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ただよくわからないのが、マーキュリーの目的だ。

マーキュリーが、僕が娼館に出入りするところをアイリーンに見せるために手紙を送った人物だったとする。
不貞を疑われた僕はアイリーンと離婚するかもしれないと考えるだろう。

だが、離婚したとしても僕がサドルデン伯爵令嬢と再婚するとは限らないのだ。
というか、彼女との結婚は絶対にないと言ってもいいだろう。
彼女は僕にとって、言葉の通じない苦手意識のある令嬢なのだから。
 
断っても断っても自分に都合の悪いことは受け入れない。そんな令嬢だから。


マーキュリーの利益になるようなことは何もない。
彼は純粋に噂を信じて、僕を心配して、協力しようとしてくれていただけなのか?

そう信じたい気持ちもあるが、どこか、サドルデン伯爵令嬢と繋がっているような気がして信じきれなかった。

直接会って確かめるしかない。

『マーキュリーが小耳に挟んだというお茶会での僕らの閨事情の話は誰から聞いたんだ?』と。



マーキュリーに連絡を取り、誰から聞いたのかを問い詰めた。


「ええっと、誰だったかな。カールだったか?サンドルだったか?忘れたよ。」

「カールとサンドルか。わかった。彼らが誰から聞いたのか確かめてみるよ。」

「あっ!違うかもしれない。特定の知り合いじゃない。
 喫茶店かどこかで近くの席から聞こえてきたんだったと思う。」

「盗み聞きした内容で僕たちの話だとわかったのか?
 話をしていたのは男か?女か?どっちだ?」

「ええっと、女が男に話してたんだ。そうだ。お茶会の参加者じゃないか?」

「そのお茶会、お前の従妹のお茶会だったようだな。
 参加者のリストを手に入れてくれないか。その中の誰かが噂をしているんだから。」

「え……参加者を知ってどうするんだ?」

「どうもこうも。誰がどんな目的で嘘の噂を流したのか突き止める必要がある。
 お前は従妹から噂話を聞いたんじゃないんだろう?協力してくれるよな?
 じゃないと、サドルデン伯爵家にも悪影響だぞ?
 悪意のある嘘の噂を流すような令嬢をお茶会に招待したんだからな。」

「……どうして悪意のある嘘の噂だったと思うんだ?」

「アイリーンが僕との閨事情などお茶会で語っていないからだ。」


アイリーンに確かめてはいない。
だが、そんなことをアイリーンが言うはずがないということは確信している。


「どこの誰がどういう目的で嘘の噂を流しているのかは知らないが、絶対許さない。」

「ええっと、多分、噂はそんなに広がってないよ?
 俺もあれ以来聞いていないし。心配ないんじゃないか?」

「そういう問題じゃない。実際お前は耳にして僕に言ってきたんだ。
 同じように喫茶店で聞いていた人がどれだけいるかもわからない。
 お茶会の参加者のどの女性が悪意があるのかを探し出して、親あるいは夫に伝える必要がある。」

「そ、そこまでするのか?」

「当然だろう?アイリーンはそんな噂が社交界で出回っていると知って寝込んでいる。
 愛する妻に危害を加えたんだ。絶対に許さない。」


僕はあたかも目の前にいるマーキュリーが犯人の一人であるかのように睨みつけた。
マーキュリーは怯むような戸惑いを見せたが、誤魔化すように話題を変えた。


「大丈夫だ。お前たちが仲の良い姿を見せたらそのうち忘れるような噂だ。
 それよりも、覗いた男の性技は勉強になったか?」

「あぁ、あの男か。あれはお前が選んだ男じゃないんだよな。男娼じゃなくて客だよな?」

「あ、ああ。そうだ。」

「申し訳ないんだが、全く勉強にならなかった。
 女性が不満に思っていることも気づいていないし、それこそ演技しているのにも気づかない。
 挿入時間に関しては、あの男が短いのか僕が長いのかはわからないが女性は不満そうだった。
 動きに関しても単調だったな。まぁ、それを女性が不満に感じるということが勉強になった。」

「……は?時間が短いって、早いってことか?動きが単調?女性が……演技?」

「まぁ、当たった男が悪かったんだろうな。あの男が勉強するべきだよ。
 もう二度といいからな。人の行為を見ても楽しくもない。途中で帰ったよ。」

「……へ?最後まで見なかったのか?」

「ああ。見る価値もないものだった。予約までしてくれたのに悪かったな。」 


じゃあ、リストが手に入ったら頼む。そう言って別れた。


なぜか呆然としたままのマーキュリーを残して。
 





 

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