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しおりを挟む俺ノックスの婚約者だったアヴリルの第一印象は『可愛い』だった。それは間違いなかった。
だがいつの頃からだろうか。
淑女教育、王太子妃教育と日々追われながらもアヴリルはどんどん淑女で聡明な令嬢となっていった。
ちょっとした失敗を恥ずかしそうに、でも子供みたいに笑っていたアヴリルはもういない。
俺自身も王太子教育を受けながら、だが俺の覚えの悪いことに呆れた教師のため息の回数などどうでもいいものを数えながら日々を過ごし、やがて学園に入学した。
学園で気づいたのは、令嬢の見分け方だ。
高位貴族の令嬢は、アヴリルみたいな淑女が多い。笑い方も上品だし手先の使い方がまるで違う。
下位貴族の令嬢は、親あるいは家庭教師の質によるのだろう。様々だった。
だが、俺は下位貴族令嬢と接する方が楽だと感じた。
言い寄ってくる令嬢たちの狙いを見極める。
俺の愛人になれば金や宝石が手に入ると思っている令嬢は多くいる。
だが、口が軽い令嬢はダメだし、遊び相手が多くいる令嬢もダメだと思った。
何人かの令嬢をそばに置き、軽いスキンシップを取りながら俺に合う令嬢を探す。
俺が求めていたのは、『癒し』だ。
アヴリルとの結婚は決まっている。
だが彼女との結婚は息が詰まりそうになるだろう。
息抜きを出来る自分好みの愛人を見つける。それが学園での目標だった。
そして選んだのがシーラ・ノンブレイン子爵令嬢だった。
シーラは堅苦しくもなく下品でもない絶妙なバランスの令嬢だった。
兄弟が多く、結婚は望めないため将来は働きに出る。そう言った。
『俺の愛人狙いだろう?』と聞くと『学園にいる間だけでいい。初めての相手になってほしい』と率直に言ってきたことで尚、好感が高まった。
学園にいる間だけの関係になるか、卒業後も続くことになるかはその時になってみないとわからないと思っていた。
だが、俺は女性経験は閨教育で既にあっても、純潔の女性は初めてだったこともありシーラにのめりこんだ。
一年後にアヴリルが入学してきた時には、婚約者がいるということが煩わしいとさえ感じた。
シーラを側妃にするには子爵家に金がない。側妃になるには実家の負担金もあるのだ。
愛妾にすることは出来る。だが愛妾は俺に割り当てられた金の中から援助し続ける必要がある。
そしてそのどちらも事前に国王陛下である父に申請しなければならない。
特に側妃については、本来であれば正妃が子供を産んでからになる。産まなければ相応しい貴族家から側妃が選ばれる。自分勝手に選んで了承されるものでもないのだ。
なのでシーラが側妃に認められるとしたらアヴリルが子供を産んでから、ということになる。だが子爵家に金がない。
アヴリルが子供を産んだ後なら、愛妾として囲う金も半分は経費扱いになる。
それまでは全額が自分の金から出すことになる。
跡継ぎのいない身で、側妃や愛妾をどんどん増やさないようになっているのだ。
王宮内で囲うのも市井で囲うのも金が要る。
シーラがどこか住み込みで働いた場合は逢瀬は宿になる。
今まで、金は支給されただけ考えなしに使っていた。
宝石などは値が張るため、あっという間に金は消える。
王子が安物を買うことなど沽券に関わると思っていたが、綺麗としか言わないシーラに意地を張る必要はなかったかもしれない。今更返せとも言えないが。
どうしたものか。そんなことばかり考えていると、『愛する人に誠実さを示すためには婚約者と別れることが一番だ』と誰かの声がした。
俺は原点に戻った。そうだ。アヴリルとの婚約を破棄し、シーラを妃と認めさせよう、と。
正妃であれば金の問題はなくなる。
そして父のパーティーでアヴリルとの婚約解消は認められ、シーラは卒業後に教育を受けることになった。
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