戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん

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27.

 
 
エイダン様が結婚するつもりがなかったのは、元婚約者の考えを受け入れられなかったと言ったけれど、本当はそれだけではないような気がする。

好きになった女性に惑わされて、一時は王都の騎士を選び、辺境で生きる思いを捨てようとした。

そのことの方が後悔が大きいのではないだろうか。
 
もう二度と、この地を捨てることはない。
だから、縁談があっても『ここでは暮らせない』と言われるのが嫌で断り続けたのかもしれない。


「母に言われたよ。リリィなら王都に行きたがることもない。ロベリー公爵との件が片付けば隠れる必要もなくなる。形だけと言わず、夫婦として向き合ってはどうか、と。
そうするつもりはなかったのだが、周りがこの結婚を喜んでくれているのを見てリリィと話し合うべきだと思った。……リリィはどう思う?」

「それはエイダン様と本当の夫婦になるということをどう思うかということですか?」

「ああ。貴族や平民という身分差は考えなくていい。」


つまり、男としてエイダン様をどう思うかということで。

リアンヌの頃は、元婚約者のオノンドと元夫のジョーダンしか身近に接していない。
オノンドはリアンヌことを好いてくれていたが、非常に無口な男で会話が続かなかった。 
ジョーダンはリアンヌの言葉など聞き入れず、自分の思い通りにしようとしていた。

リリィになってからは、リュード様や辺境伯の屋敷で会った騎士の方々は本気で口説いているのか、口説くのが日常なのかがわからなくて誰にも心を許せなかった。

ユートさんは、こんなお兄様がほしかったな、と思えるような話しやすくて優しい人だと思った。

そしてエイダン様は……頼りにできる、甘えさせてくれる優しい人だ。

 
「私は、エイダン様となら信頼し合える夫婦になれると思います。ですが、娼館に行った時は悟られないように隠してほしいですし、愛人にするくらい気に入った人ができた場合は離婚すると約束してほしいです。」

「ちょっと、待て。何だ?その娼館や愛人と言うのは。俺は君をここに連れて来てから女性と関わった覚えはないぞ?誰だ?そんな嘘を君に吹き込んだのは。」

「あ、違います。元夫ロベリー公爵のことです。彼は妻がいても性欲処理は別だという考えでしたから。」

「……君を溺愛していたと聞いたが?」 

「それでも、です。彼にとって娼婦も愛人も欲を発散するための遊び相手でした。彼は隠しもせずに女性たちとのことを私に話したので、聞きたくもなかったというか……」

「やっぱり、公爵の愛はどこか歪んでいるよな。」

「ええ。愛と呼べるのか、それも疑問に思うほど。」


ジョーダンを思い出すとドッと疲れる。彼はそんな男だ。


「俺は結婚したことはないが、妻がいるのに他の女性で性欲を発散させたいという気持ちが理解できない。
妻を抱きたくない、他の女性を抱きたいと思うのであれば、離婚に向けて話し合うべきだと思う。
綺麗事かもしれないが、俺はそう思っている。つまり、浮気する気はないということだ。」

「ということは、形だけでも何でも結婚するなら離婚するまで他の女性は抱けませんよ?」
 
「……そういうことだな。リリィは俺に抱かれることはどう思う?」

「嫌だとは思いません。」

「体からお互いを深く知るってのもアリだと思うか?」

「アリじゃないですか?交流のないまま政略結婚する夫婦も多いですし。」 
 

つまりは、リリィもエイダン様も本当の夫婦になるのに前向き以上の気持ちがあるということだ。
 


 

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