1 / 47
1.
しおりを挟む病気で母が亡くなった。父も数年前に亡くなっている。
兄弟もおらず、親戚にも会ったことがないナターシャは一人ぼっちになった。
ナターシャを一人にすることを心配した母は、最期の時まで繰り返し遺言のように言った。
「ナターシャ、あなたは魔力が多いわ。必ず領主様が保護してくださるはずよ。お母さんが死んだら、迷わず領主様のお屋敷に向かいなさい。わかったわね?」
「はい、お母さん。」
一人にしないで、と泣き叫びたいが、母の命が消えるのはもうどうにもならないことだとわかっていた。
だからナターシャは母が安心して旅立てるように、涙を流しながらも微笑んで看取った。
荷物は多くない。
母が自分の死期を悟ったように、いろんなものを処分していたから。
自分のものと大切な思い出をカバンに詰め込み、大家さんに家の鍵を返してナターシャは領主様の屋敷へと向かった。
ここの領主はコダック伯爵。
屋敷の門に辿り着いたナターシャは、母から聞いていた名前を門番に言った。
「すみません。ここで働いているジュリさんという侍女長補佐をされている方にお会いしたいのですが。」
「ん?ジュリさんにか?お嬢ちゃん、約束はしてるかい?」
「いえ、母が亡くなったのでジュリさんを頼りなさいと言われて来ました。」
領主様に会いたいと言うのは屋敷の中に入ってからでないといけないらしい。
子供が領主様に会いたいなどと言うのは、2つ考えられるという。
1つ目は、領主様の隠し子だと主張する場合。
2つ目は、魔力の多い子供が保護を求める場合。
ナターシャの場合は2つ目になるが、領主様の保護を得られる前に例え門番といえども保護してほしいと伝えるのはよくないらしい。
追い返したり、後日来るようにと言っておいて、攫うという事件があったからだ。
善良な領主の元で働いているからといって、そこで働く者すべてが善良ではない。
なので、母は事前にジュリさんにナターシャのことを伝えているので、まずジュリさんに会うように言ったのだ。
「あぁ、メイドになるんだね。じゃあ、ここよりも通用門に回って……でも、お嬢ちゃん、歩き疲れてそうだなぁ。」
門番のおじさんは優しい人のようで、ナターシャの心配をしてくれたようだ。
どうしようかと悩んでくれているが、ナターシャは見かけよりも体力はあるし想像するより子供でもない。
「あの、通用門まで歩けますよ?」
「そうかぁ?……あ、ちょっと待って。馬車が来た。おじさん、仕事しなきゃ。」
そう言うと、門番のおじさんはもう一人のおじさんと一緒に大きな門を開けた。
馬車はこの家のものらしく、そのまま通り過ぎるかと思えば停止した。
「どうしたんだ?その子は?」
「はっ!メイド希望者らしくジュリさんに面会希望だそうです。」
「そうなのか。じゃあ、一緒においで。」
そう言って、ナターシャよりも少し年上の男の子が馬車の扉を開けてくれた。
ナターシャは戸惑ったが、門番さんがナターシャの荷物を馬車に積んだので、構わないらしい。
こうしてナターシャは、コダック伯爵の敷地内へと入ることになった。
1,163
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる