あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん

文字の大きさ
5 / 8

5.

しおりを挟む
 
 
俺ノックスの婚約者だったアヴリルの第一印象は『可愛い』だった。それは間違いなかった。

だがいつの頃からだろうか。

淑女教育、王太子妃教育と日々追われながらもアヴリルはどんどん淑女で聡明な令嬢となっていった。
ちょっとした失敗を恥ずかしそうに、でも子供みたいに笑っていたアヴリルはもういない。

俺自身も王太子教育を受けながら、だが俺の覚えの悪いことに呆れた教師のため息の回数などどうでもいいものを数えながら日々を過ごし、やがて学園に入学した。


学園で気づいたのは、令嬢の見分け方だ。

高位貴族の令嬢は、アヴリルみたいな淑女が多い。笑い方も上品だし手先の使い方がまるで違う。
下位貴族の令嬢は、親あるいは家庭教師の質によるのだろう。様々だった。

だが、俺は下位貴族令嬢と接する方が楽だと感じた。

言い寄ってくる令嬢たちの狙いを見極める。
俺の愛人になれば金や宝石が手に入ると思っている令嬢は多くいる。
だが、口が軽い令嬢はダメだし、遊び相手が多くいる令嬢もダメだと思った。

何人かの令嬢をそばに置き、軽いスキンシップを取りながら俺に合う令嬢を探す。

俺が求めていたのは、『癒し』だ。

アヴリルとの結婚は決まっている。
だが彼女との結婚は息が詰まりそうになるだろう。

息抜きを出来る自分好みの愛人を見つける。それが学園での目標だった。

そして選んだのがシーラ・ノンブレイン子爵令嬢だった。

シーラは堅苦しくもなく下品でもない絶妙なバランスの令嬢だった。

兄弟が多く、結婚は望めないため将来は働きに出る。そう言った。

『俺の愛人狙いだろう?』と聞くと『学園にいる間だけでいい。初めての相手になってほしい』と率直に言ってきたことで尚、好感が高まった。

学園にいる間だけの関係になるか、卒業後も続くことになるかはその時になってみないとわからないと思っていた。

だが、俺は女性経験は閨教育で既にあっても、純潔の女性は初めてだったこともありシーラにのめりこんだ。

一年後にアヴリルが入学してきた時には、婚約者がいるということが煩わしいとさえ感じた。

シーラを側妃にするには子爵家に金がない。側妃になるには実家の負担金もあるのだ。
愛妾にすることは出来る。だが愛妾は俺に割り当てられた金の中から援助し続ける必要がある。

そしてそのどちらも事前に国王陛下である父に申請しなければならない。

特に側妃については、本来であれば正妃が子供を産んでからになる。産まなければ相応しい貴族家から側妃が選ばれる。自分勝手に選んで了承されるものでもないのだ。
なのでシーラが側妃に認められるとしたらアヴリルが子供を産んでから、ということになる。だが子爵家に金がない。
 
アヴリルが子供を産んだ後なら、愛妾として囲う金も半分は経費扱いになる。
それまでは全額が自分の金から出すことになる。

跡継ぎのいない身で、側妃や愛妾をどんどん増やさないようになっているのだ。

王宮内で囲うのも市井で囲うのも金が要る。
シーラがどこか住み込みで働いた場合は逢瀬は宿になる。

今まで、金は支給されただけ考えなしに使っていた。
宝石などは値が張るため、あっという間に金は消える。
王子が安物を買うことなど沽券に関わると思っていたが、綺麗としか言わないシーラに意地を張る必要はなかったかもしれない。今更返せとも言えないが。

どうしたものか。そんなことばかり考えていると、『愛する人に誠実さを示すためには婚約者と別れることが一番だ』と誰かの声がした。

俺は原点に戻った。そうだ。アヴリルとの婚約を破棄し、シーラを妃と認めさせよう、と。
正妃であれば金の問題はなくなる。


そして父のパーティーでアヴリルとの婚約解消は認められ、シーラは卒業後に教育を受けることになった。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。 伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。 「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」 「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」 しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。 微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。 ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。 「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」 彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。 ※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

復讐は静かにしましょう

luna - ルーナ -
恋愛
王太子ロベルトは私に仰った。 王妃に必要なのは、健康な肉体と家柄だけだと。 王妃教育は必要以上に要らないと。では、実体験をして差し上げましょうか。

【短編】婚約破棄した元婚約者の恋人が招いていないのにダンスパーティーに来ました。

五月ふう
恋愛
王子レンはアイナの婚約者であった。しかし、レンはヒロインのナミと出会いアイナを冷遇するようになった。なんとかレンを自分に引き留めようと奮闘するも、うまく行かない。ついに婚約破棄となってしまう。

処理中です...