「お願いね。」
レナードは私の言いたいこととチャールズの言いそうなことを予想して作成してくれるのだろう。
浮気を知ってしまったからには、私はチャールズに問い質す権利がある。
自白剤を使わなくても、彼が言いそうなことは想像できる。
逆に自白剤を使ってしまっては記憶に残らないので、契約書にサインをもらったとしても覚えがないと言われては意味がないのだ。
魔女の愛を裏切った代償は、あなたのこの先の人生の一部をもらうわ。
336
あなたにおすすめの小説
貴方の幸せの為ならば
缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。
いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。
後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
隣の芝生は青いのか
夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。
「どうして、なんのために」
「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」
絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。
「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」
「なんで、どうして」
手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。
パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。
【完】婚約破棄ですか? これが普通ですよね
えとう蜜夏
恋愛
王国の夜会で第一王子のフィリップからアマーリエ公爵令嬢に婚約破棄を言い渡された。よくある婚約破棄の一場面です。ゆるっとふわっと仕様です。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
どうかそのまま真実の愛という幻想の中でいつまでもお幸せにお過ごし下さいね。
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、私は婚約者であるアルタール・ロクサーヌ殿下に婚約解消をされてしまう。
どうやら、殿下は真実の愛に目覚めたらしい……。
しかし、殿下のお相手は徐々に現実を理解し……。
全五話
僕の我儘で傲慢な婚約者
雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。
一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。
大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
殿下の愛しのハズレ姫 ~婚約解消後も、王子は愛する人を諦めない~
はづも
恋愛
「すまない。アメリ。婚約を解消してほしい」
伯爵令嬢アメリ・フローレインにそう告げるのは、この国の第一王子テオバルトだ。
しかし、そう言った彼はひどく悲し気で、アメリに「ごめん」と繰り返し謝って……。
ハズレ能力が原因で婚約解消された伯爵令嬢と、別の婚約者を探すよう王に命じられても諦めることができなかった王子のお話。
全6話です。
このお話は小説家になろう、アルファポリスに掲載されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる