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サリューシアは、2人の会話を聞いていたと悟られないように少ししてからテラスに着いた。


「ティム様、お待たせしました。」

「こちらこそ引き留めて申し訳ない。2人で話がしたくて。」

「ええ。」

「貴族になる前のこととは言え、結婚前に子供がいることになってしまって申し訳なく思っています。
 ですが、両親は認めてくれました。
 僕はサリューシア嬢が好きです。あなたと結婚したい。
 なので、リムが嫡子となることを認めてくれませんか?
 もちろん、あなたとの間に産まれる子供も大切にします。
 それと……リムの母親であるリズも、あの子のそばにいることを許してやってほしいのですが。」


……本当に言ったわ。自分が父親と暮らせなかった意味を考えなかったのかしら。
貴族でも平民でも、男一人と女が複数人同居だなんていないでしょ?王族くらいよ。


「それは無理ですわね。
 リムを嫡子にするのであれば、彼は私の子供ということになります。
 その場合、産みの母親はそばにいるべきではありません。
 産みの母親と名乗る資格も、会う機会も失うということになるのです。
 自分が産んだ息子だと吹聴すると、罰せられる場合もありますよ。」

「え……そうなのですか?ということは、一緒に暮らすことも?」

「そんなことあり得ません。どういう位置づけで彼女をここに置くのです?
 あなたの愛人?正妻と愛人を同じ場所に住ませるなど、私を愚かな妻だと晒し者にする気ですか?
 それともメイドとして働かせます?子供は嫡子として引き取られ母親がメイド。
 他の使用人がやりにくくて困ってしまいます。
 だったら外で愛人として囲いますか?彼女のために家と使用人と生活費を用意して?
 あぁ、いくら彼女が自分のことは自分でできても愛人として囲うなら見張る使用人は必要ですよ。
 他の男の子供を妊娠する可能性もありますからね。
 それと、ブルーエ伯爵家の跡継ぎは平民の愛人を囲っていると噂される覚悟も必要ですよ。
 ただでさえ、あなたが庶子だということは知られていますのでブルーエ家の評判は下がるでしょう。
 それから、まさかと思いますが私が嫁ぐまでにもう一人子供が増えるなんてやめてくださいね。
 ブルーエ家を継げるのは一人ですよ。リムが継ぐのであれば後の子は平民になりますからね。」
 

単調に話す私の言葉を呆然とティムは聞いていた。

彼は本当に私が許すとでも思っていたのだろうか。

伯爵夫妻は、マナーと勉強だけをティムに詰め込んで、常識を教えていないのではないか。
いや、愛人と同居するのは平民でもほとんどないことだと思うので、ティムとリズに常識がないと言えるかもしれない。

あるいは、2人の貴族に対する認識に誤りがあるのかも。
貴族の男は自分の屋敷で何人もの愛人を囲っているものだ、と。

もしそうなら、なぜティムたち母子は伯爵家に囲われなかったのかという考えに及ばないのか。


これ以上ティムを見ていると腹が立つので席を立ち、家に帰ることにした。  






 
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