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しおりを挟む10日ほど経ったある日、アナレージュの侍女から医師を呼んでほしいと言われた。
医師を呼び出している間、エドモンドがアナレージュの容態を侍女に聞いてみると、どうやらひどい腹痛を起こしているらしい。
「何か必要なものは?様子を見に行った方がいいか?」
「いえ、医師に診ていただいてお薬をいただければ落ち着くと思いますので。」
「そうか。腹痛なら食事も消化のいいものに変えるよう手配をしておくように。」
「そうですね。かしこまりました。」
アナレージュが体調を崩すとは珍しい。
そういえば、養子の話をした時も顔色が悪かったが、あの頃からなのか?
いや、まさかな。10日くらい前なんだ。腹痛なら関係あるまい。
大したこともないだろうと思っていたエドモンドは、後ほど医師から聞かされた内容に驚くことになる。
この朝、アナレージュは侍女が手に入れてきた堕胎薬を飲んだ。
そして数時間後、内臓が燃えるような痛みを感じていた。
こんなに痛むものなのだろうか。月のものと似た出血が続いていたが、痛みは尋常ではなかった。
堪らず医師を呼ぶように言ったが、誤魔化せるだろうか。痛み止めをくれるだけでいいのに。
しかし、医師を誤魔化すことなどできなかった。
「これは……流産とは違いますね。堕胎薬を飲まれたのではないですか?」
医師はすぐにアナレージュに痛み止めを与えてくれた。
「……エドモンド様には黙っててもらえる?」
「エドモンド様のお子ではなかったということですか?」
「……ええ。」
「申し訳ございませんが、私には報告義務がございますので。それに、今後も影響のあることですので。」
「今後……?」
「はい。残念なことですが、アナレージュ様はもう妊娠なさることはできないでしょう。
通常であれば赤子が育つところ。そこが非常に傷ついてしまっています。
妊娠はできませんが月のものは毎月あり、その間は今後、痛みを伴うでしょう。それから通常であれば妊娠しやすい時期も同じように痛みを伴うことになると思われます。」
5日間と5日間の合わせて10日間ほど、今後毎月痛みに襲われる暮らしになるという。
「そんな……堕胎薬が粗悪品だった?」
「いいえ。医師が手配する堕胎薬も、医師・薬師を介さず密かに手に入れた堕胎薬も、実は20人に1人くらいは体質に合わずアナレージュ様と同様の症状が出るという統計があります。」
「聞いたことがないわ。」
「それはそうでしょう。堕胎薬を飲んだと口にする女性など滅多にいないでしょうから。
貴族の女性なら、体調不良で表に出ることは稀になるでしょう。
それに、痛み止めは飲みすぎると効きが悪くなりますので、今回のように痛みが激しい時のみになります。
なんとなく、ずっと痛い。それくらいなら我慢してもらうしかありません。」
出先で腹痛に襲われるかもしれないので、外出したくなくなるのだろう。
「それから……痛みがない期間でも、閨事によってナカが刺激されると出血と痛みが起りやすいと聞きますので、ご注意ください。」
つまり、エドモンドの性欲処理の相手にすらアナレージュはもうなれないのだとわかった。
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