戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん

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エイダン様は騎士団で大勢と過ごすことに慣れているため、独り身である現在は時間が合えば使用人たちと一緒に食事をしているという。

なので、料理人エリックさんの作ってくれた朝ご飯はエイダン様と屋敷にいる使用人でとるため、リリィも一緒だった。


「おはようございます、エイダン様。」

「おはよう、リリィ。よく眠れたか?」

「はい。ぐっすりと。」

「それはよかった。仕事は無理せずに始めてくれ。メイジーの相手も仕事のうちだからな。」


それは仕事と言っていいのかどうか……まぁ、雇い主がそう言うのであれば問題ないのかな。 


みんなで朝食を終え、エイダン様は仕事に向かい、リリィは通いのメイドが来るまでエリックの後片付けを見ていた。
リリィにとっては食器を洗っているところや片づけているところも初めて見ることで、割れ物に手を出すのはまだ早いと自分でも思った。絶対、絶対に割ってしまうとわかっているから。 

ランさんからは、まず掃除の仕方を通いのメイドから学ぶように言われた。
何もしたことがないのに一度に学ぶのは大変だから、ひとつずつ。
少しずつでいい。そう言われた。

ある程度、掃除の仕方を学んだら洗濯。
料理は昼食を皿に盛り付けるところから。刃物は当分、先。

そのうち、帳簿のつけ方なども学んでほしいという。

だが今はそれよりも、メイジーが楽しみにしているからちょこちょこと相手をしてやってほしいとお願いされた。

 
通いのメイドはシーナという女性。
30歳で夫と子供がいる。店を開くのが夢でお金を貯めているという。目標金額まであと少し。らしい。

リリィがシーナと挨拶を交わして仕事を始めようとすると、メイジーがやってきた。

 
「私もお仕事する!」

「あら。今日はお手伝いじゃなくてお仕事なのね。」


シーナが言うには、今までもたまに手伝ってくれているのだという。シーナのところだけではない。
みんなのところにちょこちょこと顔を出しているようだ。


「私がリリィお姉ちゃんと一緒にお仕事したら早く終わるでしょ?そうしたらお話する時間が多くなるもの。エイダン様もいいって言ってくれたの。」


祖母であるランさんは、メイジーにメイドの仕事を仕込もうと思ったこともあったそうだけど、メイジーはすぐに飽きて誰かのところに行って話し込んでいるらしい。
一番多いのは、料理人のエリックさんのところだとか。

まだ10歳なので自由にさせればいいとエイデン様が言ったためメイジーはメイドになるわけではないが、リリィ同様に家事全般を覚えるに越したことはない。

そもそも、平民であるメイジーの方がリリィよりも遥かに家事はできる。

シーナだけでなくメイジーにも指導を受けて、リリィの本日の掃除のノルマはあっさりと終わった。

その後はメイジーとの時間である。

屋敷の部屋の案内や、文字や計算の勉強、そしてなぜか簡単なマナーの指導も頼まれた。

メイジーが成人して独り立ちするまでにはまだ時間があるので、それまではこの屋敷にいることになる。
その間にエイダン様が貴族の奥様を迎え入れる可能性がないわけではない。

ランさんも、ちゃんとマナーを学んだことがあるわけではないため自信はなく、メイジーに教えることに躊躇していたらしい。

リリィも侍女やメイドの仕える側のマナーは学んだことはないが、ずっと側で仕える侍女たちを見てきたからある程度のことはわかった。 


侍女やメイドは貴族に仕える側なのだということを改めて意識し、貴族に仕えては身元がバレる恐れのあるリリィはエイダン様が結婚するまでしかここにいることはできないのだと少し寂しく思った。
 


 
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