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しおりを挟むその夜、カーティス様とお茶を飲みながら、目の薬の結果を話した。
「そうか。効果がちゃんと現れたんだな。じゃあ、次は被験者探しか。
それにしても、問題は老眼が治る可能性があることだな。」
「老眼が治ると問題があるのですか?」
「一部には問題が起こる……かもしれない。老眼の症状は知ってるか?」
「えっと……手元の文字が見えにくくなるのですよね?」
「そうだ。ミーシャは貴族の爵位の継承が昔に比べて今は早くなったことを知ってるか?」
「昔の方は病気などで寝込むことが多くなると後継者に爵位を譲る場合が多かったのですよね?
あるいは、お亡くなりになるまで爵位を持ったままの方も。
ですが、今は早めに後継者に爵位を譲って老後を楽しまれる方が多いとか。」
「表向きはそうなってるな。実際は、老眼が原因らしい。」
「え……老眼が?」
「ああ。40歳後半になってくると書類が見えづらくなってくる。早ければ40歳前後だ。
最近はメガネのレンズにも老眼用はあるが、ほんの少し前まではなかったんだ。
だから、書類を捌くのに時間がかかった。
その頃には後継者がそれなりに育っていることもあって、段々と任せるようになる。
そうすると時間ができるわけだ。孫と遊んだり妻とくつろいだり……
そして、少し前の時代には早めに爵位を譲る流れができた。
爵位を継ぐ者だけでなく、王城で働く者たちにも同じことが言える。
老眼レンズができた今も、まだその傾向にある。
人前で書類を読むためにメガネをかけると老眼だとわかる。またそのレンズがひどいらしい。
そのことに抵抗を感じる貴族はまだまだ多い。だから、まだあまり普及していない。
それなのに、目の薬で老眼が治ったら?
まだまだ仕事をしたい老人たちが後継者に爵位を譲るのが遅くなる家も出てくるかもしれない。」
「昔の時代のようになると、何か困るのですか?」
「まず、老人たちは頭が固い。年を重ねるごとに保身に走る傾向が強くなるんだ。
改革するより、自分が引退するまでは今のままで平穏に過ごすことを望む。
それに、指示されるより指示したいんだ。
しかし、国の指導力が若くなると、新しいことを取り入れる風潮が強くなる。
例えば、女性に爵位が認められたり、貴族の令嬢が結婚しても働けるようにね。
いくら改革案を出しても、上の頭が固ければ改革は止まる。」
「爵位の継承の方は、引退後も仕事をしたい方であれば今でも継承者に口を出していそうですね。
老眼レンズや目の薬があっても、そこは継承者の方に頑張ってもらうしかないと思います。
自分の領地領民のことなのですから。
どちらかと言えば、王城で働く大臣や役人の方々の方が問題かもしれませんね。
年齢で退職という制度はないのですか?」
「……そう言えば、決まりはない気がする。
仕事の量や質、周りに促される雰囲気などで、今はなんとなく50歳くらいで辞めるんだろうな。
そうか。老眼が治っても退職年齢を決めておけば職場に残れないか。」
「人が辞めないと新しい方も入れませんからね。若い方の仕事場が無くなるのも困ります。」
「ああ。もし、本当に老眼に効く目の薬だと検証が終えても、まだ公に出さない方がいいな。
どちらにしろ、退職年齢は決めた方がいい。
今は老眼レンズを恥ずかしく思って仕事を辞めることが多いが、みんながメガネをかけるとどうなる?
開き直った老人が居座るだけだ。適当に指示して給金を貰うだけの頭の固い老人が……
父に言ってみるよ。退職年齢を決めるには、老眼レンズがまだ流行ってない今がいい機会だ。」
今なら、なんとなく50歳になるまでに退職する流れになっているから決められる。
老眼レンズや老眼に効く目の薬が流行ってからでは、不満が出るだろうから。
まさか、老眼の薬ができるかもしれないせいで、こんな話になるなんて思いもしなかった。
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