好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

文字の大きさ
29 / 72

29.

しおりを挟む
 
 
エドモンドは届いた書類を読んだ後、呆然としていた。

なんとなく、予想はしていた。

自分の子種が、女を孕ませることはできないのではないか、と。

調べねばと思いながらも躊躇し、何年もかかって、ようやくその気になって調べた。

その結果が記された書類を読んだところだった。

『子種に動きは確認できず生殖能力はないと判断する』
 
正確に判断するために3度に渡って自身の子種を検査局に提供し、調べてもらった結果だった。




エドモンドはリゼルと離婚した後、2年半後に再婚した。

新たな妻、アナレージュは侯爵家の二女だった。

アナレージュと結婚して2年経っても子供ができず、エドモンドは愛人を持った。
しかし、1人目の愛人も2人目の愛人も妊娠しなかった。
3人目の愛人に至っては、別の男と通じたにも関わらず、エドモンドの子供だと嘘をついた。

それがきっかけになり、生殖能力があるか検査する意思を固めたのだ。


自分にはレーゲン公爵家の跡継ぎをつくることができない。


それを父に報告しなければならなかった。





書類を握りしめ、重い足取りで父の執務室へと向かった。

エドモンドはよほどひどい顔色をしていたのだろうか。
父はお茶を入れさせた後、人払いをしてエドモンドに向き合った。 


「何があった?」

「……これを。」


エドモンドは検査局からの書類を父に渡した。

父は書類に目を通した後、自分の机の引き出しから何かを取り出してエドモンドに渡した。


「……これはっ!」

「私のだ。」


渡された書類は父の子種も生殖能力がないと示すものだった。日付は1年ほど前だった。


「どうして……私は、父上の子、ですよね?」

「ああ。そこは疑ってはいない。つまり、お前が生まれて以降のことだと思う。考えられるとすれば、ルキアに飲まされた心臓発作を起こさせる薬物の副作用か、あるいはまた別で盛られていたか、だ。」


今はもう無いアストリー侯爵家は様々な薬物を扱っていた。
リゼルに避妊薬を飲ませていたのだ。子種を殺す薬物もあっただろう。


「では、私も?」

「そこがわからない。シモーヌはお前の子供を産む気だったはずだ。だから、シモーヌが捕まったあの夜以前に私と違ってお前が薬を盛られる理由はない。」

「それは……そうですね。ということは、私は元々、でしょうか。」

「さあな。こればかりは調べなければわからないのだから。」

「……父上はなぜ検査を?」

「なかなかお前に子供ができないからだ。もしお前にその能力がないのであれば私が後妻をもらうか、遠縁の子供を養子にするか考えねばならなかった。だから、念のために調べた結果がコレだ。」


若い妻を貰っても妊娠させられなければ無意味になる。
確証が欲しくて検査をしたが、思わぬ結果に何が原因なのかを考えていたらしい。


「……養子を貰うしかないですね。」

「そうなるな。アナレージュには養子が決まるまで何も言うな。」

「何故です?」

「幼い子になるか、成人間近の男になるか、わからないからだ。あの嫁は一応、公爵家の子供を産むために嫁いできている。産まなくて済むなら痛い思いをしなくて済むと喜びそうな嫁だが、養子が15歳以上の男に決まればアナレージュはその男の子供を産もうとするかもしれない。」


身籠ってしまえば、追い出されることはない。エドモンドとアナレージュの子供にするだろう。



「そんな……では15歳以上の男に決まった場合、アナレージュはどうするのですか?」

「養子を貰う前にお前と離婚させる。幼い子供になった場合も、母親になる気がなければ離婚だ。」

 
アナレージュに母性などないだろう。地位と金。そんな女だ。


「ですが、非はこちらにあります。追い出せないのでは?」

「その時は向こうにも非を作ればいい。なんとでもなる。」


こういう腹黒さがエドモンドにはないのだろう。

 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...