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そして、ジュリアはイーサンの気持ちが少しわかった。いや、わかりたくはなかったが。
閨の行為自体はすごく気持ちがいい。
夫に相手にされなくなった夫人がこの気持ち良さを求めて浮気する気持ちもわからなくはない。
愛を失い、愛を求める人にとっても、一時の快楽が助けになることもあるだろう。
イーサンは本気で善意で浮気をしているつもりのようだ。
あるいは、閨の行為が痛くて辛く、快楽を経験したことのない女性が噂を聞き浮気する。
そうして一度快楽を覚えれば、夫との閨でも自分の感じるところに誘導でき、満足できるようになるらしい。
『まだ、もっと、これ以上に、満足できる相手がいるのでは?』と期待して浮気を続け、目の前にあったはずの幸せを壊したことに気づかない残念な夫婦が多いのが、この貴族社会の悪習が続いている原因でもある。
だけど、ジュリアはやっぱり愛する人との行為だから一緒に気持ちよくなりたいと思った。
他の人相手では、ここまでさらけ出せるとは思えない。
そうユリウスに伝えると、同じ気持ちだと言ってくれた。
『ジュリアの体しか興味ない。他の人には反応もしないよ。ジュリアの中を思い出しただけで直ぐに固くなる』
子供を産んでも、ジュリアとユリウスはお互いだけだ。
イーサンから何度か誘いがあった。断ると、
「君の夫は、君のその素晴らしい体を満足させてくれるのかい?
一度、僕との行為を経験すれば、今までの君が知らない高みへ連れていけるよ?
僕と結婚していれば毎日のように与えられたはずの経験を得ていなかったことに後悔するだろう。」
「いいえ。主人と結婚できて毎日幸せを感じています。ご心配なく。」
「僕とキャシーのように、相手を高める刺激も必要だと思うよ?
旅に出ていろんな経験を経て、安心できる家に戻る。これを繰り返すと人生が豊かになる。」
「価値観の相違ですね。失礼します。」
イーサンはキャシーにジュリアとの会話を話した。
「ジュリアは浮気を嫌っていたからなぁ。あの態度はわからなくはないが…
夫しか知らない人生は、損していると思わないか?」
「まぁ、人それぞれですからね。
ジュリア様はご主人で満足なさっているのでは?」
「ユリウス殿がジュリアを満足させてる?淡泊そうだけどな。」
「じゃあ、私がユリウス様の相手をしてみるわ。
そうしたら、ジュリア様が満足しているかわかるのではないかしら?」
「なるほどな。キャシーが体験するユリウス殿と俺との違いをジュリアに教えるわけだ。
今後の夫婦生活のためにも、俺という刺激を役立ててもらおう。」
「私もユリウス様に指南してさしあげるわ。
一度じゃなくて二度三度お相手してさしあげたら、ジュリア様が満足される技も取得できますわ。」
いつの間にか二人の中で、ユリウスは淡泊でジュリアを満足させられない男になっていた。
とあるパーティーで、キャシーはユリウスが一人になる時を伺っていた。
しかし、なかなかジュリアと離れない。
リーザロッテがジュリアに声をかけ、ユリウスが飲み物を取りに離れた。
「ごきげんよう、ユリウス様。」
「…こんばんは。」
「ユリウス様にお話があって。少しこちらによろしい?」
「いえ、結構です。では。」
「ジュリア様のためのお話なの。ではここの隅でお話するわ。小声になるけれど。」
「…っはぁ。早くして下さい。」
「イーサンがね、元婚約者だったジュリア様が満足した夫婦生活が送れているか心配しているの。
それで、私があなたと閨を共にしてジュリア様が満足しているか確かめたくて。
私もあなたにいろいろ教えてあげられるし、いいと思いませんか?
ジュリア様も一度イーサンと経験したら、更に充実した夫婦生活に変わると思いますよ。」
「…馬鹿馬鹿しい。お断りします。ジュリアが嫌がる浮気に誘わないでください。」
「でも…じゃあこれだけ聞いていい?一晩でジュリア様とあなたが達する回数は?」
「…なぜあなたにそんなことを言う必要が?失礼します。」
「待って。まさかあなたの一回で終わりってことないわよね?」
「…それはあり得ません。これで満足ですね?失礼します。」
ユリウスはキャシーから離れ、ジュリアの側に戻った。一緒にいたリーザロッテが聞いた。
「お兄様、キャシー様とお話されていました?まさか…」
「あぁ、ジュリアが俺で満足してるかイーサンが心配してるから、あの女が俺を確かめるって。」
「浮気のお誘い?」
「そうだ。ありえないだろ?」
「自分たちに寄って来る人だけ相手にしてほしいわね。」
「全くだ。」
キャシーはイーサンに、『ユリウスはジュリアを満足させていると思う。浮気もしない』と伝えた。
イーサンはジュリアを抱けそうになく残念だったが、今後も増えるであろう迷える既婚女性のために、自分を役立てようと気持ちを新たに切り替えた。変わらず前向きだ。
ジュリアとユリウスは浮気の誘いを断り、二人で仲良く楽しむことを選んで幸せだ。
あの時、浮気ばかりの婚約者から『逃げたい!』って言ってよかった。
お陰で、自分だけを愛してくれる愛しい人と結婚できたわ。
<終わり>
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