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その日の夜、明日の着替えとして服や下着などが届けられた。
手持ちが何もないリアンヌは有難く受け取り、少しワクワクするような気持ちで眠りについた。
翌朝、騎士の男が迎えに来てくれて『行くぞ』とリアンヌを抱き上げた。
リアンヌは骨折している上に靴もない。つまり、移動は運ばれるしかなかった。
夫以外の男性との近い距離に驚いたが、荷物扱いに近いものを感じおとなしく運ばれることにした。
治療費も男が払い済であるらしく、医師にお礼を告げて医療院を去った。
馬車の中はリアンヌだけだった。
騎士二人は御者台に乗っている。
おそらく騎馬で移動をしていたがリアンヌのためだけに馬車を借りてくれたようだった。
男は支払いの金のことは何も言わない。
服も治療費も馬車も、全部払ってくれている。辺境までの宿もそうだろう。
遠慮したところで金もなく動けもしないリアンヌにはどうしようもない。
働いて、少しずつ返済していこう。受け取ってくれる気はしないけど、それを働く目標の一つに挙げた。
そして馬車の中で一人で過ごす長い長い時間、リアンヌはこれまでの記憶を捨てるつもりで最後に思い返していた。
リアンヌはポマド子爵家の一人娘。
同じく子爵家のオノンドと婚約していた。
リアンヌとオノンドは15歳で学園に入学した。二人とも寮に入った。
楽しみにしていた学園生活を不穏なものに変えたのが2歳上のジョーダン・ロベリー公爵令息だった。
彼は一目惚れをしたとリアンヌに付きまとうようになったのだ。
婚約者がいると言っても、気にしないと言う。
ジョーダンの婚約者に申し訳ないからと言っても、婚約は解消すると言う。
単なる子爵令嬢が公爵令息を誑かしたと学園では大騒ぎになっていた。
ジョーダンは自身の婚約を一方的に解消した。
婚約者の令嬢ロレッタは嫌がったが、ロレッタの父は多額の慰謝料と引き換えに受け入れた。
「リアンヌ、僕は婚約を解消したよ?」
その言葉を受け入れたのはリアンヌではなくオノンドの方だった。
オノンドはジョーダンに潰される前に身を引いたのだ。
婚約者のいなくなったリアンヌには、ジョーダンの求婚を断ることができなくなった。
子爵令嬢をロベリー公爵夫妻が受け入れるはずはない。
しかし、ジョーダンがどういう説得をしたのか、結婚は認められた。
そしてリアンヌはわずか1年で学園を卒業し、ジョーダンと結婚することになった。16歳だった。
本当の地獄は結婚後だった。
次期公爵夫人としての教育、高位貴族夫人としての振る舞いをジョーダンの母である公爵夫人や教育係から受けることになったのだが、貶されて笑われて否定されるばかりの教育。
使用人である侍女からの嘲笑と嫌がらせ。
ジョーダンが不在時の食事の質の悪さ。
そしてジョーダンとの閨事。
どれを取っても最悪のことばかり。
しかし、リアンヌの妊娠が発覚し、それらは一時おさまった。
代わりに、ジョーダンの遊び相手の女性たちからの嫌がらせの手紙が増した。
ジョーダンは愛する女性がいても、性欲を発散する女性は別だという男だった。
愛人ではない。単なる遊びなのだそうだ。
だけど、女性側からすれば妻、もしくは愛人になることを望んでいる。
リアンヌが妊娠してからは、遊び相手の女性を抱いてばかりいるので、自分の方が愛されているのだと主張してくるのだ。
そんな生活にリアンヌはウンザリしていた。
自分が望んだ結婚でもない。つり合わない爵位による結婚を非難する者は未だ多い。
リアンヌの何にジョーダンは惹かれたのか。それはジョーダンにしかわからない。
しかし、リアンヌに成り替わろうとジョーダンを狙う令嬢は結婚後も変わらないのだ。
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